第19話 ハンター、色物パーティーをお披露目する
「S級ハンターって……」
俺が斉藤さんの言葉を呆然と繰り返す中、周りのハンター達のざわめきは更に大きくなっていた。
英雄と呼ばれるA級…… その先に存在するハンターの最高峰。それが人外の領域と言われるS級だ。
ハンター人口が五百万人を超える日本においても、S級はたった数十人しか存在しない。つまり全ハンター全体の上位0.001%程度。上澄みも上澄みの、まさに頂点に立つ存在だ。
そこに至るには非常識とも言える過酷で長い鍛錬の日々と、他を圧倒する絶対的な才能が必要だと言われている。
もちろん、万年G級ハンターだった俺はそのどちらも持ち合わせていない。あるとすれば……
ちらりとノルフィナに視線を向けると、彼女は驚いた様子もなく頷いた。
「はい、カリヤマさんの考えている通りだと思います」
「だよな……」
これも狩人の大精霊の力か…… C級ダンジョンを攻略した時、まだまだ行けそうだと感じたのは正解だったらしい。
「すっ…… すごーい! S級って、あのS級だよね!? さっすが師匠! シロ! 凄いね、凄いね!」
「ワンワン!」
一方、トモミンはシロの両手を取って一緒に小躍りしながら喜んでくれていた。
ただの幸運で絶大な力を手に入れてしまった事に、少しだけ罪悪感を感じていたけど…… 彼女達の様子を見たらなんだか気が楽になってきた。今はただ感謝してこの力を使わせてもらおう。
「斉藤さん、ありがとうございました。自分の立ち位置を確認できました」
「え、ええ…… なんというか狩山君、本当に立派になってしまったわねぇ……
えっとそれじゃあ、ノルフィナさんとシロちゃんにはF級の認識票を発行するわ。でも、きっとあなた達の事だから……」
苦笑い気味の斉藤さんに、俺達は揃って頷いた。
「ええ、すぐに二人のE級昇級試験をお願いします」
その日、ノルフィナとシロは一気にD級まで昇級し、その様子が配信された支援局の公式チャンネルはお祭り騒ぎになった。
そしてその翌日。早速C級への昇級試験を受けるため、俺達はとあるダンジョンへと足を運んだ。
「よっす! みんなの自慢の友達、トモミンでーっす! 今日はなんと〜…… お久しぶりのダンジョン配信どぅぁぁぁーーっ!!」
青い光が渦巻くダンジョンの入り口を指しながら、トモミンがドローンカメラを前で声を張り上げた。
”うぉぉぉぉぉぉ!!”
”待っていたぜェ! この瞬間をよォ!”
”トモミン可愛いー! その可愛いモーニングスターで俺をぶってくれ!”
”おい、死ぬぞ”
”狩山氏も久しぶりやん”
”師匠、今日もトモミンのお守りを頼む”
「安心してくれ。師匠として弟子の安全は必ず守る」
トモミンの隣に立っていた俺は、スマートグラス上に爆速で流れるコメントに大きく頷いた。
「こらー、お守りってなんだー! 僕だってもう一人前のD級なんだからね!
しかも何と…… 僕にも後輩ちゃんができましたー! 今日は、このパーティーに新しく参加してくれる子達のお披露目もして行こーと思いまーす!
さーてみんな! どんな子達が入ってくれたんだろーねー? わっくわくだねー!」
”先、輩……? トモミンが……?”
”まだ見てすらいないけど、その後輩ちゃんに世話を焼かれるトモミンの姿が眼に浮かぶ……”
”し、しししし新メンバーだってぇー!?”
”い、一体誰なんだ!? 全く予想がつかないぞ!?”
”ああ、全くわからん。けど、何だか耳の長い美人と、可愛いもふもふの二人が来る気がするぜ……!”
”あれ、みんな誰が入ったのかもう知ってる感じ?”
”昨日の支援局の公式チャンネルでめちゃくちゃ目立ってたからな”
「あは! なーんだ。みんな結構昨日の配信見てくれてたんだね! じゃあもう呼んじゃおっか! ノルフィナちゃーん! シロー!」
トモミンがブンブンと手を振って呼ぶと、カメラの画角外に待機していた二人がとことこと近寄ってきた。
「ど、どうも。新しく入りましたノルフィナです。後輩です。こっちのはシロと言います」
「ワオン!」
おずおずと俺の隣に立つ超絶美人エルフと、彼女の側にちょこんとお座りする真っ白な大型犬。
フレームインしてきた二人の姿にコメント欄が盛り上がる。
”えぇ!? エ、エルフと犬ぅ!?”
”一体どうしたんだ狩山師匠…… トモミンと違って、あんたはまともな奴だと思ってたのに……!”
”テコ入れにしてもやり過ぎだろw”
最初の方に流れてきたコメントに、俺は思わず頬を歪めてしまった。
確かに初見の人は、ノルフィナはコスプレでシロはの犬だと思うだろう。完全な色物パーティーだ。
”シロちゃんもふもふやんけ!”
”え、もしかして犬をダンジョンに連れてくの……? それはちょっと……”
”いや、シロさんはツヨツヨワンさんだから大丈夫だよ”
”シロさんて”
”公式チャンネルの配信見たけど、確かにさん付けしたくなるくらいには強かった”
”覚醒者ならぬ覚醒犬ねぇ。初めて見た”
”ノルフィナちゃん、その耳って本物なん? 動かせんの?”
”いや、流石にアクセサリーかなんかだろ”
「え……? ほ、本物ですよ。ほら」
ノルフィナがぴこぴこと笹穂耳を動かしてみせると、コメントは更に爆速で流れ始めた。
”ぎゃっ…… ぎゃわぃぃぃぃぃぃぃ!!”
”ふつくしぃ…… ノルフィナちゃん、ちょっと美形すぎないか……? なんか後光が差して見えるんだが”
”お前も? もしかして本当にエルフなんじゃ……?”
”いやいやまさか…… え、本当に?”
”おいおい。世界凶変から何十年経ったと思ってんだ。エルフが実在ならとっくの昔に世に知られてただろ。それはそれとしてノルフィナちゃん可愛いよ、ノルフィナちゃん”
”偽物でもいい! 俺はノルフィナちゃんを推す!”
「あわ、あわわわっ……! カ、カリヤマさん、これ…… これ気持ちいいですね……!」
自身を褒めまくるコメントの嵐に、ノルフィナは上気した顔で俺に耳打ちしてきた。その表情はによによとだらしない。
「ああ、分かるよ。これだけ沢山の褒めを一気に貰うと嬉しいよな。でもちょっと落ち着こうか。その、表情が緩みすぎてる……」
「そ、それは不味いです……! むんっ……!」
ノルフィナはそう言うと、口元を引き結んで眉に皺を寄せた。いや、普通にしてくれてれば良いだが……
この子めちゃくちゃ真面目なんだけど、ちょっと天然っぽいんだよな。
「あは! みんな、新メンバーを歓迎してくれてありがとう! それじゃあ早速、四人でこのダンジョンを攻略していくよ!
斉藤さーん! もう入っていーい!?」
トモミンが支援局のドローンカメラに問いかけると、すぐに反応があった。
『ええ、始めてもらって大丈夫よ。最近はダンジョン関連の異常が増えているから、いつも以上に慎重に攻略を進めてね』
俺達は斉藤さんの心配げな声に頷き返すと、C級ダンジョン、『亜竜の大密林』へと足を踏み入れた。




