第10話 ハンター、メイドとダンジョンに潜る(2)
足を踏み入れた『大兎の巣穴』は、前と変わらず延々と続く洞穴のような場所だった。
「おー、確かに巣穴っぽいね。へっへっへっ…… 兎狩りの時間だぁ!」
「悪そうな顔してんなぁ……」
カメラに向かって悪役のように笑う彼女に苦笑すると、コメント欄も同意見だったらしい。
”師匠、辛辣w”
”いや、師匠に同意。これはヤってますわ”
”前のドッキリ企画で仕掛け人してた時と同じ邪悪な顔”
”ん……? 待って。師匠のインパクトで見逃してたけど、トモミンの装備かわいい!”
”ほんとだ。遺言配信の時と変わってる?”
”狩山師匠の装備と雰囲気似てね?”
「あ、そーいえば紹介してなかった! じゃーん! これぞ、真・ゴスロリメイド装備だよ! 師匠に仕立ててらったんだー! いいでしょ?」
トモミンがくるりと回ってみせると、装甲板が縫い付けられた革製スカートが、ぶんっ! と遠心力で勢いよく回った。危なっ。
彼女が着ているのは、熊野郎の素材を使った重装甲ゴスロリメイド装備だ。
元の彼女の装備のデザインを生かしつつ、布地の多くをより強靭な熊革製に置き換え、各所を熊骨から作り出した装甲で鎧っている。
可愛さと物々しさがいい感じに融合した、実に彼女らしい仕上がりになったと思う。
ちなみに、一緒に住むにあたって隠しきれないと思ったので、彼女には俺の覚醒や熊野郎の素材などについて共有済みだ。
彼女はそれらの事より、自分が食べたカレーの肉が熊野郎のものだった事に一番驚いてたけど……
”狩山師匠、装備も作れんの!?”
”C級昇級RTAの時、師匠本人が着てるのも師匠が作ったて言ってたぞ”
”これ背後にデザイナーか装備メーカーいるだろ”
”俺、トモミンが持ってる物騒なやつの方が気になる……”
「お、これ? ふふん、やっぱりメイドといえばモーニングスターだよね〜 今日はこれで魔物をバッタバッタと倒していくよー!」
トモミンがブンブン素振りし始めたのは、長い柄の先にトゲトゲの鉄球が付いた、凶悪な形状の武器だ。これも熊骨製で非常に頑丈だ。
彼女は思い切りがよく、魔力による身体強化率が高い体質だった。かなり前衛に向いた才能の持ち主と言えるだろう。しかし一方で、刃筋を立てたり、攻撃を捌いたりと言った細かいことは苦手らしかった。
なので、重装甲で攻撃を受けつつ、鈍器で敵を叩き潰すこの構成に落ち着いた形だ。
弟子を取るなんて初めての事だったけど、なんとかなりそうで良かった。こうして的確に指導できるのも、あの光の塊がくれた達人級の技量のお陰だけど……
「トモミン、装備紹介はその辺にしよう。ここはもうダンジョンの中だ。打ち合わせ通りの隊列で攻略していこう」
「りょーかい! 師匠、僕の後は任せたよ!」
「ああ、任せてくれ」
このダンジョンの道幅は結構狭目だ。俺たちはトモミンを先頭にして、マップを頼りに最深部のボス部屋を目指し始めた。
「キュイッ!」
すると早速、前方の分岐の影からアルミラージが飛び出してきた。
「トモミン!」
「うん! えいっ!」
ゴシャッ!
トモミンが大上段からモーニングスターを打ち下ろし、アルミラージを文字通り叩き潰した。
”ヒェッ……”
”Oh……”
”グロ中尉”
”トモミンさん、今まで失礼な言動をしてしまい申し訳ありませんでした”
”どうかお命ばかりは”
”トモミン、俺達友達だよな……?”
「あれあれ? みんなどうして謝ってるのかな〜? 怖くないよー、かわいいメイドさんだよー」
急に命乞いをし始めたコメント欄に、彼女は顔に返り血を付けながらカメラに向かってにっこりと笑った。
「いや、めちゃくちゃ怖いよ…… ん……? トモミン、前後を群れに挟まれた。ここで迎え撃とう」
「群れ……!? わ、わかった! 任せて!」
俺と彼女が背中合わせになった瞬間、後方からドドドドドッ、と地響きを上げて十数体のアルミラージが押し寄せてきた。
「「キュキューッ!」」
「シッ!」
予想より遥かに多い群れに面食らいつつ、俺は後方から来た群れへ身体強化を抑えめにしながらナイフを振るった。
昇級試験はこんなふうにパーティーでも受験可能だ。というか、ソロは危ないのでそっちの方が推奨されている。
その際にC級の俺が出しゃばってしまうと、E級試験のを受けているトモミンの評価が下がり、落とされてしまう可能性がある。だから今回はあまり目立たずに援護に徹して--
「えい! どうだ! それそれー!」
すると、前方の群れを相手にしているトモミンの声が徐々に遠ざかって行った。
慌てて振り返ると、彼女はモーニングスターを振るいながらどんどん前に突進していて、俺との距離がかなり空いてしまっていた。あいつ、早速周りが見えなくなってる……!
「お、おいトモミン! 前に出過ぎ--」
「キュッ!」
その時、俺とトモミンの間の通路から一体のアルミラージが飛び出してきた。
鋭い角を前を槍のように突き出して飛ぶ姿は殺意に溢れ、その向かう先はトモミンの無防備な延髄だった。
「……!」
ズシャッ!
俺は身体強化を最大化し、後方から来ていた群れを一瞬で細切れにすると、トモミンに向かって全力で踏み込んだ。
バシッ!
その距離僅か数ミリメートル。首に突き刺さる直前の所で、俺はアルミラージの角を掴んでいた。
「へ……? あっ…… ごめん師匠。ありがと!」
前方からの敵を殲滅し終わったトモミンが、焦ったようにこちらを振り向いた。
「ああ…… 戦意抜群でとても良いけど、ちょっと先走りすぎたな。目の前の敵に夢中になると今みたいに危ないから、ここからは冷静に、周囲に注意を払いながら進もう」
「ギュッ……!?」
掴んだアルミラージの首をへし折りながらそう言うと、トモミンはガクガクと何度も頷いた。
「う、うん。分かった……!」
”え…… 今、師匠が瞬間移動しなかった?”
”うん。一瞬映像が飛んだのかと思ったけど、その間トモミンは動いてたから……”
”あえ? 後ろから来た群れがいつの間にか細切れになってる……”
”なんか師匠の腕が一瞬ブレたと思ったら、うさぎちゃん達がミンチになってたぜ怖いぜ”
”今の結構危なかった気が…… まだ心臓がバクバクしてる”
”トモミンドジっ子メイドだから、狩山師匠が側に居てくれる安心感がヤバイ”
”頼む師匠、この子を無事に帰してくれ……!”
「ど、ドジっ子じゃないよ! もうここからは絶対ヘマしないんだから! 行くよ、師匠!」
「ああ。 --フラグなんだよなぁ……」
俺とコメント欄の不安を他所に、その後の攻略は意外にも順調に進んだ。
数時間後には最下層のボス部屋に辿り着き、俺たちは身の丈ほどの馬鹿でかい兎、ラージアルミラージと対峙する事になった。
しかし、ボス戦が始まってすぐにフラグは回収された。
「ギュイッ!」
「ぐえっ!?」
ボスが背後を見せた瞬間に突っ込んだトモミンが、奴の強烈な後ろ蹴りで吹っ飛ばされてしまったのだ。
防具のお陰かあまりダメージは無さそうだけど、彼女は盛大にひっくり返ってしまい、スカートの中が露わになった。
「おっと」
俺は高速で移動すると、カメラの前に割り込んで彼女のあられも無い姿を隠した。
”狩山師匠で隠さなきゃw”
”おい師匠! あんたが守るべきはトモミンの安全であって尊厳ではねぇんだ! そこをどけ!”
”さすがトモミン。撮れ高の神に愛されてる”
”こんな芸術的なひっくり返り方があるだろうか。いや、無い(反語法)”
コメント欄が爆速で流れ、距離を取っていたボスが俺たち向き直って足を撓めた。
「トモミン、早く起き上がれ。ボスが戻ってくるぞ」
「こ、このっ……! もー怒った! ぶっ殺してやるっ!!」
その後顔を真っ赤にした飛び起きたトモミンは、バーサーカーのような勢いでボスに特攻。巨大ウサギを滅多打ちにして勝利し、十分な取れ高を確保しながら無事にE級へ昇級した。




