閑話休題(4)
ワープ空間から抜け、フロンタル9に到着したグランディオーサはノアの方舟、他の生き残った戦艦と合流した。
《ユキノ、船の状態を報告しろ》
ラルが通信を繋ぐ。
《対空兵器はほぼ壊滅、船体の損傷もひどいし、ま、救いがあるとすればノーザンとワルキューレが健在な事かな》
ユキノがため息をつきながら言う。
《そうか、すぐに修理部隊を送る。我々の艦隊は壊滅も同然だ。ターミナルにはピースコンパスとネオ・プライマル所属のプレイヤーでごった返しており、運営が一時封鎖する、とチャットでも報告が上がってきている》
《え?ターミナル封鎖するの?》
ユキノが驚く。
《そうだ、かなり厳しい戦いになる。今ある戦力でネオ・プライマルとあの連合何とかを相手にしなければならないからな。全く、戦火がスペースウォーリャーズ2全体に広がっちまった》
ラルもため息をつく。
⭐️⭐️⭐️
とある呑み屋の一席にて
「あ、おい、これ見てみろよ」
「ん、スペースウォーリャーズか、懐かしいな。まーた戦争やってんのか」
「結局、トラブル勃発じゃねえか」
「ボク達の頑張りが無駄になった気分だね」
⭐️⭐️⭐️
「すまないな、私がピースコンパスに誘ったばっかりに」
ハルヒがリンナに謝る。
「そんな、結構楽しいですよ」
リンナが笑いながら言う。
「ふっ、そう言ってもらえると救われるよ」
ハルヒが微笑む。
「前は味方だったのに、今度は敵かよ」
ヨッシーが嘆きながらエリアルガスターのコックピットから這い出てきた。
「第十一回イベントの話か?」
バリーが尋ねる。
「そ、あんたらはスペースウォーリャーズ2から始めたもんな。知らなくて当然だが」
「ふん、お前ぐらいだよ、スペースウォーリャーズをずっとやってるやつなんか」
バリーが呆れながら言う。
「へへ、まあな。でもどうすんだろうな、これから」
「そうだな、あんだけいた戦力が大幅に減っちまったしな。再編成するにも、ノーザンとワルキューレ以外のアーマードスーツ部隊は....」
「殆ど壊滅、フロンタル9以外の所に逃げた部隊もあるやろうけど、ま、期待は出来ひんな」
カンナギがこちらに歩いてくる。
「お前も来てたのか?」
「おん、クラリス達もおるで。にしても随分急やったな。なんの前触れもなく俺らとネオ・プライマルを除くほぼ全勢力からの襲撃。いやー、思い出すとわろけてくるな」
カンナギがヘラヘラ笑い始める。
「なーにが面白いんだよ」
ハルヒが呆れる。
「見たか?あいつらの旗艦」
「旗艦?」
「そうや。情報部から上がってきてたカイザークランの戦艦にそっくりやねん。名前はディグレイス。君らの旗艦のグランディオーサよりも大型。要は超弩級戦艦ってことや」
カンナギが肩をすくめる。
「アレ墜とすんは骨折れるでー、まあA.D.Fユニットが完成したらなんとかなるけど」
「A.D.Fユニットか、ネオ・プライマルに賭けるしかないか」
ハルヒが腕を組んで俯く。
「残念だったな」
そこへベネットとクラリスがやってきた。
「と、言うと?」
「さっき情報部の奴らから報告が上がってきた。ノクターンが護送していたエンジェル・ダストが強奪されたらしい」
「はあ?」
ハルヒが驚く。
「マジか、だいぶ話が変わってくるぞ」
バリーが青ざめる。
「襲撃を受けたネオ・プライマルの研究所は壊滅、救出できたいくらかのプレイヤーから聞き出した情報だそうだ」
ベネットがため息をつく。
「はあ、ラグナスの戦いで終戦出来ると思ったのにこれだよ」
『た、ため息のオンパレード、空気が重い、明るくしなければ!』
「でもでも、それって、逆に好都合じゃないですかぁ?」
リンナのうわずった声にクラリスが睨みつける。
「いまどういう状況か、分かって」
「聞かせてくれ」
クラリスをハルヒが遮る。
「取られちゃったものは仕方ないし、あきらめましょう!」
「は?」
「正気かお前」
「待って。諦めるのは材料の奪還で」
皆が首を傾げる。
「相手にA.D.Fユニットを作ってもらいましょう、完成して初お披露目しようとしたところを我々がっ!颯爽と頂いていくというのはどうでしょう?」
リンナがポーズを決める。
「....そうなると、奴らの研究所を探し出さないとな」
バリーが頷く。
「あとA.D.Fユニット製造に掛かる時間も調べなあかんな。まあコレは俺のコネ使って運営に聞いてみるわ」
「カンナギさん、運営に知り合いでもいるんですか?」
ヨシオが驚く。
「おう、同い年のな」
「それに、そこを防衛している戦力の種類、数もリサーチしておかないと。守りは相当固められてるはずよ」
クラリスの意見にアテナが同意する。
「そうだね、知られたくないものはしっかり鍵をかけとかないといけないからね」
「とりあえず今は休息をとることに専念しましょう。また明日、作戦を練りましょう」
ハルヒがログアウトする。
「じゃあ俺たちも」
バリーとヨッシーもログアウトする。
「じゃあ、また明日!」
リンナもログアウトする。
ゴーグルを外すと、いつもの撮影部屋の匂いが鼻をくすぐる。
「はー、没入感半端なかったな。あとは動画をパソコンにうつして、あ、まだ上げちゃダメなんだった」
凛菜が時計を見る。
もう七時をまわっている。
「えーっ、もうこんな時間?バイトの時間すぎてるー!」
凛菜が慌てて家を飛び出す。
⭐️⭐️⭐️
「いらっしゃいませー、レジ袋ご利用ですか?」
リンナはコンビニでバイトしていた。
まあ、他にも掛け持ちしているが。
「ねー、レジ袋どうしよっか」
「好きにすりゃ良いだろ」
「むー、連れないなぁ。レジ袋お願いします」
「はーい」
遅刻については笑って許してもらえた。
日頃の真面目さが幸いしたのだろうか。
『にしても、どうすっかなぁー、調子に乗ってあんなこと口走ったけど』
思わず出そうになったため息をグッとのみこむ。
「今日はボクが奢るよ」
「いっつもお前が奢ってるだろ」
「ハハハ、今日はみんなの内定祝いだしね」
「お会計、4700円です」
「カードで」
凛菜が液晶を操作する。
客がカードをタッチ部分に当てる。
客層ボタンを押してレシートを出す。
「レシートです」
「ありがとね」
客がニコッと笑いかけてくる。
『か、可愛い!女優さんとかやってるのかな?』
凛菜が不覚にもドキッとする。
一緒にいた男二人も軽く会釈してくれた。
『はぇー、あんなお客さんもいるんだ』
「内定もらったんだし、スペースウォーリャーズ2やってみない?もう買ってるんだ」
「ひと段落ついたし、それもありかな」
『えー!スペースウォーリャーズやってるー!』
一瞬、話しかけに行きたい衝動に駆られたが、すぐにレジ業務に集中する。
まあ、客がいなかったとて、実際に行動する勇気など彼女はこれっぽっちも持ち合わせていない。
三人組は外へ出て行ってしまった。
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「もしもし、神凪やけど」
「え、カンナギ、久しぶりだな。どうしたんだ?」
「いやー、自分、スペースウォーリャーズ2がえらいことになってんのは?」
「知ってるに決まってるだろ。リスポーン地点に設定してた戦艦が無くなった奴らがファーストターミナルに集中してリスポーンしやがって、大混雑だ。あまりに急な負荷がかかったもんだから、フリーズしたんだよ。ターミナルは今封鎖中でプレイヤーは強制ログアウトも同然。フリーズの対応でもっぱら残業中だよ。当面の間、ファーストターミナルは使えない。データ破損した箇所もあるし....」
「親愛なる守岡くん、君にひとつ頼みがある」
「おい、俺がさっきなんて言ったかもう一度言ってみろ」
「残業中なんやろ?どうせ徹夜やし、俺の頼みきいてくれてもそない変わらんやろ」
「お前なぁ、全く。手短に」
「カイザークラン、知ってるか?」
「....知ってるさ」
「やるなぁ」
「さっさと本題に入れ!」
「カリカリしてんなぁ、ほなA.D.Fユニットは?」
「あー、実験的に実装したやつか。最高レベルの研究所でしか作れないように設定してあるやつだ。おい、レベルを引き下げたりしないからな」
「分かっとるわ。カイザークランがそれを作ろうとしとるんや。俺たちピースコンパスはそれを奪いたい」
「はあ、製造している研究所を教えろってんだな」
「あと完成するまでの時間もや」
「ったく、正々堂々やれよ」
「そんな悠長なこと言うてる場合やないからな」
「分かった、後で連絡する。それとカイザークランだが、怪しいぞ」
「ほう、それは?」
「奴らはあれだけの戦力を戦争終結、という名目だけで集めた。終結させるだけの為にあの戦力はいささか....」
「過剰戦力、別に目的があるかもしれへんってことやな」
「そうだ。カイザークランもそれなりの勢力を有していた。どちらかに肩入れするだけで事足りたはずだ。わざわざピースコンパスとネオ・プライマルの両方を相手どった理由なんて単純だ」
「スペースウォーリャーズ2の二つ頭潰して自分らがスペースウォーリャーズ2でトップになるためにか?そんなんに無関係なプレイヤー巻き込んだんか?アホらし!」
「A.D.Fユニットもその材料のひとつだろう。性能をとってみても、自分達がトップであると誇示するには充分だからな。というか、お前たちの戦争でプレイヤーは結構迷惑被ってるからな、運営含めて!」
「面目なーい、へへへ」
「ったく、お前んとこ旗艦は残ってたにしろほぼ壊滅してただろ?赫翼を呼び戻した方が良いんじゃないか?A.D.Fユニットを搭載したアーマードスーツなんて
赫翼で最低ラインだぞ?」
「どうせ乗ってるやつがお粗末さんやから大丈夫やろ」
「ワルキューレがなんとかできるかもしれんがな。あとエリアルシャッターとかいう新人」
「ん、リンナがどないしたんや」
「あいつ、戦闘がうますぎる」
「確かに、初心者とは思えんキル数やったな」
「A.D.Fユニット乗っけるんならソイツがいいと思うぞ俺は」
「守岡が言うんやったらそうなんやろな。ほな、頼むわ」
「おう」
守岡が通話を切る。




