第18話 ハンター、人外認定される
ノルフィナさんとシロの今後についての話し合いがひと段落すると、トモミンはすぐに方々へ電話を掛け始めた。
そして結論として、異世界出身という究極の根無草である彼女達に対して、公的に通用する身分が与えられる事になった。
ノルフィナさんについては、遠い異国出身のハンターということにして在留資格を取得する方針らしい。
世界変容前はその辺りも厳しかったらしいが、今はハンターの国家間の流動性を保つために色々と規制が緩和されている。
彼女はこれで数年は大手を振って日本に住んでいられるし、問題を起こさなければ永住権も取得可能だ。
シロの方はというと、デカくて真っ白なシベリアンハスキーという事でゴリ押しし、飼い犬として市に登録するそうだ。
加えて、シロをハンターとして登録してダンジョンに連れて行くのも、何とかなりそうという話だった。
多分、ダンジョン庁や法務省の上層部にもトモ友が入り込んでいるんだ。トモミン、君は一体何者なんだ……
「ふぅ、これでもうだいじょーぶ! ノルフィナちゃんもシロも、安心して日本に住んでいられるよ!」
電話を終えて輝く笑顔を向けるトモミンに、ノルフィナさんは平伏し、シロはひっくり返ってお腹を見せた。
「あ、ありがとうございます! トモミン様……!」
「クゥーン……!」
「もー、様付け禁止! そんな子にはー…… こうだー!」
「うひゃっ……!? や、やめてくだ-- あひゃひゃひゃひゃ!?」
トモミンがノルフィナさんに襲い掛かり、思いっきりその脇をくすぐる。
じゃれついて楽しげに笑っている彼女と、先ほど一瞬だけ見た能面のような表情の彼女…… それが同一人物とは信じられなかった。
「--やっぱり、さっきのは見間違いか何かだな。うん、きっとそうだ」
「へ? 師匠、何か言った?」
「いや、何でもないさ。ところで、諸々の手続きには時間がかかるだろう? これからは俺達はパーティーとして一緒に活動する訳だから、手続きを待つ間にお互いの手札や連携の確認をしておかないか?」
「いいねそれ! 僕もさんせー!」
「ひぃ、ひぃ…… わ、私も賛成ですぅ……」
「ワフン!」
そんな訳で、俺達は早速鉄熊山に向かった。この場所は近いし人気も無いしで、訓練場所として丁度いいのだ。
ついでに異世界ユグドラシアへのゲートが開いていないか確認してみたが、ノルフィナさん達が倒れていた場所の周辺にそれらしいものは見当たらなかった。
ゲートは少なくとも二回開いている。俺が熊野郎と遭遇した時と、ノルフィナさん達がこっちに逃げてきた時だ。
また同じ場所に開く可能性は十分ありそうだけど、今の所その兆しは無い。何か法則性でも掴めるといいんだが……
訓練を始めて一週間。諸々の手続きと連携の確認を終えた俺達は、久しぶりに近所の支援局を訪ねた。
「狩山君! トモミンちゃん! 久しぶりね、待ってたわよー! で、そちらの子達が支援局本部から通達のあった子達ね……」
笑顔で俺達を迎えてくれた斎藤さんは、すぐにその表情をなんとも言えないものへと変えた。
その視線の先にいるのは、少し居心地が悪そうににしているノルフィナと、興味津々に周囲の匂いを嗅いでいるシロの二人だ。
彼女達のことは、ハンター支援局高官のトモ友経由で事前に話を通していたのだ。
支援局の待合スペースに居合わせた他のハンター達も、何だ何だと彼女達を方を指差している。見せ物じゃないぞ。
ちなみにノルフィナには、「さん付けで呼ばれるのは恐れ多いですぅ……!」とか言われてしまったので、呼び捨てさせてもらっている。
「二週間ぶりですかね。ご無沙汰しております、斎藤さん。ちゃんと話が通っていたようでよかったです」
「今日は僕達の新しいパーティーメンバーを連れて来たんだ! 二人ともすっごく強いんだよ! ほら、挨拶挨拶!」
トモミンに促され、二人は斎藤さんに揃って頭を下げた。
「ノルフィナと申します。日本語はまだ勉強中です。あ、この耳は生まれつき何故かこの形なんです」
「ワオン!」
「あ、あら。わんちゃんまでご丁寧に…… 分かったわ。でも日本でハンターとして働くには、まずは覚醒判定は受けて貰うわよ? 面倒だと思うけど、規則だから」
「はい、もちろんです」
「ワンワン!」
ノルフィナは、日本に出稼ぎに来た海外の中堅ハンターという事になった。日本と海外では等級の基準が違ったりするので、こうして昇級試験をやり直すのが普通なのだそうだ。
そしてシロは世にも珍しい覚醒犬で、ダンジョンで活躍できないか試験的に検証するという形になっている。
前者はともかく、後者はよく通ったな……
しかし、覚醒判定か…… 判定に使用するのは、ハンターの最大魔力量を計測するレベル測定器だ。この装置により、そのハンターがどのくらい強いのが数値で分かってしまうのだ。
非常に高価な装置だけど、通常はどの支援局にも一台は置いてあるのだが……
「あの、斎藤さん。この支援局のレベル測定器って……」
「ふふっ、安心なさい。新しいのが昨日届いたわ! 最新型だから、これできっと君のレベルも測れるわよ!」
「……! よかった…… それを聞いて安心しました」
G級からF級ハンターになる際、俺も当然レベル測定器による覚醒判定を受けた。
しかし俺の計測を行ったレベル測定器は、なぜか爆発するように壊れてしまったのだ。
幸い修理費などは請求されなかったが、職員達は悲鳴をあげるし、俺も冷や汗がドバドバ出たので正直トラウマである。
「あ、じゃあじゃあ! 僕も測ってみたい! 結構強くなったと思うんだよねー!」
「ふふっ、分かったわ。ちょっと待ってね」
斎藤さんは飛び跳ねてアピールするトモミンに微笑んだ後、裏から大きめのカメラのような装置を持ってきた。あれが最新型のレベル測定器らしい。
彼女はすぐにトモミン達の測定を始めた。すると、トモミンはLv.35、シロはLv.38。ノルフィナに至っては、Lv.52という数値を叩き出した。
「おいおい…… 全員Lv30以上かよ……!」
「特にあのエルフっぽい美人、すげぇな…… 道理で雰囲気あると思ったぜ」
「俺、犬に負けてんのか…… 負け犬だ……」
計測結果を耳にした周囲のハンター達がどよめく。
一般的に、ベテランと呼ばれるC級ハンターはLv.30からLv.50未満、超人と呼ばれるB級ハンターはLv.50からLv.40未満と言われている。
そしてC級はハンター全体の上位20%、B級ともなると上位1%の超上澄みなので、確かに驚きの数値だ。
「三人ともすごいわねぇ……! 特にノルフィナさん。私ここに勤めて長いけど、こんなレベルは初めて見るわ……!」
「そ、そうですか……!? えへへ、恐縮です」
「くっそー! シロちゃんに負けたー!」
「ワフフン!」
三人が結果に一喜一憂する中、斎藤さんは少し緊張した表情で測定器を俺に向けた。
「じゃあ…… 最後に狩山君のも測るわよ……?」
「は、はい。お願いします……!」
前回のことを思い出しながらそう答えると、斎藤さんは装置の測定開始ボタンを押した。すると。
ビーーーッ!
前の三人の時には鳴らなかった、大きな警告音のよう音が響き渡った。
「え…… も、もしかして、また壊してしまいましたか!?」
冷や汗を垂らしながら尋ねると、斎藤さんは目を見開きながら静かに首を振った。
「い、いえ…… 故障ではないわ…… でも数値が…… これって、まさかそういう事……!?」
彼女は静かに俺をみた後、おもむろに測定器の画面を俺に見せてきた。
近寄って画面を覗き込むと、そこにはレベルを示す数値は見当たらず、代わりに英単語が一つだけ表示されていた。
「Overflow……? あの、斎藤さん。これって……?」
問いかける俺を、彼女はわずかな怯えの混じった表情で見返した。
「こ、この測定器が計測できるのはLv.99…… 英雄と呼ばれる、A級ハンターのレベル帯までなの。
それが今、測定範囲外を示している…… つまり、狩山君のレベルは百以上。人外なんて呼ばれる、S級ハンターの領域にあるということよ……」




