キャロルサイド
「どうしてそんなに悲しんでいるの?」
悲しんでいる?ーーまっすぐに私を見てレオンが言う。
(普通にしているつもりだったけど)
私はレオンから視線を逸らして。
「……」
とぼけて話を無理にでも終わらそうと思った。それだけ踏み込まれたくないことだったから。
「どうしてそう思うの?」
でも、どうしてだろう。直前まで話を逸らそうとしていたのに口から出た言葉は違うものだった。
「なんとなく」
って震える声でレオンは話した。今にも泣き出してしまいそうな顔で、思い詰めているようにも見えた。
「なんとなく悲しんでいるように見えて」
それだけ私のことを心配してくれているのだろうと思って嬉しかった。
「……そっか」
これまでの人生でこんなに心配してくれる人なんていただろうか。
"忌み子が"
"腕がなくなったくらいでなんだ!戦え!"
いなかった。病気だろうと、死にかけようと、怪我をしようと心配してくれる人なんて。
"無理はしないのよ。キャロル"
ああ。いた。1人だけ。母がいた。
"キャロル"
母のことを思い出すと泣いてしまうからいつからか記憶に蓋をした。会いたくなってしまうから、いないことに耐えられなくなってしまうから。
(お母さん)
いつも笑っている人だった。領主と気まぐれで関係を迫られ、私を身ごもり捨てられた。領主を恨む領民から蔑まれ、それでも笑っていた。
"大好きよ、キャロル"
いつだって悲しむ姿を見せなかった。本当は辛かっただろうに。私なんてみごもらなければ幸せに、なってほしかった。頑張って幸せにしたかった。なのに流行り病で。
"愛してる"
母は幸せだったのだろうかーー母が亡くなってからというもの喪失感の中で、それだけが心残りだった。
(お母さんは幸せだったの?)
大きな後悔で、傷で、忘れることなんてできない。そして一生答えの出ることのないもの。
「キャロル?」
下を向く私をレオンは心配そうに覗き込んでいた。
「ごめん、言いたくないことだったら無理して言わなくていいから」
今まで何を話したって否定されるばかり。ウソだと言われ、無視されもした。
「……っ」
だから他の人たちが話すのを見て胸の内をさらすということに、一体どんな意味があるというのかって疑問でしかなかった。
(話したい)
だけど今になってその気持ちが少し理解できたような気がする。
(知ってほしい)
気を許した相手には自分のことを知ってもらいたいと思うんだと。
(私だけが知るお母さんのこと)
ずっと誰にも話さないまま終わるのだと思っていた。それでいいと、私だけが知っていればいいのだと思っていた。でも違った。私は私以外にも知ってほしかったんだ。
「あのね」
………
……
…
私は話した。母との思い出を。後悔を。幸せだった時間をーー真夜中までかかったけど話した。
「ありがとう」
全てを話しあとレオンは優しい笑顔を浮かべていた。
「私のほうこそありがとう」
私も微笑んだ。それから少し何かを話した気がするけど覚えていない。母のことを話し終わってから急に眠くなって気がついたら眠っていた。
「キャロル」
眠ってどれくらい経ったのか、ある夢を見た。
「私の愛しい子」
それは幼い私が母の膝でお昼寝をしているところだった。遊び疲れて母の膝で眠る私は母から離れまいとズボンを掴んでいて、母はそんな私を見て微笑みながら頭を優しく撫でてくれた。
「お母さん」
心地よくて、ずっとこの夢の中で母と過ごしたいと思ってしまう。だけど、終わりが近づいてくる。
「ねぇキャロル」
これは夢なのだとわかってる。でも、終わりたくない私はより一層、母のズボンを握りしめた。
離れたくない。離したくなかった。
それでも終わりはやってくる。母の温もり、匂い、声ーーそれらが徐々に薄れいく。
「生まれてきてくれてありがとう」
薄れていく母が耳元でささやく。優しい声で
「ずっとずっと愛してる」
いつくしむように
「私のキャロル。大好き」
最後は力一杯に抱きしめてくれた。だから私も
「私もっ。大好き、だよ」
って力一杯抱きしめた。
「お母さん」
………
……
…
自然とまぶたが開いた。
(夢……か)
まだ母に抱きついていた感触が残っている。それは夢と呼ぶにはあまりにも現実的で、本当に夢だったのかと疑ってしまう。でも、あれが夢だったとしても
(お母さん、笑ってた)
幸せそうな母の笑顔が見れた。そして思い出せた。
(よかったぁ)
それだけで私は嬉しくて、幸せ。
「朝焼けだ」
空を見ると朝がやってきていた。隣ではレオンがまだ眠っていた。
「ありがとう」
1人だったら苦しいままだった。でもレオンがいたから母のことを話せた。話して思い出せた。
「レオン」
初めてのキスは幸せの味がした。




