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巣立ち

 金吾が目を覚ますと、メディアリアは凍りつく前にグラファザンを溶かし、

 慣れない手つきながらも必死に血抜きをしていた。

金吾「……すまない。迷惑をかけた」

メディアリア「そ、そんなこと……ありません!」

 少女は慌てて首を振る。

 その頬には汗と血が混じり、必死に戦った痕跡が刻まれていた。

 地面に横たわる巨大なグラファザンは、鬼うさぎでいっぱいのリアカーには到底入りきらない。

メディアリア「狼煙はあげておきました。運搬の人が来てくれるはずです」

金吾「……そうか」

 彼女の成長ぶりを見て、金吾はふと遠い目をした。

金吾「若いやつの成長は早いな……」

 自嘲にも似た呟きだった。

 自分はいつも置いていかれる――そんな思いが胸を刺す。

 そして、ぽつりと口を開いた。

金吾「そろそろ……徒党を組んでもいいんじゃないか?」

メディアリア「えっ……?」

 少女は驚き、杖を抱えたまま固まった。

メディアリア「組んで……組んでくれるんですか……?」

 期待に揺れる瞳。その一瞬の輝きが、金吾の胸に痛みを走らせた。

金吾「違う。俺じゃなくて、別のやつとだよ」

 メディアリアの肩が、しゅんと落ちる。

金吾「お前なら、もっと早く上を目指せる。もうコントロールだって悪くない。俺なんかに引っかかっていないで、先へ進めよ」

メディアリア「……わたしと一緒にいるのは、嫌ですか?」

 その声は震えていた。

 責めるでもなく、ただ不安を押し殺したような声音だった。

金吾「そういう卑怯な言い方はやめろよ!!」

 思わず声が荒くなる。

金吾「強かかもしれないが……そういうのは嫌いだ」

 メディアリアはびくりと肩を震わせ、顔を伏せた。

 その小さな背中が、ひどく寂しげに見えた。


 街へ戻ると、それそれの討伐カウントごとに魔獣たちを分け合って、会計を済ませた。

アンカー「あ、メディアリアさん! ちょっとお話良いかな?」

 自分だけ呼び止められたことに、メディアリアは小さく肩をすくめた。

 金吾は気づいていたが、あえて振り返らず、そのままギルドを出ていった。

メディアリア「なんですか?」

アンカー「そろそろランク上げの申請をしたほうが良いんじゃないかと思ってね」

 その言葉に、メディアリアは胸を撫で下ろした。

 悪いことなどしていないのに、職員に呼び止められると反射的に身構えてしまう――

 孤児院での癖が、まだ抜けていなかった。

メディアリア「……審査は通るんでしょうか」

アンカー「いやあ、僕の口からはなんとも言えないなあ……ハハハ」

メディアリア「そうですよね、ゴメンナサイ」

アンカー「いやいや、気になるのは当然だよ! まあ僕の個人的な見立てだから、その程度で聞いてほしいんだけど」

 メディアリアは息を飲み、続きを待つ。

アンカー「十中八九、だいじょうぶ、かな? これで落ちるとは到底思えないよ! だって、もう中級モンスターも結構な数を討伐しているんだからね!!」

 ぱあっと、メディアリアの顔が明るくなる。

メディアリア「ありがとうございます!!」

アンカー「あくまで僕の見立てだから、あくまでね!」

 それでも彼女は深々と頭を下げ続けた。

アンカー「それと、もうひとつあるんだけど」

 その声に、メディアリアはまた身構える。

アンカー「そろそろ、徒党って組んでみる気はないかな?」

 思いがけない問に戸惑いを見せる。

アンカー「いやあ、いくつかのパーティが、優秀な魔道士を求めていてね! メディアリアさんならうってつけかと思って! 気乗りしないのなら良いんだけど」

 メディアリアはしばらく黙り込み、視線を落とした。

アンカー「まあ、仮パーティを組んでみるだけでもしてみたらどうかな? どんなに優秀な冒険者でも、ソロじゃあ限界が来てしまうし、ね。……誰かともう組む約束をしているのなら話は別だけど……」

メディアリア「ごめんなさい、すぐには決められなくて」

アンカー「良いんだよ、それが普通だよ! 決まったら教えてね!!」

 メディアリアはもう一度頭を下げ、ギルドを後にした。

 アンカーはその背中を見送りながら、小さく呟く。

アンカー「――これで本当に良かったんですか、金吾さん……」

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