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第六話 ウルフベアとの死闘

メディアリア「あぁ……!! やっと会えました!!」

 銀髪の少女、メディアリアが息を切らしながら叫んだ。

金吾「会えましたじゃねえよ!! なにしとんじゃコラ!!」

 金吾の怒声が夜の森に響く。

メディアリア「ううっ……」

 メディアリアは怯えたように肩をすくめた。その背後では、彼女が連れてきたものたちが森を震わせる咆哮を放っている。

 野営地はすでにウルフベアの群れに囲まれていた。魔物よけの魔法をかけているがそれも万能ではない。それはあくまで「近寄らせない」程度のものであって、こうして冒険者が魔獣を直接連れてきてしまえば効果はないのだ。

 その強靭な顎は熊のそれであり、胴体は狼の俊敏性を兼ね備えている。群れを作る小型の個体をウルフベア、群れを作らない大型の個体をベアウルフといった。ベアウルフに比べたら狩猟難易度は低いものの、強力な魔獣であることには変わりない。

 特に多勢への対処法は、一個体を相手にするものとはまた勝手が違った。その対処法の基本とは、こちらも同数または圧倒的多数で当たることである。つまり……

金吾「多勢に無勢だ」

 金吾は低く呟く。額からは冷たい汗が走った。

金吾「……お前、使える魔法は?」

メディアリア「えっ……」

金吾「その水の魔法以外に使える魔法はあるのかって聞いているんだよ!!」

メディアリア「はっ、はい。炎魔法を少し……」

金吾「そうか……」

 金吾はおもむろに地面の土を手ですくい取った。

金吾「今から、錬金魔法で油を作る。お前はその油に炎魔法をぶつけろ」

メディアリア「えっ……」

金吾「いいからやるんだよ!!」

メディアリア「は、はい!!」

 メディアリアは魔力を練って、その手のひらに集中させる。

 金吾は手に持っている土を口の中に入れて、錬金魔法を発動させた。ただ土を油に変えるよりも、人体の中で人体由来の物質を媒介させること、更に手のひらよりも体の中で直接錬金することによって錬金効率がよいことを、自身の研鑽から編み出したのだ。その集大成とも呼べるのが、体内錬成だった。

金吾「っ!!」

 勢いよく吐き出された泡状の油に、メディアリアはタイミングを合わせ、炎魔法を叩き込む。

 轟音と共に、炎の津波が森を焼き尽くすように広がった。

メディアリア「すごい……」

 ウルフベアたちは次々と悲鳴を上げ、燃え盛る炎に呑まれていく。生き延びた個体は散り散りに逃げ去った。

 だが――その代償は大きかった。

 一瞬のうちに森そのものが炎に包まれた。枝葉がちりちりと燃え上がり、夜空を赤く染め上げる。

 このままでは金吾たちも焼け死んでしまう。

金吾「はあ……はあ……お前、水魔法は得意なんだよな? あれだけ斬撃を飛ばしていたんだ、得意じゃないなんて言わせないぞ!!」

メディアリア「は、はい……」

金吾「鎮火できるか?」

メディアリア「やってみます!」

 メディアリアは必死に魔力を練り上げ、両手から巨大な水塊を生み出す。

 燃え上がる木々に次々とぶつけ、炎を鎮めていく。だが半分を消し止めたところで、彼女の魔力は限界に達した。

メディアリア「うっ……もう、これ以上は……」

 膝をつき、肩で息をするメディアリア。

 金吾は腰袋から自作のマジカ・ポーションを取り出す。

金吾「飲め」

メディアリア「ありがとうございます……」

 しかしポーションには即効性はない。ゲームであれば規定のマジックポイントを即座に回復してくれる便利アイテムであるが、そういったポーションはこの世界にも存在はするものの、とても高価であり一般冒険者が持つことは難しかった。

 ポーションを受け取ったメディアリアは半分だけ飲むと、その場に座り込み必死に呼吸を整える。

 金吾は残りの炎に向かい、水魔法を叩き込んだ。メディアリアとは違い、霧状のものだった。

 やがて炎は鎮まり、バチバチという音と共に残火は多少あるものの、森は再び夜の静寂が戻った。

 だがその代償は大きかった。

金吾「……っ」

 金吾は魔力切れでその場に倒れ込む。

 メディアリアは震える手で、残りのポーションを渡した。

メディアリア「……助けてくれて、ありがとうございます。」

 金吾は目を閉じたまま、かすかに鼻を鳴らす。

金吾「……余計な手間をかけさせやがって」

 その声には、怒りよりも疲労と、ほんの少しの安堵が混じっていた。

 横に倒れた金吾を、メディアリアはじっと見ていた。

金吾「……なんだよ」

メディアリア「えっと……その……」

金吾「だから、なんだよ!」

 少女は唇を噛み、勇気を振り絞る。

メディアリア「前回も、助けてもらって、その御礼を言いたくて……」

 金吾は眉をひそめる。

金吾「それを言うために、追いかけてたってことか?」

 少女はコクリと頷く。

 その瞳は、震えながらもただ真っ直ぐに金吾を見つめていた。

金吾「馬鹿が……」

 吐き捨てるように言った金吾の声は、焚き火の音にかき消されそうなほど小さかった。

 だが、確かにその言葉は、少女の耳に届いていた。



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