日常への回帰
野営地で一晩を過ごした翌朝、金吾は荷造りを始めていた。
メディアリアに場所を知られたから、それだけではない。昨夜の戦闘で木々が焼け焦げ、周囲はあまりに目立つ一帯となってしまったのだ。隠れ家としてはもう使えない。
金吾「ついて来るなよ」
荷物を背負いながら金吾は低く言い放つ。
だがメディアリアは従わない。ちゃっかりと荷物を持ち、手伝いながら新たな野営地の場所を知ろうとしていた。
肉体強化魔法「迅雷」をするには余りにも荷物が多かったのでそれも出来なかった。
そもそもとして、彼女の手伝いは助かっていた。実利を優先させることにした金吾は仕方なく新しい拠点まで連れて行くことにした。
金吾の拠点は岩屋戸だけではない。物資の大半はそこに貯蔵していたが、他にも自作の蒸留酒を保管する地下貯蔵庫があった。
断崖の切れ目から流れる岩清水が森に細やかな小川を作っている場所の、その断崖の側に掘った地下室だった。岩屋戸以上に見つかりにくい場所でもあった。
この場所を見つけたのはそれほど昔ではなかった。時期を見計らって移転しようかとも考えたが、なにより地下のスペースがそれほど広くないので先送りにしていたのだった。
荷物を運び終える頃には、太陽はすでに頂にあった。
金吾はオーク樽の蒸留酒を素焼きの瓶に移し替えると、その足で狩りへ向かうことにした。昼食の調達も兼ねてのことだったが、丸一日収入がないというのも嫌だったのだ。
その後ろにはもちろんメディアリアの姿があった。
金吾「いい加減にしろよ!!」
振り返り、苛立ちを隠さずに言う。
メディアリア「……これがわたしの役割ですから」
少女は真っ直ぐに答える。
金吾「それは徒党を組んだやつに対して……」
金吾は舌打ちする。この賢い少女はわかっていてやっているのだろう。
金吾「余計な知恵をつけやがって……」
メディアリアはふと顔を上げる。
メディアリア「そういえば、昨日討伐したウルフベアは、どっちの討伐にカウントされるんですか?」
金吾「ん? さあな」
金吾は振り向きもせずにそっけない返答をする。
少女は頬をふくらませた。金吾がもったいぶっていると勘違いしていた。だが本当に金吾にもわからなかった。
金吾「……ああやって魔法を重ね打ちすることは、あまりされない。普通は打ち消し合うからな。」
金吾は淡々と説明を続ける。
金吾「鬼うさぎから助けた時みたいに、水魔法の残りを利用することはある。だがその場合は最後に魔法を撃ったやつ――つまり凍らせた俺にカウントされるんだ。まあ魔法関係なく俺がトドメを刺したけどな。……錬金魔法を戦闘で使うやつも少ないし、本当にわからないんだよ。つーか、魔石を見た方が早いんじゃないのか?」
言われるままにメディアリアは魔石を取り出す。だが、ただの石にしか見えない。
金吾「冒険者証をかざすんだよ、そうすればそっちに討伐数が出る」
金吾の言葉に従い、腰袋から冒険者証を取り出す。そこにはウルフベア八頭の討伐記録と、急激な経験値の上昇が刻まれていた。
金吾「つまり、俺は油をただ乗りされたってことか」
金吾は不服そうに呟く。
メディアリア「ご、ごめんなさい」
少女は慌てて謝罪する。
金吾「だから、そういうのをやめろってんだよ!」
金吾は声を荒げる。
金吾「誰を出し抜こうが、それが実力なんだ。連帯することが、仲間の歩調を合わせることだけが徒党じゃ……クソっ!! なんで俺がこんなことをいわにゃならんのだ」
メディアリアはまじまじと自分の冒険者証を見つめた。レベルは十。昨日まで二だったのが、一気に八も上昇していた。
その数字は現実感を伴わず、胸の奥に喜びと戸惑いが入り混じった複雑な感情を生み出していた。
金吾も経験したことのあるものだった。
メディアリアの横顔を見ながら、遠い過去のようなその日々を、苦々しく思い返す。徒党を組んでいた、在りし日のことを。
金吾「長く続くものじゃない。低レベルからのレベル上昇は、な」
メディアリアは顔を上げ、金吾を見つめる
金吾「……まあ、お前は若いし、そのまま上昇することもあるかも知れないがな」
金吾は視線を戻し、前へと足速を上げる。
金吾「徒党を組めば経験値も均等に分散される。そういう「契約」だからな。組むやつは慎重に選ぶことだ」
またも余計なおせっかいを焼いてしまった。
そのことに気づいた瞬間、金吾は自分自身に苛立ちを覚え、舌打ちをした。
森が途切れ、いつもの狩り場へとたどり着く。そして、いつもの日々が戻って来る。狩りと、学びと、迫害の日々が。
明日にはもう、この少女は傍らには居ないのかと、金吾はそう思った。




