立花さんとのダンジョン探索
今日は4月30日、土曜日である。
いよいよ立花さんとのダンジョン攻略、楽しみすぎてあまり眠れなかった。
朝飯を食べながらぼーっとしていると妹が話かけてきた。
「お兄ちゃん何ボケッとしてるの?暇なら買い物でも行こうよ?」
「ばかいえっ今日は大事な約束があるんだ」
「珍しいね、お兄ちゃんが誰かと約束してるなんて、いつも1人でダンジョンに潜ってるだけなのに」
「そ、そりゃあ僕にも約束する相手の1人や2人いるよ」
「ふーん友達ね?...女じゃないよね?」
なんか周りの空気の温度が下がったような...気のせいだよな?
「お、男に決まってるじゃないか」
嘘をついてしまった...なぜかはわからない。
ただ僕の直感がこうするべきと告げてきた。
「そうなんだ...ダメだよおにちゃん。悪いお・と・こに騙されたら」
「な、何言ってるのかわかんないなぁ」
「そお?お兄ちゃんが騙されていいのは私だけだからね!冒険者として稼げるようになったらたくさん貢いでね?」
妹はウインクしながら立ち去る。ふぅ朝からどっと疲れた気がする。
それにしても僕も妹に甘いしけっこうなシスコンだと思っていたけど、妹はそれ以上のブラコンなのか?いや考えないようにしよう。
きっと時間が何もかも解決してくれるさ。
僕は思考を切り替え、ダンジョンに行く準備をする。
庭でしっかりと、ストレッチや準備運動をして、自転車に乗って出発する。
5分前行動を心掛けないとな。
そしてダンジョンに到着して、立花さんを見つけた...と思ったら大学生くらいの4人組絡まれているようである。
「いいじゃん、俺らと一緒にダンジョン探索しようよ」
「そうそう!手取り、足取り、腰取り教えてあげるからさ」
「私、友達と待ち合わせしてるので結構です」
「友達って女の子?それなら大丈夫、俺らがまとめて面倒見てやるから」
「いえ、友達は男なので大丈夫です」
「そんな野郎放っておいて俺らと行こうぜ」
「そうそう、そんな野郎より俺らの方が断然強いから」
「いえホントにいいんで...」
「いいから来いよ!」
1人の男が強引に立花さんの手を取り、ダンジョンの中に連れ込もうとする。
「いやっ止めてくださいぃ」
「ははっ止めてくださいぃだってよ?」
「ふはっ震えてるじゃねぇかwたっぷり可愛がってやるからな」
「おい!お前たちその人に何してる」
「あ”てめぇはだれだ?」
「僕は立花さんの友達だ!」
「か、海道君...」
「あー待ってた友達て、こいつのことか?」
「ははっこんな弱そうな奴待ってたの?ご苦労さんw」
「この眼鏡、ワンパンで沈みそうだな!」
「僕ちゃん、家に帰ってママのおっぱいでもしゃぶっておいたほうが身の為だよ。余計なことに首を突っ込めば大怪我するからね」
「黙れっ立花さんの事は余計な事なんかじゃない!今すぐ彼女を解放しろ!!」
「調子乗りすぎだってめぇ!」
1人の男が殴りかかって来る。
もちろん僕は暴力で解決なんて野蛮な事はしない、もっとスマートに解決する。
け、決して勝てない訳ではないよ?
奴の拳が当たる間際、後ろに飛んで衝撃を殺す。
1発は殴られてやるよ!それと同時に悪運スキル発動APを100注ぎ込む。
「コイツ雑魚すぎ!マジ嗤えるんだけど」
「確かに吹っ飛んで行きすぎだろw」
「海道君!私はいいから逃げて!」
「彼女がこう言ってるぞ!逃げろ逃げろ」
「ああいいぞ逃げても、俺ら追いかけないし。そのかわりこのコは俺らのペットだけどな!」
「首輪つけてたっぷり調教してやろうぜ」
「ふっ...お前らはもう終わりだ」
「なに寝言いってんだコイツ、雑魚はとっとくたばっとけ!」
仁の胸倉をつかんで再び殴ろうと、男は腕を振り上げる、その時、別方向から声が響く。
「こらぁぁお前たち何をしている!」
近くを偶然パトロールしていた警官が駆け寄ってくる。
「げっ察だ!逃げるぞ!お前ら」
「ちっせっかくいい所だったのについてないぜ」
「くそっ覚えてろよ!」
「じゃあなクソガキ」
「お前ら逃げられると思っているのか?」
僕はさらにAPを100ほど、男達に消費して、様子を見る。
すると男達の進行方向にふらりと、綺麗な女の人が通りかかる。
「おい邪魔だ!そこの女どけぇ」
男達は無理矢理、その女の人を押し退けて行こうとするが、一瞬で地面に転がることになる。
当然結果だ!僕はその女の人を知っている。
最近は雑誌やテレビで、よく見かけるしな。
白く美しい肌、綺麗に染められた茶髪に、短く整ったボブカット。
化粧もバッチリしており、真っ赤な紅がひかれている。
耳には大きめのイヤリング。
そして何より胸には立派な2つの隆起、大人の雰囲気を醸し出す綺麗目美女。
彼女は日本にたった3人しかいない圧倒的な存在。
そして、その紅一点Sランクの冒険者である。
日本最強の女性と言われている。
二階堂雫だ!
「女性にいきなり襲いかかって来るなんて、何なのこいつらは?」
「うぅ...くそっよくもやりやがったなこのクソアマぁ」
「あらまだ意識あったの?寝てなさい!」
バコォ
彼女は素早く男の意識を刈り取る。
(ふっ悪運尽きたな!)
僕は急いで、立花さんの元へ駆け寄った。
「大丈夫?立花さん、怪我してない?」
「うん、大丈夫だよ。あっ海道君血が出てる...」
「平気だよ、殴られた時に軽く口切っただけだから。それよりごめんね、こんなことになって...」
「海道君が謝る事じゃないよ。悪いのはあの人達だし...それに助けようとしてくれて、嬉しかった」
「いや僕がもっと早く待ち合わせ場所にきていれば、こんなことにならなかったのに...」
「もうぅネガティブ禁止!」
「でも...」
「でもも、だっても、たらればも禁止だよ!私がいいって言ってるんだからそれでいいの!この話はこれでおしまい。1日はまだ長いんだから気持ち切り替えていかないと楽しめないよ?」
「うん...わかったよ!でもまさかこれからダンジョン潜るつもりなの?」
「もちろん!せっかくここまで来たんだし。それにこれで帰るのはなんかやだっ。あの人たちのせいで予定変えたくない」
「そ、そっか。わかった僕も付き合うよ!」
今後の予定を話し合っていると、4人を捕まえた警察官と二階堂さんがこっちへ歩いてくる。
「君達大丈夫だったかい?」
「はい、1発殴られただけですから」
「そうか...災難だったね。この辺に質の悪い冒険者がいるとクレームがあったのでパトロールを強化していたんだよ」
「そうなんですね、良かったです!捕まって」
警察の人と話してると、横から二階堂さんが告げる。
「私も同じ冒険者として恥じ入るばかりだよ。特にこういう輩は女の敵だからね!」
二階堂さんが心底蔑んだ目で4人組を見つめている...な、なんかオラぞくぞくしてきたぞ(笑)
大人の綺麗な女の人の蔑んだ視線って、くるものあるな...い、いかん深く考えては、この領域は高校生の僕にはまだ早すぎる。
「あなたは大丈夫だった?あいつらに何もされてない?」
二階堂さんは、立花さんに近づき声を掛ける。
「はい、大丈夫でした。海道君が守ってくれたので」
「そうなんだー彼氏くんが守ってくれたんだね」
「か、彼氏...」
「えっ違うの?」
そこで僕は割って入る。
「僕と彼女は同じ学校のクラスメイトで友達ですよ」
「へーそうなんだぁ」
なんか立花さんが睨んでいるような気がするんだが...気のせいだよな?
「Sランク冒険者の二階堂雫さんですよね?」
「やっぱりバレちゃったか、そうだよ。でも騒ぎになるから他言無用でお願いね」
「はい、もちろん。僕は最近Fランクになったばかりの新人冒険者です。だけどいつか二階堂さんみたいな強く立派な冒険者になりたいと思っています」
(そしていずれはダンジョンルーラーになる。それが僕の夢だ)
「そうなんだね、ダンジョンの中は常に危険と隣り合わせで、何が起こるかわからない残酷な世界。それでも君が上がって来るというのなら待っているよ!遥かなる高みでね」
それはまるで全てを見透かしたような目だった。
余裕のある笑みで彼女はそう告げる。
威風堂々としたその姿はとても魅力的でもあった。
その後、彼女は去って行った。
背筋を伸ばし凛とした佇まいで...その後姿はまるで私を越えてみろ!
そう、訴えかけているようにも見えた。
ダンジョンルーラーについて少し説明しておこう。
1つの国に1つ,2つはSランクダンジョンが存在している。日本にも1つある。
そしてその難易度はまさにSランクだ、難攻不落と言ってもいい。
だが放置することはできない。スタンピートが発生すれば、その被害は計り知れないからだ。
そこでSランク冒険者に白羽の矢が立った。
毎年1回、チームを組んで、Sランクダンジョン攻略にあたることになった。
だがSランク冒険者がパーティを組んでも、全滅することがある程危険度が高い。
日本の戦力だけでは足りない。
毎年アメリカのSランク冒険者を2,3人借りることによって、なんとかスタンピートの発生を食い止めているあり様だ。
そこまで危険なSランクダンジョンに、かつてたった1人で挑戦し続けた男がいた。
そして見事に攻略してきた。
ダンジョンルーラーとは、その伝説の冒険者に与えられた呼び名である。
男の名は、鬼堂雅虎。
かつて仁を助けた男で、現ダンジョン協会の会長でもある。
未だに他の冒険が、ソロ攻略に成功した例はない。
仁も含めたソロプレイヤー達の希望の星であった。
閑話休題
警察の人に事情聴取された後、時計を見たら正午になっていた。
立花さんと一緒にお昼を買いに行く。
せっかくだし、藤宮さんのコンビニに行こう。
中に入ると、土曜日だからか藤宮さんは、レジで忙しそうにしていた。
僕と立花さんは弁当を選んでレジに並ぶ。
「結構並んでるみたいだし、会計まとめて払おうよ」
「うん、じゃあ僕が払うね」
「ありがとう、じゃあこれお金」
「はい、確かに」
お金を受け取ったが、立花さんも隣に並んでいる。
「いいよ、僕1人でも」
「ううん、大丈夫、気にしないで」
なぜか立花さんは、にやにやしてる。
そうか親友の藤宮さんと話がしたいんだな。僕は納得する。
そしてやっと順番が回ってきた。
「いらっしゃいませ、お弁当は温めますか?」
「はい、お願いします」
「どうダンジョン攻略は順調に行ってるの?」
「いや、午前中は色々あってこれから潜る予定なんだ」
「そっかー怪我だけはしないようにね?」
その時いきなり、立花さんが腕を組んできた。
(一体何が起こったんだ?...立花さんに腕を取られて...胸の間に僕の腕が...この感触は...おぱおぱおぱおぱおぱ)
「大丈夫だよ!何があっても仁君が守ってくれるから」
「へー2人はずいぶん仲良くなったんだね?」
周りの空気は冷え込み、そこで仁は正気に戻る。
藤宮さんは物凄い笑顔だが、目は全然笑ってない。
「うん!すっかり仲良しになっちゃって、ね仁君」
「いやーまあ普通じゃないかなー」
「2人は付き合ってる訳じゃないよね?」
さらに空気が冷え、僕は身震いする。
あれこのコンビニ空調壊れてんのかな?
「うーんどうだろー?」
「付き合ってないよ!立花さんは友達だから」
「そうなんだ。それじゃあ午後の探索頑張ってね!」
「うん、ありがとう!」
藤宮さんはウインクして見送ってくれた。
店の空調も回復したようだしなによりだ。
隣からは若干、圧を感じるが。
そして近くの公園で、昼食を食べた後ダンジョンに潜る。
それでは恒例のステータスオープンっと。
海道仁 16歳 男 レベル:6
職業:なし SP:157 AP:1030
HP23/28 MP22/22
攻撃力:23
耐久力:21
魔防:17
速度:21
感性:20
精神力:25
知力:21
運:228
スキル:悪運 隠密 身体強化 金剛力
装備品:なし
称号:なし
今週は放課後、毎日ダンジョン潜ったし、1日20匹以上は討伐した。
朝使ったAP差し引いてもAP1000以上残っている。
レベルは上がってないけどな。
金属バット片手にマッドプラントとの戦い方をレクチャーする。
最初は梃子摺っていた立花さんも日が沈む頃にはかなりいい動きになっていた。
僕は後ろから指示をしたり、アドバイスしていただけなので、一切モンスターを倒していない。
まあ立花さんのレベルを3まで、上げることが出来たので、よしとしよう。
そして立花さんのステータスを見せてもらった。
立花涼子 16歳 女 レベル:3
職業:なし SP:45
HP14/20 MP 25/25
攻撃力:12
耐久力:15
魔防:18
速度:13
感性:14
精神力:16
知力:17
運:15
スキル:魔女の寵愛 身体強化
装備品:なし
称号:なし
なんと立花さんもユニークスキルを持っていた。
その効果は強力で、魔術師として育って行けば必ず大成するだろう。
それにMP、魔防、知力の値が総じて高い。
魔術師としての適正がそれだけ高いということになる。
スキル:魔女の寵愛
自身に対するあらゆる魔法の効果半減させる。またあらゆる魔法攻撃の威力を2倍にする。
そしてその帰り道
「今日は私に付き合ってくれてありがとね」
「気にしなくていいよ。レベルが低いうちは危険だからね」
「うん...それでね。もし良かったらまた一緒に潜りたいなって...」
「もちろんいいよ!レベルがある程度、上るまで付き合うよ」
「ありがとう...ホントは今朝あんなことあって少し怖かったんだ...」
「無理もないよ...でもだからこそ強くならないとね!」
「そうだね!次あんな奴らが来たら、私がコテンパンにしてやる」
「程々にね、それと僕から1つ聞きたかった事があるんだけどいいかな?」
「うん、いいよ」
「学校では僕の事、海っちて呼んだり、ギャルっぽい感じがしたんだけど今と印象が違うなって思って」
「ふふっ海道君にはもう格好悪い所見られたし、無理してキャラ作る必要ないかなって」
「ああ、そうだったんだ。でも無理してキャラ作りする必要ないんじゃないかな。立花さんは今のままでも十分魅力的だし」
「もうっ...海道君のバヵ...とにかく女の子には色々あるの!このことは2人だけの秘密だよ?」
「わ、わかったよ」
その後、2人で駄弁りながら、のんびり家へと帰るのだった。
~立花涼子 視点~
今日は待ちに待った冒険者デビューだ。
ずっと楽しみにしていた。
少し怖いけど、海道君と一緒なら大丈夫だよね?
ちゃんと守ってくれるよね?
私は期待と不安を入り混ぜ、ダンジョンへ向かう。
海道君を待っていると、へんな男達に絡まれた。
いつもは変なナンパ野郎なんてシカトして終わりだけど。
ここで待ち合わせしてるし。
この人たち冒険者みたいだったから、一応対応していたら。
いきなり強硬手段に出てくるなんて...
でも私が絶対絶命の時、その人は現れた。
私のために本気で怒ってくれた...
連中に立ち向かって行ってくれた...
私と同じで冒険者なりたてのはずなのに...
相手は4人で勝ち目なんかないのに...
私は無力だった。そして
私は勇気のある彼に見入ってしまった...
海道君は、殴られて吹き飛ばされてく...
私は咄嗟に叫んでいた。
逃げてと...でも彼は逃げなかった...
あの時の海道君、格好良かったな。
紫苑が気にしていた理由が何となくわかったよ。
そのあとS級冒険者の二階堂雫さんに助けられた。
あの人が日本で1番強い女性か...
あっと言う間に悪漢達を倒しちゃうし、強かったな。
私も強くなりたいな。そしていつかは...
きっとこの気持ちは、恋ではなく憧れなんだろう。
私は海道君に情景の念を抱いている。
私も海道君のような勇気ある冒険者になりたいと。
だから紫苑、今だけはいいよね?
少しからかうくらいは許してね!
大丈夫、あなたの大切な人をとったりしないから...




