ラフィール盆地攻防戦ー後編
ノクターン隊のアーマードスーツはたったの3機だ。
対するノーザン隊はクォーサー隊を併合して12機。
数では圧倒的にこちらが上回っている。
だが.....
《さすがはノクターン、たった3機でここまでやりやがる》
バリーが息を切らせて言う。
《『宵闇』の二つ名は伊達じゃないって事だな!》
ヨッシーがそう言いながら敵にエナジーブレードを振り下ろす。
《リンナ、大丈夫か?》
ハルヒが戦いながらリンナのことを気にかける。
「大丈夫です、隠れてますからー!」
大きな岩陰からエリアルシャッターが顔を覗かせている。
《少しは援護してくださいよー!》
ヨシオが嘆く。
《お前のは防御全振りなんだからちょっとやそっとじゃ墜ちねぇよ!》
ヨッシーがノクターン機の右腕を切り落とす。
ノクターン機がすぐに左腕の袖元からエナジーブレードを射出したが、ヨッシーに抑え込まれ、身動きが取れなくなる。
別のノクターン機が援護に向かおうとした時、ハルヒがそのノクターン機をライフルで撃ち抜いた。
《よっしゃ、まず1機》
ハルヒが呟く。
《もう2機だよ》
ヨッシーがそう言ってエナジーブレードをノクターン機に突き刺す。
ヨッシーが離れた瞬間ノクターン機が爆発した。
「すごい、あんなに強そうな敵を.....私も見てるだけじゃだめだ。でも何をすれば」
リンナはふと視線を要塞の方へ向けた。
「先にあの要塞を破壊しよう。かなり良い画が取れそうだしね」
エリアルシャッターが岩陰から飛び出し、要塞に向かってトップスピードで飛び始める。
《リンナ、どこへ?》
ハルヒが困惑する。
「要塞を破壊しに行きます!」
リンナの発言に慌てる。
《ま、待て、お前だけじゃ無理だ!ヨシオ、バリーを同行させる!》
《了解した、行くぞ新入り》
《前衛は任せてください!》
フルディフェンスマーカスとエリアルヴァンネックスがエリアルシャッターに合流する。
「どこが弱点とか、そういうのあるんですか?」
リンナが尋ねる。
《とりあえず格納庫を破壊して機動戦力を壊滅させる、そして排気口とかの穴にライフルを撃ち込むのが要塞落としの定番です》
ヨシオが教えてくれた。
「なんで排気口にライフル撃ったら要塞が落とせるの?」
《現実ならともかくこいつは創作物だ。そういうもんだって割り切っていけ》
バリーが澄まし顔で言ってのける。
「あ、はは、分かりました」
リンナが愛想笑いを浮かべる。
そうこうしているうちに要塞との距離は縮まっている。
固定砲台から激しい射撃が敢行される。
地面が爆発し、土煙がもうもうと立ち込める。
《なかなか良い勘してるじゃないか、新入り》
バリーがリンナを褒めそやす。
《突入次第、格納庫に向かえ!目標は敵のアーマードスーツおよび当要塞の破壊だ!》
《了解!》
「了解!」
3機が要塞に突入する。
《アーマードスーツによる迎撃の気配は一切感じませんね》
《全部出払ってるってことか?ノクターンの連中が最後の砦だったってわけだな》
格納庫に到着したが、バリーの読みどうり殆どアーマードスーツは無く、格納庫は閑散としていた。
《ここはいい、片っ端から排気口にライフルを撃ち込んでいけ!》
バリーの指示を受けたヨシオとリンナが要塞内を移動し始める。
「あ、排気口があった!ここに撃てばいいんだよね」
ライフルが火を吹く。
爆発が起きる。
「うわわ!」
リンナが慌てて爆発から距離を取る。
「まー、人一人余裕で通れるぐらいの大きさの排気口だし、大事な所に繋がってても不思議じゃないか」
リンナはひとりでに納得して破壊活動に戻った。
《どんな感じですか?リンナさん》
ヨシオが尋ねる。
「順調ですよ、そっちはどうです?」
リンナが尋ね返す。
《ぼちぼちですよー、ところでリンナさんってなんで『スペースウォーリャーズ2』の世界に来たんですか?》
「あー、フツーにバズりそうだったからー、的な」
《なるほどー、動画投稿されてるんですね》
「ぜっ、全然底辺ですけどね」
《この戦争もバッチリ?》
「撮ってます」
《じゃあバズり確定ですね》
「そうだと良いんですけどね」
《お前らオープン回線で何喋ってんだ?》
バリーがツッコむ。
「えっ、筒抜けでしたか?」
《難儀だな、バズり目的でこっちにきてそのまま戦争に巻き込まれるなんて》
ヨッシーが笑いながら言う。
『ま、俺はお前と同じぐらい難儀なやつに会ったことがあるけどな』
ヨッシーが微笑む。
《要塞は破壊できそうか?底辺》
ハルヒがキツい弄りをぶつけてくる。
「もはやイジメっすからね、それ!」
リンナはそう言いつつ、バリーに促す。
《外から見てどうだ?》
《かなり大きな爆発を確認してるわ。あと一押しね》
《ねぇー、こっちはもう終わったよ?》
アテナから通信が入る。
《こちらも最後の仕上げに取り掛かる》
《オーケー》
《さ、さっさと要塞をぶっ壊しちゃいましょう》
「そうですね!」
エリアルシャッターとエリアルヴァンネックスとフルディフェンスマーカスが穴という穴にライフルをぶち込み、要塞を機能停止させていく。
《ん、あれはハザードマーク.....研究所か?しかもレベル6、こんな激戦地帯で何を?》
バリーが一瞬目をとめたが、すぐに破壊活動にもどった。
そしてついに。
《よし、要塞から離脱しろ!》
バリーの指示でリンナとヨシオは要塞から脱出し、要塞が消し飛ぶ様を目に焼き付けた。
「思ったより簡単でしたね」
《こんな感じで各地の戦局をひっくり返していけば良いんだな?》
バリーがハルヒに尋ねる。
《多分な。ラフィール盆地はピースコンパスの領地になった。本部からいくらか艦隊が送られてくるだろう。あとはそいつらに任せよう》
ハルヒがそう言った後、またアテナから通信が入った。
《今大丈夫?》
《どうかしたか?》
《あのね、ここにフェリド結晶の鉱脈があったみたいなんだけど》
《フェリド結晶って、資源の中で1番使い道がないやつでしょ?鉱脈があってもな》
《それが殆ど掘り尽くされてたんだよ》
《.....あんなゴミを掘り尽くす阿呆がいるのか?》
ハルヒが呆れ返る。
《掘削機の痕跡も見つかってる。何か活用法が見つかったのかな?》
バリーが口を開く。
《俺らがぶっ飛ばした要塞には研究所があった。それもレベル6だ》
ハルヒが訝しむ。
《レベル6?最高レベルの研究所がこんなところにか?ノクターンが詰めていた理由もそれかもしれないね》
「援軍じゃなくて、研究所を守る為のってことですか?」
リンナがよく分からないまま発言する。
《ここで戦ってた奴らに話を聞いてみよう。とんでもない兵器の素材に使えるようになったかもしれない》
「とんでもない兵器.....!」
リンナが息を呑む。
《一応伝えておいたよ》
《ありがとね、ワルキューレ》
《いいってことよー》
ハルヒが指示を出す。
《全機、帰還するぞ》
ノーザン隊がグランディオーサに向かう。
⭐️⭐️⭐️
「そう、レベル6の.....」
ユキノが腕を組んで考え込む。
「フェリド結晶なんて、何に使えたっけ?それすら覚えてないぐらい産廃資源なのに」
「明らか他の資源より使い道がないフェリド結晶を最高レベルの研究所で解析して、何がしたかったのかしら?」
皆が黙り込む。
艦橋にバリーが入ってきた。
「まずい事になった」
「説明して」
ハルヒが促す。
「奴らはフェリド結晶からエンジェル・ダストを抽出することに成功した」
バリーの言葉にリンナ以外の全員が固まる。
会話に参加していなかった乗組員ですらこちらを向いている。
「そんな、A.D.Fユニットが実現可能になったってこと!?」
ユキノが頭を抱える。
「あのー、何ですかそれ?」
リンナが申し訳なさそうに尋ねる。
「いつだったかな、戦争が始まる少し前、出所不明の変な噂が出回り始めた。なんでも大局をひっくりかえす兵器『A.D.F8フライト)ユニット』が製造可能なんだと」
ハルヒが引き継ぐ。
「その性能はどれをとっても驚異的なものだった。敵の攻撃の一切を弾くエンジェル・フィールド、30基のウィングファンネル、ヘブンドライブによる機体性能の上昇。それを装備すればシンギュラリティにも匹敵するなんて言われたりもした」
「シンギュラリティ.....」
リンナが呟く。
「ネオ・プライマルもピースコンパスも必死こいてA.D.Fユニットを開発しようとしてたわ。でもピースコンパスは見切りをつけて開発を諦めた。ネオ・プライマルはまだ続けていたみたいだけどね」
ハルヒがため息をつく。
「私たちが助けた人達はエンジェル・ダストを奪取しようとしていたってこと?」
ユキノがバリーに問いかける。
「そんなとこだな。ただエンジェル・ダストが持ち出されたかどうかは分からん」
バリーが答える。
「噂が流れ始めたのってこの戦争が起きる少し前何ですよね」
「何か気になることでも?」
リンナが考え込む。
「そういうヤバい兵器の噂の類って戦争中に、それも今みたいに膠着してる時に流れる方が自然じゃないですか?なんで戦争前にそんな噂が流れたんですかね」
「戦争の発端となった小競り合いって何を巡ってのだっけ?」
ユキノがハルヒに尋ねる。
「えーとなんだっけな。ほんとにつまらなかった記憶がある。えーと、確か上層部がフェリド結晶を大量に採掘しようとして....おいちょっと待て」
ハルヒが驚愕する。
ユキノ達も同じ反応だ。
「フェリド結晶が鍵になる事を上層部は知っていた?噂にはフェリド結晶のフの字も無かったわよ」
「ネオ・プライマルとピースコンパス以外の第三者が関わっている可能性があるのか。そいつらが2つのクランを戦争状態になるように仕向けたってわけか」
ヨッシーがため息をつく。
「意味わかんねぇよ、なんでそんなこと」
「取り敢えず今は戦局をピースコンパスに傾けることを最優先に考えましょう。その過程でエンジェル・ダストを奪取出来るかもしれないし」
ハルヒたちが頷く。
「取り敢えず本隊が来るまでここで待機するわ。みんな、とりあえずお疲れ様」
ユキノが皆を労う。