第一話『界獣召喚士は非常食を連れて異世界へ』
「ここは......」
気づいたら見慣れない森の中にいた。
「どこだ...... 確か俺は高校から帰り道...... あっ!」
いい匂いがしたと思ったら、突然目の前の空間が歪み、そこに吸い込まれたことを思い出した。
「あれか! なんなんだ一体...... そういえばあのとき、懐かしい誰かの声が聞こえたような......」
「もしもし」
「いや、そんなことよりここはどこだ!」
「もしもし」
「ん? なんだ」
横をみると申し訳程度に生えた羽をもつピンクの子豚がそばにいる。
「ブタ!?」
「誰がブタですか!! 失敬な! 人にいきなり豚呼ばわりするなんて! 【マスター】はどういう教育を受けてきたのですか!」
そう豚は地面をどしどし踏みながら抗議してきた。
(そうはいっても完全にブタだしな。 それにどっかで見たような...... いや今はそんなことより)
「なんだお前は、俺のことを知っているのか。 それにマスターってなんだ?」
「? ご存じない。 おかしいですね。 私はあなたに呼ばれてここにいるはずなのに...... まあ、いいでしょう。 ここは【ラークエイド国】の領内の森です」
「ラークエイド国...... 聞いたことない」
「でしょうね。 ここはあなたがいた世界ではないですから」
「どういうことだ! ブタ!」
「ブタ! ではないでしょう! 私には【ルエル】という立派な個体名称があるのですよ!」
「そんなことより、ここは異世界ってことか!?」
「そんなことよりって...... ええ、あなたから見ればそうなりますね」
「どうやって帰るんだよ!」
俺はブタを揺さぶる。
「や、やめてください! 帰り方はわかりません。 何者かがあなたを呼び出したのでしょう。 私のように......」
その時、空間に吸い込まれたことを思い出す。
「な、なんてことだ。 変な世界に呼び出されたなんて、家族も友達もいない世界に来たのか...... あっ!」
(ま、まずいぞ! もし捜索願いなんて出されたら、俺のパソコンやスマホが調べられる。 あんなものやこんなものがでてくる!)
「ぎゃあああああああ!!!」
「ど、どうしたんですか! 落ち着いてください! あまり大きな声を出すと......」
ドッドッドッ
音が聞こえ地面の揺れから、なにかが近づいてくるのがわかった。
「な、なんだあれは!?」
それはサイのような大きさのネズミだった。
「ぎゃあああ!!」
「は、早く【召喚】を! 私ではあれは倒せません!」
「し、召喚ってなんだよ!」
俺は逃げながらそういった。
「あなたは召喚術が使えます! だからなにかを召喚して!」
(召喚だって! えっ! どうすればいいんだよ!)
「なにかこい! なにかこい!! なにかこーーい!!!」
一心不乱に念じると、目の前の空間が歪み、高速で光るなにかが俺の横を横切る。
ドンッ!
大きな音がしてその方向をみる。 すぐ後ろに迫っていたネズミが、光に当たり吹き飛ぶところだった。
「はぁ、助かったのか......」
「はぁ、そ、そうみたいです」
二人で座っていると光はこちらに近づいてくる。 それは光る小鳥のようだった。
「【シェリー】......」
そう頭のなかに聞こえると、小鳥は消えていった。
「シェリー? 消えた......」
「多分、その【界獣】の個体名称ですね」
「界獣?」
「ええ、私たちのことを人間たちがそう呼んでいます」
(じゃあ、ただのブタじゃないのか......)
「そうなのか。 でも俺は呼んだ覚えがないんだが......」
「いいえ、私たちがこの世界に存在するには、この世界の者がその存在の力をもって呼び出さなければ定着しません。 私がここにいるのもあなたが呼んだからです」
そうブタは自信満々に胸を張った。
「じゃあ、さっきのは消えたけど、ブタ...... ルエルはなんで消えてない」
「あなたが必要としているからですよ。 あなたの存在の力をもって私はここにいますからね」
「俺が必要......」
「ええ、この世界のことを知らないあなたは私のことが必要でしょう」
ルエルは鼻息荒く答えた。
「なるほど、非常食か......」
「食べる気ですか!?」
「生き残るには食料がいるだろ?」
「ま、待ってください! 言語を介するものを食べられるんですか!」
「くっ! 残念だが、人は食べねば死ぬのだ。 わかってくれ!」
「やめてください! 食べ物なら働いてお金を得ればいいだけでしょう!」
「お金の稼ぎかたを教えてくれるってことか...... それなら頼りにするしかないな」
「え、ええ、この世界のことはある程度、記憶がありますから」
ほっとしたようにルエルは答える。
「そうか、じゃあ情報役兼非常食としてこれからよろしくな。 俺は品坂 七海だ!」
「そうですか、ナナミさま...... えっ!? まだ食料にカテゴライズされてる!?」
こうして俺の異世界生活が始まった。




