第20話 ハンター、ジャングルに挑む(1)
ズァッ……
ダンジョンに足を踏み入れると景色は一変。俺達は深いジャングルの中に立っていた。
鬱蒼と生い茂る木々が視界を遮り、周り中から様々な魔物の鳴き声が聞こえてくる。
見上げると木々の隙間から太陽のない青空が見えた。ここもかなり広大なダンジョンらしい。
日本では中々見ない光景に圧倒されてしまうけれど、それよりも大変なのは……
「うわっ、何これ! すんごい蒸し暑い……! もー汗かいてきちゃった……」
「キュゥーン…… ヘッ、ヘッ、ヘッ……」
トモミンが重装甲メイド服の襟元をパタパタと仰ぎ、シロは舌を出しながらしんどそうにしている。
ここ『亜竜の大密林』は、この超高温多湿な環境への対応が攻略の鍵となるのだ。
俺達ハンターは強靭な体力を持つが、それでも不快なものは不快だし、体力や集中力は削られてしまう。戦闘時にはそれが結構効いてくるのだ。
『みんな辛そうね…… そのC級ダンジョンは魔物は弱めだけど、環境はちょっと厳しめなの。
準備せずに潜った子達が、熱中症で倒れてしまうなんて事もたまにあるわ。でも、あなた達は大丈夫でしょう?』
支援局のドローンカメラから、試験を見守る斉藤さんの声が聞こえてくる。
「ええ、俺達には彼女がいますから。ノルフィナ、頼めるか?」
俺が声をかけると、彼女はふんすと杖を持ち上げた。
「お任せ下さい! --『冷気』」
ヒュォォッ……
彼女の体がぼんやりと青く光り、周囲を涼しい空気が包み込んだ。蒸し暑さが一瞬で消え、俺達は歓声を上げた。
「ふひぃー……! 気持ちぃー……」
「ワフーン……」
”トロけ顔のトモミンかわええ”
”あら〜、シロちゃんも気持ちよさそーねぇ〜”
”ノルフィナちゃん、美しいだけじゃなくクーラー機能付きだと……!?”
”いや、言い方よ”
”ところで新メンバーの装備もいい感じな件について”
”確かに! エルフと犬という衝撃の絵面で流してたけど、装備めっちゃ可愛い!”
”デザインに統一感がある…… 今回も狩山工房の作と見た”
”狩山はん、ええ趣味してはりますなぁ?”
「あ、ああ。今回も俺が仕立てさせてもらったが……」
ノルフィナとシロの装備に言及したコメントに、俺は歯切れ悪く応えた。
まずシロの装備は、白を基調としたゴシック調の華美なデザインの防具だ。熊野郎の革と金属骨格素材を使って、胴体と足先を鎧っている。
さらにお腹の下にはちょっとしたギミックも仕込んであって、結構自信作だったりする。
「シロのはともかく、ノルフィナの装備は本人の要望に沿っただけであって、その、俺の趣味というわけでは……」
ノルフィナの装備コンセプトは、メイド風魔法少女だ。ちょっとやり過ぎなくらいに可愛い。
基本はトモミンと似たゴスロリメイド風なのだが、そこにフリルやらリボンやらを山盛りにして、魔法少女っぽいデザインにしてある。露出度も結構高めだ。
各部に革鎧や極細の鎖帷子を仕込み、軽さと高い防御力を実現した逸品なのだが…… これが俺の趣味だと思われるとちょっとだけ恥ずかしい。
「え…… こ、これ。もしかして変なんですか……!? 確かにちょっと可愛すぎるかなぁーって思ってましたけど……」
ごにょごにょと言い訳をしていると、ノルフィナ本人が驚いた様子で自分の装備を見始めた。おや……?
「待ってくれノルフィナ。君が俺にくれた装備のデザイン案。あれはどうやって決めたんだ?」
「えっと、トモミンに相談したら、こういうのが戦う女の子の正装だって教えてくれたんです。
テレビアニメの女の子も同じような格好で戦っていたので、ああ、そういうものなんだなぁってその時は納得したんですけど……
あ、あれ……? でも、他にこんな格好したハンターさんなんて見た事ないような……?」
「--トモミン?」
ノルフィナと俺から疑い視線を向けられたトモミンは…… 片目をつぶって小さく舌を出した。
こ、こいつ。ノルフィナが素直なのをいい事に、自分の趣味を押し付けたな……
「えへ、ごめんね! ノルフィナちゃんとお揃いにしたくってさぁー」
「そ、そんなぁ…… ひどいですよぉ……!」
「えー、いーじゃん! すっごく似合ってるし、こんなにかわいーんだもん! もう可愛すぎて抱きしめちゃう! ギューッ!」
「あっ…… も、もぅ……!」
トモミンに抱きしめられたノルフィナが、赤面しながらおずおずと抱き返す。すぐにコメント欄が「てぇてぇ」の文字で埋め尽くされた。
「ははは…… シロ、俺たちもハグしとくか?」
「ワフン?」
俺の声に、シロはキョトンとした表情で首を傾げた。
--ザザザッ……
するとその時、俺の耳が周囲から迫る多数の物音を捉えた。
俺はシロと頷きあうと、直ぐに鋭い声で指示を飛ばした。
「囲まれた! 円陣防御! ノルフィナは迎撃準備を!」
「「……! 応!」」
全員がノルフィナを中心とした防御陣形を取り、武器を構えた。
「ワォン!」
そしてそれはシロも同様だった。
彼は自分の両前足の間の首を突っ込むと、そこに配置された取っ手を噛んで前に引き出した。
ガシャンッ!
ギミックが作動し、彼のお腹の下に収納されていた武器があらわになった。
それは、熊野郎の金属骨格から造り出した両刃剣だった。わずかに反りのついた二対の刃の間に、持ち手が設けてある。
シロがその持ち手部分を口に咥えると、彼は両サイドに鋭い刃を備えた状態になった。
”おぉ!? 何そのギミック!”
”シロちゃん、ただのマスコット枠じゃなかったのか……”
”モフかわいいのから急に格好良くなるのずるい”
”け、結構凶悪な武器じゃね?”
コメント欄のギミックへのリアクションに、俺は小さく頬を歪めた。三日ほど頭を悩ませて開発した甲斐はあったようだ。
そうする間にも周囲から聞こえてくる物音は激しくなり……
「「ギシャッーー!!」」
木々の隙間から飛び出してきたのは、シザーラプトルという人の背丈ほどもある恐竜型の魔物だった。
強靭な後ろ脚で駆け、前脚に生えたデカいハサミのような爪を突き立て獲物を捕えるのを得意としている。
それが今見えるだけでも数十体。全方位から俺達に迫っていた。
『千連氷柱!』
そのタイミングで、ノルフィナが保持していた魔法を解放した。
ビキキッ…… ドシュシュシュッ!!
彼女の頭上に生成された数え切れないほどの氷柱の弾丸。それらが無警戒に突っ込んできたシザーラプトル達に殺到する。
「「ギャァァァァッ!?」」
第一波の群れが蜂の巣になって倒れた。しかし、すぐに第二波が木々の間から姿を現した。
「前衛! 各自殲滅!」
「「応!」」
俺は刀を抜き放つと、眼前に迫る魔物達を片っ端から切り伏せていった。
ちらりを左後ろを見ると、トモミンがモーニングスターで次々に魔物をかっ飛ばしていた。
次に右後ろを見ると、シロが両刃剣を口に高速で駆け回り、左右の刃を器用に使い分けて敵を切り刻んでいた。
そうしてノルフィナの掃射と前衛の迎撃を何度か繰り返していると、周囲はシザーラプトル達の魔石で溢れ、森から敵の気配は消えていた。
「--ふぅ。みんな、ご苦労様」
「いえーい! ナイスナイスゥ!」
「シロ、格好良かったですよ!」
「ワフフン!」
終了宣言と共に俺はトモミンはハイタッチし、ノルフィナはシロの手を取って笑った。
”おいおい、瞬殺だよ……”
”シロちゃん…… いや、シロさんかっけぇ……!”
”ノルフィナ様。さっきクーラー機能付きとか言って申し訳ございませんでした”
”トモミンがぶっ飛ばしたラプトル、遥か彼方まで飛んでってたな……”
”狩山師匠、相変わらず安定感あるな”
”色物パーティーかと思ったけど、連携もかなり取れてるな。流石は狩山氏”
『うん、やっぱり狩山君たちは安心して見ていられるわ。それじゃあ、引き続き攻略を頑張って頂戴。きっと今回も上手くいくわ』
「ありがとうございます、斉藤さん。よしみんな、この調子で先へ進もう」
初戦を快勝で終えた俺たちは、次の階層を目指してジャングルの奥地へと分け入っていった。




