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新たな一歩

金吾「……すまなかった」

メディアリア「そんなことありません!!」

 声が思ったより強く出て、メディアリア自身が驚いた。

 けれど、その勢いはすぐに静かな怒りへと変わっていく。

 咄嗟に金吾がオドレイへ金を渡し、自分が“工作している”と思わせようとした――その意図を、メディアリアは痛いほど理解していた。金吾ならそうすると確信していた。あの店まで、自分のように迫害されることを避けようとしたのだ。

 金吾は、自分の評判をさらに落としてでも、オドレイと店を守ろうとした。その事実が、胸の奥でじんわりと熱を帯びる。

メディアリア(あの男……っ!!)

 彼女は憤慨していた。鳳条ライガという冒険者に対してである。

 彼女にはライガが、身の丈を見ようともしない愚か者にしか見えなかった。

 自分の非を理解する頭もなく、他人を踏み台にしている自覚もなく、それを“正しい”と信じ込んでいる、そんな救いようのない人間に。

 そして、その被害を最も受け、今なお苦しめられている金吾の現状がどうしても許せなかった。

 何より――

 あの幸せな食事を台無しにされたことが、胸の奥で静かに怒りを燃やす燃料となっていた。

メディアリア「……金吾さんは、悪くありません」

 その言葉は慰めではなく、彼女の中で揺るぎなく固まった“事実”だった。

 金吾は歩みを緩めたが、振り返らない。

 ただ、背中がわずかに沈んで見えた。

メディアリア「……金吾さんは、悪くありません!!」

 もう一度、はっきりと言った。

 その言葉には一点の迷いもない。

 金吾は、ほんのわずかに肩を揺らした。それは、彼の心に届いた証のようにも見えた。

 ――そう、意外な形で、届いたようだった。

金吾「……俺もそう思うんだ」

メディアリア「……えっ!?」

 メディアリアは思わず足を止めた。“悪くない”と言ったのは自分だ。

 だが、まさか本人がこんなにも堂々と肯定してくるとは思っていなかったのだ。

メディアリア「えっ……えっ……? 本当に……?」

金吾「お前がいったんだろう」

メディアリア「は、はい……」

 返事をしながらも、頭の中は混乱していた。

メディアリア(……え、ええと……?いや、悪くないのは悪くないんだけど……こんなに自信満々に言われると……なんか……違う……ような……!)

 胸の奥がむずむずして、落ち着かない。

 怒っているわけでも、呆れているわけでもない。

 ただ、感情の置き場が見つからない。

 二人の足音だけが、石畳に淡く響いていた。

 さっきまで胸の奥で燃えていた怒りも、金吾の妙に堂々とした肯定で、どこか拍子抜けしてしまった。

 メディアリアは、ちらりと金吾の背中を見る

メディアリア(……なんでそんなに自信満々なんですか……)

 悪くないのは事実だ。

 それは分かっている。

 でも、あんなに真っ直ぐ言われると――

メディアリア(……なんか……違うんですよ……!)

 金吾はというと、まるで何事もなかったかのように歩いている。

 その背中は、さっきまでの重さが嘘のように軽い。

金吾「……腹、減ったな」

メディアリア「さ、さっき食べたじゃないですか!」

金吾「半分も食えなかったろ。特にメディアリアは全然食べてなかったじゃないか」

 確かにそのとおりだった。妙に具体的で、妙に正しい。

 だからこそ、妙に腹立たしい。

メディアリア「……もう」

 思わず小さく笑ってしまった。

 怒りも、悲しみも、全部どこかへ消えていく。

 夜風が二人の間を通り抜けと、さっきまでの重苦しい空気は、もうどこにもなかった。

 ただ――

メディアリア(……本当に、悪くないんですからね)

 その想いを胸の奥に抱きながら、帰路についた。

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