絶望の果てに
今日の投稿はここまでです。
日曜日、昨日は戦うことがあんまり出来なかったな。
今日はとことん潜って、レベル上げとできれば、ダンジョン攻略しよう。
そう意気込んで、元気よく家を出発した。
そしてダンジョン内、マッドプラントを倒しながらぐんぐん進む。
階段を見つけて下の階層に降りる。
2階層には来た事無かったが、マッドプラントしか出て来ないので、たいして警戒する必要もない。
攻略は極めて順調だ!
だが階段を降りて、3階層に入った時、事件は起きた。
「シュシュシュシュシュシュ」
「いてっいてっいてっくそっ」
3階層には別の植物モンスターがいた。
名前はリトルスナバコノキ、爆発したように種を飛ばしてくる。
数が多すぎて対処し切れないな。
よし!1度退却だ!うん、命大事に行こう。
僕は急いで階段まで逃げる。基本的に階段は、セーティエリアになっている。
そしてF~Dランクまでのダンジョンは、階段以外にはセーティエリアは存在しない。
Cランク以上になると、10階層おきにあるようだが。
ダンジョン内の魔物は、他の階層に原則、移動出来ない。
なので階段が一番の安全地帯になるのだ。
ただしスタンピート時だけは、勝手が違う。
魔物は、他の階層にも自由に移動ができ、地上にも溢れ出してしまう。
研究者の話では、モンスターを生み出し続ける迷宮を放置することによって、モンスターが飽和状態となり一定の値を超えた時に決壊するとのことだ。
だからこそ国は、民間人にダンジョンを解放し、積極的に冒険者を集める。
そしてその冒険者が全国各地のダンジョンに入る。
冒険者がモンスターを間引くことによって、スタンピートをの発生を未然に防ぎ、被害を最小限に抑えることができるのだ。
閑話休題
階段まで撤退した僕は、昼になったので弁当を食べていた。
今日はダンジョン攻略を考慮して、母さんに作ってもらっていたのだ。
そして作戦を考える...
盾があるなら無理矢理ごり押ししても行けるかもしれないが、今の僕には厳しい。
逃げに徹すればどうだろうか?
横に移動しながら種をかわせば...
そうだ!種をかわしつつ敵の周りを、ぐるぐる回り少しずつ距離を詰めていけば...うん、それなら完璧にかわせるはずだ!
せっかくだし、カッコいい作戦名を付けるとするか。
うーん回る...回転、渦、渦巻き...
よし!オペレーション「ボルテックス」と命名しよう!
そして仁は、リトルスナバコノキにオペレーションボルテックスを発動する。
「シュシュシュシュシュ」
「ふふっ遅い遅い」
渦を巻くようにくるくる回り、射程距離まで近づいたら一気の飛び掛り金蔵バットで撲殺した。
「ふぅ...なんとか倒したけど、近づくまでにかなりの距離走る必要があるな。体力的にかなり厳しいぞ」
そのあとも、リトルスナバコノキを倒し続けた。
5体を倒し終わった所で、バテバテになったので、1度階段まで戻って休憩を取ることにする。
息が整ってきたら、今度は階段の上まで戻ってマッドプラント狩りに戻る。
(今日は悪運スキルを使いたいからAP稼いでおかないとな)
それから夕方まで狩り続けて、階段で一息つきながらステータス画面を開く。
海道仁 16歳 男 レベル:7
職業:なし SP:224 AP:1650
HP28/31 MP24/24
攻撃力:26
耐久力:24
魔防:19
速度:24
感性:23
精神力:27
知力:23
運:292
スキル:悪運 隠密 身体強化 金剛力
装備品:なし
称号:なし
ダンジョンに1日中潜っていたおかげで、かなりのAPを獲得できたようだ。
それでは早速検証を始めようか。
前回はスライムに使ったから、今回はリトルスナバコノキにしよう。
僕は階段を降りて、リトルスナバコノキを狩りに行く。
すぐにエンカウントしたのでボルテックスで攻撃する。
倒しきる前にAPを1650注ぎ込み悪運スキル発動、ドロップアイテムはいつも通りか。
じゃあそろそろアイツが出る頃だな!金色に光輝く...あれ...
僕は驚愕して目を見開いた...
そこにいたのは金色ではなく、禍々しいほどの漆黒。
この世の終わり体現したかのような不気味な容姿で、悠然と佇む絶望だった。
「シュ」
「ぐはああああ」
漆黒のリトルスナバコノキが動き出す。
小手調べとばかりに飛ばした種子が僕の肩に風穴をあけた。
奴とっては、軽いジャブのつもりだったんだろうが、僕はもうすでに重症だ...
それでも僕は走り出す。
もちろん後ろではない横へ!
今コイツに背中を見せ逃げようとすれば、一瞬で蜂の巣にされる。
僕にはその確信があった...
(漆黒のレアモンスターは戦闘力が跳ね上がると聞いていた。
だが、まさかここまで規格外の存在だとは...
この化物相手には逃げることすら許されないのか...戦う?でもどうやって...)
僕は死にもの狂いで思考し、走り出す。
僕がさっきまで居た所に種子の雨が降り注ぐ。
まるでマシンガンの一斉掃射。
物凄い轟音と共にダンジョンの壁は崩れ落ち、すぐに修復を始める。
(あんな攻撃反則過ぎるだろぉぉ!!!
1発でも生身で受けたら一溜まりもないぞ!
上半身に当てれば重症か即死。下半身に当たれば動けなくなり、即座に蜂の巣、どちらにしろ待っているのは死だ)
大量に連射され徐々に近づいてくる無数の種子。
圧倒的な力の暴力を前に仁の顔は青ざめ恐怖する。
それでも彼は駆け出す。
生き残るために、絶対に思考は放棄しない。
(最初の攻撃、ほとんど反応できなかった。
射程距離、連射性、射速、破壊力、全てにおいて桁外れじゃないか...)
僕は全力疾走しながら覚悟を決める。
どのみち体力がいつまでも続くわけ無い、逃げた所でじり貧だ。
だったらやるしかない、オペレーションボルテックスを発動させる。
なんとか少しずつ距離を詰め、金剛力のスキルを使い、敵の隙を突いて金属バットで思い切り殴りつける。
普段のリトルスナバコノキであれば、間違えなく倒せる一撃。
しかし...まるで鋼鉄の塊を殴りつけたかのような感覚。
手は痺れ、危うくバットを落しそうになるがなんとか耐える。
(ぐっなんて耐久力だ、そりゃそうだよなぁ。
攻撃力があれだけ上がっているんだ、他の数値が上がっていない道理はない...
それでもやらなければ、死んでしまう...)
僕は、漆黒のリトルスナバコノキの周りを懸命に走り回りながら、隙を見つけては攻撃を仕掛ける。そしてそれをひたすら繰り返す。
何度も何度も殴りつけるが、効いてるかどうかすらもわからない反応。
まるで終わりの見えないマラソンを、走らされているような感覚。
迫り来る種子、徐々に削られていく体力と精神力。
失っていく血液、終わりの見えない道。
僕は発狂しそうだった...
(怖い怖い怖い怖い怖い怖い死にたくない...死にたくないよぉ...死ぬことがこんなに恐ろしいことだったなんて知らなかった...)
「あ、諦めて...諦めてたまるかああああああああああ」
やけくそ気味に大声を張り上げ、必死に自分自身を鼓舞する仁。
だが、そのむなしい抵抗も長くは続かない...
そしてその時は迫ってくる。
敵の圧倒的な火力に追い回され、すでに満身創痍。
肩からは止まらない出血、速度を緩めれば即座に死という、ギリギリの緊張感と体力の限界。
極限状態の中で、仁の頭の中に浮かぶのは、家族の笑顔と復讐すべき奴らのにやけ顔。
(くそッ こんなところで終わる訳にはいかない...
僕はまだ何一つとして成し遂げてはいないじゃないか...)
纏わり付く濃密な死の気配を振り払い、僕は走る。
一体どのくらい経っただろうか?10分の気もすれば、30分の気もする、はたまた1時間か...もう時間の感覚はない...
すでに限界は、とっくに超え、体は血塗れ汗まみれになっている。
全身は鉛のように重く、つつけば倒れそうな状態の体。
気息奄々、それでも懸命に走るが...
(もう...だめだ...ごめん怜...母さん... )
そしてついに限界は訪れた...
倒れ行く体、手放そうとする意識の中で...
「死ぬなああああああああああ!!!」
「ご主人さまああああああああ」
「いやぁ死なないでぇ...」
遥か遠くで叫んでいる女の子達の声...
僕の意識は一瞬覚醒する。
「ま...まだだあああああああああああああ」
最期の力を振り絞って、敵に飛び掛る。
金属バットを握り締め、全身全霊の一撃、一撃でダメな二撃、三撃、無我夢中でバットを振り下ろす。
(撃ちたきゃ撃てよ!どうせ僕には逃げる力も残っちゃいない...
ただお前も道連れだ!
たとえ体中、穴だらけにされようと、お前だけはあの世へ連れて行く)
永遠にも思える一瞬の攻防、腕に足に腹に何発も種子を食らいながら、それでもバットを振り下ろす。
意識朦朧、息も絶え絶え...
だが血が滲み出るほど、強く握り締めた金属バットを決して離すことはない...
なおも仁は、戦い続けた。
そしてついにその時は訪る。
バットが空を切り、地面を叩く、完全に消滅する魔物。
そしてそこには、2振りの剣が残されていた。
そしてその場に倒れ込んだ仁は、かすれゆく意識の中で、悪運スキルを発動させるのだった...




