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ブラック・パペット   作者: 氷川泪
第一章 黒いパペット
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叶わぬ願い

「お前には、人の望みを叶える力があるっていうのか?」


「そうともさ、にいちゃん。なんたっておいらは犬神だ。犬神っていえば、憑りついた人間に富と名誉を(もたら)すってのは常識だろ?」


「いや、そんな常識知らないんですけど」


「えっ?そうなの?世の中変わっちまったなぁ」


 やれやれと首を振るハハーンの獣毛は、本物の生き物ようにしなやかだった。これが幻覚だとしたら、もうおれは何を信じていいのか分からなくなってしまう。


「じゃあ今から願いを言うから、(かな)えてくれよ」


「おうよ。なんでも言ってみ」


「そうだなぁ。とりあえず・・・・・」


 急に願いを叶えると言われても何も思いつかなかった。おれの頭に浮かんだのは願い事でもなんでもない、今朝一緒に朝ごはんを食べたときのユキミ先生の笑顔だった。


「彼女とか、欲しかったりして」


 口にするのも恥ずかしかったが、相手は神さまを自称している。願うだけなら問題はなさそうだ。


「わかった。用意する!」


 間髪(かんぱつ)いれずにハハーンが答えた。余りの即答ぶりに、ハハーンに対する信憑性(しんぴょうせい)が一気に薄らいだ。


「それと金な。現金で1億円はほしいな」


「まかせろ!1憶でいいのか?少なくねぇか?」


 無意識におれは溜息(ためいき)()いていた。そんなことだろうと思った。


「やっぱり嘘か。箱に戻ってもらうぞ」


「嘘なんかつくかよ。でもさ、にいちゃん。願いを叶えてやるんだからさ、おいらの頼みも聴いてくれねぇ?」


「お前の頼みってなんだよ」


「おいらさぁ、外の世界が見てみたいんだよ。あの頃とどれくらい変わったのか、この目で見てみたいんだよ」


 ハハーンの前脚が、金色に光る目を差していた。当たり前のことだが、ハハーンの前脚は自分の目に届いてない。


「つまり散歩してみたいってことか。まぁそれくらいならいいかな」


「そうこなくっちゃ。じゃあ早速(さっそく)出かけようぜ」


「いや、ちょっと待て。とりあえず服着ないといけないし、それに左手にお前をつけたままじゃ」


 部屋が暑かったこともあって、今のおれは下着しか身に着けていない。服を身につけるには、一度ハハーンをおれの左手から引き剥がす必要がある。


「そんなの気にすんなって。行こうぜにいちゃん、行っちゃおうぜ」


 凄まじい力で左腕が引っ張られた。布団の上で胡坐(あぐら)をかいていたおれの体は持ち上がり、一気に窓の外へと放り出された。


「わっ、待て。待ってくれ」


 慌てて叫んだが無駄だった。おれの体は軽々と窓の外へと引き()りだされてしまった。おれの部屋は二階の角部屋で、窓から飛び出せば外には何もない。パンツ一丁で外に放り出されたおれは、蒸し暑い夏の外気に(さら)されながら、アパートの前の路地に向けて落下していった。

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