第3話 戦闘
第3話 戦闘
「完全体……」私は呟き、教会堂内の少女と視線を交わした。
「イヴ(システム)……どういうこと?」通信機に問いかける。
『支援を派遣済み。時間稼ぎを頼む』
――プッ。通信が切れた。
(冗談じゃない!)
最初の任務説明と全然違うじゃないか!
「あ、更新されてる……」
タスクウィンドウをちらりと見ると、『色欲完全体の足止めを要請』に変わっていた。
(この憎たらしいリアルタイム更新速度……)
歯を食いしばりながら教会堂の下を見下ろす。
「はっ……」能力:消去(対他)。
軽やかに跳び下り、体が屋根をすり抜け、しっかり着地して教会堂内に立つ。
「私は『完全』政府所属の監視員(Watcher)、コードネーム:消去(Erasure)」
自己紹介をしながら、場にいる数人を視線でなぞる。
「監視員だ!助かった……」神父の目に天使の降臨を見たような期待が浮かぶ。
だが次の瞬間、私の顔を見た彼はぐっと身を翻し、乾いた嘔吐を始めた。
「女か……それも幼女……」
声は低く、嫌悪に満ちていた。
(女じゃダメなのか……)私は彼を睨みつけた。
本当に神父なのか、この人?変な行動ばかりしてる。
(こっちも……)
少女の方を見ると、彼女は顔を赤らめ、奇妙な表情で私を見つめている。
(あ、あれも変だ!)
不審ではあるが、任務は任務だ。
「あなたはシステムによりS級危険対象と判定されました。監視対象となります」
私は彼女を指差して宣言した。
少女は首を傾げ、口元を緩ませた。
「どうやって私を監視するの?」
柔らかな声で問いかけてくる。
「と、とにかく教会から出るな」
(完全体……私の能力が効くかどうかもわからない……)
支援が来るまで時間稼ぎするしかない。
「それじゃあ……」少女は唇を尖らせ、頬を紅潮させながら囁くように言った。
「セックスしてくれない?」
曖昧な眼差しで私を見つめてくる。
「は……?」今何て言った?
―――
私は『完全』政府の監視員、コードネーム消去(Erasure)。
今目の前にいるのは、覚醒したばかりの色欲完全体。彼女は今、私にXXを提案してきた。
「XX……どういう意味?」戸惑いながら質問する。
3歳で能力が顕現し、システムからA級危険者と判定された。能力は消去(対他)。
それ以来、施設で育てられ、一人前の監視員として訓練を受けてきた。
教会堂内に一時の静寂が訪れた。
小さい頃から様々な生物、物理、化学の知識を学んできた。全ての既知の元素、材質、運動現象、生物構造……全て理解している。
だが――少女の口にした「XX」……聞いたことがない。
彼女は私を指差した指をゆっくり下ろした。
「処女なんだ……」
少しがっかりしたような口調だ。
(処女?また新しい単語……)頭の中で自動分類が始まる。
彼女は教会の入口の方へ歩き出した。
「待て、どこへ行く?」声を張り上げる。
「外で女の子とXXする」冷たい返事が返ってくる。
私は頭の中でその二文字を自動的に遮断した。
「出るな、さっき言っただろう」冷たく言い放つ。
――能力:消去(対他)。
瞬きのような速さで彼女の前に立ち塞がる。
(色欲……この種の精神系能力は不利だ)知らないものを消去することはできない。
彼女を見つめる。
(だが逆に言えば、この能力は私には効かない)
彼女が手を伸ばして触れてくる。避けようとするが、体が反応しない。
彼女の指先が私の頬に触れる。私は目を固く閉じる。
「やっぱり、処女には効かないんだ……」
低い呟き。
「さっきからいったい何を言ってるんだ……」片目を細めて彼女を盗み見る。
――色欲能力説明:処女/処男には無効。
能力は全市の性欲を喪失させ、百年間にわたり人口増加にマイナス成長をもたらす。
能力者が死亡しても効果は持続。
彼女は手を引っ込め、突然体に激変が起きる。
「わ、ちょっと!どうした!?」慌てて彼女を見つめる。
元の少女から、少年へと変化していく。
頬はより赤く、体温は明らかに上昇し、息遣いも乱れている。
彼は私に触れようと手を伸ばすが、空中で止まる。
「ダメか……」かすかな声で、指が震える。
「自分でやっても消えないのに……」全ての欲望が、性欲へと変換されている。
再び少女の姿に戻り、私を見つめる。
「どきなさい」
「いやだ」きっぱりと拒否する。
「そう」冷たい声。
その時、教会堂の奥から全裸の男三人がよろよろと現れる。ゾンビのように呆けた表情。
「こいつら……」神父の体が熱を帯び、顔に欲望の歪みが浮かび上がる。
「本当はこんなことしたくなかった……でももう考えるのが辛い……」少女は弱々しく私を見る。
三人の男が私に襲いかかってきた。
「重力消去!」跳び上がり、空中に浮遊して攻撃を回避。
指輪を起動させ、彼らに向ける。
『能力:電撃(自己)、危険度B』
『能力:嗅覚(自己)、危険度D』
『能力:弾性(自己)、危険度C』
弾性能力者の腕が鞭のように振り下ろされる。
「私は監視員だ。攻撃を止めない場合、反撃する」
攻撃をかわし、両足で着地。
「イヴ!」システムを呼び出す。
『システム判断中……』
一人が猛然と飛びかかってくる。
「電撃か……」手のひらを向ける――能力:消去(対他)。
手刀一閃で彼を倒す。
『気絶攻撃許可』
「残念、ハズレだ」システム通知をちらりと見る。
倒れた男が背後に現れる。――能力:電撃(自己)。
「重力消去!」瞬時に背後に移動し、後頭部に蹴りを入れる。
男はよろめくが、すぐに体勢を立て直す。
「気絶しない……彼女の能力の影響か?」
「でもこれは興奮状態とは違うようだ……」興奮能力説明:情緒が高揚し、気絶攻撃が効かず、闘志に満ちて休むことができない状態。
彼らは思考能力を失ったかのように、ただ私を捕まえようと手を伸ばし、なぜか息を切らしている。疲れているのだろう。
突然、彼らは目を閉じ、ばたばたと倒れた。
「何が起こった?」警戒しながら見渡す。
神父が震える手で彼らの体を撫でながら近づいてくる。
『能力:睡魔(対他)、危険度B』システム画面に表示される。
「ああ、彼の能力か……」
最初から助けてくれればいいのに、しかも今何してるんだ?
「違う!」はっと我に返り、教会堂内を見渡す。
「彼女は!?」男たちと戦っている間に、あの少女は既に教会堂から消えていた。
「イヴ!」再びシステムを呼ぶ。
応答なし。
「あらら、ターゲットから目を離しちゃダメだぞ」
「この声……」聞き覚えのある男の声が背後から響く。
ゆっくりと振り向く。




