3章 仄かなキモチ
太陽が傾き、景色は次第に赤く染まり全ての色が同化する。
夕暮れの浜辺、その波打ち際に腰を下ろすのは1人の青年。
寄せては返す波の音のみしか耳には入らない。
赤く変化し出す海面を見つめる青年の瞳も徐々に染まっていく。
「タクヤ」
波の音にまぎれて届いたのは少女の声。
「どしたの?」
少女は隣に腰を下ろし青年の顔を覗き込んだ。
「どうもしないさ、この時間の海が好きなんだ。」
「綺麗だもんね。」
真っ直ぐ見つめる先の海に、2人は同じ太陽を見ていた。
「レイカ」
「なぁに?」
答えた少女が横を見ると、青年は掴んだ砂が手からこぼれるのを見ながら呟いた。
「ここに来てずいぶん経つな。」
「うん」
「未だに何も思い出せないしな。」
「・・・・・・うん」
「考えても無駄だし、もう諦めてるけどさ・・・・・」
「ん?」
「一生このまま、ここにいるのかなオレ達。」
視線を宙に向けた青年の瞳はどこか悲しげだった。
彼の名は 「タクヤ」
タクヤは自分の事をそれしか知らない。
隣にいる少女の名は 「レイカ」
レイカは自分の事をそれしか知らない。
「私はね・・・・・・」
タクヤがどう思っているか分からない、けれど。
少なくともレイカはそれだけで充分だと思っていた。
「帰る場所があるのか分かんないし、タクヤがいるから私はこのままでもいい。」
ニコッと笑うレイカ。
「そっか・・・・・」
微笑むレイカの顔は夕日に照らされキラキラと輝いている。
「だってね、幾ら考えても何も思い出せないんだよ?」
「だな」
「何も無くたって、2人で助け合えば生きていけるよ。」
「だな」
「あっ、でも・・・・・・」
「ん?」
「私はい〜っつもタクヤに頼りっぱなしだけどねっ!」
「・・・・・・アハハ、確かに。」
無邪気に笑うレイカに釣られ、思わず笑みを漏らしたタクヤ。
「別にいいんだよ、それで。」
「え?」
「頼っていいんだ、オレに。」
「・・・・・・なんで?」
「なんとなく」
タクヤは自分でも何故そんなことを言ったのかよく分からない。
「ヤダよ〜!足手纏いとかイヤだもん。」
レイカはバタバタと砂浜を手で叩き出した。
「そんな風に思った事ないって。」
「ふ〜ん・・・・・・」
(・・・・・・納得してないな)
レイカの反応を見ればタクヤにはすぐに分かる。
「なぁ、オレらって実は知り合いだったりすんのかな?」
「・・・・・・どゆこと?」
「ここに来る前だよ、記憶がある時。」
「うーーーーん・・・・・・他人じゃない気がする、意外と恋人同士だったりして!」
身を乗り出し顔を近づけて来るレイカに、あえて過剰な反応はしないタクヤ。
「どうかな、でも確かにレイカは他人って感じがしないな。」
「でしょでしょ!? 思うんだけど、先にいたタクヤが私を見つけてくれたでしょ?」
「ああ」
「でも、最初は2人でここに来たんじゃないかな? カップルでさ!」
「んー」
「でね、何か起こって2人とも記憶が飛んじゃって、離れ離れになっちゃって・・・・・・・」
「あのなレイカ。」
レイカの言う仮説はタクヤがとうの昔に考えていた事。
「最初に会った時に言ったこと覚えてないか?」
ポカンとした表情で首を傾げるレイカ。
「オレが森で眠ってたレイカを見つけて起こした時、何も覚えてなかったレイカはどう見ても来たばかりって感じだった、元気だったし服も汚れてなかったしな。」
「うん、ずっとあそこで寝てたならもっとお腹とか空いてたと思う。」
「で、レイカを見つける以前にオレは2週間ぐらい1人でいたんだ。」
「あ・・・・・・そういえば言ってた」
「だから、同時期にここに来たわけじゃないと思う。」
それを聞いたレイカは俯いてしまった。
2人の間に流れるしばしの沈黙。
分かっていた事だとしても、せっかくのレイカの考えを揉み消してしまった自分をタクヤは少し責めた。
「でも、もしかしたら知り合いだったのかもな。」
全くフォローになってない。
タクヤは自分の不器用さに失望した。
「フフ・・・・・・落ち込んでると思った?」
顔を上げたレイカはニヤついている。
「なんだよ、そんなのばっかだなぁお前。」
いつもの事ながら、見事に一杯食わされタクヤは呆れ顔。
「まぁでも、レイカはどっちかって言うと妹って感じだな。」
さらりと言い放ったタクヤ。
横を見ると、レイカがピクリとも動かない。
「おい、どうした?」
「ガアアアアアアアアン!!! 今のって・・・・・・・振られた?? 私、振られた!?」
悲しいのか怒っているのか、レイカは凄まじい表情でタクヤを見つめている。
「い、いや・・・・・・そうゆうわけじゃ」
「ショック過ぎるううううう!! もう立ち直れないよわたしいいいいい!!」
これ以上ないという程のレイカの膨れっ面。
(やべ・・・・・・・また始まった)
こうなると面倒臭いという事は嫌と言う程思い知ってるタクヤ。
「あ、レイカ。 じき暗くなるしそろそろ帰らないとまずいぞ。」
立ち上がったタクヤはレイカを促す。
「あーーーごまかしたあああああ!! そうゆう態度されるのが1番傷つくんですからね!!」
「ほら・・・・・暗くなると危ないだろ? とりあえず帰ろう。」
これは手がつけられない、とばかりにレイカの手を掴んだタクヤは少し強引に立ち上がらせた。
「もう! 痛いよお!」
掴まれた手を勢いよく振りほどくレイカ。
「いいもん! そのうち私の魅力に気付かせてやるんだから!」
舌を出し、生意気な顔をタクヤに見せつけるとレイカは1人で砂浜を歩き出した。
「こら、1人で行くなって。」
(・・・・・・やれやれ、そうゆうとこが妹っぽいんだけどな)
「ふぅ・・・・・」
溜め息混じりの声を出し、前を歩くレイカに追いつくよう少し早足でタクヤも歩き出す。
辺りの景色は見送る2つの背中にその色を写した。
優しく照らす夕日は水平線に姿を隠しつつ、先程よりも赤く燃え続けていた。