6章 探索準備
なんて静かな朝。
通勤時間かなんか知んないけど家の前をブンブン通ってくやっかましい車の排気音がしない。
弟が部屋のドアをドンドンドンドン叩かない。
しょーもない用事で今まであいつに何度そうやって起こされたことか。
お母さんも 「遥ー!! 早く起きなさーいっ!」 ってそりゃもうおっきな声でいつも起こしに来る癖に、今日は来ない。
ん〜あたしゃこの時間がやっぱ1番幸せかも〜
あったかい布団に包まれてゴロゴロ寝返りうってゆ〜っくりと・・・・・
あった・・・・・かい・・・・・・・・ふとん・・・・・・・・・・・・・あれ
・・・・・・ふと・・・・・ん・・・・・・・・んんん?
ちょっ
どこにも無い! あたしの布団が無い!! 布団ドロボー!?
よ、よし・・・・・・布団を求め、寝返りでいざ進む・・・・・・・ベッドから落ちる事など私は恐れないのだぁ
ゴロゴ・・・・・・・ツゴツ
ゴツゴツ
いやゴツゴツって
い、痛い痛い・・・・・・下がなんか硬い
脇腹が痛い(泣)
???
パッ
目を開けた。
その瞬間のあたしの目は気味の悪いぐらい大きかったと思う。
真上を凝視したまま瞬きを素早く2回。
知らない、こんな天井。
「んあ・・・・・・・むにゃ」
思わず変な声を漏らした。
そうだった、部屋じゃないんだ。
よく覚えてないけど、変な夢を見たせいか寝ボケてた。
やっと理解して、周りを見る。
うん、天井以外は見覚えある。
順ちゃんは隣で丸くなって眠ってる。
先に寝てたのに、昨日あたしが寝る時に起きてくれて、ちょっとお喋りしてくれた。
反対側にはマコトさん、寝顔まで美しい。
こんなに美人なのにあのブッ飛んだキャラで超お茶目。
部屋の隅には健さんが。
あんなに隅っこで寝てくれてるのは女の子に対する気遣いなのかな。
底抜けに無愛想なんだけど結構イイ人なんだよね。
あれ。
ヨシアキがいない。
もう起きてるなんて、イメージに合わないよ。
ヨシアキは最初に出会った人だけど、他のみんなと合流してからはちゃんと喋ってないかも。
あ、怒鳴りつけたけど(笑)
結果的に嘘ついてなかったし、あたしを気遣いながらここまで連れて来てくれた。
あいつもイイ奴なんだよね。
とりあえず目が覚めちゃったし、外に出てみよっと。
バサッ
蔦に草を編み込んだドア代わりの幕を開けると、思わず眉間にシワが寄る。
んー眩しい
でも、気持ちがいい。
昨日の昼間はポカポカ陽気で気持ち良かったけど、朝は朝で涼しくて気持ちいい。
まず大きく深呼吸。
なんか、キャンプの朝みたいだなぁ
こうゆう時ならラジオ体操ってのも悪くない気がするな。
そういえば、ヨシアキはどこだろう。
顔でも洗いに行ってんのかな。
どうしよう。
たしか・・・・・・ケンケン6ヶ条によると健さんが起きる頃には起きないとダメなんだっけ。
って、いつ起きるんですか健さん。
まぁ眠くないし、もう起きてよっと。
寝過して健さんに叩き起こされる (あたしの想像) なんてヤダ。
よし、やっぱまず洗顔。
「・・・・・・・・」
ああああああああああ
洗顔クリームがほしいいいいいいい
歯ブラシと歯磨き粉もほしいいいいいいいい
クシがほしいいいいいいいい
着替えたいいいいいいいいい
別に厚化粧じゃないけど、すっぴんとかヤダあああああああああ
マコトさんも順ちゃんもすっぴんだけどさ。
だけどさ。
ここに来て1番驚いた事ってもしかしたら・・・・・・・
すっぴんであんなに可愛い人がこの世に2人も存在するって事 ←断言
神様って不公平です、本当に。
「はぁ・・・・・・・」
仕方ない、おとなしく顔洗いに行けばいいんでしょ、行きますよ、行きます。
「キィィィーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
天に向かって両手を掲げ、何かをぶちまけてしまった。
落ち着け、落ち着くんだ、あたし。
「何やってんの?」
!!!!!
だあああああああああああああああああ!!み、見られたああああああああああああああああ!!
前から歩いてきたヨシアキがポカーンってこっち見てる。
「い、いや・・・・・その・・・・・・・・・」
最悪だ、最悪だ、最悪だ、最悪だ、最悪だ、最悪だ、最悪だ、あたしのバカバカバカバカバカ
恥ずかし過ぎる・・・・・・・
「おはよ、早いね。」
あんた、普通に挨拶に移行しますか・・・・・・この状況で。
「お、おはよう」
まるっきり棒読み。
「ほんと遥ちゃんって面白いよね〜」
涼しげな顔で言うなよコノヤロウ。
「いやあれはそのなんというかさけびたかったきぶんで・・・・・・」
あう・・・・・・・・アタマ使わず喋ってるよあたし
「まぁ分かる分かる、ここなんも無いから女の子は大変だよね。」
「あーーーーうん! 全くその通り。」
拙者の心を見抜かれておったか、お主やりおるな。
「オレ顔洗って来たんだ、遥ちゃんもどうぞ。 タオル無いけどね。」
濡れた顔でサッパリしてるヨシアキは妙に爽やか。
そのまま小屋の方に戻ってった。
あうううううう・・・・・・・朝からいきなり恥かいた・・・・・・・・
空は快晴なのに、あたしの気分は曇ってどんより。
気を取り直して、洗顔、寝グセ直しに向かう。
濡らした跳ねっ毛を手クシでとかしながら戻ると、ヨシアキが 「食事広場」 で座り込んでる。
どーしよ、ものすご〜く気まずいんですけど。
「あ、おかえり〜」
あらま、気付かれちゃった。
「何してるの?」
仕方ないから、ヨシアキに近付いてく。
「火種を大きくする準備してる、ご飯の為に火だけ熾しとこうと思ってさ。」
「・・・・・・いつも早く起きてやってるの?」
「いや〜今日はたまたま早く目が覚めたから。」
板みたいな薄い木に棒を押しつけ、回転させて火を熾す方法。
テレビとかで見たことあるけど、実際やってるのなんか初めて見る。
昨日の夜もチラッと見たけどヨシアキは手際よくやってた。
「スゴイね、そんなの出来るなんて。」
ちょっと感心した。
「健さんがね、コツ教えてくれてさ、それから上手くなった・・・・・・・よっと」
その素早い手つきで早くも煙が出始めてる。
「健さんって、何でも知ってんだね。」
「ほ〜んと物知り博士だよ、これは錐揉み式火熾しって言うんだって。」
へー・・・・・・・
「あ、そうそう」
手を止めたヨシアキが、何か思い出した様にこっちを見た。
「昨日さ、健さんと相談してたんだけど明日から島の探索に行くかも。全員で。」
「・・・・・・探索?」
「うん、まだこの島の半分も回れてないんだよ。」
ヨシアキに 「島」 と言われて、改めて奇抜な話だと実感させられる。
「5人も集まったし、そろそろ本格的に全部見て回れるかもってさ。」
そろそろ?
「なんでこれまでは無理だったの?」
「んとね・・・・・・・」
火種を作り、火を熾し終わったヨシアキは順を追って詳しく説明してくれた。
まず健さんがまだ1人の時、彷徨いながらずっと探索してたらしい。
でも、慣れない場所、慣れない生活、食料の調達が困難、夜の寝泊まりが1人じゃ危険、って理由から全部見て回るなんてとても無理だった。
そんな時に偶然見つけたのがマコトさん。
目覚めて記憶が無く、訳も分からずひどく混乱してたマコトさんに、健さんが状況を説明して一緒に行動し始めたんだって。
マコトさんに会ってからは早く全部見て回りたいって思ってたらしいけど、その前に、他の人間がまだいるかもしれない。
それでまず、近辺から隈なく探すことにした結果、ヨシアキを発見。
健さんに記憶がある事を除けば、3人とも同じ境遇。
どうやって来たかも、帰り方も、ここが何処かも分からない状況。
それで男手も増えたって事で、その時点でもう1度遠くまで見て回る事になったらしい。
だからって闇雲に進んでも、地図も無いこんな場所では迷うだけ。
相談の結果、まず健さんが見つけた海岸まで出て、そのまま海岸沿いを進んでみることに。
途中、海岸が途切れている場所は、仕方なく海を横目に森の中を移動。
そうして進み続けて・・・・・・丸1日と少し経った頃。
元の場所に戻って来てしまった。
後半からはみんな予想してたらしい、これは島じゃないかって。
予想は的中。
その事実に複雑な心境の中、3人は拠点を作って他にも人がいないか、引き続き探そうということに。
その拠点っていうのがこの小屋。
そして探し続けた結果、順ちゃんを発見し、その後あたしを発見。
今に至る、というわけらしい。
「広いんだね・・・・・・ここ」
そりゃ全部見て回るのは途方もない話だと、あたしも納得せざるを得ない。
「だねぇ・・・・・・・まぁそれで、そろそろちゃんと探索してみようってこと。」
ヨシアキの話に聞き入ってたあたしはいつの間にか濡らした髪が乾いてる事に気付いた。
火から少し離れてるとは言え、前で焚火してるんだからそりゃすぐ乾くか。
「とにかく、後で健さんからちゃんと話があると思うよ。」
「あ、うん。」
島の探索かぁ、ますます映画みたい。
それで5人で島を探索してたらすっごい化け物に襲われて、1人づつ殺されていって・・・・・・・
イイイヤァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッ!!!
んなこたーあるわきゃないけど(笑)
でもなんかゾクゾクする・・・・・・・・・大丈夫かな
「おはよーっ!」
振り向くとそこにハイテンションなマコトさん。
「あ、おはようございます。」
「おはよ〜」
この人は寝起きでも美しいのか、もう・・・・・・訴えていいですか?
「ちょっと遥ちゃん! 『ございます』 とか要らないわよ。」
「あー気をつけます・・・・・・」
どうしてもマコトさんにタメ口は利けないんだよなぁ。
「『ます』 もいらないってばぁ。」
「うううううう・・・・・・だってえええ・・・・・・・・・」
なんてゆーか、いろんな面で自分の方が勝ってると思える年上にしかタメ口は無理。
「それより、ヨシ!」
ビシッと指差すマコトさん。
「な、なに」
「遥ちゃんを連れ出して口説いてたんじゃないでしょうね?」
「し、失敬だな! 朝っぱらからそんな事しないってば〜」
ありえないありえないありえない。
朝っぱらじゃなくても、ありえない。
「ふーん・・・・・・・まぁ遥ちゃん、もし変な事してきたら蹴っ飛ばしていいわよ。」
あはははは
「了解です。」
まったく、マコトさんはいちいち面白い。
「遥ちゃん心配しないで、オレは紳士だから。」
よく分かんないけど何故か得意気なヨシアキ。
「よく言うわよ、自分のこと覚えてないくせに。」
マコトさんは鼻で笑ってる。
「いやあなたもそうじゃないすか・・・・・・・あ、ところで健さんは?」
「まだ寝てるけど、もうすぐ起きて来そうだし順ちゃんも起こしといた。」
この2人、あたしから見れば本当は仲良いけど普段はいがみ合ってる姉弟みたい。
あれ、それって身近にもいたような・・・・・・
「じゃ、オレはご飯の用意し始めとこうかな。」
「私は顔洗って来る、遥ちゃんもう行ったの?」
「行きま・・・・・・・行った!」
「フフ、じゃ私行って来るわね。」
「遥ちゃーん、よかったらちょっとこっち手伝って〜」
「あ、うん。」
あたしに手を振るとマコトさんは身支度しに川の方へ歩いて行った。
ヨシアキに呼ばれてあたしはご飯の準備に取り掛かる。
その後、順ちゃんもすぐに出てきて準備を手伝ってくれた。
健さんはもうしばらく後になってから起きてきた。
その頃には朝食もほぼ完成。
あたしにとってここでの朝食は初めてになる訳だけど、メニューは昨日獲って来た魚の残りを干物にして、それを焼いた物、あとキノコも。
既に出来上がってる朝食を見ながら歩いてきた健さんに、4人が一斉に挨拶した時の反応。
しばらく無言。
そして第一声。
「お前ら・・・・・・早いだろそれ。 これじゃまるでオレが怠け者だ。」
マコトさんとヨシアキはそれ聞いて笑ってた。
で、言い返してた。
「でもオレたち健さんのルールには逆らってないよ?」
「みんな健さんに起こされるのがイヤなのよ。」
確かに、どっちも正しい意見(笑)
さすがに何も言い返せず、健さんは黙って身支度へ向かったよ。
その後、マコトさんが他の3人に向かってボソッと囁いた一言。
「『オレが起きる頃には起きろ』 ってルール、もうすぐ改正されるわよきっと。」
一同、大笑い。
和やかな雰囲気 (健さんを除く) で始まった、いつもよりかなり早いという朝食。
その最中、健さんからの報告があった。
「明日から全員で島全体を探索する。」
それを聞いて表情を変えたのは順ちゃんだけ。
知ってたヨシアキとあたしは分かるけど、マコトさんは予め予測してたのかも。
「5人もいれば何かと分担もできる、問題無いだろう。」
みんな黙って聞いていた。
「全部回るには1日や2日じゃ無理だ、その為に今日はその準備に専念する。」
不安げな表情の順ちゃん、あたしもそんな顔してるかもしれない。
「これ食ったら、オレ以外の4人で2班に分かれて行動してくれ。」
班とか、学校思い出すなぁ。
「片方は食料集め。 木の実やキノコを集めて、魚は獲って開いてから干物に。 量は任せる。」
「あ、じゃあオレはそっち行かないとね、漁師だから。」
透かさずヨシアキが申し出る。
「ああ、頼む。」
ああそっか、魚獲るのは男性陣しか出来ないんだっけ。
「もう片方は水筒を作ってくれ、全員分な。」
・・・・・・水筒?
「ちょっと健さん、水筒なんかどうやって作れば?」
素早いマコトさんの質問。
「食器にも使った大きな葉の植物あるだろ、傘に出来そうなやつだ。」
あ、何となく分かった。
「あれはそこら中に生えてる、あの葉と丈夫な蔦を使って何とか作ってくれ。 そっちの班にはオレの石ナイフも貸す。」
何とかって・・・・・・そんなもんで水筒とか作れんの??
「ちなみに、あの植物には里芋みたいな実が生ってるのもあるが、絶対に食うなよ。」
サトイモ??
「はっきり分からんが、それはクワズイモって植物かもしれん。 クワズイモの実はその名前に出てる通り、毒があって食えない。」
健さん、物知りにも程が・・・・・・・
「サトイモ科の植物で里芋の仲間だが、里芋とは葉の形が少し違っててな、それで気付いた。」
なんかめっちゃ 『サトイモ』 って言葉を連発してる。
よく分かんないけど、要するに実は食べちゃダメなのね。
みんなで 「へ〜」 って聞いてたよ。
同時に 『この人は何者?』 って反応を、少なくともあたしと順ちゃんはしてた。
「それと、水筒作る班は時間が余ったらでいいから護身・狩り用に槍を作っとくのもいい。」
槍って言葉を聞くとここが現代なのか疑わしくなるよ、まったく。
「オレとヨシはもう持ってる。 女の方で、もし必要だと思うなら作ればいい。」
男女5人で槍とか持って、森をゾロゾロ歩いてたらどっかの奥地の部族みたいじゃん。
「で、マコト。」
「はい?」
「お前はヨシと分かれてくれ。」
「あぁ、了解了解。」
そりゃそうだわね、あたしと順ちゃんの新米コンビ班じゃ頼り無さ過ぎる。
「あと昼頃には全員1度ここに戻って来い、進み具合ではオレも手伝う。」
なんだ・・・・・・お昼ご飯かと思った、やっぱ無いのね。
「以上、何か質問あるか?」
健さんって指示出し慣れてるなぁ・・・・・・ほんとリーダーっぽい。
「せんせ〜い、しつも〜ん」
無邪気な子供を1人発見、誰かは言うまでも無いでしょう。
「はい、ヨシアキ君なんですか?」 って先生ぶって言いたくなっちゃうあたし(笑)
もちろん言ってません。
「なんだ?」
「健さんは昼まで何すんの?」
ああ、それは最初に気になった。
「オレはこれまでの記憶を辿って、大まかな島の地図を作ろうと思う。」
「地図って、紙もペンも何も無いよ?」
「昨夜思いついたんだが、このTシャツに炭で書くつもりだ。」
うわぁ・・・・・・・スゴイ発想。
他のみんなも驚いてる、まぁ当然の反応だ。
上に前開きのシャツを羽織ってる健さんがその下に着てるTシャツ、汚れてはいるけど白いTシャツだ。
「よくそんなの思いついたわね〜健さん」
「ナイスアイデア! 確かに地図あればいろいろ把握するのに便利だしね〜」
褒めるマコトさんとヨシアキ、その脇で―――――
『地図書いたらそのTシャツまた着るのかな・・・・・・・?』
と、あたしは隣の順ちゃんに耳打ち。
2人でクスクス笑ってしまった。
「ど、どしたの? 2人揃って。」
突然笑い出す2人が当然気になるヨシアキ。
「なんでもない(笑)」
と、2人揃ってって誤魔化しとく。
「質問はもう無いな、あとは班のペア決めとけよ。 食い終わったら行動開始だ。」
食料集めと水筒作り、どっちの班にするか順ちゃんとあたしは相談した。
順ちゃんは、自分は大して役に立てないからってあたしに好きな方を選んでいいって。
って言われても・・・・・・・あたしだって役に立てるかどうか
何するにしても全く初めてな訳だし、手先はこう見えて器用だけどさ。
・・・・・・となると、物を作る方が向いてるかも。
それを順ちゃんに言うと、じゃあ決まりって事に。
ヨシアキと順ちゃんの班が食料調達へ。
マコトさんとあたしの班が材料集めて水筒作り。
朝食を済ませると、各班で素早く仕事に取り掛かった。
「仕事」 って言っても、少なくとも4人の中に緊張感なんてあまり無かったかも。
半分、ピクニック気分でいたのはあたしだけじゃない筈。
食料班はまず魚を獲りに海岸へ向かったみたい、ヨシアキは得意の漁を初めて順ちゃんに見せられるって、えらく張り切ってた。
一方のあたしは、水筒の材料にする葉と蔦を探しにマコトさんと仲良く出かけた。
例のなんとかって植物は意外にも小屋のすぐ近くにたくさん生えてるらしく、しばらくずっと付近での作業が続いた。
大きな葉を石ナイフで手際良く切り出していくマコトさん、それを後ろで受け取るあたし。
念のため10枚程集めると今度は紐代わりにする植物の蔦を集めに行く。
蔦ってのは、よく建物の壁や塀なんかを這って伸びる植物だけど、ここでは木の幹や枝なんかによく巻き付いてるらしい。
その中でも紐の代わりとして使うのは、できるだけ丈夫な物がいいとのこと。
これはどの木でも見つかる訳じゃなく、広い範囲で探さないといけないから、お互いはぐれない程度に手分けして探す。
少し時間はかかりつつ、協力して探した結果、充分な長さと丈夫さの蔦を2本ゲット。
材料が揃ったって事で、あとは作るだけ。
作るのに森の中じゃ流石に落ち着かない。
2人で一旦小屋まで戻ることにした。
その帰り道―――――
「さて、これどうやって作ろっか〜水筒だから蓋もして密封できないとやっぱりダメかなぁ?」
あんまり何も考えてなかった様子のマコトさん。
「紐で締めて水が零れない様に出来ればいいなら、あたし的には・・・・・・」
単純なアイデアだけど、この材料ではこれが1番なんじゃ、って考えを話してみた。
「なるほど、それが1番だわ。 遥ちゃん賢い〜!」
ありゃ、こんな事で褒められちゃったよ。
ただ大きな葉をそのまま袋状にして、上に紐を通し巾着袋みたいにしたらどうかって考え。
「いや普通にバカだけどなぁ・・・・・・じゃあそれに決定ってことで。」
「オッケ〜!」
ノリよく決まった制作方法。
小屋の前まで戻ってみると人影は見えない。
健さんは小屋の中で作業してるな、と判断して2人で食事広場の方へ回った。
「よーし、パッパッと作っちゃいましょ。」
やる気満々なマコトさんに影響され、あたしの創作意欲はグングン湧いていた。
朝食を食べた場所に座り込んで、工作の時間が始まった。
細かい所を説明したりして、何故かあたしが引っ張っていく感じで作業は順調に進んでた。
「ヨシアキと順ちゃんの方は大丈夫かな?」
こっちが順調なだけに、ふと気になった。
「ヨシはああ見えて意外と頼りになるから、問題ないでしょ。」
おおおおお!
ヨシアキを褒めたマコトさん・・・・・・・激レア過ぎる
「確かに、しかもああ見えて意外と優しかったもんなぁ」
あたしにも心当たりはあるからね。
「遥ちゃんにも優しいの?」
「え、まぁ・・・・・・なんとなく」
「ひっどいわね、あいつ。 聞いてよ遥ちゃん!」
なんだなんだ?
「順ちゃんが来た日だって順ちゃんにはすっごく優しかったくせに、私の時なんてさぁ・・・・・・!」
・・・・・・聞かなくても何となく分かる。
「ヨシが最初に合流した日の夜に、いきなり私に失礼なこと言うのよ〜! 何て言ったと思う!?」
「い、いや・・・・・・なんだろ」
「『顔と性格のギャップ凄いですね』 だよ? 失礼しちゃうわよね!!」
ヨシアキが言いそうな事だ(笑)
「さすがに私もね、新人さんだし敬語も使うし何も言わなかったけどさ、健さんのいる前なのに恥ずかしいったら無いんだから、もう!」
ひ、ひどく憤慨してらっしゃる・・・・・・・これは何とかせねば
「け、健さんは怖そうに見えたけどいい人だよね。」
これでも一応話を変えたつもり(汗)
「あ〜健さんはヨシと正反対ね、確かに見た目とか話し方も怖いけど、紳士だし頼れるわ。」
ふぅ・・・・・落ち着いてくれたかな
「なんだかんだで、健さんがいなかったらここまでやって来れなかったしね〜!」
でもほんとよく喋る人だ・・・・・・顔とのギャップは確かに激しいよ。
「でも、もうちょっと愛想が良ければ最高なんだけどね〜」
あれ・・・・・・流れが変わってきた
「マコトさんもしかして、健さんのこと好・・・・・・」
「ちょっ、遥ちゃん!」
言いかけて遮られてしまった。
「何言ってんの! あり得ないでしょ!?」
さぁどうだか(笑)
「だいたいヨシと比較したらどんな人だって良く見えるじゃないの! でしょ!?」
焦り過ぎですマコトさん・・・・・・
「まぁなんていうかほら! 頼れるお父さんみたいな感じよ!?」
「あははは」
「その笑いは何よ〜遥ちゃん!!」
「いや、別に深い意味は〜」
顔のニヤつきが止められない。
もうマコトさん最高、こんな楽しいお姉ちゃんが欲しかったなぁあたし。
「こら〜何を考えてるの〜! 言いなさい〜!!」
「痛たたたっ! だから何でも無いってばぁ!」
頭をグーでぐりぐりされた、こりゃもう黙っちゃいられない。
仕返しにマコトさんの脇をくすぐってやった。
「ちょ・・・・あはは! やめなさヒィ! ってばこらぁアハハハ・・・・・!」
本当の姉妹のケンカってこんなに楽しいもんなの??
ヤバい癖になっちゃいそうだ・・・・・・・
「おい」
「・・・・・あ」
「え・・・・・・」
健さんがすぐそこに立ってる。
「何やってんだ、やかましいんだよ。」
こりゃまたえらい所を見られてしまった。
急いで平静を取り繕うマコトさん、なんか恥ずかしいからあたしも同じく畏まってしまった。
「あーーーーーえっと! ごめんなさい・・・・・・・どこから聞こえてた・・・・・・?」
そう言うマコトさんがなんだかとっても可愛らしい。
健さんはこっち見たまま少し考えてからーーーーー
「『聞いてよハルカちゃん』 から大体はな。」
ってそれほぼ最初からじゃないっすか(汗)
マコトさんが完全にフリーズしてる。
「しかもお前の声ばっかりだ、ここで作るのは構わんがもう少し静かにやれ。」
当然 「お前の声=マコトさんの声」 だよね。
飽くまで健さんはクールだった。
「・・・・・・・・・はい」
フリーズ解除したマコトさん、でも口だけ。
健さんはそんなの気にもせず、振り向くと小屋へ戻って行った。
「あ、あの〜マコトさん・・・・・・」
口をポッカリ開けたまま呆然と座り込んでるマコトさん。
あの内容を聞かれてたのが、よほどショックだったんだね・・・・・・・
「・・・・・・遥ちゃんダメ、私もう立ち直れないかも」
ようやく全身のフリーズ解除。
「まぁまぁ・・・・・・」
流石になんて声かけたらいいのか分かんない。
「せめてもっと罵倒してくれたら少しは救われたのに・・・・・・・」
それからまた作業を再開したものの、マコトさんはずっと落ち込みっぱなし。
でもマコトさんのこうゆう所が、見た目と違っててあたしは好きなんだけどね。
結局、あたしなりに精一杯マコトさんを励ましながら何とか作業は片付いた。
終わったのはたぶん昼過ぎくらい。
その少し前にもう1度健さんが出てきて 「手伝う必要ない様だな」 とまた戻って行った。
マコトさんはその時も落ち込んでて、気まずさから健さんと目も合わせられない状態。
でも、戻る前に健さんがマコトさんにだけ向けてボソッと付け加えた一言。
「オレは・・・・・・・・・お前がいなけりゃここまでやって来れなかったかもな。」
それ聞いたあたしは鳥肌が立っちゃったマジで!!
聞こえなかったフリした方がよかったのかな?
とにかくめっちゃ焦った。
小屋に入っていく健さんの背中を、マコトさんは黙ってジッと見つめてた。
その場であたしが言える事なんてある筈ない。
空気ぐらい読めるんだから!
何も言わずにトイレに行く風を装って立ち去っておいた。
素敵・・・・・・・あーゆう関係って憧れちゃう。
マコトさん、嬉しかったんだろうなぁ。
昼も過ぎ、水筒作りも無事終わったのに、ヨシアキと順ちゃんはまだ戻って来なかった。
少し時間を空けてマコトさんの所に戻ったあたし。
さっきの事については何も触れずに、2人が心配だねって話をしてた。
また少し時間が過ぎ―――――
健さんが小屋から出て来てこう言った。
「地図も完成だ、あの2人は戻らないのか。」
心配だったあたしは探しに行きたいと申し出たけど、即座に却下された。
「海岸から次に何処に行ったかも分からん、すれ違うのがオチだ。」
ですよねー
「もう少し待つか。 それで戻らなきゃオレが行く、ヨシが行きそうな場所は分かるしな。」
「分かりました。」
素直に答えるあたし。
健さんは小屋の裏に消えて行った、おトイレですかね。
いつもなら大抵参加する筈のそうゆう会話にマコトさんが入ってこない。
やっぱ意識しちゃってるのかな、健さんのこと。
マコトさんって純粋でほんとに可愛い。
2人がお互いをどう思ってるのか実際はよく分かんないけど、あんな風に本音を言い合える仲ってほんとに羨ましい。
あたしが彼氏に裏切られて振ってやったのはまだ1週間ぐらい前。
男なんて信じられない、彼氏とかもう要らないって思ってたけど、あんな2人を見てると、またちょっと恋が恋しくなっちゃう。
それと同時に、家とか家族とか学校とか友達のこと、急に全部思い出しちゃった。
家族が寝てる間に居なくなったあたしは家出したと思われてるのかな?
家出は、5回ぐらいしたことある。
理由はお父さんがムカついてとか、お母さんとケンカしたとかそんな理由。
今から考えれば自分が子供だったなって思えるぐらいバカバカしい理由。
その家出も近くの女友達の家に泊まるだけで、最長でも1週間程度。
でも2日目ぐらいで心配したお母さんが、必ず友達の家に片っ端から電話かけて居所がすぐにバレる。
それで知られた友達みんなに 「家出娘〜!」 とか茶化されるせいで、回数は5回程度に納まってる。
だから、また家出だと思われてるならそろそろ友達の家に電話される筈。
それで居場所が分からなくても、まさか誘拐されたとか変なこと考えたりしないかな。
学校も今日で2日休んでる事になる。
「遥ちゃん」
普通に無断欠席って事にされてんのかな。 ヤダなぁ・・・・・・あたし無断欠席は絶対にしない子なのに。
「遥ちゃん?」
ん・・・・・・
「遥ちゃん!? ボーッとしてどうしたの?」
「あ、ご、ごめんなさい!」
「あっち見て、ヨシと順ちゃん帰って来たわ。」
「え・・・・・・」
考え事してたら周りが全然見えてなかった。
マコトさんに指差され見た方向にヨシアキと順ちゃんの姿が。
なんか2人の荷物が多い気がする。
「あ、やっぱいたいた! ただいま〜」
「・・・・・・遅れてごめんなさい、戻りました。」
相変わらず軽いノリのヨシアキに対して順ちゃんは何とも丁寧な挨拶。
2人とも特に何事も無かったみたい、よかった。
「おかえり〜」
「おかえり、遅かったわね。 みんなで心配してたのよ。」
心無しか、言い方がいつもより控え目なマコトさん。
「ごめんごめん! 獲った魚を開いて干してる間にいろいろ集めに行ったんだけど、意外と見つかるもんだから2人で夢中になってた。」
そう言って見せたのが網 (蔦を編み込んだ手作り製) に大量に入ったキノコ類と木の実類、更には果物まである。
同じ網をもう1つ持ってる順ちゃんの方にも、負けず劣らず大量に食料が。
しかもヨシアキが肩に掛ける槍には、魚の開いた物が十数匹は吊るされてる。
「またえらく張り切ったわねぇ・・・・・・順ちゃんもご苦労さま〜」
マコトさんに言われ、順ちゃんもニコッと笑う。
食料班が帰って来て、健さんも戻ったところで数時間ぶりに5人が集合。
予想外に、2班とも半日で作業の大半を終わらせたって事で、健さんも文句無しのご様子。
「残りの時間は各班まだやれる事をのんびりやってていいぞ」 と優しいお言葉。
その前に、とりあえずこの場でみんな休憩する事になった。
健さんはTシャツに書いたという地図をヨシアキに頼まれて見せてる。
マコトさんもそれに便乗して見に行った。
ちなみに、地図を書いたTシャツを健さんは着てなかった(笑)
っていうか、Tシャツを切って広げてそこに大きく書いたみたい。
何となく残されたあたし。
朝から一緒に行けなかった順ちゃんに声をかけた。
「どうだった? 食料いーっぱいだったね、楽しかった?」
「うん、ヨシくんが魚獲るの上手で凄かったよ。」
あれ、「ヨシくん」 とか呼ぶようになったのか。
「へ〜あの槍で突き刺すんでしょ? スゴイなぁ・・・・・・」
「しかも海に潜ってだもん、カッコ良かったな。」
順ちゃんから意外な言葉だ、「カッコ良い」 とか言いそうにないのに。
「確かにそりゃカッコ良いね、何? もしかして惚れちゃったとか?」
ちょっと冗談っぽく聞いてみた。
「え・・・・・・ち、違う、別にそんなんじゃ・・・・・・」
あれま、ちょっと動揺しちゃってる。 満更でもない感じ?
「いいお友達だよ。」
「そっか、色々喋ったりしたの?」
まぁ2人っきりになったんだから当然、色々喋るよね。
「うん、色々。」
なんか、あんまりそれ以上深く聞くのも野暮な気がしてきた。
順ちゃんはおとなしい人で、話が盛り上がる事は無いけど別にちっとも気にならない。
友達にはいないタイプでなんだか新鮮な感じ。
あと、この雰囲気が自分には無い部分で、それが羨ましかったりもする。
マコトさんが 「楽しいお姉ちゃん」 なら、順ちゃんは 「物静かなお姉ちゃん」 って感じ。
2人と話してるとお姉ちゃんが欲しくなってくる。
憎たらしい弟にはちょっと不満デス。
「遥ちゃんはどうだった? 上手く作れたんだね、水筒。」
「うん、マコトさんが頼りになるし・・・・・・・・・・・それでね・・・・・・・・・・・その時あたしが・・・・・・・・・・・」
それからしばらく、順ちゃんとの雑談を楽しんだ。
マコトさんと健さんのやり取りの事は言ってない。
素敵な話だけど、他人に気安く話すような事じゃない気がする。
やがて休憩も終わり、とりあえず言われた通りのんびりと午後の作業が始まった。
ヨシアキ達が持ち帰った 「開いた魚」 は、槍に吊るしたまま食事広場にて引き続き天日干しに。
食料調達班の2人は、今夜の食事の分も合わせてまた別の場所にキノコや木の実や果物を探しに行った。
水筒作り班の2人は、女性用として細めの槍を3本作ってみることに。
健さんは1人で、今夜の分にと海岸へ魚を獲りに出かけた。
午後からも、みんなそれぞれに楽しんでたと思う。
マコトさんは健さんの話を一切しなかった。
でも、また明るいマコトさんに戻ってて、あたしはホッとした。
ヨシアキと順ちゃんはまたお喋りしながら楽しく森の散歩、みたいな感じだったのかな。
健さんは相変わらず単独行動だけど、みんなの事はちゃんと考えてくれるいいリーダーだなって改めて思った。
そんな風に何事も無く終わった1日。
みんなにとってはいつもと少し違うだけの1日だったのかもしれない。
だけど、あたしにとっては今日が 「ここでの初めての1日」
ずっと外にいるっていうのはそれだけで疲れるんもんだね。
疲れたけど色々と楽しかったのも正直な気持ち。
普段は絶対に味わえないようなサバイバル体験。
いつの間にか気にするのも忘れてた日焼けの心配。
まだ2日目なのに、何だかもうこの生活が当たり前みたいに思えてきてる。
6日目の順ちゃんはともかく、他の3人がここに慣れまくってるのがよく分かるよ。
明日は、いや・・・・・・・明日からはこの島の探索に出発する。
一体どうなるんだろう?
何か見つかるかな?
不安もあるけど、ワクワクもする。
みんながもう仲間って感じに思えて、一緒なら何が起こってもなんとかなりそう。
ここでの生活は悪くはないし、むしろ楽しいけど・・・・・・
やっぱりみんな 「帰りたい」 って思ってるんだよね。
何か見つけて、みんなで一緒に帰れたらいいな。
マコトさんとヨシアキの記憶もちゃんと戻るといいな。
みんなの 「本当の日常」 に帰れるといいな・・・・・・・・