バーチャルには変わりものが多い~女か男かはっきりせい~(2)
館内に入り新聞を広げて座る小野。なんでバーチャルで新聞を読むのか聞きたいのか? そんなもん雰囲気づくりしかないだろ。競馬といったら新聞、新聞といったら競馬!
赤ペンで一番人気の馬に丸をつける。
「俺は前回で反省したんだ!大穴は狙わない、安牌の一位を攻める!」
手始めに三万円だ、一番の単勝に三万!
小野はタッチパネルを操作して一番に賭ける。
入念に下調べしてきたんだ、今日は負けないぞ。
小野が意気込んでいる肩を柔らかな指でちょんちょんと触られる。
小野の頭に電流がはしる。眉毛の太い虫眼鏡を持った名探偵のような気分になる。この指の感触は男ではない、そう十八か二十三までの一般女性の指だ! 美女に違いない!と考察を繰り広げる。後ろを振り向くと小野の想像どおり黒髪の清掃系美女が後ろの席に座っていた。
「一番はやめた方がいい」
随分と野太い声の美女がいるんだなー
俺は訝しげな表情で彼女を見つめる。
「嗚呼、名乗るのがまだだったな。俺の名前は工藤 巧馬だ。是非ともスカーレットと呼んでくれ!」
「いや、呼ばないよ。工藤ちゃんは女なんだよね?」
「どう見たって女だろ! 見てくれこのナイスバディを!」
確かにボンキュッボンのナイスバディだが……
俺の中で一つの疑念が確信に変わった。その瞬間小野の態度は大きく変わる。
「女はそんなこと言わねぇよな?! アバターだけ女の体使ってる男なんじゃないの工藤くん」
「男じゃない、女だ」
「いや男だろ、男の中でもむさ苦しい方の漢だろ」
工藤は腕を組んで立ち上がり自信満々だ。スカートから水玉のパンツが見えるが、別に興奮しなかった。だって漢だもん。
このまま押し問答をしても埒が明かないな、話題を戻そう。
「それで一番はなんで賭けない方が良いんだ?」
「それは言えない」と言い残しプイっとそっぽを向いてしまった。
漢のツンデレとか興味ないぞ、取り敢えず今日は勝てますように!
アナウンスが入る
「それではG1レースを始めていきましょう! とその前に今回一番の騎手が体調を崩してしまいました。ですが安心してください! 強力な代役がいます!皆さんも名前を呼びましょう。せーのっ!ハバネロマーン」
ハバネロマンこと天寺が乗馬しながら手を振ってレース会場に登場する。
ヒーローだよね?アイドルじゃないよね?!
テレビに向かってガッツポーズを掲げている姿は完全にアイドルだった。
アイドル売りするなら仮面外せよ、イケメンなんだし。
「ハバネロマンだよ! 乗馬初めてだけど絶対に勝つからよろしくね!」
あ、これ負けたわ、枕詞が心元なさすぎるだろ。
工藤はどこかバツが悪そうにしていた。
「このまま負け戦を眺める趣味はない! こうなったら乗り込んでやる!」
次回小野乱入!