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サキに与えられたのはこじんまりとした部屋だったが壁一面の書棚と布団が用意されており、障子の向こうには四季咲きの森が見えた。
「男か女か来るのがどちらか分からぬかったために家具はこれから揃えよう。何か必要な物はあるか?」
「いえ、あの……」
「必要な物があればお前たちをここに連れて来た女、あれはこの屋敷を守るためにある存在。あれでもよいし、似たような見た目の者たちに言えばすぐに持ってくる」
と陽炎に初日に教えてもらい、それ以降あれこれと気を使われている。
一度何故ここまでよくしてくれるのか分からずにサキが陽炎に聞いた時に陽炎は──
「ワシも前の炎龍によくしてもらった。その炎龍に恩返しをしたくとももう居らぬ。お主はその人とは違うが、ワシの独り善がりだがお主も付き合ってくれぬか? もし、気おくれすると言うのなら、お主は次の炎龍にこうやって優しくしてやればよいだけじゃ」
そんなことを寂しげな顔をしながら言うのでサキはそれ以上聞くことは出来なかった。
本棚の本は全て今までの炎龍と一体化したびくりとたちの日記と知った時にはこんなに沢山のと知ってびっくりした程だ。
時たまではあるが他の龍に連れられて行った子供たちと交流をすることもあり、そういった時には皆子供らしく遊んでいる。
外で訓練訓練言われていたのにここに来てからすることは夜眠る前に力を少しすつもらっている以外は部屋で過ごしててもいいし、他の子たちと遊んでもいいと門の外に出る以外案外自由だった。
「龍の力ってどんなの?」
「どんなのって毎日もらってるじゃないか」
「そうじゃなくて」
八尾と白の会話に他の子たちも集まって来た。
「俺んとこって雷龍だろ? 力を貰う時にちょっとだけピリピリするっていうか……」
「あたしのとこは冷たくて気持ちいいわよ。そうね例えるなら暑くて仕方がない日に冷たくて気持ちいい水を飲んだみたいな」
「僕は日だまりの中に居るみたいな気持ちになる」
「もしかして龍によって違うのか?」
集まった子たちが己の感想に皆違うと気付いてわいわいしている横で大人たちは子供たちの教育に頭を悩ませている。
「まさか殆どの子が文字を読めぬとは」
「わらわのところのトオルは読めるぞ!」
「お主のところだけ読めても他の者も読めるようにならぬ。これから覚えさせる」
「わらわたちが? そんなものあの白き者共にさせればよいであろう」
「あれはこの屋敷を守るものでしょう。それに、あれは学習には不向きでしたわよ」
「なんだやらせたことがあるのか?」
月乃の言葉に樹だけでなく他の面々も気になったのか興味ありげな顔をして2人の会話に聞き入っている。
「……ここに来たばかりの頃私も字が書けなかったのよ。だからこっそり習おうとしたけど無理だったから仕方なくあんたたちに聞いたの忘れたの?」
「そうだっけ?」
「月乃がここに来たのはもうかなり昔のことだからなぁ」
「そうね三百年ぐらい昔だわ」
「もうそんなになるのか」
大人たちは龍と一体化した時期はそれぞれ違う。
そもそもこのように同時期にアザを持って生まれて来ることすら珍しいのにこの子供たちは全員が同い年だ。
何かあるのではと己の龍にそれぞれ問いかけるものの、龍たちは沈黙を保ち続けていて一向に埒があかないので大人たちはこうやって気を紛らわせようとしている。
「外は最近どうなってるのかしら? ここに居たら外のことなんて分からないし」
「子供たちに聞けばよかろう」
「子供の知識なぞ偏りがあるではないか」
「僕たちの知識も偏ってるけどね」
ここから出るようなこともないし、外の知識なんてそれこそ一番遅くに入った月乃ですら三百年前だ。
今の外なんて誰も知りようがない。
「あの、」
と、大人たちが外にあれこれと思いを馳せているのを見てトオルがおずおずと声を掛けると大人たちの視線は一斉にトオルに向かった。
「なんだ?」
「ここから出られないんですか?」
「……それはどうなのだろうか」
「?」
「我らは龍と一体化してから外に出ようとしたことがない」
「多分歴代の人たちもそうだよな」
何とも言えない大人たちの返事にトオルは戸惑う。
「では、僕たちはどうして外に出ちゃいけないんですか?」
「それはお前たちが未熟だからだ。外には親切な人たちばかりではない。そのアザを持ってる者を狙えば神龍国に攻め込めると思う輩も居る」
「我らの額のアザとこの瞳は隠せぬからな。用心するに越したことはない」
子供たちは気付いているのかいないのかは分からないが、子供たちの瞳孔も少しずつ縦長に変わって来ている。
それ以外にも髪の色が毛先から少しずつ色が抜けたり色味が変わったりと多少の変化はある。
ならばどうして7歳までは大丈夫だったのかと不思議に思うが、それを聞いたとしてもこの人たちも答えを知らないのではないか?
そう思ったトオルは「そうですか」とだけ呟いて子供たちの輪に戻ってしまった。
それを見送った大人たちも先ほどまでしていた会話に戻った。




