第4話 最後の都市
第4話 最後の都市
「ノヴァ……」私は目の前に現れた男を見つめた。
彼は突然私の背後に移動した。
パン──手が私の臀部を直接叩いた。
「師匠と呼びなさい」
「うっ……そんなことする師匠なんていないよ……」私はお尻をさすりながら抗議した。
彼の手には先ほどの少女が抱えられ、少女は目を閉じたまま深い眠りについていた。
「あ、ターゲット……」私はその少女を見た。
「処分する?」
私が言うと、
私たちは完全政府直属の組織であり、同時にイヴの命令を直接受ける秘密機関だった。
システムが制御不能と判定した能力者を処理する専門組織、その名は『The Undying(不死者)』。
目の前の男の名はノヴァ。本名か偽名かは誰も知らず、年齢も謎だった。
(絶対教えてくれないんだから!)
彼の能力は私と同じ「消去」だが、タイプは「自身」に属する。
だが私たちが接触しても完全体にはならなかった(同じ能力者が触れると完全体になる)。
「まあ、彼女はもう完全体だしな……」彼はそう言った。
彼の能力:消去(自身)。自分の存在を消去できる、つまり私は彼に本当に触れることはできない。
(でも叩いた感じはするじゃん!)彼は自分の存在を消しながら、打撃の衝撃だけを残すことができる。
ちなみに、彼は不死身だった。
(他のメンバーもみんな自分を不死にする能力者ばかりで、私だけが違う……)
それなのに無理やりこの謎組織に引きずり込まれた!
「とりあえず、本部に連れ帰ろう。ここに置いておくのも良くない」彼が言った。
「外はもう大騒ぎだぞ~」
「え?どういうこと?」私が聞くと、
突然大勢の女性が押し寄せてきた。
「どこ!?あの子はどこ!?」
女性たちは理性を失ったように叫び、息を切らせ、頬を紅潮させていた。
「どうやら女性は彼女を見ると我慢できなくなるらしい」彼は涼しい顔で言った。
「男性同士でやり始めたけど……」言葉を終える前に、
女性たちが能力を発動させ、少女を奪い返そうとしてきた。
「いったい何をしたのよ!」飛んでくるものの嵐に私はお手上げ状態だった。
「とにかく、本部に連れ帰るぞ」彼は少女を私に預けると、体が徐々に消え始めた。
「待って待って!」私は状況を理解できずにいるうちに、彼の姿は完全に消えた。
───
『The Undying』本部。三人がテーブルを囲んでいた。
「ねぇねぇ、色欲の完全体出たんだって~」緑髪の少年が言った。
「フォー!」彼は叫びながら手札を切った。
──コードネーム:グリーン。能力『分裂』(完全)、危険度A。
「どうせ『無』が行ったんでしょ?」黒髪の男が言った。
「ファイブ」彼は山札にカードを置いた。
──コードネーム:ブラック。能力『死』(完全)、危険度S。
「あいつが任務を『彼女』に押し付けたからね」
傍らの青髪の女性が最後のカードを出した。
「シックス」
──コードネーム:ブルー。能力『反転』(完全)、危険度S。
「私の勝ちね」青髪の女性が微笑んだ。
突然、声がそれを遮った。
「パクっ!」手だけが空中に現れ、テーブルの誰も取っていないカードを掴んだ。
「俺が帰るまで続けない約束だったろ!」空中に口が浮かんだ。
「そんなルールなかったわよ。それに──」青髪の女性が山札の一番上をめくった。
スペードの6が目に入った。
「どうやらあなたの負けみたい」彼女は笑みを浮かべた。
「ちくしょう!」その手はテーブルのカードを全てかき集め始めた。
「任務はどうだった、無?」黒髪の男が聞いた。
「処分した?」緑髪の少年が言った。
「セブン」彼はカードを捨てた。
「俺もあがり!」彼は嬉しそうに叫んだ。
「二位だね」
「残りは黒と無ね」青髪の女性は傍らのグラスを手に取った。
「負けた人が次の任務行きだよ!」緑髪の少年が囃し立てた。
「まずい状況だな……」空中に浮かぶ口が言い、
宙に浮いた両手はもうカードを持ちきれないほどだった。
「能力を使ったら即負けだからな」黒髪の男の表情が真剣になり、目には勝負しか映っていなかった。
「エイト」残り2枚のカードで、緊張が走った。
チン──白い電話が鳴った。
青髪の女性がさっと受話器を取った。
「どうした、ホワイト?」
「お邪魔してた?」電話の向こうから優しい声が聞こえた。
「いいえ、そろそろ勝負もつくところよ」
「無と黒の決闘だよ!」緑髪の少年が横から言った。
「そう」電話の向こうは静かに答えた。
「でもホワイトならもう勝者がわかってるんでしょ」
青髪の女性の声には深い意味が込められていた。
「直接任務を命じてもいいんだけど」
「ダメダメ、形式が大事なんだよ!」緑髪の少年が騒いだ。
「そんなことわかりませんよ~」電話の向こうは謙虚に笑った。
「次の任務ですが、イヴに資料をまとめてもらいました」
「では、切らせて──」
「待って、ホワイト」青髪の女性が言った。
彼女は手を上げ、指輪が光り、投影ウィンドウが目の前に現れた。
「色欲完全体の件」
彼女は画面を見ながら資料を読んだ。
「処分しないで大丈夫なの?」
任務ウィンドウには『処分:保留』と書かれていた。
「あの子は……今のところ問題ないでしょう」電話の向こうが答えた。
「あなたの能力は信じてるけど、色欲完全体は過去の歴史で──」青髪の女性が言った。
「何度も人類を滅亡寸前まで追いやったわ」
「そうそう、前の色欲完全体って確か……」
『全ての女性を俺のハーレムにしてやる』とか言ってたよね!」
緑髪の少年が口を挟んだ。
「で、完全体を殺した後……」
彼がいなくなったことに耐えられず、多くの女性が自殺を図った。
「そんなこともあったんだよ!」
「でも、今回はやっと見つかった能力者だ」
「殺せばまた新生児に能力が転移する」
電話の向こうの声には憂いがにじんでいた。
「未登録人口の急増のせいね」青髪の女性が言った。
AI管理のプログラムでも、全ての人を完璧に監視することは不可能だった。どこで、何をしているのか。
「それに最近、外のモンスターも騒がしいらしいわ」
───
ここは人類が最後に生き残った場所──エデン。
高性能AI『イヴ』(システム)が人類の衣食住を完全管理していた。
人々は都市のあらゆる資源を享受できた。
だが真実は──
外の世界は、とっくにモンスターの支配下にあった。
「イヴ」の最初の設計目的は、モンスターと戦える能力者を選別するためだった。
能力の危険度ランキングは、人类社会を滅ぼす可能性ではなく、
その能力がモンスターを殺せるかどうかを測る尺度だった。
しかし、死者が激増し、社会秩序が崩壊する中、
権力者はついに全ての情報を封鎖することを選んだ。
「人類はこの都市を出られない。外はもう人間が住める場所ではない」
権力者はこの情報を流し、人類を最後の都市エデンに閉じ込めた。
イヴ(システム)が人類の生活を管理し、外界の情報を徹底的に遮断した。




