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8892日:いかなる激戦であっても人づてに聞いた話の中ではイメージがしにくいのだが私小説に記す分にはむしろ楽

この物語は実在の人物や国家、宗教とは無関係です。

 議事堂脇の芝生で倒れているところを発見された時、すべては終わった後だった。もしも僕が寝ていたのが一晩ではなく、3年ほどであるとしたら、そのミナの数字が1000ほど減少していたことに納得ができたのだが、どう見たって僕は一晩眠っただけだった。


「事情を聞くのは誰からがいいかな。まぁ、こういうところでは真面目なケニスにお願いしますか」


 ケニスは、あぁ、と頷いて、あれから後に何が起きたかを語り始めた。


「なんじゃと!? リューカのギルドが!? リルム、お前、そんなことどこで知ったのじゃ!」


「そ、その! 友達のお兄さんに教えてもらって!」


 どう見ても嘘であり、僕がそれを教えたこと。そして、リルムが何か己の中の正義感めいたものを持って、僕を止めたのだということは、この時既にケニスは理解していたらしい。その言葉にリルムは一度驚いた後に、顔を真っ赤にしつつ頭を隠した。


「ええい! 詳しい話は後じゃ! クーデターは明日なのじゃろ!? ならば、止めるなら今しかないということではないか! ミナ……はもうおらんか。毎日の定時退社ご苦労なことじゃな!」


「それを言うなら、サービス残業してる俺の横で、まだ食っちゃ寝していたケニス師匠の方がご苦労なことだと思いますけどね」


「たわけ!」


「ノルのやつはどうした?」


「あ! えっと、その、えっと……あー……」


 横から口を挟んだカロルの言葉で、この時やはり既にリルムが何か己の正義感めいたものでもって「やらかした」ことに、カロル自身も気付いていたと補足が入った。なお、その補足の時点でリルムは泣き出しそうな表情でカロルの胸をぽかぽかと殴りつけていたことも今僕の口から補足しよう。


「探す時間もないじゃろう! 3人で止めるぞ!」


「仕方ない。そうしますか」


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


 それで、結局ミナが合流して、4人で戦闘に入る。ミナはその時「致し方なく」魔法を使った。そうでしょう? と聞いた僕に、ケニスは首を振る。この後、3人でギルドハウスに向かう道中に、3人の前に立ちはだかった者がいたのだという。まさか、と問う僕に、ため息をつきつつ続きが語られた。


「こんばんは。こんなもう定時は過ぎたと思うけど、お仕事お疲れ様」


「こんなところをうろついていたとは都合がいいなミナ! リューカのギルドハウスに行くぞい! お前も来るのじゃ!」


「嫌」


 そういうことかぁ、と僕は頭を抱える他なかった。冷静に当たり前な分析をすれば、こうも後に傷跡が残らないように調整されながらぼろぼろになっていたカロルと、お気に入りの一張羅が龍化によって失われ今は適当な着物を羽織っているだけのケニスの現状から推理はできたはずなのに。つまり、この後。


「事情があるのじゃ! 説明させよ!」


「なんとなく想像はできるから必要はない。その上で、私はノルによって、『勇者ノルと魔道士ミナ』の連盟で誓いをたてさせられている。私は、その誓いを」


「ミナさん! やめてください!」


「守る」


 それからはもうひどい話だった。数で言えば3対1。お互い、致命傷はもちろん、後に残る傷を作らないという条件。それでなお、完全に3人はミナ1人に弄ばれたというから茶番にしかならない。決死の龍化も、当たり前のように受け流され、そして結末がまた最悪だった。


「やめて。これ以上傷つけたくない」


「俺たちも戦う気はないんだけどなぁ! お前さんが引いてくれれば終わる話なんだけどなぁ!」


「引かないけど」


「あぁ知ってました! そういう人ですよね天才様は!」


 そう茶化し合いながらもケニスの爪と尾を飛翔技術と物理障壁魔法で受け流し、ブレスはピンポイントで同属性魔法で(それとも同威力で)相殺する。リルムが必死で涙の訴えをしつつもちゃっかり回復魔法はかけてくるのだが(なお、これによりカロルもケニスも倒れるに倒れることができない生き地獄拷問状態だったと後に証言することになり、リルムはコメツキムシのように頭を下げるのだったが、さておき)これもある意味で狂った天才様を止める決定的説得には程遠く。最終的には「あ」と気付いたその天才様が。


「どこを狙うておるのじゃ! 狙いが甘いぞ! ミナ……あ、ああああああああ!?」


 自分は龍神の体を狙いました。その結果「たまたま」逸れた魔力弾が、たまたまリューカのギルドハウスの武器庫に着弾し、武器の類だけきれいさっぱり消滅させました。私は約束を破っていません。そういう体裁で。


「って、通るかぁ!」


 自分の命を3年ほど使ったボケに入れるツッコミは、かくも虚しかった。


「3人との戦闘もだけど、ピンポイントで座標を自動計算する術式をその場で組んで、かつ、『もしも武器庫及びその周辺に人がいた場合』着弾しても爆発しないという条件を含めた重力魔法の詠唱には、さすがにだいぶ使うことになった」


 すごいことはわかる。わかるが、そうじゃなかった。はぁ、とため息をついた後で、僕は、なんといえばいいのかフレーズを探しながら言葉を紡ぐことになるのだが。


「……その時間は僕の物だ。それを勝手に使うな。そういう論が通らないことはわかった。なので、聞かせてくれ、ミナ。君にとってこの1039日は、意味があるものなのか」


「ある」


 即答。


「それは実際に1039日、平穏な暮らしを送ることよりも尊いものなのか」


「尊い」


 即答。(8秒振り、2回目)


「なら、僕やみんなの悲しみを、君は無視するのか」


「……それは」


 即答できず。


「わからない。ごめんなさい」


 そう頭を下げられたので、話を終わりにするしかなかった。


 少し、後日談を語ろう。結局、リューカにすべての事情を説明することになったのは、元彼氏としてのカロルの仕事になった。自分がいかに世間知らずだったのか。プライドの高い彼女も、さすがにこうも利用されきった現実を突きつけられると、何も言えず、ただ一晩中カロルの胸の中で泣いていたらしい。なお、その「一晩中胸の中で泣く」というのが、そのままの意味なのか、それとも、何かの比喩表現なのか。それはまだここに至って、ミナとも、リルムとも、それどころか、女の子と手を繋いだこともない僕には、理解が遠い話だった。


――彼女が死ぬまであと8892日

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