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徒党

 金吾の野営地は、重たい沈黙で満ちていた。

 岩屋戸の奥から干し肉を取り出し、噛みしめながら腹を満たす。焚き火の篝火が揺れ、二人の影を壁に映し出す。

金吾「……お前、ただ礼を言うためじゃないよな?」

 金吾は低い声で切り出した。

金吾「そんなことのために、夜の森を駆け回るなんて危険な真似はしない。お前は馬鹿じゃないからな」

 メディアリアは唇を噛み、沈黙する。

 やがて、勇気を振り絞るように声を上げた。

メディアリア「……あ、あの!!」

金吾「お断りだ」

 金吾の返答は冷たく、鋭かった。

 少女は悲しい目をして、じっと彼を見つめる。

メディアリア「パーティを……」

金吾「だから、お断りだって言ってんだよ」

 金吾は間髪入れずに突き放す。

メディアリア「……じゃあ」

金吾「それもお断りだ」

 まだ何も言っていないのに、金吾は先回りして拒絶する。

 少女は俯き、肩を震わせる。

 その沈黙が、無言の反論のように金吾の胸を刺した。

金吾「はぁ……」

 ため息をつき、これでもかというほど嫌な顔をして答える。

金吾「どうしてお前の指導なんかしないといけないんだ? バカバカしい。他のやつに当たれよ」

 メディアリアは俯いたまま、悲しげな顔をしていた。その表情に、金吾はわずかにバツが悪くなる。

金吾「ギルドはいろんな講習を開いている。まずはそこでいろいろ学ぶことだな。魔法の制御方法も、魔獣の習性も。初心者全般の講習だって開かれている、受付にでも聞けよ」

メディアリア「講習は受けています。でも、よく分からなくて……」

 少女の声は焚き火の音にかき消されそうなほど小さく力弱かった。

金吾「どーせ同じ講師ばかり選んでいるんだろう」

 金吾は干し肉を噛みながら吐き捨てる。

金吾「手当たり次第に受けてみろ。そうすれば誰が優秀かがわかる。自分の才能だけで成り上がったやつと、そうでない奴らの違いが、な。」

 焚き火の火がぱちりと弾ける。

金吾「後は装備を整えることだ。最低限の鎧と、魔法つかいなら杖だな。金をためて買うんだよ。まず冒険者としてやっていくのなら、それが最低限だ」

メディアリア「装備を、整えたら、パーティを組んでくれますか」

金吾「何度も言わせるなっ!! 俺は組まない!! 誰ともな!」

 焚き火の炎が弾け、金吾の怒声が岩屋戸に響いた。

金吾「それにお前なら、引っ張りだこだろ。それだけの魔力が初心者からあるってことは、相当な才能だ。誰にだってわかることだ。自分自身なら、なおさらだろう。」

 メディアリアは唇を震わせる。

メディアリア「……全然、制御できないから……」

金吾「それでパージされるわけか」

 金吾は鼻を鳴らす。

金吾「だが、お前ならいつかは乗り越えられる。俺なんかに、いちいち構うな。」

 その言葉は、彼女がこれまで何度も浴びせられてきたものだった。

メディアリア「わたしには、才能なんかありません。こんなことも、出来ないんだから」

金吾「あのなあ!!」

 突然の怒声に、メディアリアは肩を震わせる。

金吾「そんな甘っちょろいことを言って、お前、本気で冒険者で生きていく気があるのか? 誰もが羨む才を持っている癖に、少しつまずいたからって弱音を吐きやがって、俺を馬鹿にしているのか!? ああ!?」

メディアリア「馬鹿になんか……」

 少女か細い声が、焚き火の弾ける音に、溶けるように消えていく。

 金吾は立ち上がり、拳を握りしめる。

金吾「お前は凡人が焦がれても手に入らないものを持っている。なら、それを活かす術を死ぬ気で学べよ。例え資産が何もなかったとしても、戦わなければならないのが冒険者だ。MPが0でも木の棒持ってスライムを狩らないと生きていけないんだよ。それなのに、特上の武器を持っているくせに、その扱いができないなんて、馬鹿にしていないのなら何なんだ? そうでないのなら――っ!!」

 言葉が熱を帯び、立ち上がった金吾の声は怒りと焦燥に震えていた。

 だが次の瞬間、必死になって冷静さを取り戻そうとして、深い息を吐き、ゆっくりと座り込む。

金吾「……死ぬだけだ。そういう商売なんだよ、冒険者ってのは」

 焚き火の赤い光が彼の横顔を照らす。

金吾「だから、常に己を知っておけ。自分の役割を探せ。パーティに加入させてもらうなんて受け身の考え方はやめろ。自分の仕事を、自分の身の丈を知るんだ。」

メディアリア「身の丈を知る……」

 少女はその言葉を繰り返し、胸に刻むように呟いた。

金吾「自分の身の丈を知っていれば、自分の役割を知っておけば、そのうちパーティも組めるだろう。お前を使いこなせないのなら、そのパーティがだめなんだ。そう思えるくらいの反骨心を持って生きろ」

 焚き火の炎がぱちりと弾け、二人の影が壁に揺れた。

 その言葉は、今まで聞いたどのアドバイスよりも、少女の心に重く響いていた。

 ――だからこそ、この人と徒党を組みたいと、それこそが最良の選択だと確信した。小さな、ほんの少しの小さな直感だったものだったが、その正しさが証明されたような気がした。

 悲しげな、自分と同じ悲しげな、瞳を持っているこの人と。

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