第六十話 最終話『神獣の誓いと未来の選択』
「ルエル......」
「そう、わらわは人が神獣と呼ぶ者、空間と時間を操ることができるのだ......」
ルエルは寂しげにそう言った。
「ルエルが空間と時間を操る...... それがなんで俺の中に」
そう聞く俺にルエルは昔話を語りだした。
「かつてある男は界獣の世界と通ずることができた。 ある時この世界は病が起こり、飢えに苦しみに滅びようとしていた。 そこで男は界獣に頼みごとをした。 この世界を救ってほしいと......」
「それが神皇」
「......その獣はこの世界の均衡を壊し、世界に界獣とモンスターを産み出した。 人は界獣を使い、モンスターは食料などになり、人は滅びを免れた。 しかし界獣を手に入れた人はいつしかその力を自らの欲望を満たすために使う...... そして戦火は世界を焼き払った......」
「その獣がルエルか......」
「その世界を見て自らの願いを後悔した男を哀れに思った獣は、その者を他の世界に送ったのだ......」
「他の世界に......」
「だが男は戻ってくる。 それが男の願いだったからだろう。 そして何度も絶望しては、再び立ち上がる......」
(再び......)
その時、ルエルが言った、再び問おう、その言葉を思い出した。
「まさか...... その神皇は俺なのか......」
「......そうだ。 そなたは心に傷を負いながら、何度も何度も仲間や家族の死を体験し、再びここに来るのだ」
「まさかみんなが死ぬ、あの夢は......」
「......そう、それはかつてお前が経験した記憶だ」
(そうか、イオスは俺の未来が見えない、そう言っていた。 違う変わっているんだ。 その都度変化して変わるから見えないんだ......)
「諦めよ...... そなたが傷つくさまはもう...... 見たくない」
ルエルが懇願するようにそう言った。
「だめだ...... 諦めてもなにも変わらない。 楽になどなれない。 力を貸してくれルエル、必ず変えてみせる!」
「......また、そう言うのだな......」
「ああ、そしてわかった、俺をここに呼んだのは俺自身なんだな」
「そうだ...... そなたの願いを叶えた、今ならもとの世界に返してやれる...... もとの世界で苦しまずに生きていけるのだぞ」
「だめだ。 もう俺はこの世界から離れられない。 家族もお前もここにいる...... ここを変えるしかないんだ」
ルエルは目を開け俺の目を見据えた。
「......わかった。 お前が再び絶望から立ち上がるならば、わらわも共に参ろう」
「やはり、こんなくだらない決着か......」
そう声を聞き、目を開けるとそこにはイオスがいた。
「まだ、決着はついていない......」
「まだ死んでないのか...... だが、もういいよ。 君の未来は死ぬと見えた。 これ以上は無駄だ。 ぼくは世界から界獣を滅ぼしてそして神獣を呼び出す。 例えこの世界が滅んだとしてもね」
「そんなに神獣が見たいならみせてやる......」
「なに...... なんだ未来が変わる......」
「こい! ルエル!」
倒れていたルエルが黒く光ると、その姿を黒いルエルとなって現れた。
「なんだこいつは...... 未来視でもなにも見えない! まさか!?」
「そうだ、これが神獣ルエル」
「神獣!! そんな馬鹿な! ぐほっ!!」
俺の拳がイオスを吹き飛ばした。
「なっ! 殴ろうとする未来が見えない!」
「お前はさっき言ったな。 人は愚かだと」
「そうだ...... 人は愚かで脆弱な醜い生きものだ。 弱さを隠すために愚行をおかす」
「それは否定しない。 人は愚かで醜いかもしれない...... だけどそれは必死に生きようとして現実を見ているからだ!」
俺は拳でイオスを殴った。
「ぐっ...... それがどうした...... 現実ならぼくも見えている! 愚かなものよりもずっと先を!」
剣を振るおうとする腕をつかみ投げる。
「がはっ......」
「違う、お前は現実を見てる訳じゃない...... お前は現実を見たくないから、決まった未来を見てるんだ」
「現実を見たくないから......」
「現実を生きるのが辛いから、先を見て知ることでその痛みから逃れている......」
「こ、この、ぼくが弱いだと!」
殴りかかるイオスの拳を額で受ける。 額から血が滴った。
「なっ!」
「そうだ...... 傷つくのを恐れているだけ...... お前も、愚かで醜い人そのものなんだよ!」
「ぐふっ!」
殴りつけるとイオスは転げて地面を滑る。
「......ふざけるな、ぼくは...... うっ!」
イオスの背中から剣が貫き血で服が赤く染まる。
「イオス、お前も、見えなかったのだ、我のようにな...... ぐふっ......」
イオスが倒れると、血を吐く皇帝が剣を抜き、こちらに向ける。
「我は神皇の...... 血筋...... それが我が...... 誇...... り......」
そう言葉を絞りだすと、その場に崩れ落ちた。
その後、帝国は滅んだ。 魔力制御を乱す魔巧具をクリエイスさまが作ったことで界獣やモンスターの制御ができなくなったことも一因だが、皇帝の死去で帝国臣民が立ち上がり軍への反抗が決定打となったからだ。
「そうか...... イオスが」
フィグルスさまがそうつぶやく。 俺はフィグルスさまたちに、事の経緯を伝えた
「あの子は幼いときから天才と称されてきた。 孤独だったのだろうね」
シェルディオさまが目を伏せた。
「......馬鹿なやつだ。 力に振り回されやがって」
そうサンフォイザさまが悲しげに言った。
(この三人も巨大な力をもち、人に言えない苦悩があったんだろう。 だからイオスに同情的なのかもしれない)
「すぐに魔巧技術の管理を始めよう」
「そうね。 各国に伝えるわ」
「俺は戦争で荒れた各地の沈静化に向かうぜ」
そう三人は動き始めた。
(でも、この三人はその巨大な力の責任を負いながら、全うしようとしている。 強い人たちだ。 リルは......)
「ナナミ、リルにはお前がついている。 大丈夫だ」
そうフィグルスさまは微笑んでいった。
「はい」
俺は国に帰る。
「やっと一息つけたね」
そう、リシェが言った。 俺たちは町が見える丘に来ていた。 人々が増えた町の拡張のため、せわしなく働いている。
「クリエイスさまはどうなの?」
「かなり忙しくして愚痴を言ってるみたいね。 シェイネスが手紙で伝えてきたよ」
俺たちは帝国から帰ったあと、ハルリールに向かった。 ハルリールは帝国に与していたが、グランバルトは帝国が敗北すると逃走したため、クリエイスさまは容易く国に戻れた。
「ティモシーはバレス親方と出ていったんだろ」
「ええ、故郷を復興するため、この国の様子をずっと調べていたもの。 そういえばメリカ姫がナナミがいない時に来て怒ってたよ。 なんでいないんだって」
「はははっ......」
「どうしたの? 浮かない顔だね」
「......このまま平和が続くのか不安だ」
ついリシェの前だからか、本音が出てしまった。
「なにが起ころうとも、人は生きていく。 私たちもそうでしょ。 そのために生きてるんだもの」
「おかあさーん! おとうさーん!」
そう向こうからリルとイズ、そしてルエルが走ってきた。
俺は走ってくるリルを抱き上げた。 イズは微笑み、ルエルは跳びはね、リシェはそれを優しく見ていた。
──そうだ。 それでも人は生きる、例え愚かで醜くても、傷つきながら──




