第五十七話『ヴァルギアへの道と黒雲の兆し』
「帝国の動きは?」
「うむ、この国にはまだ侵攻しては来ておらぬ。 それが余計に恐ろしいな......」
ラークエイド王は不安そうな顔でそういった。 俺たちはデクレアからすぐにラークエイドに戻ってきていた。
「デクレアに迫っていた兵は撃退しました。 他の国の状況はわかりますか?」
「北や西、東の国でも王契将の加勢により、かなり押し返しているそうだ」
(さすがだ...... ただここまで動かなかった帝国が急に攻勢にでたのは、勝機があってだろう。 何か企んでいるのか)
俺たちは国に戻る。 クリエイスさまの工房に向かう。
「クリエイスさま、あれはなんでした?」
「おそらく魔力を制御するもので間違いはないだろう」
リルが飲み込んだテントの下には球体状の魔巧具があった。
「制御不能にできますか」
「魔力を乱してやれば可能だろう」
「それを作って出来たら各国に提供してください」
「わかったが、お前はどうするんだ?」
「俺は帝国に向かいたいと思います」
「......帝国に」
「ええ少なくとも帝国の目的をしらなければ、この戦争は終わらせられないと思うんです」
「......確かにな。 戦略としても腑に落ちない点は多い。 それならこれを持っていけ」
そういってクリエイスさまは宝石のついた指輪を差し出した。
「これは......」
「お前が持ってきた界獣たちを操っている魔巧具を解析して作った試作品だ。 魔力を乱すことができる。 使うときが来るかもしれん」
「ありがとうございます」
俺はルエルとリシェとシェイネス、ティモシーを連れて帝国に潜入することにした。
「リルは大丈夫かな」
不安そうにリシェが言う。 俺たちは国境から姿を消して潜入した。
「クリエイスさまとイズもいる。 それにマジェハにもあの町を守るように頼んできたからな。 それに俺たちが思っていたほど弱くない子だ」
「そうだね...... そうだよ」
リシェの顔から不安が消えた。
「それで、帝国に入ってどうする?」
ティモシーが腕を組みそう言う。
「潜入してなにをしようとしているか調べる」
「それならば行先は皇帝がいる【帝都】ですね」
シェイネスがうなづく。
「ああ」
しばらく歩くと町が見えた。 小さな町だが、かなり古いらしく石造りの建物が立ち並ぶ。 ただ人々は暗い表情で町を無言で歩いている。 身なりはかなり悪く豊かではないことがすぐ見てとれた。
「おい! どけ!」
「お前たちの為に我々は戦っているのだ!」
そう軍人が町の人たちを恫喝して、我が物顔で歩いている。
「ひどいですね」
「みんな怯えているね」
ルエルとリシェが同情するようにそう言った。
「シェイネス、ここから帝都まではどのぐらいだ」
「馬車で約一週間ですね」
「歩きじゃ無理か」
「クリエもそこまで姿を消し続けるのは無理だね」
リシェがそう言った。
「やはり、姿を見せて馬車を手に入れるしかない」
「帝国の通貨は、町にきた商人から手に入れています」
シェイネスがそう言い、俺たちは姿を見せる為に夜を待つ。
「よし、もういいだろう」
夜になり俺たちは姿をだして、宿に泊まった。
「取りあえずシェイネス、ばれないように気を付けることはあるか?」
「帝国にはなまりなどはない為、すぐばれることはないと思います。 一時は世界のほとんどを支配していた時期もあり、文化的にも他の国の元になっていますから、他国と文化は変わらないと聞いています」
「そうなのか」
「一応帝国は神皇の子孫の国と呼ばれているの」
「神皇...... あの絵本の」
「神獣と契約して、無意識界との壁を壊し、この世界にモンスターと界獣を産み出したとされます」
ルエルがそう言った。
(それでこの世界には界獣やモンスターがいる。 その起因か......)
その夜、俺は夢を見た。 今までよりかなりはっきりとしていた。
「うわっ!」
「大丈夫、かなりうなされてたよ」
心配そうにリシェが言った。
「......ああ、嫌な夢をまた見た...... 大丈夫だよ」
(帝国の城で発見されてみんなが処刑される夢だった。 とてもリアルだったな)
「ナナミどの、馬車や必要な物資を買って参りました。 馬は外に繋いでいます」
「ありがとうシェイネス、帝国の城まで向かおう」
俺たちは馬車に乗り帝国の首都、帝都【ヴァルギア】に向かう。
「シェイネス...... ガルグルムさまのこと」
リシェがそう聞いた。
「ええ、ナナミどのから聞きました...... デュライアがコピーで作ったギラルドにと......」
「ギラルドのことは知っているのか?」
「ガルグルムさまから少しだけ...... 理想にとりつかれ力による変革を求めたと、そしていくつかの国を滅ぼし、ガルグルムさまたちが倒した。 ガルグルムさまは友であったギラルドのような者を出さぬように、世界の均衡を保とうとされていた......」
そう言ってシェイネスはうつむいたが、すぐ前を見た。
(ガルグルムさまの死を乗り越えて、シェイネスも前を向いて生きようとしている)
俺もすぐ前を見た。 見えてきた城塞の上に黒い雲が立ち込めていた。




