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完全世界  作者: 若君
第一章 しばらく更新をお休みします。
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第二十一話 拒絶と嫌悪


第二十一話 拒絶と嫌悪


(グレイ)は一人、その場に立ち尽くした。冷たい視線は再び目の前から逃げ去った後ろ姿を追っていた。

あの女が抱きしめているのは、「イヴ」システムによってS級災害存在と判定された「色欲(ラスト)」完全体――(スミ)だ。

彼女の能力が暴走すれば、人類の九割が子孫を残す能力を失う可能性がある。

推演によれば、人口総数は五十年にわたるマイナス成長の深淵に陥り、人類の数を現在の規模に回復させるには、丸一世紀を要する。

これは人類文明全体に計り知れない、取り返しのつかない破滅的な影響をもたらすことは間違いない。


(だが、これも能力の危険性の一つに過ぎない…)彼女の能力はもっと危険だ。

灰髪の少女の目は霜のように冷たく、街角に消えようとする影を捉えていた。

(全人類を破壊することも可能だ…)彼女はゆっくりと腕を上げ、金色の指輪をはめた人差し指を真っ直ぐに伸ばした。指輪の面はまぶしい陽光に冷たく硬い光を反射した。


彼女は唇をわずかに開き、指令を吐いた。

「イヴ、実行許可」声はかすかな囁きのようだったが、疑いを許さぬ決断を帯びていた。

指先は正確無比に、慌てふためいて逃げる女の後ろ姿を遠くから捉えた。


『対象能力:加速(自身)。効果:身体の神経伝達と筋肉反応を加速し、通常人の平均水準を超える移動速度を達成。危険度評価…C級』

『直近または潜在的な広範囲な人類危害の可能性なし。武力行使による阻止は許可されない』イヴの冷たい電子音が無情に宣告した。


「ちっ…」灰の腕が力なく垂れた。顔に一瞬敗北感が走り、すぐに悔しそうに歯を食いしばった。

「あいつS級の危険人物を抱えてんだぞ!お前、どう判断してるんだ?」灰は虚空に向かって怒鳴り、腹立たしそうにその場で足を踏み鳴らした。

「これで人類最高の知性体かよ?」彼女はこの結果を全く受け入れられなかった。


『本システムは穏健な執行案を推奨します。例:コミュニケーションによる説得…』イヴは代替案を提供しようとした。

「ふざけるな!」灰は荒々しく遮り、そんな提案など全く相手にしなかった。

二つの影が視界の果てに完全に消えるのをただ見つめながら、灰は自分を落ち着かせた。目が再び氷のように凝り、再び腕を上げた。

「ターゲット、リアルタイム位置」


『左に3センチオフセット。距離:328メートル…348メートル…』イヴの報告は高速で変動する数字を伴った。

『ターゲット移動速度:秒速約30メートル』


灰の姿は一棟のビルの屋上端に立っていた。

彼女はしっかりと立ち、腕を槍のように逃げるターゲットの方向へ向けた。

そして、彼女は一歩踏み出した――その一歩は屋上のコンクリートを踏むのではなく、まるで無形の扉に足を踏み入れるかのように、全身がシュッと空気の中に消えた。

『システム通知:人類基礎身体能力データの突破を観測しました』灰の姿が下の別の通りに突然現れ、透明な扉から優雅に歩み出たまさにその時、イヴの通知音が彼女の耳に響いた。

彼女は墨を抱え、全力で突進してくる女のちょうど目の前に現れたのだ!


「データ突破?」灰は少し驚き、イヴのさっきの通知に一瞬興味を引かれて気が散った。


「またか…!」墨を抱えた女は前方に亡霊のように再び現れた灰髪の少女を見て恐怖に震え上がった。足は慣性で即座に止められず、ただ相手へとまっすぐ突っ込んでいく自分を絶望的に見つめるしかなかった。


「何のデータ?」灰は無意識に問い詰めた。自分が阻止行動中であることを忘れているようだった。

『人類限界疾走速度データが、初めて突破を確認されました。三度目の確認後に正式に人類ベースラインデータベースを更新します』イヴが説明した。

「ああ、走る速さか…」灰の口調は一気に興ざめしたものに変わった。あまりに退屈なことを聞いたかのように。

「どけよ!」女は恐怖の悲鳴を上げ、距離が急速に縮まるのを見つめた。


この危機的状況で、灰はただ冷たく一瞥しただけで、慌てず騒がず腕を伸ばし、墨緑色の髪の少女を女の腕から「受け取った」。

その女はまるで幻影を通り抜けるかのように、灰の体を何の抵抗もなく「すり抜けた」!

強い慣性で彼女は十数メートル突っ走った後、よろめきながらかろうじて足を止めた。

「はあ…はあ…」女は腰を曲げ、両手を膝について、恐怖で動転しながら激しく息を切らした。

彼女はゆっくりと振り返り、貪欲で絶望的な目で灰の腕の中――彼女の身体を狂おしく渇望させた墨緑色の髪の少女を、今や灰がしっかりと抱きしめているのを見つめた。


「そういえば…」灰は突然何か面白いことに気づいたように目を輝かせた。

「移動速度で言ったら、俺の方法の方があいつよりずっと速いんじゃない?」口調には少し自慢が混じっていた。

『あなたの能力運用モードは通常の人類身体能力範疇に分類されないため、関連数値は人類ベースラインデータには記録されません』指輪から流れる声は相変わらず冷たく、事務的だった。

「えー…そんな…」灰の顔はたちまち曇り、不満でいっぱいになった。

彼女の視線は、腕の中で静かだが体温が異常な墨と、遠くで息を切らし、複雑な眼差しの女の間を行き来した。


「はあ…」灰は重いため息をつき、悩ましそうに眉をひそめた。

(レッド)に今日もトラブルがあったって知られたら、絶対めっちゃ面倒くさい…どうしよう?」彼女は低く独り言を言った。

(特に昨日あんなに報告書書いたばっかなのに!今日は絶対にもう書きたくない!)その考えが彼女の頭皮を痺れさせた。

彼女の目つきは鋭い刃のように、違反した女に向けられた。

女は彼女の視線に触れ、体を明らかに縮こませた。守護者(ザ・ウォーデン)の身分がもたらす威圧感が彼女を恐怖させた。


「よし!」灰は何かを決心したかのように、訳もなく闘志が高揚した。

「この件はなかったことにしよう!」彼女は宣言した。

「イヴ、さっきの犯罪記録申告をキャンセル」彼女は指輪に命じ、口調は食事を注文するかのように軽かった。

光のスクリーンが応じて表示された。灰は手慣れた様子で操作し、指が仮想ボタンの上を滑ったが、眉は次第に寄せられた。

「ああ、理由も書かなきゃいけないのか…」彼女は画面にポップアップした必須記入欄を見て、いらだたしそうに髪をかきむしった。


その時、彼女の腕に抱かれていた墨緑色のショートヘアの少女の体温が急上昇し、頬に不自然な紅潮が浮かんだ。

彼女は細い腕を伸ばし、そっと灰の首に回した。温かい息が灰の耳朶に吹きかけられた。

「何してんだよ?今忙しいんだ!」灰は不機嫌に文句を言い、突然の親密さから逃れようとした。

「降ろして…」墨の声には抑えられた息遣いが混じり、彼女の耳元で優しく、しかし頑なに要求した。その息遣いは小さな鉤を含んでいるかのようだった。


少し離れた場所で、ようやく止まったばかりのあの女は、墨が灰の首を抱くこの光景を見ただけで、体が電流に打たれたかのように激しく震え上がった!

言いようのない熱流が一瞬で全身を襲い、両脚がぐにゃりと力なく、女は地面に崩れ落ちた。

彼女の目は虚ろになり、空をぼんやりと見つめた。まるで体がさっき激しい、内側から外への「昇華」を経験したばかりで、残された躯殻がその場で無意識に微かに震えているだけのようだった。


「ダメだ」灰は振り向きもせず、背後で起きた女の異変には全く気づかず、きっぱりと墨の要求を拒否した。

「またわけのわからん奴に攫われたらどうするんだ?」危険すぎる。後患を絶つことはできない。

墨の体温は拒絶されても下がらず、むしろさらに高くなっているようだった。


彼女は灼熱の顔を灰――彼女の致命的な魅力に完全に免疫があると思われる個体――に近づけた。

「じゃあ、彼女とここで済ませようか」墨の口調は異常に軽く、むしろ無邪気な残酷ささえ帯びていた。しかし、その中に込められた、抑えきれない原始的な渇望ははっきりと聞き取れた。

「一度だけ」彼女は付け加えた。灰が許容する限界を慎重に探っているかのように。


灰は困惑した様子で彼女を見つめ、澄んだ灰色の瞳は完全な茫然自失を表していた。

「何を済ませるんだ?」彼女は首をかしげ、本物の無知を露わにした。


墨は彼女の純粋さと無知で満ちた顔を見て、名状しがたい感情が胸に湧き上がった。挫折?怒り?それとも何か別のもの?

いずれにせよ、その感情は彼女の内で渦巻き、最終的には避けられずに彼女の能力を駆動する最も純粋な欲望の源へと変換された。

彼女は微かにため息をつき、ある種の諦めのような諦念を帯びて、手を上げた。細い指先は焼けつくような熱を持ち、灰の頬に向かった。墨緑色の髪が微風にそよぐ。


「帰るぞ…」灰の声は急に冷たくなり、疑いを許さぬ命令口調を帯びた。

(彼女を外に置き続けるのは危険すぎる!)灰の心の警報が鳴り響いた。

(報告書が山積みになりそうだ!)この恐ろしい予感が彼女の決心を瞬時に固めた――今後絶対に、絶対にこの厄介な「色欲(ラスト)」とは外出しない!

灰が気を散らして考え込んでいるまさにその時、腕の中の墨が突然動いた!

彼女は猛然と顔を近づけ、速さはほとんど残像を生み出すほどだった!


灰はただ目の前がチラつくのを感じた。墨の精巧な顔が目の前で最大限に拡大した。

続けて、唇に異常に柔らかくて灼熱の感触が伝わった。

時間はその刹那に凍りついた。


墨は彼女に口づけした。このキスには試みと、ある種の冷たい観察が込められていた。

墨は目を固く閉じ、彼女を飲み込もうとしている激しいエネルギーを体内で感じていた。この接触によって、かすかな解放を得たようだった。

(感じ…もっと進められそう…)この考えが墨の混沌とした意識をよぎった。

彼女は微かに角度を調整し、キスを深めようとした。桃色の唇が軽く開き、舌先が態勢を整え――


「うっ!」しかし灰はその瞬間に猛然と抱擁の腕を離した!

墨の体は突然支えを失い、無防備に落下した!

「ドスン!」という鈍い音がした。墨は冷たく硬い地面にまともに尻もちをついた。尾てい骨に走った痛みに彼女はうめき声を上げた。

彼女は愕然と上を見上げ、見下ろす灰髪の少女を見つめた。

灰の顔には予想された恥じらい、惑乱、興奮はなく、隠しようもない純粋な嫌悪だけがあった。

彼女は手を上げ、袖で自分の唇を強く、繰り返し拭った。まるでこの「不快な」感覚を消し去ろうとするかのように。

その後にようやく口を開き、その口調は刺すように冷たかった。


「お前…何してるんだ…」その表情と言い方は、強い拒絶と反感をはっきりと伝えていた。


(本当に…予想外の反応だ…)墨は沈黙に落ち、ゆっくりとうつむいた。長いまつげが渦巻く感情を隠した。

彼女は遠くで崩れ落ちている女を一瞥した――その女は墨と視線がほんの一瞬交わっただけで、体が制御不能に再び激しく震え始め、目つきは瞬間的に焦点を失い、まるで魂を抜かれたかのように、残された躯殻だけが無意識に痙攣していた。

(思い出す…以前嫌がられた時の表情…)墨は目を閉じた。嫌悪と恐怖に満ちたあの顔が脳裏に走馬灯のように駆け巡り、馴染み深い鈍い痛みをもたらした。

(でも、そうであっても、奴らは結局俺に手を伸ばした…)本能に駆り立てられた野獣のように、誘惑の深淵に抗えなかった。


たとえ彼女を嫌悪しても、奴らは欲望に従ってあの行為をするはずだった。


彼女はゆっくりと目を開けた。その墨緑色の瞳の奥底に、かつてない戸惑いと、あってはならない、かすかな喪失感が渦巻いていた。

(だったらなぜ…彼女はこうなんだ?)墨は再び、嫌悪で満ちた灰の顔を見上げた。心は理解できない思いと、あってはならない喪失感でいっぱいだった。


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