14章 隠された真意
1章以来の、前書きになります。
今回はいつもより、ちょっとだけ読むのダルい展開かもしれませんがどうかご了承を・・・・・
書いていてグダグダ感を拭いきれない気持ちが込み上げてきたもので(汗)
ずっと読んでくれてる方、色んな意味でスイマセン。
海から吹く潮風は、意外と湿気を感じないものなんだってこの島に来てから思ってたけど、今夜の風は少し違う。 どこか湿り気を多く含んだ
その風を鬱陶しく感じてたあたしの心情とは裏腹に、その髪は意外に早く乾いてた。 でも、潮気のせいでもうバッサバサ。
あぁ神様、ドライヤーだとかシャンプーだとかトリートメントだとか贅沢は言いません、どうかこのあたしにクシをお授け下さい。
少し前に 「髪の制限時間」 は来て、何も無い浜辺をまた引き返していたマコトさんとあたし。 結局、何も見つけられず、誰かに会う事もなく、
全くの無駄に終わったのかって、2人ともガッカリした気分で歩いてた。
「あの2人、ちゃんと引き返してるかしら。」
たまに吹く強い風に、その長い髪がなびいてマコトさんの顔面はその髪で完全に覆われる。 その光景は何かのホラー映画を思い出してしまいそう
だけど、それを片手で軽やかに掻き上げる仕草が、なんとも色っぽくて素敵。
「何も見つけてなきゃ戻ってますよ、きっと。」
「なーんにも見つかんないからって、2人きりなのをいい事にイチャついてたりして。」
それは充分有りうる、と2人でしばしの談笑。
でも確かに、恋人同士がイチャつくのにこんな最高のシチュエーションとムードは他に無いわ。 目の前に広がる夜の海。 波の音。 イイ感じで
照らしてくる月。 他に誰もいない砂浜。 で、2人っきり。 わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん! 最高じゃないですか。 羨まし過ぎる。
「戻って来るの遅かったら怪しいっスね・・・・・・」
あたしの深い妬みが込められてる言葉だと、ご理解して頂ければ幸いです。
「ほんとね。 遅かったらヨシのこと、からかってやろっと。」
相変わらず子供っぽい発想のマコトさん。 といいつつ、あたしもそうするつもりだった事は内緒。
しっかし、こんなに美人で、ちょっとお茶目で、性格も可愛くて、純粋で、優しいマコトさんを悲しませるなんて、健さんは一体何やってんだろ。
次に会えたら、さすがに怒鳴りつけてやりたい気分だ。
考えてる内にどんどん湧き上がってきた健さんへの怒りを心の底に隠しつつ、あの時、大泣きしたマコトさんの事を思い出した。
健さんが爆発してしまったのを自分の責任だと言って、みんなへの申し訳無さと、自分の情けなさから、その重圧に押し潰されそうになってた。
それを救ってくれたのはヨシアキだけど、あたしは何も出来なかった。
だから、今度はあたしも何かしてあげなくちゃ。 マコトさんにはいつも笑顔でいてほしい。 幸せになってほしい。 何かしなくちゃ・・・・・・
4人の中でもマコトさんは、1番健さんの事を心配してる。 同時に、健気に想い続けてたんだと思う、これまでずっと。 それが 「好き」 って
感情なのか、また別の感情なのかは分かんないけど、今のあたしにしてあげられる事は、やっぱ1つしかない。 健さんを見つけてあげなくちゃ。
それで、マコトさんは健さんに本心を伝えるべきなんじゃないかって思う。 そこはあたしが口を挿む所じゃないんだけど、そうした方が健さんも、
自分がバカな事したって分かってくれる筈。
マコトさんを見てるといろんな感情が湧いてくる今のあたしだけど、それとは別に、ただ見てるだけでその外見と雰囲気からスゴく癒される事に
気付いた。 で、またジッと見てしまってたあたしは 「ある気配」 に全く気付いてなかった。
「ハルちゃん・・・・・私ちょっとイヤな感じがしたんだけど・・・・・・」
「え?」
立ち止まったその場で、身を震わせながら首を一切動かさず、あたしに向かって小声で囁いてきたマコトさんは、今まで見た事もないような
怯え方をしてる。
「な、なんですか・・・・・?」
あたしには何に怯えてるのか全く分からない。
「なんか・・・・・いたような・・・・・・」
「え!?」
その言葉に驚いて、急いで辺りを見渡したけど、別に何もいない。 今から戻る方向には何も無い砂浜が広がってるだけ。 月明かりで
結構見通しが良いし、海と砂しかないんだから、何かいたならすぐ分かる筈だ。
「見間違いじゃないんですか?」
この場所から視界に入りそうな場所は前も横も全部見たし、やっぱり何もいない。
「ち、違うの・・・・・・見たんじゃなくて・・・・・・」
??
「足・・・・・・音・・・・・・追ってくるような・・・・・・」
!!
追ってくる足音って! そりゃ後ろじゃないっすか! 慌てて後ろを振り返った。
何もいない。
前方と変わらない景色。 違いがあるとしたら、小さな岩が幾つかあるくらい。
「足音って・・・・・・ほんとに聞こえたんですか?」
何だかあたしもちょっと怖くなってきたけど、マコトさんの怯え様を見てると、自分がしっかりしないとって気になってくる。
「・・・・・私達のと別の音がね・・・・・・遅れてザッザッザッって・・・・・・」
「むむむ・・・・・・」
そりゃ流石に怖い。 よくある怪談みたいじゃないか。
今まで全然気付かなかったけど、どうやらマコトさんは怖いものが苦手だったようだ。 でも、その割には夜とか小屋の外でも平気そうだったのを
覚えてる。 もしかして、健さんとかみんながいたから平気だったのかな。
「気のせいじゃないとしたら、人かもしれないですよ。 見てきましょうか?」
実は怪談とか意外に好きなあたし。 お化け屋敷とかも彼氏より怖がらないで、むしろ楽しんじゃうくらい。 でもこの状況の場合、半分ワクワク
しながらも、もう半分は、足音の正体が健さんかもしれないって思ってた。
「えぇぇぇ・・・・・・離れないでよぉ・・・・・・・」
小動物みたいな目であたしを見てくるマコトさん。 可愛い。 可愛過ぎる。 犯罪級だ。 女のあたしに惚れさせる気ですか。
「じゃあ、一緒に見に行きましょ、ね? ほら、あの岩のところ、誰かいるかも。 健さんかもしれないですよ?」
身震いだけで、完全にその場に固まってしまってるマコトさんを強引に後ろに向け、何となく怪しい岩の方を指差した。
「健さん・・・・・・まぁそうだけど、ハルちゃんは何でそんなに平気なのよぉ・・・・・・」
「さ、さぁ・・・・・何でなんでしょう・・・・・・」
ともかく、あたしは聞いてなくとも、マコトさんが足音を聞いたって言うからには、確認しないと気になってしょうがない。 ちょっと強引にマコトさんの
背中を押し、砂に半分ぐらい埋まってる幾つかの岩の後ろを調べてみることに。 いきなり誰か飛び出してきたら、流石のあたしでも 「キャッ!」
とか言っちゃいそうだけど。
「マコトさん、あんまり強く持たれると痛いんですけど・・・・・・」
いざ向かうとなったら、当然のようにあたしの後ろに隠れてしまったマコトさん。 両手であたしの左腕をギュッって掴むもんだから、それがまた
痛いのなんのって・・・・・・
握力を弱めてもらったところで、まず1番近くの岩にソーッと近付いてみるんだけど、岩っていっても人が寝転んでやっと隠れられる程度の大きさで、
とても人が隠れてるような気が全然しない。
「異常なし・・・・・と」
最初の岩陰は何も無し。 で、今いる位置から考えて、何か隠れてるとしたらあと2つの岩陰ぐらい。 なんか、別に何もいないような気がする。
「マコトさん、やっぱ何も無いかも。 さっきは何かいたとしても、もうどっか逃げて行っちゃったのかも。」
あたしは、いつの間にか 「誰か」 と言わずに 「何か」 と言ってた。 足音ってもしかして、動物とかなんじゃないのって思ったから。
「だって・・・・・・逃げる足音なんてしなかったよ・・・・・?」
「んー・・・・ほら、動物とかだったらササ―ッって逃げ・・・」
あたしが言い終わる前に、予想だにしなかったマコトさんの叫びが辺りに響き渡る。
「違う! 絶対に人の足音だった!」
その時だった。
あたしは視界の隅に何か黒い影が動くのを見てしまった。
ザッザッザッザッザッザッ
「なに・・・・・・!?」
砂を蹴る素早・・・・・くもない足音。
「キャァァァァァァァァァァッ!!!」
そして、至近距離からあたしの耳をつんざくマコトさんの悲鳴。 とってもうるさい。
咄嗟に影が動いた方に目を移したあたしは、走り去ろうとする 「何か」 の正体をこの目ではっきりと確認した。 マコトさんにも何か動いた
のは見えたようで、素早く目を伏せると、あたしの胸元にしがみついてきた。
ザッザッザッザッザッ ドシャッ
「・・・・・あ」
あたしが見た姿、それは紛れもなく 「人」 だった。
でも、コケた・・・・・・
人とは認識できない内に目を伏せてしまったマコトさんは、あたしの胸元でガクガク震えたまま。
まだ確認してなかった片方の岩陰から飛び出して来て、逃げるように走り去・・・・・・ろうとしたその正体は、どう見ても健さんには見えない。
かなり小柄な人。 なんか必死に走って逃げようとしたのを、マコトさんの悲鳴にビックリして転んだように見えた。
「あのー・・・・・大丈夫ですか?」
砂の上にうつ伏せに倒れてるその人は、足を動かして立ち上がろうとしてるけど完全に空回りしちゃってて、その場で必死にもがいてる。
少し近付いてみるとそれが女の人だと分かった。
「あ・・・・・・う・・・・・・うぁ・・・・・!」
言葉が分からないってことは無いと思うけど、なんか随分と怯えてるみたい。 足音の正体が人だと分かった事で安全だと判断したあたしは、
しがみ付いてるマコトさんをチョンチョンって突っついて、そっちを見るよう勧めた。
目の前まで近付くと彼女は慌ててジタバタし出すけど、どうやら腰が抜けてるのか全く移動できてない。 こっちを見ないから顔は分かんないけど、
かなり細身で小柄なその人は女性って言うより少女っぽい。
「怖がらなくていいよ、別に怪しい者じゃないから。」
言ってから思ったけど、本当に怪しい人も自分の事を 「怪しい者」 とは言わないよね。
「・・・・・驚かせたならごめんなさいね」
転んで焦りまくってる相手を見て、マコトさんも平常心に戻ったみたい。
「ゆ、許して下さい・・・・・・!」
第一声からいきなり許しを請うその子がこっちに顔を向けた瞬間、それが見覚えのある顔だって事を、あたしもマコトさんもほぼ同時に思い出した。 タクヤって男の子と一緒にいた子だ、間違いない。
それを確信したマコトさんはスッとあたしから離れ、彼女の横に迷わずしゃがみ込むと、その背中に手を触れて優しく声をかけた。
「安心して、何もしないから。 昼間会ったわよね? 何かあったの?」
その天女の囁きのような音色に、後ろにいたあたしがまず癒されました。 しかしマコトさんの変わり様は実に凄まじい。 ほんの30秒程前まで
拾われて来た子猫みたいに怯えてたのに、今はあたしより落ち着いて話を進めようとしてる。
「・・・・・・」
マコトさんの問いに対し彼女は何も答えてくれない。
「ねぇ教えて? 何があったの? タクヤっていう子は一緒じゃないの?」
「・・・・・許して・・・・・・」
必死で逃げようとしてたその動きは止めてくれたけど、まだ相当怯えてるのか、こっちの質問に全く答えてくれない。 その様子は逃げるのを
諦めたっていうか、もう観念したような態度に見える。 話が進まないこの状況にあたしは少ーしだけイラッときたけど、せっかくマコトさんが
聞き出そうとしてるんだから、邪魔するわけにはいかない。 ここは大人しくしておくべきだ、うん。
「あの後ね、タクヤ君と話してた男の人と逸れちゃったの。 あの背が高い男の人だけど、もしかして会ったりしてない?」
もしかしてって、あたしも気になっていた事をマコトさんは前に一言付け加えて質問した。 なるほど、そう言っておけば彼女の怖がってる理由が
予想通りでも答えやすくなる。
「・・・・・はぐれた・・・・・・じゃあ、一緒に戻って来たんじゃないんですか・・・・・・?」
やっとまともに喋ってくれた。 さすがマコトさん。 怖がってない時は本当に頼りになる(笑)
「タクヤ君にキツく言われたから、他の4人はそれを守るつもりだったの。 でも、1人だけ単独行動しちゃって・・・」
「あの人・・・・・・! どうしてあんな事するんですか!?」
マコトさんが言い終わらない内に突然、声を荒げた彼女の言っている意味があたし達にはスゴく興味があった。 やっぱり健さんに会って
何かされたんだ。
悪い予感が的中した。
健さんは話を聞きだす為に2人に会いに行って、もう何か酷い事をしたんだ。 そして、きっと彼女はそれから逃げて来た。 さっき酷く怯えて
いたのは、健さんとあたし達4人が共謀してそれを実行したと誤解されてたから。
「詳しく教えてくれる?」
改めて聞いたマコトさん。 あたし達は彼女からちゃんと話を聞く事にした。
単独行動に走った健さんが一体何をしたのか。
倒れたままの彼女を抱き起こし、その身体を支えて波打ち際の方まで歩くと3人でそこに座り込んだ。 それは腰を抜かして力が入らなかった
彼女を落ち着かせる為。
合流場所に戻る時間の事を思い出したマコトさんは、落ち着いた彼女に、一緒に戻りながら説明してほしいって頼んだ。 それを了承してくれた
彼女は同時に、待ち合わせしてる他の2人にも会わせたいって意味を理解してくれたようだ。
意外にもあっさりとついて来てくれることに決まったのは、マコトさんもあたしも女だからだったのかもしれない。 となると、男のヨシアキには
余り近付けない方がいいのかも。 そう思う根拠は、彼女が健さんに連れ去られて 「何かされた」 のかもしれないって、そう思ったから。
あたしにはそれが1番気になってた。
砂浜を歩くあたし達に真横から吹きつける潮風は、身体半分を冷たく刺激してくる。 相変わらず更けた夜の浜辺は肌寒い。 冷え症のあたしには
特にゾクッとくる。 女の子は冷え症の子が多いらしいから、後の2人も同じかも。
昼間、タクヤ君と一緒に5人と会った後から今までに、何があったのか全て話してくれた彼女。 名前は 「レイカ」 っていうらしい。 それだけしか
覚えてなくて、つまりマコトさんやヨシアキと同じく、何故か自分に関する記憶が名前以外は全く無い人。 タクヤ君も同じらしい。
これでもう、全く同じ症状の人が4人もいた事になる訳で、不自然な現象というか、とにかく驚いたのは言うまでもない。
タクヤ君と2人で、岩壁にポッカリと空いた洞穴に住んでるらしく、そこを嗅ぎ付けて来た健さんが話を聞く為に2人に攻め寄り、何も聞けない苛立ち
からかタクヤ君を突き飛ばして、その隙にレイカちゃんを連れ去ったらしい。
でも、問題はその後。 レイカちゃんが健さんに何処へ連れて行かれ、一体何をされたのか。 女同士だからこそ聞ける、この質問をしたのは意外にもあたし。 他の話には積極的に質問して耳を傾けていたマコトさんも、健さんのした事となると気安く聞けなかったみたい。 いや、聞くのが怖かったって言った方が正しいと思う。
答えは 『何もされていない』 だった。
正確に言うと、肩に担がれて森の中へ運ばれる最中、逃げようと足掻いているとお腹に強い衝撃を受けて、その痛みで抵抗も出来ないまま何処かも分からない森の奥まで連れて行かれた。 かなりの距離を連れ回され、ようやく降ろされた場所は小さな川の辺。 そこで健さんから幾つかの質問を
され、果てには脅しをかけられたらしい。
「ここに来る前の記憶はあるか?」 「ここは何処だ?」 「どうやって来たか分かるか?」 「帰る方法は無いのか?」
当然、記憶も無ければ、どれも分からないレイカちゃんは怯えながらも 「ありません」 「分かりません」 としか答えられなかった。
その言葉を安易に信用できなかった健さんはある脅しをかけてきた。
「正直に言わないと今から戻ってタクヤを殺してやる」
そこで完全にレイカちゃんの恐怖は絶頂に達したけれど、とにかく必死に訴え続けた。
「本当に何も分かりません!」 と。
それでも健さんは信用しなかった。 その時の健さんの中には 『諦める』 って考えは無かったのだろうか。 そこから更にとんでもない事を
言い出した。
「それならお前を人質にしてタクヤに聞く、それでも言わないなら2人とも殺してやる。」
「タクヤも本当に何も知らないんです!!」
レイカちゃんは必死で訴えた。 でも、それも無駄に終わった。
相手は頭がおかしい。 もう何を言っても信じてもらえないと判断したレイカちゃんは、必死に恐怖と戦いながらも、何とかしてその場から逃げる
事を考えた。 このままでは自分が人質にされ、タクヤ君を困らせてしまう。 でも、ここで自分が逃げればそれは出来ない。
いつも迷惑をかけてばかりなのに、こんな時まで重荷になるのは我慢ならなかった。
暗い森の中で、慣れた目を頼りにして周りに何か武器になる物が落ちていないか、首は動かさず、目線だけを動かして探したけれど、使えそうな
物は何も見つからない。
だけど、恐怖で頭の中が混乱している中でも、タクヤ君の為にも逃げなければいけないという強い意志が、レイカちゃんの発想力をいつもよりも
向上させたのかもしれない。 肩から乱暴に降ろされ、そのまま地面に座っていた事が功を奏して、すぐ手元にある 「土」 を悟られないように
掴み取り、健さんの顔に向けて思い切り投げ付けた。
それは危険な賭けだった。 もし、それを外して失敗すれば相手を怒らせてしまい、何をされるか分からない。 でも、レイカちゃんの利き腕から
放たれた土の塊は、空中に飛び散りながらも確実に健さんの顔に命中。
目の中にまともに入った土は、健さんに決して小さくはない苦痛を与え、それと同時に1番の狙いだった 「視界」 を奪う事に成功した。 片手で
必死に目を擦りながら、その場に立ち尽くす健さん。 その隙にレイカちゃんは立ち上がって走り出した。
場所も方向も分からない。 道標になる物があるとしたら、すぐ側を流れる小川のみ。 その川を辿り、とにかく走った。ひたすら走り続けた。
そして、辿り着いたのがこの海岸だった。
追って来る気配は感じなかったけれど、不安と恐怖を拭い切れないまま、途方も無く砂浜を歩き続け、そこで見つけたのが2つの人影。
タイミング的には、ちょうどあたし達が合流場所まで引き返し始めた直後で、同じ方向に彼女が早足で歩いていたのなら、マコトさんの聞いた
足音と結び付く。
レイカちゃんからすれば、健さんと一緒にいたあたし達を同じく敵だと思うのは仕方のない事で、あれ程までに怖がるのも当然だ。
「怖かったわね・・・・・・」
込み上げてきた切ない気持ちを、そのまま声にしたようなマコトさんの言葉には色んな想いが詰まってるように感じた。
全てを話してくれてる間、何度も泣き出しそうになったレイカちゃんの頭を優しく撫で続けてたのはマコトさん。 一方あたしは、自然と彼女の
手を繋いであげてた。
両脇を歩いてたマコトさんとあたしは、話を聞き終わる頃には何度も後ろを確認するようになってた。 健さんが近くにいるかもしれない。 まだ
追って来ているかもしれないから。
「もう大丈夫よ、健さんが追って来ても私達がいるから。」
「ですね! あたし達じゃ頼りないかもしれないけど、2人なら守ってあげられるから!」
まずは2人で励ましてはみたものの、実際、何やらかすか分かんない今の健さんに会ったら、女2人で守れる自信なんか無い。 でも、もしかしたら
マコトさんは 「守る」 って意味じゃなく 「次こそ説得してみせる」 って意味で言った言葉なのかもしれない。
もし、説得する事が出来たとしても、あたしは健さんがレイカちゃんにした事は許せない。 だって、自分勝手な行動をとって仲間に心配かけて、
自分の為だけに他人の生活に踏み入って、怖がらせて、話を聞き出そうとして、例え脅すための嘘だとしても 「殺す」 なんて言葉を使う事は
絶対に許される事じゃない。
あたしが警察官なら絶対にすぐ逮捕しちゃうんだから。
「ハルちゃん」
「はい?」
「悪いけど、1人で戻ってくれる?」
「え・・・・・・!?」
しばらく何かを考えてた様子のマコトさん。 いきなり何を言い出すのかと思ったら、1人で戻れって・・・・・・
もちろん、その理由を聞いてみた。
結論からすると 「今から2人で洞穴へ行く」
マコトさんの考えはこう。
健さんがレイカちゃんを見失ったなら、次にタクヤ君に会いにまた洞穴に行くかもしれない。 もちろん、タクヤ君がそこでジッとしてるとは思えない。 でも、レイカちゃんを幾ら探し回っても見つからなければ、洞穴に戻って待ってるかもしれない。 下手にウロウロしてれば、万が一レイカちゃんが
逃げて帰って来ても会えなくなるから。 健さんならそれぐらいの事を先読みして行動する筈。
今、洞穴にタクヤ君が1人でいるのを健さんが見つけたら、レイカちゃんを逃がしてしまったなんて言わないだろう。 人質として隠してる、とでも言うに違いない。 そうなったら、タクヤ君は絶対に逆らえない。
健さんはとにかく何かを聞き出そうとする。 でも、本当に何も知らないタクヤ君は何も言える訳が無い。 じゃあ、それからどうするだろう。 今の
健さんの行動は予想できないけど、もしかしたら怒り狂ってタクヤ君に手を上げるかもしれない。
これは全部マコトさんの憶測に過ぎない。
でもその可能性が少しでもあるなら、レイカちゃんが無事だっていうことを、早くタクヤ君に知らせてあげなくちゃいけない。 抵抗できないままじゃ
タクヤ君の身が危険だ。
だから、みんなと合流するより先に、レイカちゃんを連れて洞穴に行きたい。 っていうのがマコトさんの考え。
その話を聞いたレイカちゃんも心配し出して、すぐにでも行く気満々になってる。
3人で行く訳にはいかないから、あたしは合流場所に戻ってヨシアキ達に事情を説明して、そこで待っててほしいとのこと。
あたしは簡単に返事できなかった。
だって、確かにこのままじゃタクヤ君が危ないかもしれないけど、洞穴に行くならマコトさん達まで危ない目に会うかもしれない。
もし、タクヤ君には会えなくて、健さんにだけ会ったりしたらどうなってしまうか分かんない。 マコトさんは健さんに会ったとしても、話して分かってもらうつもりみたいだけど、本当にそう上手く説得できるだろうか・・・・・・
「マコトさん、やっぱ危ないよ! みんなと合流してからの方が・・・」
「それじゃ遅くなっちゃう。 大丈夫、タクヤ君がいなかったらすぐみんなの所に行くから。」
「うー・・・・・・」
やっぱどう考えても心配だ。 でもマコトさんこう見えて頑固だから、1度決めたら健さんでもいなきゃ止められない。
「それじゃ、ヨシと順ちゃんによろしくね。」
「え・・・・・は、はい・・・・・・・」
「行きましょ、レイカちゃん。」
「はい」
道に迷う心配はないのかって事も聞いてみたけど、レイカちゃんが分かる所まで出れば大丈夫だからって言い返されて、やっぱり止められなかった。
2人はあたしを残して、海岸に面した森の中に躊躇いも無く突き進んでいった。
あっという間に取り残されてしまったあたしは、1人でしばらくその場に立ち尽くしてた。
どうしてマコトさんは、あんなに行動的なんだろう。 浜辺で聞こえた足音にだってあんなに怯えてたのに、今は何も恐れずに、ただ考えのままに
行動してる。 レイカちゃんだって、あんなに怖い目にあったのに、また健さんに会うかもしれない可能性も忘れたかのように、ただマコトさんの
考えに同意して、そのまま行動に出ちゃった。
2人にとって、健さんもタクヤ君もそれぞれに特別な人だから?
恋の力?
・・・・・・
!!
もしかしたら・・・・・・!
もしかしたら、マコトさんはタクヤ君が危ないっていうのを口実にして、健さんに会いに行ったんじゃ?
健さんが現れる可能性が高い洞穴まで行くなら、レイカちゃんを連れて行かない訳にもいかない。 でも、先にタクヤ君に会えれば、2人の方は
とりあえず解決する。 じゃあ残された問題は健さんのみ。
マコトさんは、最初から1人で会いに行きたかっただけかもしれない。
最初に健さんを止められなかった事の責任をずっと1人で感じていて、その償いの為に、どうしても自分1人で説得したいと思ってたのかもしれない。
だとしたら・・・・・・
だとしたら、全て納得いく気がする。
マコトさんから出た突然の 「1人で戻ってほしい」 発言。
ただの憶測としても、可能性はあると納得させれらてしまう様な、あのちょっと 「強引な仮説」
あたしが反対してるにも関わらず、なんだか唐突に行ってしまったあの 「行動力」
全部、別の理由があったんだ。
急いで行ったのは、タクヤ君が危険だと思ったからじゃない。
健さんに1人で会うチャンスを逃したくなかったから!
あたしの小さな脳の中で、何かが繋がった音がした気がする。
マコトさんの憶測は 「継ぎ接ぎだらけの仮説」
でも、あたしの憶測は 「完璧に繋がった理論」
2人を追いかける事は出来ない。
あたしにはヨシアキ達と合流して、事情を説明する役目があるから。
もしかして、これもマコトさんの計算の内・・・・・・?
冷たい風が頬を撫でてくる。 不思議とそれは寒く感じない。 ちっとも心地良くも感じない。
ただ、どことなくイヤな空気があたしの中に生まれてくる。
これが胸騒ぎっていうものかもしれない。
あたしは走り出した。 ヨシアキと順ちゃんに会うために。 この事を全部話す為に。 1秒でも早く。
早くマコトさんを追わなければ。 1秒でも早く。