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漂流少女  作者: 真心
15/31

14章 隠された真意

1章以来の、前書きになります。

今回はいつもより、ちょっとだけ読むのダルい展開かもしれませんがどうかご了承を・・・・・

書いていてグダグダ感を拭いきれない気持ちが込み上げてきたもので(汗)

ずっと読んでくれてる方、色んな意味でスイマセン。




海から吹く潮風しおかぜは、意外と湿気しっけを感じないものなんだってこの島に来てから思ってたけど、今夜の風は少し違う。 どこか湿しめを多くふくんだ

その風を鬱陶うっとうしく感じてたあたしの心情しんじょうとは裏腹うらはらに、そのかみは意外に早くかわいてた。 でも、潮気しおけのせいでもうバッサバサ。


あぁ神様、ドライヤーだとかシャンプーだとかトリートメントだとか贅沢ぜいたくは言いません、どうかこのあたしにクシをおさずけ下さい。


少し前に 「髪の制限せいげん時間」 は来て、何も無い浜辺をまた引き返していたマコトさんとあたし。 結局、何も見つけられず、誰かに会う事もなく、

全くの無駄むだに終わったのかって、2人ともガッカリした気分で歩いてた。


「あの2人、ちゃんと引き返してるかしら。」


たまに吹く強い風に、その長い髪がなびいてマコトさんの顔面がんめんはその髪で完全におおわれる。 その光景は何かのホラー映画を思い出してしまいそう

だけど、それを片手でかろやかにき上げる仕草しぐさが、なんとも色っぽくて素敵すてき


「何も見つけてなきゃ戻ってますよ、きっと。」


「なーんにも見つかんないからって、2人きりなのをいい事にイチャついてたりして。」


それは充分じゅうぶん有りうる、と2人でしばしの談笑だんしょう


でも確かに、恋人同士がイチャつくのにこんな最高のシチュエーションとムードは他に無いわ。 目の前に広がる夜の海。 波の音。 イイ感じで

照らしてくる月。 他に誰もいない砂浜。 で、2人っきり。 わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん! 最高じゃないですか。 うらやまし過ぎる。


「戻って来るの遅かったら怪しいっスね・・・・・・」


あたしの深いねたみが込められてる言葉だと、ご理解していただければさいわいです。  


「ほんとね。 遅かったらヨシのこと、からかってやろっと。」


相変わらず子供っぽい発想はっそうのマコトさん。 といいつつ、あたしもそうするつもりだった事は内緒ないしょ


しっかし、こんなに美人で、ちょっとお茶目ちゃめで、性格も可愛くて、純粋じゅんすいで、優しいマコトさんを悲しませるなんて、健さんは一体何いったいなにやってんだろ。

次に会えたら、さすがに怒鳴どなりつけてやりたい気分だ。


考えてる内にどんどんき上がってきた健さんへの怒りを心の底に隠しつつ、あの時、大泣きしたマコトさんの事を思い出した。


健さんが爆発ばくはつしてしまったのを自分の責任せきにんだと言って、みんなへのもう訳無わけなさと、自分の情けなさから、その重圧じゅうあつに押しつぶされそうになってた。

それを救ってくれたのはヨシアキだけど、あたしは何も出来なかった。 


だから、今度はあたしも何かしてあげなくちゃ。 マコトさんにはいつも笑顔でいてほしい。 幸せになってほしい。 何かしなくちゃ・・・・・・ 


4人の中でもマコトさんは、1番健さんの事を心配してる。 同時に、健気けなげに想い続けてたんだと思う、これまでずっと。 それが 「好き」 って

感情かんじょうなのか、また別の感情なのかは分かんないけど、今のあたしにしてあげられる事は、やっぱ1つしかない。 健さんを見つけてあげなくちゃ。

それで、マコトさんは健さんに本心ほんしんを伝えるべきなんじゃないかって思う。 そこはあたしが口をはさむ所じゃないんだけど、そうした方が健さんも、

自分がバカな事したって分かってくれるはず


マコトさんを見てるといろんな感情がいてくる今のあたしだけど、それとは別に、ただ見てるだけでその外見と雰囲気ふんいきからスゴくいやされる事に

気付いた。 で、またジッと見てしまってたあたしは 「ある気配けはい」 に全く気付いてなかった。 


「ハルちゃん・・・・・私ちょっとイヤな感じがしたんだけど・・・・・・」


「え?」


立ち止まったその場で、身をふるわせながら首を一切いっさい動かさず、あたしに向かって小声でささやいてきたマコトさんは、今まで見た事もないような

おびえ方をしてる。


「な、なんですか・・・・・?」


あたしには何に怯えてるのか全く分からない。


「なんか・・・・・いたような・・・・・・」


「え!?」


その言葉におどろいて、急いであたりを見渡みわたしたけど、別に何もいない。 今から戻る方向には何も無い砂浜が広がってるだけ。 月明つきあかりで

結構けっこう見通みとおしが良いし、海と砂しかないんだから、何かいたならすぐ分かるはずだ。 


「見間違いじゃないんですか?」


この場所から視界しかいに入りそうな場所は前も横も全部見たし、やっぱり何もいない。

 

「ち、違うの・・・・・・見たんじゃなくて・・・・・・」


??


「足・・・・・・音・・・・・・追ってくるような・・・・・・」


!!


追ってくる足音って! そりゃ後ろじゃないっすか! あわてて後ろをり返った。


何もいない。


前方と変わらない景色。 違いがあるとしたら、小さな岩がいくつかあるくらい。


「足音って・・・・・・ほんとに聞こえたんですか?」


何だかあたしもちょっと怖くなってきたけど、マコトさんのおびようを見てると、自分がしっかりしないとって気になってくる。


「・・・・・私達のと別の音がね・・・・・・遅れてザッザッザッって・・・・・・」  


「むむむ・・・・・・」


そりゃ流石さすがに怖い。 よくある怪談かいだんみたいじゃないか。


今まで全然気付かなかったけど、どうやらマコトさんは怖いものが苦手だったようだ。 でも、そのわりには夜とか小屋の外でも平気そうだったのを

覚えてる。 もしかして、健さんとかみんながいたから平気だったのかな。


「気のせいじゃないとしたら、人かもしれないですよ。 見てきましょうか?」


実は怪談とか意外に好きなあたし。 お化け屋敷やしきとかも彼氏より怖がらないで、むしろ楽しんじゃうくらい。 でもこの状況じょうきょうの場合、半分ワクワク

しながらも、もう半分は、足音の正体が健さんかもしれないって思ってた。


「えぇぇぇ・・・・・・はなれないでよぉ・・・・・・・」


小動物リスとかネコみたいな目であたしを見てくるマコトさん。 可愛かわいい。 可愛過ぎる。 犯罪級はんざいクラスだ。 女のあたしにれさせる気ですか。


「じゃあ、一緒に見に行きましょ、ね? ほら、あの岩のところ、誰かいるかも。 健さんかもしれないですよ?」


身震みぶるいだけで、完全にその場に固まってしまってるマコトさんを強引ごういんに後ろに向け、なんとなくあやしい岩の方を指差ゆびさした。


「健さん・・・・・・まぁそうだけど、ハルちゃんはなんでそんなに平気なのよぉ・・・・・・」


「さ、さぁ・・・・・なんでなんでしょう・・・・・・」


ともかく、あたしは聞いてなくとも、マコトさんが足音を聞いたって言うからには、確認しないと気になってしょうがない。 ちょっと強引ごういんにマコトさんの

背中を押し、砂に半分ぐらいまってるいくつかの岩の後ろを調べてみることに。 いきなり誰か飛び出してきたら、流石さすがのあたしでも 「キャッ!」

とか言っちゃいそうだけど。


「マコトさん、あんまり強く持たれると痛いんですけど・・・・・・」


いざ向かうとなったら、当然のようにあたしの後ろに隠れてしまったマコトさん。 両手であたしの左腕ひだりうでをギュッってつかむもんだから、それがまた

痛いのなんのって・・・・・・


握力パワーを弱めてもらったところで、まず1番近くの岩にソーッと近付いてみるんだけど、岩っていっても人が寝転ねころんでやっと隠れられる程度の大きさで、

とても人が隠れてるような気が全然しない。


「異常なし・・・・・と」


最初の岩陰は何も無し。 で、今いる位置から考えて、何か隠れてるとしたらあと2つの岩陰いわかげぐらい。 なんか、別に何もいないような気がする。


「マコトさん、やっぱ何も無いかも。 さっきはなにかいたとしても、もうどっか逃げて行っちゃったのかも。」


あたしは、いつの間にか 「誰か」 と言わずに 「何か」 と言ってた。 足音ってもしかして、動物とかなんじゃないのって思ったから。


「だって・・・・・・逃げる足音なんてしなかったよ・・・・・?」


「んー・・・・ほら、動物とかだったらササ―ッって逃げ・・・」


あたしが言い終わる前に、予想だにしなかったマコトさんのさけびがあたりにひびわたる。


「違う! 絶対に人の足音だった!」


その時だった。


あたしは視界しかいすみに何か黒い影が動くのを見てしまった。


ザッザッザッザッザッザッ


「なに・・・・・・!?」


砂を素早すばや・・・・・くもない足音。


「キャァァァァァァァァァァッ!!!」


そして、至近距離しきんきょりからあたしの耳をつんざくマコトさんの悲鳴ひめい。 とってもうるさい。


咄嗟とっさに影が動いた方に目をうつしたあたしは、走りろうとする 「何か」 の正体をこの目ではっきりと確認した。 マコトさんにも何か動いた

のは見えたようで、素早く目をせると、あたしの胸元むなもとにしがみついてきた。


ザッザッザッザッザッ   ドシャッ


「・・・・・あ」


あたしが見た姿すがた、それはまぎれもなく 「人」 だった。


でも、コケた・・・・・・


人とは認識にんしきできない内に目を伏せてしまったマコトさんは、あたしの胸元でガクガクふるえたまま。


まだ確認してなかった片方かたほう岩陰いわかげから飛び出して来て、逃げるように走り・・・・・・ろうとしたその正体は、どう見ても健さんには見えない。

かなり小柄こがらな人。 なんか必死ひっしに走って逃げようとしたのを、マコトさんの悲鳴ひめいにビックリして転んだように見えた。


「あのー・・・・・大丈夫ですか?」


砂の上にうつせに倒れてるその人は、足を動かして立ち上がろうとしてるけど完全に空回からまわりしちゃってて、その場で必死にもがいてる。

少し近付いてみるとそれが女の人だと分かった。


「あ・・・・・・う・・・・・・うぁ・・・・・!」


言葉が分からないってことは無いと思うけど、なんか随分ずいぶんおびえてるみたい。 足音の正体が人だと分かった事で安全だと判断はんだんしたあたしは、

しがみ付いてるマコトさんをチョンチョンってっついて、そっちを見るようすすめた。


目の前まで近付くと彼女はあわててジタバタし出すけど、どうやらこしが抜けてるのか全く移動できてない。 こっちを見ないから顔は分かんないけど、

かなり細身ほそみで小柄なその人は女性って言うより少女っぽい。 


「怖がらなくていいよ、別にあやしいもんじゃないから。」


言ってから思ったけど、本当に怪しい人も自分の事を 「怪しい者」 とは言わないよね。


「・・・・・おどろかせたならごめんなさいね」


転んであせりまくってる相手を見て、マコトさんも平常心へいじょうしんに戻ったみたい。


「ゆ、許して下さい・・・・・・!」


第一声だいいっせいからいきなり許しをうその子がこっちに顔を向けた瞬間、それが見覚えのある顔だって事を、あたしもマコトさんもほぼ同時に思い出した。 タクヤって男の子と一緒にいた子だ、間違いない。


それを確信かくしんしたマコトさんはスッとあたしからはなれ、彼女の横に迷わずしゃがみ込むと、その背中に手をれて優しく声をかけた。


「安心して、何もしないから。 昼間会ったわよね? 何かあったの?」


その天女てんにょささやきのような音色ねいろに、後ろにいたあたしがまずいやされました。 しかしマコトさんの変わりようじつすさまじい。 ほんの30秒程前まで

ひろわれて来た子猫こねこみたいにおびえてたのに、今はあたしより落ち着いて話を進めようとしてる。


「・・・・・・」


マコトさんの問いに対し彼女は何も答えてくれない。


「ねぇ教えて? 何があったの? タクヤっていう子は一緒じゃないの?」


「・・・・・許して・・・・・・」


必死で逃げようとしてたその動きは止めてくれたけど、まだ相当そうとう怯えてるのか、こっちの質問に全く答えてくれない。 その様子は逃げるのを

あきらめたっていうか、もう観念かんねんしたような態度に見える。 話が進まないこの状況にあたしはすこーしだけイラッときたけど、せっかくマコトさんが

聞き出そうとしてるんだから、邪魔するわけにはいかない。 ここは大人おとなしくしておくべきだ、うん。


「あのあとね、タクヤ君と話してた男の人とはぐれちゃったの。 あのが高い男の人だけど、もしかして会ったりしてない?」


もしかしてって、あたしも気になっていた事をマコトさんは前に一言ひとこと付けくわえて質問した。 なるほど、そう言っておけば彼女のこわがってる理由が

予想通りでも答えやすくなる。


「・・・・・はぐれた・・・・・・じゃあ、一緒に戻って来たんじゃないんですか・・・・・・?」


やっとまともにしゃべってくれた。 さすがマコトさん。 怖がってない時は本当に頼りになる(笑)


「タクヤ君にキツく言われたから、他の4人はそれを守るつもりだったの。 でも、1人だけ単独たんどく行動しちゃって・・・」


「あの人・・・・・・! どうしてあんな事するんですか!?」


マコトさんが言い終わらないうち突然とつぜん、声をあらげた彼女の言っている意味があたし達にはスゴく興味きょうみがあった。 やっぱり健さんに会って

何かされたんだ。


悪い予感よかん的中てきちゅうした。


健さんは話を聞きだすために2人に会いに行って、もう何かひどい事をしたんだ。 そして、きっと彼女はそれから逃げて来た。 さっきひどおびえて

いたのは、健さんとあたし達4人が共謀きょうぼうしてそれを実行したと誤解ごかいされてたから。


「詳しく教えてくれる?」


あらためて聞いたマコトさん。 あたし達は彼女からちゃんと話を聞く事にした。


単独行動に走った健さんが一体何をしたのか。


たおれたままの彼女を抱き起こし、その身体からだささえて波打ちぎわの方まで歩くと3人でそこに座り込んだ。 それはこしを抜かして力が入らなかった

彼女を落ち着かせるため。 


合流場所に戻る時間の事を思い出したマコトさんは、落ち着いた彼女に、一緒に戻りながら説明してほしいってたのんだ。 それを了承りょうしょうしてくれた

彼女は同時に、待ち合わせしてる他の2人にも会わせたいって意味を理解してくれたようだ。 


意外にもあっさりとついて来てくれることに決まったのは、マコトさんもあたしも女だからだったのかもしれない。 となると、男のヨシアキには

あまり近付けない方がいいのかも。 そう思う根拠こんきょは、彼女が健さんに連れ去られて 「何かされた」 のかもしれないって、そう思ったから。

あたしにはそれが1番気になってた。 


砂浜を歩くあたし達に真横まよこから吹きつける潮風しおかぜは、身体半分を冷たく刺激しげきしてくる。 相変わらずけたの浜辺は肌寒はだざむい。 冷えしょうのあたしには

特にゾクッとくる。 女の子は冷えしょうの子が多いらしいから、あとの2人も同じかも。


昼間、タクヤ君と一緒に5人と会ったあとから今までに、何があったのか全て話してくれた彼女。 名前は 「レイカ」 っていうらしい。 それだけしか

覚えてなくて、つまりマコトさんやヨシアキと同じく、何故なぜか自分にかんする記憶きおくが名前以外は全く無い人。 タクヤ君も同じらしい。


これでもう、全く同じ症状しょうじょうの人が4人もいた事になるわけで、不自然ふしぜん現象げんしょうというか、とにかくおどろいたのは言うまでもない。


タクヤ君と2人で、岩壁いわかべにポッカリといた洞穴ほらあなに住んでるらしく、そこをぎ付けて来た健さんが話を聞く為に2人にり、何も聞けない苛立いらだ

からかタクヤ君を突き飛ばして、そのすきにレイカちゃんを連れ去ったらしい。


でも、問題はその後。 レイカちゃんが健さんに何処どこへ連れて行かれ、一体いったい何をされたのか。 女同士おんなどうしだからこそ聞ける、この質問をしたのは意外にもあたし。 他の話には積極的せっきょくてきに質問して耳をかたむけていたマコトさんも、健さんのした事となると気安きやすく聞けなかったみたい。 いや、聞くのが怖かったって言った方が正しいと思う。


答えは 『何もされていない』 だった。


正確に言うと、かたかつがれて森の中へはこばれる最中さいちゅう、逃げようと足掻あがいているとおなかに強い衝撃しょうげきを受けて、その痛みで抵抗ていこうも出来ないまま何処どこかも分からない森の奥まで連れて行かれた。 かなりの距離きょりを連れ回され、ようやくろされた場所は小さな川のほとり。 そこで健さんからいくつかの質問を

され、果てにはおどしをかけられたらしい。


「ここに来る前の記憶はあるか?」  「ここは何処どこだ?」  「どうやって来たか分かるか?」  「帰る方法は無いのか?」 


当然、記憶も無ければ、どれも分からないレイカちゃんはおびえながらも 「ありません」 「分かりません」 としか答えられなかった。


その言葉を安易あんいに信用できなかった健さんはある脅しをかけてきた。


「正直に言わないと今から戻ってタクヤを殺してやる」


そこで完全にレイカちゃんの恐怖きょうふ絶頂ぜっちょうに達したけれど、とにかく必死にうったえ続けた。


「本当に何も分かりません!」 と。


それでも健さんは信用しなかった。 その時の健さんの中には 『あきらめる』 って考えは無かったのだろうか。 そこからさらにとんでもない事を

言い出した。


「それならお前を人質ひとじちにしてタクヤに聞く、それでも言わないなら2人とも殺してやる。」


「タクヤも本当に何も知らないんです!!」


レイカちゃんは必死で訴えた。 でも、それも無駄むだに終わった。


相手は頭がおかしい。 もう何を言っても信じてもらえないと判断はんだんしたレイカちゃんは、必死に恐怖と戦いながらも、何とかしてその場から逃げる

事を考えた。 このままでは自分が人質にされ、タクヤ君を困らせてしまう。 でも、ここで自分が逃げればそれは出来ない。 


いつも迷惑をかけてばかりなのに、こんな時まで重荷おもにになるのは我慢ならなかった。


暗い森の中で、れた目をたよりにして周りに何か武器ぶきになる物が落ちていないか、首は動かさず、目線だけを動かして探したけれど、使えそうな

物は何も見つからない。


だけど、恐怖で頭の中が混乱こんらんしている中でも、タクヤ君のためにも逃げなければいけないという強い意志いしが、レイカちゃんの発想力はっそうりょくをいつもよりも

向上こうじょうさせたのかもしれない。 肩から乱暴らんぼうに降ろされ、そのまま地面に座っていた事がこうそうして、すぐ手元にある 「つち」 をさとられないように

つかみ取り、健さんの顔に向けて思い切りげ付けた。


それは危険なけだった。 もし、それをはずして失敗すれば相手を怒らせてしまい、何をされるか分からない。 でも、レイカちゃんのうでから

はなたれた土のかたまりは、空中に飛び散りながらも確実かくじつに健さんの顔に命中めいちゅう


目の中にまともに入った土は、健さんに決して小さくはない苦痛くつうを与え、それと同時に1番のねらいだった 「視界しかい」 をうばう事に成功した。 片手で

必死に目をこすりながら、その場に立ちくす健さん。 そのすきにレイカちゃんは立ち上がって走り出した。


場所も方向も分からない。 道標みちしるべになる物があるとしたら、すぐそばを流れる小川おがわのみ。 その川を辿たどり、とにかく走った。ひたすら走り続けた。

そして、辿り着いたのがこの海岸だった。


追って来る気配は感じなかったけれど、不安と恐怖をぬぐい切れないまま、途方とほうも無く砂浜を歩き続け、そこで見つけたのが2つの人影。


タイミング的には、ちょうどあたし達が合流場所まで引き返し始めた直後ちょくごで、同じ方向に彼女が早足はやあしで歩いていたのなら、マコトさんの聞いた

足音とむすび付く。


レイカちゃんからすれば、健さんと一緒にいたあたし達を同じくてきだと思うのは仕方しかたのない事で、あれ程までに怖がるのも当然だ。


こわかったわね・・・・・・」


み上げてきたせつない気持ちを、そのまま声にしたようなマコトさんの言葉には色んなおもいがまってるように感じた。


全てを話してくれてる間、何度も泣き出しそうになったレイカちゃんの頭を優しくで続けてたのはマコトさん。 一方いっぽうあたしは、自然と彼女の

手をつないであげてた。


両脇りょうわきを歩いてたマコトさんとあたしは、話を聞き終わる頃には何度も後ろを確認するようになってた。 健さんが近くにいるかもしれない。 まだ

追って来ているかもしれないから。


「もう大丈夫よ、健さんが追って来ても私達がいるから。」


「ですね! あたし達じゃたよりないかもしれないけど、2人なら守ってあげられるから!」


まずは2人ではげましてはみたものの、実際じっさいなにやらかすか分かんない今の健さんに会ったら、女2人で守れる自信なんか無い。 でも、もしかしたら

マコトさんは 「守る」 って意味じゃなく 「次こそ説得してみせる」 って意味で言った言葉なのかもしれない。  


もし、説得する事が出来たとしても、あたしは健さんがレイカちゃんにした事は許せない。 だって、自分勝手な行動をとって仲間に心配かけて、

自分の為だけに他人の生活にみ入って、怖がらせて、話を聞き出そうとして、たとおどすすためのうそだとしても 「殺す」 なんて言葉を使う事は

絶対に許される事じゃない。


あたしが警察官ポリスウーマンなら絶対にすぐ逮捕たいほしちゃうんだから。


「ハルちゃん」


「はい?」


「悪いけど、1人で戻ってくれる?」


「え・・・・・・!?」


しばらく何かを考えてた様子ようすのマコトさん。 いきなり何を言い出すのかと思ったら、1人で戻れって・・・・・・


もちろん、その理由を聞いてみた。


結論からすると 「今から2人で洞穴へ行く」


マコトさんの考えはこう。


健さんがレイカちゃんを見失みうしなったなら、次にタクヤ君に会いにまた洞穴に行くかもしれない。 もちろん、タクヤ君がそこでジッとしてるとは思えない。 でも、レイカちゃんをいくら探し回っても見つからなければ、洞穴に戻って待ってるかもしれない。 下手にウロウロしてれば、まんいちレイカちゃんが

逃げて帰って来ても会えなくなるから。 健さんならそれぐらいの事を先読さきよみして行動するはず


今、洞穴にタクヤ君が1人でいるのを健さんが見つけたら、レイカちゃんを逃がしてしまったなんて言わないだろう。 人質として隠してる、とでも言うに違いない。 そうなったら、タクヤ君は絶対にさからえない。


健さんはとにかく何かを聞き出そうとする。 でも、本当に何も知らないタクヤ君は何も言える訳が無い。 じゃあ、それからどうするだろう。 今の

健さんの行動は予想できないけど、もしかしたらいかくるってタクヤ君に手を上げるかもしれない。


これは全部マコトさんの憶測おくそくに過ぎない。 


でもその可能性が少しでもあるなら、レイカちゃんが無事だっていうことを、早くタクヤ君に知らせてあげなくちゃいけない。 抵抗ていこうできないままじゃ

タクヤ君の身が危険だ。 


だから、みんなと合流するより先に、レイカちゃんを連れて洞穴に行きたい。 っていうのがマコトさんの考え。 


その話を聞いたレイカちゃんも心配し出して、すぐにでも行く気満々まんまんになってる。


3人で行く訳にはいかないから、あたしは合流場所に戻ってヨシアキ達に事情を説明して、そこで待っててほしいとのこと。 


あたしは簡単に返事できなかった。


だって、確かにこのままじゃタクヤ君が危ないかもしれないけど、洞穴に行くならマコトさん達まで危ない目に会うかもしれない。 


もし、タクヤ君には会えなくて、健さんにだけ会ったりしたらどうなってしまうか分かんない。 マコトさんは健さんに会ったとしても、話して分かってもらうつもりみたいだけど、本当にそう上手うまく説得できるだろうか・・・・・・


「マコトさん、やっぱ危ないよ! みんなと合流してからの方が・・・」


「それじゃ遅くなっちゃう。 大丈夫、タクヤ君がいなかったらすぐみんなの所に行くから。」


「うー・・・・・・」


やっぱどう考えても心配だ。 でもマコトさんこう見えて頑固がんこだから、1度決めたら健さんでもいなきゃ止められない。


「それじゃ、ヨシと順ちゃんによろしくね。」


「え・・・・・は、はい・・・・・・・」


「行きましょ、レイカちゃん。」


「はい」


道に迷う心配はないのかって事も聞いてみたけど、レイカちゃんが分かる所まで出れば大丈夫だからって言い返されて、やっぱり止められなかった。

2人はあたしを残して、海岸に面した森の中に躊躇ためらいも無く突き進んでいった。


あっという間に取り残されてしまったあたしは、1人でしばらくその場に立ちくしてた。


どうしてマコトさんは、あんなに行動的なんだろう。 浜辺で聞こえた足音にだってあんなにおびえてたのに、今は何もおそれずに、ただ考えのままに

行動してる。 レイカちゃんだって、あんなにこわい目にあったのに、また健さんに会うかもしれない可能性も忘れたかのように、ただマコトさんの

考えに同意どういして、そのまま行動に出ちゃった。


2人にとって、健さんもタクヤ君もそれぞれに特別な人だから?


恋の力?


・・・・・・


!!


もしかしたら・・・・・・!


もしかしたら、マコトさんはタクヤ君が危ないっていうのを口実こうじつにして、健さんに会いに行ったんじゃ?


健さんが現れる可能性が高い洞穴まで行くなら、レイカちゃんを連れて行かない訳にもいかない。 でも、先にタクヤ君に会えれば、2人の方は

とりあえず解決かいけつする。 じゃあ残された問題は健さんのみ。


マコトさんは、最初から1人で会いに行きたかっただけかもしれない。

 

最初に健さんを止められなかった事の責任せきにんをずっと1人で感じていて、そのつぐないの為に、どうしても自分1人で説得したいと思ってたのかもしれない。


だとしたら・・・・・・


だとしたら、全て納得なっとくいく気がする。


マコトさんから出た突然とつぜんの 「1人で戻ってほしい」 発言。


ただの憶測おくそくとしても、可能性はあると納得なっとくさせれらてしまうような、あのちょっと 「強引ごういん仮説かせつ


あたしが反対してるにもかかわらず、なんだか唐突とうとつに行ってしまったあの 「行動力」


全部、別の理由があったんだ。


急いで行ったのは、タクヤ君が危険だと思ったからじゃない。


健さんに1人で会うチャンスをのがしたくなかったから!


あたしの小さなアタマの中で、何かがつながった音がした気がする。


マコトさんの憶測おくそくは 「ぎだらけの仮説」


でも、あたしの憶測は 「完璧かんぺきつながった理論りろん」 


2人を追いかける事は出来ない。


あたしにはヨシアキ達と合流して、事情じじょうを説明する役目やくめがあるから。


もしかして、これもマコトさんの計算のうち・・・・・・?


冷たい風がほほでてくる。 不思議ふしぎとそれは寒く感じない。 ちっとも心地良ここちよくも感じない。


ただ、どことなくイヤな空気があたしの中に生まれてくる。


これが胸騒むなさわぎっていうものかもしれない。


あたしは走り出した。 ヨシアキと順ちゃんに会うために。 この事を全部話すために。 1秒でも早く。 


早くマコトさんを追わなければ。 1秒でも早く。



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