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漂流少女  作者: 真心
8/31

7章 出発

「準備はいいか?」


それが健さんの最終確認。


みんな黙ってうなずく。


あたしも準備オッケー!


顔は洗った。 寝グセも直した。


昨日の夕方、女3人で一緒に水浴びに行って体もサッパリ。


ただ、水を浴びたら想像以上の日焼けで首筋がヒリヒリ・・・・・・・


疲れたら杖にも使えるという便利アイテムの槍は手にしっかり握ってる。


肩から下げたリュック代わりのあみには振り分けた食料が入ってる。


水漏みずもれ確認オッケーの水筒には川で汲んだ水がたっぷりと入ってる。


それらは全員が身につけてる。


『健さんブランド・Tシャツ製の地図』 は当然、健さんが持ってる。


まず島を1周した時の記憶を辿たどって島の形を書き、小屋の場所、これまでに通った場所をできるだけ詳しく書き込んだその地図は健さんの傑作けっさく


地図を見ながら、まだ通ってない場所から回って地図をどんどん埋めていくのは健さんの仕事。


つまり、健さんが唯一のナビゲーターってわけ。


まだ薄暗いうちにみんな起きて朝食を済ませて準備したから、まだ太陽も昇ったばかり。


みんなめっちゃ気合い入ってます。


運良く今日も天気は快晴。


いよいよ今日から島の探索に出発ってわけです。


「じゃあ行くぞ、はぐれるなよ。」


当然、ナビゲーターの健さんを先頭にして進む。


「しゅっぱぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっつ!!」


と、気合い入れて叫ぶヨシアキ。正直うるさい。


だけど彼のキャラ的に、そこら辺はみんなもうあえて言わない。


「ハルちゃん、また海が見れたらいいね。」


「だね、順ちゃんも海好きだもんね。」


珍しく順ちゃんから声をかけてくれた。


あたしへの呼び方が変わったのは昨日の夜から。


夕食の時みんなでワイワイ騒いでたら、いつの間にかマコトさんが呼び易いからって 『ハルちゃん』 になった。


その時から、ヨシアキも順ちゃんもそう呼んでくれるようになった。


あたし的には友達からもそう呼ばれてたし、しっくりくるから全然問題なし。


海は初日に1度見ただけのあたし。 確かにまた見たい。


順ちゃんはあたしが来る前と、昨日ヨシアキと一緒に行った2回だけ。


お互いに海が好きだから、よく話題に出てた。


健さん的には、まだ行ってない場所を全部回りたいわけだから、海岸は出る事ないかもしれないけど・・・・・・


進む道は延々(えんえん)と森ばかり。


「道なき道を進む」 って程でもないけど、たまに大木の根っこが広がってて足場の悪い場所も結構あった。


気を抜いたら転んじゃいそうだ。


出発してすぐはみんなよく喋ってたけど、徐々に疲れてくると無言が多くなる。


でも、どこまで同じような道が続くか分からないこんな状況だと、気がまぎれるようにお喋りも大事なんだなってつくづく思った。


「あれ、健さんこっちって・・・・・・・」


突然足を止めたヨシアキがちょっと不思議そうにしてる。


「ああ、もうすぐ海岸だ。」


!!


いきなり海岸!?


「森を突っ切るつもりだったが、そっちの方が気がまぎれるだろ。」


なんと、それは健さんの心遣こころづかいだった。


それを聞いたあたしと順ちゃんは2人で小さくガッツポーズ!


また海が見られる〜!! って気分だけでこんなにも足取りが軽くなるもんなのね。


「海岸って、もう通った場所だけどいいの?」


ささやかな優しさと分かっていながらも、確認の為なのか念を押してみたという感じのヨシアキ。


「海岸付近を進んで島の反対側まで行き、そこからまた森に入れば問題ない。」


「なるほどね。」


健さんの気配り上手さは理解したよ、と言わんばかりの表情で納得したヨシアキ。


「遠回りにはなるが、ずっと森ばかりじゃ気が滅入めいるだろ。」


健さん万歳ばんざい! それはみんなが疲れてるのを考えてくれた、ただの気配り?


もしかして 『海が見たい』 ってあたし達の気持ちを見抜いてくれた?


それとも、出発してすぐの順ちゃんとの会話が聞こえてた?


いずれにしても、このさりげない優しさ。


これならマコトさんが健さんに惚れてるんだとしても納得いくよ〜! 応援だってしちゃうかも!


人は見かけによらないもんだね、うんうん


健さんの指示する方向、そっちに向かえばもうすぐ海岸が見えるはず。


嬉しくなったあたしと順ちゃんはつい早足になって、前を歩く健さんをそのまま抜かすとさらに少し前まで出た。


つねに前方を気にしながら順ちゃんと2人で意気揚々(いきようよう)と突き進む。


「2人とも、急に元気になったわね。」


出発してからずっと最後尾さいこうびを歩き、ずっと無口だったマコトさん。 笑顔を見たのもちょっぴり久しぶり。


「えへへへ、だって海ってテンション上がるもんねっ、順ちゃん。」


「そだね、ハルちゃん。」


2人で顔を見合わせる。


その様子を微笑ほほえましく見守ってくれてるマコトさんが、後方から健さんの位置まで

追い付いて来たのをあたしは見逃さなかった。


健さんに小声で何か言ったようだけど、前に出てたあたしには聞こえない。


「先に行ってもかまわんぞ、そろそろ見える。」


後方からの健さんの言葉で、あたしと順ちゃんの足取りは自然とまた早くなる。


延々(えんえん)と立ち並ぶ木もついに途切れ、ようやく森の終点を確認できた。


見えた! 海!!


遠くまで真っ青に澄み渡ってる。


天気がまたいいもんだから、海面かいめんが遠くまでキラキラ光ってる。


「順ちゃん! 砂浜まで競争しない?」


「え・・・・・・・・うん、いいけど。」


まだここに来てすぐの時、マコトさんに連れて来てもらったこの海。


あの時の目的は、ここが島だっていう事の 「確認」 の一端いったんに過ぎなかった。


その初日しょにちに見た海と同じ物なのに、今日はずっとキレイに見える。


理由はきっと簡単だ。


3日目にして早くもみんなと馴染なじんだあたし。 ここでの生活にも少しづつ慣れてきた。


色々と話せる友達もできて一緒に来てる、 あの時とは気分も状況もまるで違う。


そりゃあ海だって、キレイに見えるよね。


「じゃあ行くよ! 荷物はここに置いて!」


後ろから健さん達が来るから問題ないと思って、槍と食料と水筒を地面に置いた。


「・・・・・・え・・・・・・・・・・あ・・・・・ここに置くの・・・・・・・・?」


「よーーーーーーーーーーい・・・・・・・・・ドンッ!!」


みずからの合図でいきおいよく走り出す。


急に言われて戸惑とまどった順ちゃんも、急いで荷物を置き走り出す。


スタートから数秒であたしはもう全力疾走しっそう。 減速覚悟でチラッと振り返ってみると、まだ随分ずいぶんと後ろを走る順ちゃん。


「ま、待ってよー! ハルちゃんのタイミングなんて・・・・・・ずるいーーーーー!」


「アハハハハ! ごめーーーーーん!!」


精一杯の声をお腹からしぼり出し、必死であたしの後を追ってくる順ちゃん。


順ちゃんのこんな姿は他の3人も今日初めて見たはず。


この光景を見て一体どう思ってるだろう。


全速力で走りながらこんな事を考えてるあたしはちょっと意地悪いじわるでしょうか(笑)


でも考えてみれば、あたしだってここに来てからまだ見せたこともないくらい、充分に羽目はめを外してる。


ま、今は後ろのみんなにどう思われてるかより、もう前の海しか見えない。


砂浜へのコースはなだらかな下り坂になっていたため、あたしの全速力は更に加速した。


こうなるとブレーキもそう簡単にはかない。


なりふりかまわず走り続け、ついに両足が踏む大地の感触かんしょくが変わった。


砂浜に到着!!


ザッ


転びそうになりつつも何とか少し減速し、完全に止まるため砂の上にひざをついた。


「はぁ・・・・・・・・はぁ・・・・・・・・・・順ちゃん遅いっ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・よよ!?」


ダントツの勝利だと過信かしんして後ろを見たあたしに、衝撃的しょうげきてきな光景がせまっていた。


「ハルちゃん危ないいいい! どいてええええええ!!」


ちょ! ええええええええ! 近っ!!


猛烈もうれつな勢いであたしに向かって直進してくる順ちゃんはもう目の前まで来てた。


もう両者とも回避不可能かいひふかのう


「わわわ!! 無理無理無理いいいいい!」


ドサッ


『キャッ!!』


2人の悲鳴ひめいが重なった。


ぶつかる瞬間、せまり来る順ちゃんに向けて両手を差し出したあたしはその体を受け入れ、衝突しょうとつの勢いから砂の上を2人重なって転がった。


そうは言っても砂の上、殺された勢いは2人の体をすぐに止めてくれた。


砂浜で腹這はらばいになるあたしに対し、天をあおいで大の字に横たわる順ちゃん。


「はぁ・・・・・・・はぁ・・・・・・・ごめんね・・・・・・・・・大・・・・・・丈夫?」


「・・・・・・・・うん平気、順ちゃんは?」


「大丈・・・・・・・夫・・・・・・・はぁ・・・・・・・はぁ」


あたしに反応して咄嗟とっさに順ちゃんも手を出してくれたことで、腕を組み合った形で転がった2人。 お互いに痛みもケガも無かった。


「フフ・・・・・・・・・アハハハハハハハ!」


急に笑いが込み上げてきた。


「・・・・・・・・どうしたの?」


不思議そうにあたしの顔を見る順ちゃん。


「ハハハ・・・・・・・・! だってさ、順ちゃん思ったより早いんだもん。」


本当に早かった、かなり距離きょりはなしたと思ってたのに、気付けば目の前なんだもん。


「後半から本気になっちゃった・・・・・・・高校のとき陸上で短距離たんきょりやってたから。」


「え、元陸上部!? どうりで早いわけだ・・・・・・・・」


順ちゃんの雰囲気ふんいきから元陸上部とはさすがに想像できなかった。


「しかも負けず嫌いなの。」


そのセリフを聞いてあたしは思った。 『人は見かけによらないもんだね』


・・・・・・・・・・・あれ


これ前にも、どっかで言ったような気が。


「おーーーーーい!! 大丈夫!?」


森の方からヨシアキが勢いよくけて来る。


さっきのを見てた3人は一体どう思っただろう、今更だけどちょっと恥ずかしい(汗)


「平気だよ〜」


先に答えたあたしは身体からだを起こし、顔と髪についた砂を払った。


順ちゃんが何故かすぐに答えない事はあまり気にならなかったけど、その時ふと思った。


あたしより、きっと順ちゃんの方が恥ずかしいかもしれない。


「はぁ・・・・・・・・・はぁ・・・・・・・・・ふぅ・・・・・・順ちゃんは!?」


近くまで来て歩み寄るヨシアキは、もうあたしの方を全く見ていない。


自分に向けられた視線に気付いた順ちゃんが、あせってその身体を起こした。


「え・・・・・・っと・・・・・・・・・大丈夫」


その表情にはかすかに照れ笑いが見え隠れする。


やっぱ恥ずかしいよね、 こんなところ見られたら。


無事ぶじを確認しつつも、迷わず順ちゃんのもとへ近付くヨシアキの表情はみょうに男らしく見えた。


「砂、いっぱい付いてる。」


「え・・・・・・あ・・・・・・・・・・」


頭に付いた砂を優しく手で払われた順ちゃんは、顔を赤らめてうつむいてしまった。


あれ、何この雰囲気。


しばらくその光景を黙って見てたあたしは、何かに気付いたように目をらした。


これはいいムード、邪魔しちゃいけないのでは・・・・・・・・・


いまだに泳ぐ目線の置きどころを見つけたのは約7秒後。


砂浜に残る自分達の足跡あしあとの先に、健さんとマコトさんの姿が見えた。


あたしと順ちゃんの荷物を持って、早足はやあしでこっちに向かって来る。


やっぱり2人にも心配かけちゃったのかな。


お、怒られるかも・・・・・・・・


立ち上がっておしりの砂を払い、この場から逃げるようにして2人の方に歩み寄る。


「ごめんなさい、調子に乗っちゃいました。 2人とも無傷むきずです。」


聞かれる前に報告ほうこく。 素直に頭を下げる。


元はと言えば自分が 『はしゃいだ』 せいだもん。


「もぅ・・・・・・・すっかり青春しちゃってさ。 でも、ケガも無くて良かった。」


ニコッと笑うと、まだ服にも付いてた砂を払ってくれるマコトさん。


優しいお姉ちゃまん、ニャンっ♪


「ケガしたってここじゃまともな手当てなんか出来ないんだ、気を付けろ。」


相変わらず顔は怖いけど、さほど怒ってる訳でもない健さんはあたしの荷物を手渡してくれた。


「すいません。」


なんかお父さんみたいだな、健さんって。


お二人の温かい対応に感激かんげきしながらもちょっと反省中のあたしは、あおってしまった順ちゃんにもちゃんと謝っておこうと思った。


「あれって・・・・・・・・・どう思う?」


あたしが振り向くより前にそっちを見てたマコトさんが呆然ぼうぜんとしてる。


見ると、順ちゃんのかたを支えて立ち上がらせたヨシアキがその服の砂を払ってあげている。


うわ・・・・・・・・・なにまだこのムードですか


「いや、あれはなんていうのか・・・・・・・・・よく分かんない」


そうとしか答えられないよ。


その時、あたしの耳元みみもとに顔を近づけてきたマコトさんがボソッとささやいた。


『昨日から急に親密しんみつじゃない? あの2人』


そのままの距離であたしも囁き返す。


『そうみたい、ここはそっとしておいてあげた方が』


マコトとハルカの囁き合戦、ここに開幕かいまく


『そうね、ヨシがあんなシリアスな顔してるのはちょっとムカつくけど・・・・・』


『ムカつかないであげて下さいってば。』


『だってさ、あいつ私にはボロクソに言うんだよ? ほら、あれ見てよあの気取きどった顔・・・・』


『あれは気取った顔って言うか、真顔まがおと言うのでは・・・・・』


『私に対してあんな顔するのはバカにする時だけよ?』


『まぁ、マコトさんをしたってるから逆にそうしちゃうのかも?』


『んなわけないわよ! にくしみしか感じられないわ!』


「・・・・・・・・・・」


『そんなことないですって』


『うわ、見て! 見つめ合ってる! 順ちゃん、ヨシなんかのどこがいいのかしら』


『でも見た感じ2人はお似合いだと思うんだけどなぁ』


『ダメよ、世の中は見た目にまどわされてはいけないのよ』


『そのセリフって、こうゆう時に使うもんでしたっけ』


『そんなこと分からないわ、記憶が無いもの私』


「・・・・・・・・・・・・・・おい」


『あ、ずるい。 こうゆう時だけ記憶喪失きおくそうしつ特権とっけん使うんですか』


『特権ってなによ(笑)』


『とにかく、ここは温かく見守るべきでは』


『あぁぁぁぁぁ順ちゃんには悪いけど、邪魔じゃましてやりたいわぁぁぁぁぁ』


『お願いだからやめて下さい』


『でもさ、男の子が全然いないこんな場所だよ? 順ちゃんだって目を覚ました方が・・・・・』


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・おい」


『こんな場所だからこそ、真実の愛が芽生めばえてですね・・・・・』


『こんな場所で芽生えちゃったらダメでしょ・・・・・』


『・・・・・・・あ』


『・・・・・・・・・・・え』


囁き合戦、ここに閉幕。


2人同時に、立ちくす健さんの顔に目をやった。


「やめろ、そろそろ」


あきれ返った健さんの顔にもはや生気せいきが感じられない。


もう怒る気力も失せたって感じなのか・・・・・・・・・結果オーライ? んなわきゃない


その後しばらく、マコトさんもあたしも自重じちょうしてたのは言うまでも無い。


「ここでもう少し休んどけ、休憩が終わったらこの海岸沿いを数時間は歩く。 覚悟しとけ。」


誰にでもなく、全員に向けて言った健さんのその口調くちょうはいつもと何も変わらない。


ただ、その表情のほんのわずかな違いにあたしは気付いてしまった。


見たことのない表情で、ちょっとゾクッとしちゃう感じ。


まぁほんの一瞬だったし、気のせいかも。


他の誰も気付いてないし。


完全に 『2人だけの世界』 に入ってた順ちゃんとヨシアキ。


文字通り、全く周りが見えてなかった2人は健さんの一声ひとこえで我に帰り、顔を真っ赤にして動揺どうようし始めた。


それを見てるはずのマコトさんは、自分の恥ずかしい所をまた健さんに見せてしまったショックのせいか、2人の恥じらう反応を気にもしない。


この場で冷静に周りが見えてたのは、きっと健さんとあたしだけ。


考えて見ればこの時からだったのかもしれない。


運命の歯車はぐるまが少しづつくるい始めてたのは。



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