スペースウォーリャーズ2の世界へ
「あぁー!ぜんっぜん動画伸びない!」
絶叫がマンションの一室から放たれる。
「リンナchannelの今月の総再生回数、150回.....10本も動画出したのに」
机に誰かが突っ伏している。
彼女は倉島凛菜18歳、紛うことなき底辺動画製作者である。
主にゲーム実況の動画を投稿しているが全く振るわない。
不貞腐れた彼女は画面をおすすめ動画欄に切り替える。
「今はどんなゲームが流行ってるのかな?あまり流行り物には頼りたくないんだけどな」
いくらかスクロールしていくと、とある公式ゲーム配信が目に入った。
どうやら2年ほど前の配信のアーカイブのようだ。
再生回数は8000万ほど。
「これ、スペースウォーリャーズとか言うVRMMOだっけ?二年ぐらい前に2が出たんだっけ?配信のアーカイブで8000万再生?公式配信ならそんぐらいいくか.....いややっぱありえないよ」
検索欄に『スペースウォーリャーズ』と打ち込んでみる。
出てきた動画をざっと眺める。
「.....『スペースウォーリャーズ2』、アリかもしれない」
どの動画も30万回再生はくだらない。
「ふふっ、ふはは!大枚はたいて必要な物全部揃えたらぁ!起死回生の一手、これに懸ける!」
凛菜が勢いよく拳を突き上げる。
その目はキラキラと輝いている。
どうしようもなくワクワクしてきた。
スマホをつける。
何が必要か、その必要なものがどこで手に入るかを検索する。
「抱き合わせの商品があるんだね。まだお昼、近くの家電量販店にダッシュする!」
凛菜は財布とスマホを掴んで家を後にする。
⭐️⭐️⭐️
《クォーサー隊、出る》
《ノーザン隊、行くよ》
戦艦からアーマードスーツの部隊が出撃していく。
《敵は坑道付近の前哨基地とターミナルから我々を挟撃しようとしている。クォーサー隊は坑道付近の敵、ノーザン隊はターミナルの敵に対応しろ。この戦いに負ければマテリアル・ベルト戦争の主導権が揺らぐことになりかねん、ピースコンパスの領域を守れ》
《クォーサー隊、了解した。全機、俺に続け》
《ノーザン隊、了解。できるだけ一般プレイヤーの被害を出さないこと、良いわね?》
アーマードスーツの部隊が二手に分かれる。
⭐️⭐️⭐️
家に戻ってきた凛菜の目の前にはVRゴーグルとグローブが置いてあった。
「なんとか買えたけど、高かったなぁ。明日からもやし生活だね」
凛菜は苦笑いしながらグローブをはめる。
「うっす!付けてないみたいなんだけど」
続いてゴーグルを取る。
ソフト自体は既にダウンロードされているらしい。
録画機能も付いており、ゲーム映像もバッチリのようだ。
「さーて、始めようか」
凛菜が不敵な笑みを浮かべながらゴーグルをはめる。
『録画を開始します』
『スペースウォーリャーズ2』
「あれ?ここは?」
凛菜は見知らぬ場所に立っていた。
何もない少し青みがかった空間が延々と続いている。
目の前にディスプレイが現れる。
「プレイヤーネームを入力してください?えーとー」
『リンナ』
ディスプレイが切り替わる。
「あなたがともに飛ぶアーマードスーツと機体色を選んでください、か。どれどれ」
エリアルアーマードスーツ、フルファイトアーマードスーツ、フルディフェンスアーマードスーツ、マルチユニットアーマードスーツの4つがあるみたいだ。
「うーん、私は初心者だしあまり癖の強くない奴が良いな。とは言えフルファイトとかマルチユニットのロマンも捨てがたい!」
うんうん考えて結論を出す。
「ま、初心者はエリアルでいいでしょ。色もシンプルな白で」
エリアルアーマードスーツを選択する。
またディスプレイが切り替わり機体名の入力画面に切り替わる。
「おー、機体の名前まで決められるんだ!うーん、せっかくだからチャンネルを宣伝したいよなぁー」
エリアルリンナ.....ダッセェ!
「名前を入れるのは良くないな。なんかあるかなぁ、動画投稿、動画を撮るのにカメラを.....シャッター、エリアルシャッター」
まだまだ思いつきそうではあったが、あまり無意味なパートが長引くと編集がめんどくさくなりそうだったので妥協することにした。
「エリアルシャッターっと、これで終わりかな」
ディスプレイが消え、アナウンスが入る。
《ようこそスペースウォーリャーズ2へ。あなたのこれからに期待しています。リスポーン地点を選びますか?》
「えーと、いや何処でもいいです」
《それでは転送を開始します》
リンナが青い光に包まれる。
瞬く間にまた別の見覚えのない場所に連れてこられる。
あたりにもうもうと煙が立ち込め、爆発音が響いている。
「え?なにこれ?こんな危なっかしい所にリスポーンとかある?」
リンナが困惑してあたりを見渡す。
突如、頭上を4機ほどのアーマードスーツが駆け抜けた。
髪の毛がたなびく。
「すごい風」
すぐ後に別のアーマードスーツが通り過ぎていく。
「レースでもやってるのかな?でもそれだけじゃこんな爆発したりしないよね、どういうこと?」
リンナは状況が掴めないまま電光掲示板に書かれた案内図を読む。
「ここをまっすぐにいけばアーマードスーツがあるのね?」
リンナが走り出そうとした時、切り結んだ2機のアーマードスーツが壁を突き破ってきた。
「うわぁっ!」
リンナが思わず尻餅をつく。
片方のアーマードスーツが目の前で袈裟斬りにされて爆発した。
「.....」
あまりの衝撃に言葉を失う。
『このゲームってこんなにリアルだったのぉー!?パイロットは無事なのかしら?死んでないわよね?どっかにリスポーンしてるわよね?』
青と白のアーマードスーツがこちらを向く。
「ひっ!」
《あんた、一般プレイヤーだろ?なんだってまだ『マテリアル・ベルト』にいるんだ?戦闘に入ったのは知ってるだろ?》
拡声器を通して声が聞こえる。
「今日始めたばっかで何もわかりませんー!どうすれば良いですかー!」
《あんた、初心者か!尚更逃げた方がいい!ここをまっすぐ行けば格納庫だ!》
アーマードスーツはそれだけを伝えるとまた飛び立ってしまった。
「殺されるかと思った.....いや、そんなこと言ってる場合じゃない、あの人の言う通りに早く逃げないと」
リンナは走り出した。
相変わらず甲高い音と爆発音が響いている。
格納庫に飛び込むようにして入ったリンナは自分の機体のところは転送された。
「急げ急げ!」
胸部のハッチからコックピットに転がり込む。
「ここに座ればいいのね?」
シートに座ると自動でハッチが閉じ、密閉された。
それと同時にディスプレイがせりあがり、全天周モニターが起動する。
「お、周りがスケスケだ。エンジンはどうやってつけるの?誰か教えてー!」
リンナが嘆く。
《エリアルシャッター、異常無し。足元のペダルを踏んでエンジンを起動してください。発進いつでもどうぞ》
オペレーターから指示が出る。
「あ、ありがとうございます!」
リンナはペダルをグッと踏み込んだ。
エリアルシャッターのエンジンから炎が吹き出す。
エリアルシャッターが宇宙へ飛び出す。
「ほほーい!飛べた!」
リンナは嬉しくなって奇声を上げた。
エリアルシャッターが自動でビームライフルを装備する。
「お、鉄砲だ、かっこいー!」
いちいち大袈裟に反応する。
動画を撮っていることを忘れてはならない。
正直、さっきの戦闘もかなり良いシーンがとれたと思っている。
「待って、鉄砲持ってたら敵と間違われるんじゃ?」
その嫌な予感を裏付けるようにアラートが鳴り響く。
「ヒェッ、何よ?ミ、ミサイルアラート!?」
リンナが驚く。
「ど、どこから?」
リンナが辺りを見渡す。
《真下だ!》
誰かの怒鳴り声とともに足元で爆発が起きた。
「ひえー!」
レーダーが敵機の接近を告げる。
《一般プレイヤー、まだ残ってたの?あ、バリーが言ってた初心者ってあなたの事?》
「えっと、初心者です」
《ピースコンパス所属、ノーザン隊隊長ハルヒよ、申し訳ないけど、見逃してもらえそうにはないわ》
「敵がいっぱいですね」
《あなたも手伝ってちょうだい。ビームライフルを扱うぐらいなら出来るはずよ》
青と白のアーマードスーツが背中合わせに並ぶ。
「い、いきなり戦争ですか?使えなくても文句言わないでくださいよ?」
《上等だ》
敵の数はざっと7機、ライフルを装備している奴もいれば、光る剣のようなものを構えているのもいる。
《一網打尽だ!かかれ!》
敵が一斉に攻撃を仕掛ける。
《来るぞ》
ハルヒがそう言ってエナジーブレードを構えて敵に斬りかかる。
「いままでやってきたゲームの要領で」
エリアルシャッターがライフルを構え、敵に狙いを定める。
「行け!」
発射されたレーザーが敵の頭部を撃ち抜いた。
負けじと敵が撃ち返してくる。
「なんの!」
放たれるレーザーを全て避けるとエリアルシャッターは自動でエナジーブレードに兵装を切り替えた。
「なるほど、武器の取り回しはこんな感じなのね?」
エリアルシャッターが敵との距離を詰める。
《あいつ、随分手慣れてやがるな》
ハルヒが感心する。
『なんか、戦い方が頭に入ってる!なんで?』
敵と切り結びながらリンナが困惑する。
いままでやってきたいろんなゲームの経験が活きているのだろうか。
《ぐっ、こんな奴が敵にいるなんて聞いてないぞ》
敵が苦しそうに呟く。
エナジーブレードが振り抜かれ、遠くに漂っていく。
《しまっ》
エリアルシャッターがその隙にコックピットにエナジーブレードを突き刺した。
「やった、倒したー!」
喜んだのも束の間、ライフルを脚部と腕部に受けて損傷させてしまった。
「ヤバい、調子乗った」
リンナが焦る。
《初心者はそんぐらいがいい》
ハルヒが目の前の敵をあっという間に片付ける。
《初心者には優しくしてあげないと、先輩だろ?》
ハルヒのアーマードスーツが無双し始める。
《た、退却!》
残った敵が命からがら逃げて行く。
「ふー、フィニッシュって感じですか?」
《そうだな、あんだけボロボロになって反撃出来るとは思えんしな》
ハルヒが頷く。
《おい、さっきの初心者じゃねーか》
ハルヒのアーマードスーツと同じカラーリングの機体が4機集まってくる。
「あ、さっきはどうも」
《バリー、この子初心者にしては良い線いってるわよ。私達のところで鍛えたらかなり強くなれるわ》
「え」
《本当か?そんなうまくいくとは思えないがな》
《どちらにせよお礼がしたい。一緒に『ノアの方舟』に来てもらえるかな?えーと》
「あ、リンナです」
《リンナか、我々の旗艦に招待しよう。改めてお礼がしたい》
「わ、分かりました」
《こちらクォーサー隊、敵掃討完了。これより帰投するが、そちらはどうか?》
《ノーザン隊、こっちも終わってるよ。これより帰投する。あ、そうだ。お客さんがいるから》
《客?》
《ああ、ヨッシーも気にいると思うよ》
ハルヒが笑いながら言う。
《よし、ノーザン隊全機、帰投するぞ。リンナも着いてくるんだ》
「は、はい」
『大丈夫だよね、帰してもらえるよね!?』
一抹の不安を抱えながらリンナはノーザン隊のあとを追うのだった。