表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

27/28

だが、勝者はいなかった

 何事もなかったかのように、決闘は続けられる。

 ライガに浴びせた一太刀は、果たしてルナの回復魔法と釣り合っていたのだろうか。

 そんなことを考える者は、少ない。

 意図的に考えない者は、多い。

 金吾は何も言わなかった。それだけなのだ。

 ――そんなことはどうだっていい。

 金吾にはただ、眼の前の勝利しか見えていない。

 過去を精算する、明日への一歩を踏み出す――それが形として残ることだけが、金吾の望みなのだから。

 膨大な魔力を使う「迅雷」魔法を支えているのは、メディアリアが生成したアリア・ペル・フォンスの水のおかげだ。

 だが、それでも限界はある。

 このまま消耗戦を続ければ、勝ち目はない。

金吾「勝機は、勝機を掴むには、命をかけなければならない」

 ライガの剣を――

金吾「壊すためにはっ!!」

ライガ「オラアアアア!!!!!」

 その瞬間、金吾の氷の斧は粉砕され、肩から胸にかけて大きく切り裂かれた。

メディアリア「嫌っ――いやあああああああああ!!!!!!」

 鎖骨の部分で止まったとはいえ、その傷は誰の目にも致命傷に見えた。

ライガ「よ、よしっ!!」

 勝負はついた――誰もがそう思った。

金吾「これが、ベスト。俺のベストは、これなんだ……」

 金吾はゆっくりと、ライガの剣に手を当てた。

 ライガは金吾の目を見る。

 それは、諦めていない者の目、上級ランクの魔獣が見せるような、気高い光を宿した目だった。

ライガ「――っ!?」

 次の瞬間、ライガの剣は、金吾の体内に刺さった部分から錆びて腐り落ちた。

 体内錬成――刃が肉を裂いた、その接触部分を錬金で腐食させたのだ。

 これが金吾の、二年間の研鑽の集大成だった。

 ライガは慌てて剣を引き抜くが、その先端は折れていた。

 金吾はその折れた切っ先を、口で咥える。

 全ての力を振り絞り、その切っ先で、ライガを――

金吾「――っ!!」

 折れた剣で、ライガは金吾の顔を切った。

 右の目に大きな傷をつけるが――

金吾「――っ!!!!!!!!」

 金吾は止まらない。

 ライガの喉元に、切っ先が――

金吾「あぁ……」

 ――刺さらなかった。

 刹那のところで、バルドルの腕が金吾の首を掴んでいた。

 その傍らにはエレインがいた。

 彼女が飛び込もうとした瞬間、バルドルがその前に立ち、金吾の一撃を止めた。

 ただ、それだけだった。

金吾「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!!!!!!」

 右目からはおびただしい量の血が流れる。

金吾「どうしてお前は、お前らはっ!!!!!!」

 叫びは、怒号でも悲鳴でもなかった。もっと原始的な、胸の奥を引き裂くような声だった。

 ――誰も何も言わない。

 バルドルも、エレインも、観客も。ライガでさえ、息を呑んだまま動けずにいた。

 金吾の肩が震え、血が滴り落ちる音だけが響く。

金吾「何が神聖な決闘だ!! なにが“次邪魔をすれば殺す”だ……キサマ!! キサマがっ!! 俺を起こさなければ……こんな世界に居なかったんだ!!!!!!! バルドルううううう!!!!!!!!!!」

 その叫びは、怒りであり、恨みであり、絶望だった。

 だがそれだけではない。

 もっと深い、もっと暗い、“奪われ続けた者”だけが発することのできる声だった。

 誰も、何も言えない。

 言えるはずがない。

 その声に込められたものが、あまりにも重すぎたからだ。

 そして、それは金吾の人生そのものだった。

 これまでも、そしてこれからも――

 奪われ、踏みにじられ、否定され続けた人生。

 論理も理屈もない、ただ、心の底から絞り出された叫びだった。

 だからこそ、誰も何も言えなかった。

 金吾の叫びは、決闘場の空気を震わせ、その場にいる全員の胸を、否応なく締めつけた。

 なぜなら――

 この場にいる者すべてが、“加担者”なのだから……

金吾「――っ」

 その小さな声を最後に、金吾は崩れ落ちるように倒れた。

 勝者だけが流した血の正しさを証明できる。

 だが、この決闘に勝者は居ない。

 ――それが全てだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ