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新学期の始まり

そして現在。


入学式に遅れないように急いで、学校に向かっていた仁。



「ふう、何とか間に合った...さすがに入学式から遅刻する訳にはいかないし」



家から思いっきりダッシュした仁は、なんとか学校に辿り着いた。


途中で道を尋ねられたり、事あるごとに信号に足止めされたりはしたが...



海道仁は、昔からここぞという場面で運が悪い。


幼稚園、小学校で遠足があれば毎回の様に土砂降りで中止。


中学校の修学旅行では、インフルエンザにかかり欠席。


高校の入試の時なんかは、風でフラフラ状態、熱が38度までしか上がらなかったので、なんとか気合で乗り切ったが。


そして今日も小さなハプニングの連発である。


そのくせ怪我をした事はほとんど無かった。


事故にあった事もなければ、大怪我をしたことも一度も無い。


運がいいのか悪いのか。




そんなこんなで学校に到着した仁。


張り出されていたクラス分け表から自分の名前を探してると、隣から声を掛けられた。



そこに居たのは髪をポニーテールで纏め、目はパッチリ大きめ、笑うと八重歯が見える。


小顔の可愛い美少女。幼馴染の楓だ。本名は高梨と言う。



ちなみに胸は控えめである。この話をすると楓に殴られるので要注意だ。


楓の家は3姉妹で、姉と妹が居る次女である。


母親、姉、妹みんなそれなりのバストサイズなのだが。楓だけは...おお神よ...哀れな子羊にどうか神の祝福を...



「おはよう仁、遅かったね」


「おはよう楓、置いていくなんて酷いよ」


「だって仁待ってたらいつになるかわからないし、寝坊するのが悪い」


「ぐっ正論すぎて言い返せない...」


「それより仁の名前、7組にあるよ。私は8組だから別々だね」


「そっかー。まあ隣のクラスだし、会おうと思えばいつでも会えるよ」


「そうだね!会おうと思えば会える近所だしw私たちもついに高校生だよ」


「ああ、だけどこれからが大変だよ、冒険者になるため勉強頑張らないと」


「うん!そうだね。そういえば仁は私の誕生日覚えてるよね?」


「5月5日だよね?」


「当たり!その時はダンジョン攻略手伝ってね」


「りょーかいです」


「うむ、よろしい。それじゃあまたね」


「うん、またね」



そのあと自分のクラスと、出席番号を確認した後、教室に向かう。


教室に入った仁は呆然とした、そこには天使がいた。



長く綺麗な髪は、腰の辺りまであり、肌は白く透明感がある。


身長は女子の中では少し高めであろうか、スタイル抜群。


何より胸がデカい...妹と同じぐらいあるだのでは...



言い忘れていたが、何を隠そう僕は、おっぱい星人なのだ。


よくお尻がいいか?胸がいいか?といった議論が交わされているが。


声を大にして言おう!おっぱいこそ至高であると!



おっといかんいかん。


雑念は振り払わなければ、煩悩に塗れてまま、にやけ面で近づいていけば、残念な結果になる。


あの天使を汚さない為にも、僕は離れたい位置をキープしよう。



僕が1人ぶつぶつ言いながら考えごとをしていると...



「ねぇ君ちょっといいかな?」


「は、はい」



なんと、天使の方から下界降りてきた。



「ちょっとそこどいてもらっていいかな?他の子たちが入れないみたいだよ?」


「あ、ごめん」



どうやら僕は、考え事しながら入り口を塞いでいたようだ。

後ろには大人しそうな女子が2人ほど立っていた。



「2人ともごめんね」


「だ、大丈夫です」

「わ、私も...」



2人はそのまま横を通り過ぎ、天使はこちらに歩み寄ってくる。



「ありがと、それと始めまして、私は藤宮紫苑よろしくね!」


「は、はい海道仁です。よろしくお願いします」



背筋をピンと伸ばし、ピシッと気を付け、直立不動で挨拶をする。



「海道君、なんか面白いね」


「じ、自分は面白くないであります」


「ふふっ海道君は軍人さんじゃないよね?」


「じ、自分は一般人、ただのモブであります」


「ふふっ何それ、どう見てもモブには見えないけどな」


「お戯れを...」


「やっぱり面白い。海道君、もう少し肩の力抜いたらどうかな!気楽に行こっ」


「畏れ多いです。それではまた」


「うん」


キャパオーバーとなった仁は、早々と話を切り上げ、そそくさと自分の席に座る。


(いや~緊張した...さっきの僕、まるで女王陛下に謁見した下民みたいになってたな。実際そのぐらいの存在感が藤宮さんにはあるんだよなぁ)



暫く呆けていると、クラスメイトが続々入ってきて席が埋まっていく。


前の席に座った、男子が後ろを向いて、気安い感じで話し掛けてきた。


顔は僕と同じく平凡で、コミュ力は僕より高めか。


うん、モブとして生きていくには、彼と友達になっておくのもいいかもしれない。



「よっ俺は山川良太よろしく!」


「僕は海道仁、よろしく」


「海道は冒険者志望だよな?」


「うん、そうだよ!まあ冒険科にいるくらいだしね」


「ははっだよな!でもたまーに協会で働きたいって人もいるしな」


「そうなんだ、僕はバリバリ、ダンジョンに潜りたいな」


「俺も俺も、ダンジョン潜って、早くステータス獲得したいぜ!ユニークスキルとか出たりして」


「だね!でもユニークスキルの出る確率は1万分の1、超レアスキルだからね」


「そうだよなぁ。レアアイテムのドロップ率が1%以下だから、さらに渋いんだよな...」


「まあ普通のスキルでも十分強力だからね。その人の特性に合わせて発現するって言われてるし、日頃の行いが大事だよ」


「おう!俺は身体強化のスキル欲しくて体鍛えたり、怪力のスキル欲しくて重いもの持ったり、木刀振り回して剣術のスキル目差したり、色々したからな」


「け、結構やってるんだね。僕は体鍛えるくらいしかやってないよ」


「そっか、まあまだ時間あるし、大丈夫だろ?」


「いや、僕の誕生日22日だから、あと2週間くらいかな」


「マジか?いいなー俺なんて8月だから、あと4ヶ月くらいあるし、早くダンジョン潜りたいぜ」



そこまで話した所で、教室の扉がガラガラと開いた。



「はーい注目、冒険科であるこの1年7組担任になった黒川修だ!よろしく。ちなみに俺は、Bランク冒険者だ。

新設されたばかりの冒険科だが、学校側としてはかなりの力を入れている。びしびし扱くので、しっかりついて来てくれ。ここまでで何か質問があるか?」



筋肉ムキムキのスキンヘッドの大男。


体の所々に無数の傷があり、まるで歴戦の猛者のような風格で、教壇に立った男は告げた。


顔はいかつく、どう見ても堅気には見えない。


その男はスーツ着ているが、ピチピチすぎて、今にも破れそうだ。


というか上のほうは、すでに開いている。おそらくボタンが吹き飛んだんだろう。


その時、先生に質問する勇者が現れた!藤宮さんである。



「先生!ダンジョンに入っての実習は、行われますか?」



「そうだな!ダンジョンに入っての本格的な、実習は2年生になってからになるだろうな。法律で年齢が制限されているし、誕生日の遅いものは、授業を受けられないからな。1年生は、座学とグラウンドでの基礎体力作り、実戦形式でのトレーニングに重点を置いていく。あと冒険科は7組と8組だが、合同でトレーニングする時もあるから、覚えておくように。それでは他に質問はあるか?」



後ろの方に居た、元気な体育会系っぽい男子が質問する。



「先生はBランクの冒険者ですよね。今まで戦った魔物の中で、一番強かった魔物について教えてください」



「うーん、一番か...やはりサイクロプスだろうな!Bランクダンジョンのボスで、1つ目の化け物なんだが、身長も筋肉も先生の10倍以上あってな、恐ろしい膂力で殴りつけてくる。その時はタンクをやってて、完全武装してたんだが。棍棒の一撃で、壁まで吹き飛ばされて、血反吐をぶちまけちまった。いやぁあん時は死ぬかと思ったな。ふはははは」



教室は静まり返っている。



(いやぁ全然笑えないな。女子だけでなく男子も引いてるし、てか女子何人か泣きそうだ。

そうか、先生はタンクだったんだな。道理で生傷が絶えない訳だ。

よしタンクは止めよう!メモしておかないとな。モンスターの攻撃は、基本回避っと)



「さて他に質問は無いかな?」



シーン



「えー内容がないよう、なんつってな」



シーン...



「よーしわかった!これからお前らにも自己紹介してもらうぞ!1人1回は必ず面白い事言うように」



「えーそんなひどいよー」



「自分が滑ったからって横暴だー」



クラス中から一斉にブーイング



「よーし出席番号1番芦田雅弘」



「はい」



そしてこのあと、地獄と化した教室で乾いた笑いが響き渡るのだった。





~高梨楓 視点~



学校から帰ってベットに飛び込む。



「はぁ~疲れた。仁とは同じクラスなれなかったな...」



(変な女に絡まれてなければいいけど)



「それにしても、仁が立ち直ってくれて本当に良かった」



あの時、私は何も出来なかった...


気付いてあげる事さえできず...


気付いた時には全てが終わっていた...



仁は心身ともにボロボロにされ、私は何て言葉を掛ければいいか分からず、尻込みしてしまった。


やっと搾り出した言葉も気休めばかりのつまらない言葉。



当然仁の心には届かず、返って辛い思いをさせたかも知れない。


心底自分が嫌になる。これが幼馴染...笑わせる。



仁は一体どれほど苦しんだのだろう?悲しんだのだろう?絶望したのだろう?



楓は奥歯を、強く強く噛み締める。



(必死に体の傷や心の傷を覆い隠し、普段どおりに私に接してくれていた仁。

その笑顔の裏でその心はどれだけ悲鳴をあげ、助けを求めていたか...

どれだけ、どれだけ、どれだけ、どれだけ、どれだけ、どれだけ、どれだけ

仁を苦しめれば気が済むんだ!!

苛めていた奴らを1人残らず、めちゃくちゃにしてやりたい)



「ふぅーー」



沸騰しそうになる頭、思いっきり空気を吐き出して、なんとか冷静さを取り戻す。


それにしても春香さんや怜ちゃんはさすがだなー。


私はどうする事もできなかったのに、家族として寄り添い続けた。


優しい言葉を掛け続け、仁を立ち直らせた。



やっぱり幼馴染の思いでは、家族の愛には敵わないか...




そして楓は決意する。もう二度と仁をあんな目に合わせはしない。


二度と同じ失敗は繰り返さない。私が仁を守るんだ!




そのためにも誰よりも強くならなければならない。



仁の身をあらゆる理不尽や悪意から守る盾に、あらゆる災いや不運から守る鎧になる。



そのために冒険者になると、決めたのだから...



明日からは頑張って行かないとね。


固く決意し、気持ちを切り替えた楓は、自主練習のために庭に出るのであった。

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