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過去の傷②

「誰だお前は?」



海はいきなり乱入してきた仁に誰何する。



「僕は同じクラスの海道仁だ、すぐに卓也から離れろ!」


「へぇ~俺相手にずいぶん偉そうな口を叩くんだな」


「あっ!同じクラスの海道君だぁ里香思い出したよ!ねぇ海道君、仁君って呼んでいぃ?いいよね?これから長い付き合いになるんだしww」


「かはっ正義のヒーローの登場ってか、おい卓也見てみろ!お前の英雄様のご到着だぞ」


「くだらない、時間の無駄」



仁を見た4人はそれぞれに発言する。


海はまるで新しい玩具を目にした、子供のような好奇心旺盛な顔を向ける。


里香は色気を振りまきながら馬鹿にしたように見下した。


リオンは卓也の髪をつかみ無理やり顔を上げさせ、嗜虐的な笑みを浮かべる。


さつきは心底興味なさげに告げる。



卓也はおぼろげな瞳でこちらを見つめ全く覇気はない。


完全に心を折られてるようだ。




「お前たちは寄ってたかって一人相手にこんなことして恥ずかしくないのか?こんなこと許されないぞ!お前たちがやっているのは犯罪行為だ!」


「だから何?」


「へ?...だ、だから犯罪行為だから許されないと...」


「んなことは知ってんだよ!それがこの蓮上海に何か関係があるのか?」


「こ、これ以上続ける気なら警察に...」


「勝手にしろよ、何か証拠でもあれば捕まるかもな、まあ万が一捕まったところで親父に頼めばどうとでもなるけどな!ついでに親父に動いてもらうのもいいかもな、お前の親がどんな仕事やってるのか知らねぇが大財閥であるウチの家が圧力かければ家族ごと潰せるだろうし」


「そ、そんな理不尽なこと許されるわけが...」


「許されるんだよ!金、権力、武力があればどんな理不尽でも許される!この世は所詮、弱肉強食強ければ生き、弱ければ死ぬ、そして弱者は一方的に搾取され続けるんだ!おいリオンこの現実知らずの甘ちゃんにお前の武力をもって現実をわからせてやれ!」


「おう!でも俺の喧嘩殺法が英雄様に通じるかねぇ」



リオンは下卑た笑みを浮かべ表情を歪める。そしてゆっくりとこっちへ歩いてくる。


リオンは中3で、すでに180近くの身長がある。


肉体は筋肉質で引き締まっており、ガタイがとてもいい。



小さい頃から空手を習っていたと以前、自慢気に話していたのを教室で聞いた事がある。



それに比べて僕は万年帰宅部で、運動神経がいいわけでもなく、かといって武術の心得があるわけでもない。


どうやったって勝てる相手ではないだろう。


でも逃げる訳にはいかなかった。


ここで逃げてしまえばもう二度と大切な友達の笑顔を見れない気がしたから。



「いくぞおおお!」


「いくってどこに行くんだよ!おら!」


「ぐはっ息がっ」


「まだ倒れてくれるなよっと!」


「がはっちょっまて..」


「誰が待つかよ!タコ」



僕の渾身の右ストレートは空を切り、体を抑えられた後リオン膝蹴りがみぞおちに突き刺さる。


息が止まり、くの字に曲がった体の上から今度は、エルボーが叩き込まれる。


それでもなんとか踏ん張っていた僕の体に、止めとばかりに踵落とし、流れるような一連の動きで僕は完全に地面に平伏した。


そしてリオンは頭を踏みつけながら笑う。



「コイツ雑魚過ぎ、まだ卓也の方が強ぇんじゃねぇか?」


「確かにな、偉そうな口叩いて颯爽と登場したくせにまさかここまで歯ごたえがないとは、とんだお笑い種だ」


「きゃはははw仁君だっさぁ瞬殺とかもうちょい粘ってよーww」


「ふんっ雑魚が、リオンあーしに代わってくれ、ソイツむかつくから焼きいれてやんよ」


「えっまじ?さつきちゃんが直で動くとか珍しいじゃん!」


「いいぜ!こいつつまんねぇから譲ってやるよ、おっと財布は回収しないとな」


「あーしこういう奴一番嫌い、正義感振りかざし、自分こそが正しいと思ってる、そのくせ口先ばかりで何の力もない。昔、あーしに説教かまして、偉そうにのたまってたセンコーと同じ、反吐が出る」


「そーなんだぁちなみにそのセンコーどうなったの?」


「覆面つけて帰り道襲撃してやった。木刀でしばき回してやったら、命乞いし始めた。どこの誰だか知りませんが、お助けください、とかお金なら払います。とか学校で威張り散らしている時とは別人みたいに惨めに、その時の顔今思い出しても笑える。血塗れで顔の原形わかないくらいボコボコ、涙と鼻水でぐちゃぐちゃあまりに醜かったから、木刀で歯全部叩き折ってさらに醜くした」


「きゃははさつきちゃんやり過ぎだよぉ」


「里香には言われたくない、裏で色々してるの知ってる」


「里香ぁ何のことだかわからないにゃー♪」


「海...女は怖いな」


「そうだな...」


「さてこの後どうしようか?」


「うーんそうだな、俺に1ついい考えがある」



海はそう言うと卓也のところまで近寄り、耳元に顔を寄せ悪魔のように歪んだ笑みでそっと囁く。



「おい、卓也聞こえるか?」


「ひ、ひぃぃ...な、何でしょうか海君」


「お前を助けにきたヒーローは身の程を弁えず、あの様だ!みっともねぇよな、あっ卓也が気にする事はねぇぜ、奴が勝手に来て空回りしてるだけだから。そこでだ卓也、お前に1つ提案があるんだが」


「て、提案ですか?」


「俺としてはどれ..いや金蔓は1人いれば充分!これからはあのヒーロー君に頑張ってもらおうと思ってな!お前はできれば解放しようと考えている。そこでだお前さえ良ければこれからは友達として付き合わないか?」


「と、友達ですか?」


「そうだ、あいつらとは縁を切ってこれからは俺たち仲良くしようぜ?」


「で、でも...」


「まあ無理にとは言わない、断るなら今まで通りの関係だ。お前の家族も可哀想なことになるかもなぁ」


「な、なります、海君のお友達にしてください」


「おお、よく言った卓也、これで俺たちはダチだな!さっそくダチのお前に頼みがあるんだが...俺たちと一緒にヒーロー、ボコってくれねぇか?」


「じ、仁君を僕が...」



海が驚くべき提案をする。


それを聞いていた卓也は、顔が青ざめ瞳孔は開き、わなわなと震えだす。


目の前の男は自分を必死に助けに来た友達を痛めつけろと言っているのだ。


そんなの正気の沙汰じゃない、悪魔の所業である、なおも悪魔は囁く。



「別に俺は海道を傷つけたい訳じゃないむしろ救ってやりたいんだ」


「仁君を救う?」


「そうだ!よく見てみろ卓也」



海は仁の方を見て指差す。


そこにはさつきによって、殴る蹴るの暴行でフルボッコにされた挙句、ボロ雑巾のように打ち捨てられた。友達の見るも無残な姿があった。



「これ以上さつきが暴行を続ければ、アイツは間違えなく壊されちまう。さつきは加減を知らねぇからな。だがそれは俺の本意じゃない。俺は金さえ回収できればそれでいい、相手を怪我させれば後が色々面倒だからな。そこでお前の出番って訳だ、お前が奴の心を折るんだ」


「ぼ、僕が仁君の心を...」


「ああ、奴から定期的に金を回収する為には、完全に心を折っておく必要性がある。二度と逆らう気の起きねぇようにな。だが俺たちが多少痛めつけた所で、奴はそう簡単に降参しないだろう。それで元友達であるお前の出番って訳だ」


「で、でも仁君を裏切る訳には...」


「いいかこれは裏切りじゃない。お前が奴の心を折ることで、今の痛みと苦しみから奴を解放してやれる。奴が大怪我する前に救い出してやれる。これはお前にしかできないことなんだ!」


「ぼ、僕にしかできないこと...」


「そうだお前にしかできないことだ!今後、奴に憎まれたり、怨まれたりする事もあるかもしれねぇ。だが今の海道仁を助けられるのは、お前だけだ!自分が泥をかぶってでも元友達である、あの男を救いたい気持ちはあるか?心を鬼にして悪役を演じる切る覚悟はあるか?」


「うん...そうだ..よね...元友達の僕にしかできないことだもんね...ぼ、僕頑張ってみるよ...仁君を救えるのは僕だけ...仁君を救えるのは僕だけ...」


「おう!その意気だ卓也!(ふはは、こんな扱いやすい奴いるのかよ)」



卓也はぶつぶつ独り言を呟きながら、ふらふらと仁の元へ向かう。



「おーいさつき交代だ!」


「ちぇっなんだよ、やっと盛り上がってきたっていうのに」


「まあそういうなよ、これから面白いもん見れんだからさ」


「なになに海君面白いものって?里香ぁチョー楽しみなんだけどw」


「ふはっ海、お前のやりたいことなんとなく分かったぞ」


「それじゃイッツショータイムといこうか」



仁のまえに辿り着いた卓也、それを仁は虚ろな瞳で見つめる。



「た、卓也無事だったのか...ホントに良かった...」


「う、うるさい!うるさい!うるさい!」


「た、卓也?どうしたんだ?何かされてのか?」


「だ、黙れぇぇぇ!!!お前のような役立たずはもう友達なんかじゃない!僕は海君と友達になったんだ!お前のようなゴミ屑はもういらない!!わかったら二度と話かけるんじゃないぞ!この産業廃棄物がぁぁぁ」


「ぐはっ...ぐっ...たはっ...」



すでに満身創痍で転がっているかつての友を何度も何度も踏みつける卓也。


最初は苦悶表情をしていた卓也も、時間経つとともに次第に顔の表情筋は戻っていく。


そして徐々に恍惚とした表情へ変わっていった。



「おらぁぁどうだよ!助けにきた相手に拒絶され、散々甚振られる気分はよぉ(はあー楽しい!楽しい!楽しい!一方的に弱い人間を痛めつけるのが、こんなに楽しかったなんて、知らなかった。自分の感情を押さえつける必要なんて一切なかった。全て解放して良かったんだ...僕は自由に生きて良かったんだ...)」


「脅迫...がはぁ...はぁされてんだよなぁ?...つらいよなぁ...」


「ふふっ何を勘違いしてんのか知らないけど、僕は脅迫なんかされてないよ!むしろ心底楽しくてすがすがしい気分だ、全てのしがらみから解放されたような生まれ変わったかのような」


「た...卓也ぁ...正気に戻ってくれぇ...目を覚ますんだぁ...」


「うっせぇぇボケぇこのカスがぁぁさっさと死ねぇぇぇ」


「てか卓君てあんなキャラだっけ?里香思うんだけど、あれヤバくね?このままじゃマジで殺しちゃうんじゃ...」


「ああ完全に化けたな(壊れたのか?それともこっちが奴の本性か?ふふふまあいい,壊れた玩具だろうと呪いの玩具だろうとどっちにしろ面白れぇ)

おいリオン止めるぞ!さすがの親父でも殺しを揉み消すのは厳しい」


「たくっしょうがねぇ野郎だな!1人で勝手にトリップしやがって薬でもやってんじゃねぇだろうな」


「狂人の戯れ」



この日、世界に怪物が生まれた。



15年間、家や学校で抑圧され続けた少年。


少年は苛められ、精神的に極限まで追い詰められ、果てに覚醒。



彼の歪んだ本性は、理性という名の鎖を無理やり引きちぎり顔を出す。


その顔はひどく醜悪で、万人を恐怖のどん底へ引きずりこむ事になる。



そして彼の暴行を受けてた僕は、完全に意識を落とした...


泥のように深い底なし沼のさらに奥...


光の一切届かない奈落の底で、死神たちの囁く声が聞こえた気がした...

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