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第17話
目を見て話す事はできず、頭を下げたまま振り返り、その場を後にして、見慣れた壊れたドアを踏んだ時にララが吠えた。
進もうとしていた足が止まると、静けさの中に低い声が響いた。
「ここに戻る必要があったら戻って来ても構わないからな」
振り返り、目を合わせて深く頭を下げた。
顔を上げるとララを見るような優しい目つきで見送ってくれた。
少しだけ慣れた階段を上がり地上へと向かった。
この荒廃した世界で一つだけ向かう場所があった。
ついこの間まで面倒くさくて帰りたくもなかった家。
今は遠く遠く感じる。
家族がどうなっているのか考えると自分の今までの過ごし方が馬鹿らしく思えた。
当たり前の日常はこんなに脆い物だとは微塵にも思っていなかった。
朝起きればうんざりする程昨日となにも変わらない1日が始まる筈だった、ついこの間までは。
でも今は自分には何も残っていない、空っぽの殻が生きているだけだった。
それでも、今は助かった事に感謝できた。
そして、繋がりがあった人が生きている奇跡を願っていた。




