3.ロダリック・ケーリーの後妻
「ようやく連絡を寄越したと思えば。普通は今際の際を言い残す為に、生きている内に呼び戻すのが本当だろう。それを、勝手に入籍した俺より若い嫁に喪主をやらせるだと? あの色ボケ親爺が」
悪態を吐きつつ、大股で歩いてくる義理の息子に、けれどもライザは表情を一切変えることなく迎えいれた。
「あら。そう言われますが、ロダリック・ケーリーの葬儀が行われている今日という日まで、『探すな』と通告したきり一切の連絡を絶たれていたのは、貴方ご自身ではありませんか」
コロコロと鈴を転がすような、どこか面白がる声だった。
なのに、聴いているとまるで湖の底に突き落とされたかのように底冷えがする。
冷たい声。
その酷く冷たい言葉を発した若い女は、その口元こそ笑みを形づくるように弧を描いているものの、榛色の瞳は燃え盛るような怒りを浮かべ、葬儀を荒らす無法者だとヒューイを射貫かんばかりだ。
怒りに燃える金色の薔薇のようだと、ヒューイは思わず目を見開いた。
喪に服して黒の礼服を身に着けているのに、これほどまで煽情的な女性を見たのは初めてだった。
女性らしい豊かな曲線を描く黒いドレス。
最高級の黒いレースが、ほっそりとした首元からちいさな桜貝のような爪が並ぶ指先まで、きっちりと包み込んでいる。
しかし、だからこそ血の気を失ってなお艶やかなその肌の滑らかさが、より際立って見えた。
金色の豪奢な髪と顔の半分以上を覆い隠す黒いモーニングベールの、その下から覗く形の良い唇の紅さ。
先ほどまで泣いていたのか、モーニングベール越しに微かに見える睫毛の先に涙の粒がまばらに残り、目元がほんのりと朱く色付いているのが見て取れた。
つまり、この若い父の後妻は、どうやら本当にその死を悼み、その葬儀を荒らしにきた息子に対して大いなる怒りを持っているのだと、不思議な感銘を受けた。
それは衝撃だった。
金目当てで手に入れた後妻の地位を活かし、自分にぞっこんである老人を手練手管で唆した悪女は、自らの死後の生活になんら支障を起こさない程度に遺産を確保する術を手に入れていたものだと思っていたのだ。
つまり、老人の世話をしなくて済む祝杯の準備に胸を弾ませているのだろうと。
──間違っていたのだろうか。
そんな風にまじまじと考え込んでいたからであろうか。
いつの間にか、ヒューイのすぐ目の前にライザが立っていた。
それこそ片方が手を伸ばせばすぐに届くほど近い。
ヒューイの肩ほどの高さしかないライザは、けれどもその視線はヒューイに負けないほど強いものを宿していた。
燃えるような怒りを宿した瞳に下から睨みつけられて、ヒューイは押し負けそうになるのをなんとか堪えた。
そこを、サッと首元のネクタイを掴まれて引き寄せられた。
耳元へ甘い毒を注ぐような声で囁かれる。
「貴方はヒューイ・ケーリーの名を捨てたのでしょう? ねぇ、ボット・リット助教」