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漂流少女  作者: 真心
11/31

10章 突然の別れ

こんな風になること、あるんだね。


あたしは、最初にヨシアキに会って、本当の事を聞かされて、不安やうたがいの気持ちをいっぱい持ってた。 でも信じた。 そして、みんなに出会った。


でも、それはきっと1人だったから。 あたしが最初に1人ぼっちだったから。 他のみんなもそう。 きっと同じだったんだ。


人は、みんな不安におちいると安心を求める。 そうやって集まったあたし達には、予想もしてなかった意外なわな


あのタクヤって人も、一緒にいた女の子も、あたし達に出会うもっと前に、まずお互いが出会ったんだ。 それがあの2人にとっての安心だったんだ。 


ただの推測すいそくだけど、あたしはそう思ってる。


島の探索に行く事になって、いざ出発してからまだ1日半。 初めての森で、意外な雨のあとの意外な出会い。 でも、その出会いは分かり合えないものだった。


「ここから立ち去れ、2度とここに踏み入るな。」 とまで言われてしまったにがい出会い。


2人の男女に見送られて、何も話を聞く事が出来ないまま、あの場を立ち去った。


いつの間にかすっかり晴れた空のもと、健さんの後ろをただ黙々(もくもく)とついて来ていたあたし達に、思わぬ争いが起こることになった。


「あいつ、ムカついた。」


健さんのすぐうしろにマコトさん。 さらにその後ろを歩くヨシアキが、誰に向かってという訳でもなく愚痴ぐちってる。


そのヨシアキのさらに後ろを、一緒に並んで歩いてるのが順ちゃんとあたし。


「そんな風に言うのはやめなさい、あの子たちは干渉かんしょうされたくないのよ。」


振り返りもせず、ヨシアキに対していつもよりないマコトさん。


マコトさんも気付いてるみたいだけど、実はあたしも順ちゃんにコッソリ聞いて分かってた。 タクヤって人が、えてあたし達を遠ざけたってこと。 態度たいど言葉遣ことばづかいの悪さはきっと、たった1人であの女の子を守ろうとしてた意志の強さのあらわれだろうって。


それを聞いたあたしは、めっちゃ納得できた。 


だって、2人っきりでずっと生活してたんだとしたら、突然現れた5人の人間に、警戒しない方がおかしい。 しかも、5人もいる中で最初に話した相手が、あの強面こわもての健さんじゃ・・・・・・・・・・・・・・そりゃ弱みなんか見せられないし、強がるのも分かる。


「・・・・・・・・・・ねぇ順ちゃん、それヨシアキや健さんにもちゃんと教えてあげない?」


そっと順ちゃんに耳打みみうちしてみた。


「そうだね・・・・・・・・・・・・でも・・・・・・・・」


言いかけてチラッと健さんの方を見た順ちゃん。 そっか、健さんに言うのはちょっと怖いよね。 だから、あたしにまずコッソリ教えてくれたわけだし。


「よし・・・・・・・・・・じゃあ、あたしに任せて・・・・・・・・・・」


とは言ったものの、この空気の中で発言するのはさすがにちょっと・・・・・・・・・・・・


そういえば、健さんはあれ以来、全くしゃべらない。 次に行くのがこっちの方向でいいのかも指示しじしてくれないままだ。 だから、みんなでとりあえず後ろをついて行ってる。 やっぱ、さっきの相手の態度にムカついてんのかな(汗)


よし・・・・・・・・ここはまず、マコトさんを後ろに呼んで、話してもらうように頼んでみるか・・・・・・・・・・・・・・・


そう考えて、あたしが行動に出ようとした、その時だった。


「あの2人、似てただろう。」


おおっと! ようやく口を開いた健さん。 って、このタイミング!? そうですか。 あぁ出遅でおくれた・・・・・・・・・・・・・


「あ、そういえば似てたわよね。」


「・・・・・・・・・・・・・・・そうだっけ?」


健さんの質問に同意するマコトさん、それに対し、全く気付いちゃいなかった様子のヨシアキ。


そう、思い出したけどあの2人は似てた。 日焼けして顔が黒かったし、男女で髪型も違うから分かりにくかったけど、よく見ると

顔のつくりがそっくりだった。


「あたしはそっくりでビックリしました。 順ちゃんは?」


「うん、兄妹きょうだいかなって思った。」


健さんがそこで反応した。 順ちゃんの言ったその言葉が、まさに健さんの言いたかった事らしい。 


「そう、兄妹。 もしかしたら双子の可能性もある。 どっちにしろ、あの2人が他人じゃない事は間違まちがいない。 問題は、それをあの2人がお互いに知ってるかどうかだが・・・・・・・・・・・・」


健さんがこんな風に話し出すと、いつもみんな黙って、興味深く聞き入ってしまう。


なんとかこれだけ聞き出せたが、オレが自己紹介するとあいつはタクヤと名乗なのった。 まずそれを聞いてピンときた。 マコトとヨシと同じように、記憶が無いのだろうと。 相手がフルネームで名乗ってるのに、あえて下の名前だけで名乗る奴なんか、いるとしたら他にホストぐらいだ。」


「じゃあ、あの子ホストだったのかも。 わりと綺麗きれいな顔してたし。」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あんな子供ガキのホストがいてたまるか」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そ、そうよね」


マコトさんのナイスなツッコミで、久しぶりにちょっとだけ場がなごんだ。


「もう1人の少女。 あの子に記憶があるなら兄妹と認識にんしきして一緒にいるだろうが、どっちも記憶が無いなら、他人として一緒にいるかもしれん。 だが、問題はそこじゃない。 あの2人が兄妹なら、同じ家族の2人が一緒に来たってことだ。 これは大きな手がかりになるんじゃないか?」


「おお、ほんとだ! それって何かありそう!」


激しく同意してるヨシアキと同じく、あたし達もそれには興味を引かれた。


「・・・・・・・・・続けるが、家族2人がここに来てるなら、他にも家族がいるかもしれん。 それに、オレ達もその家族に何かかかわりがあってここに来てしまったのかもしれん。 とにかく、兄妹なら同じ家に住んでた可能性は限りなく高い。 ここに来る直前の出来事や行動で、共通の事が何かあったかもしれない。」


こうゆう話になると、誰よりも1番よくしゃべるんだよね、健さんって。


このしゃべりで雑談ざつだんにも加わってくれたら、愚痴ぐちとかも聞けるし、イライラさせないんだけどなぁ。 ま、こんな低いテンションでくわわられても、ちっとも盛り上がらないんだけどね(汗)


「でもさ、もし2人とも記憶が無かったら意味ないよ。」


「あるかもしれない、何か知ってるかもしれない。」


ヨシアキの意見をすぐにき消した健さんはさらに続けた。


「それと、記憶があるオレら3人に共通点は無い。 記憶が無いマコトとヨシにも共通点は無かったが、あの2人がもし両方記憶が無ければ、兄妹という共通点がある。 となると、お前らも実は姉弟きょうだいだったとかじゃないのか? よく思い出してみろ。」


健さんがちょっと強引な要求ようきゅうを突き付けた相手は、マコトさんとヨシアキ。 しっかし、いろいろ思い付くよな、健さんって・・・・・・・・・・・


「・・・・・・・・・それはあり得ないわ、健さん。」


「思い出せないし、オレもあり得ないと思う。」


否定ひていする2人に対し、あたしは充分じゅうぶんにあり得ると思った。 いつもは仲悪いけど、いざとなったら助け合う、みたいなのは姉弟によくあるもん。


「あたしから見るとけっこうアリです、2人が姉弟ってせつ。」


久々(ひさびさ)の発言。 だって言われてみると、この2人はかなりそれっぽい。


「え〜! こいつが私の弟なわけないわ、ハルちゃん。」


「いや、こっちこそごめんだよ、こんなねえちゃん。」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!」





―――――――ただいま2人がののしり合っております、どうかご了承りょうしょうください―――――――





「そういえば、弟がいたんだったな。」


思い出したように、健さんはあたしに聞いてきた。


「はい、生意気なまいきな弟でいつもケンカばっかしてます。 だからこうやって見てると、2人もそんな風に見えたりして・・・・・・・・・・・」


『ちょ、ちょっと!』


「ふむ、考えてみたら2人は雰囲気ふんいきも似てるな。 こんな感じでいつもケンカばかりしてやがる。」


『に、似てないって〜!』


「はい。 でもいざとなると、仲が良いって言うか、いろいろ助け合ったり。」


『助け合ってない! 全然! これっぽっちも!』


「ますますそれっぽいな。」


『っぽくないって健さん!』


「っぽいですね。」


『っぽくないわよハルちゃん!』


「よし、とりあえずこいつら1発なぐって、思い出させてみるか・・・・・・・・・・・・」


『え・・・・・・・・・・・!!!』      『ちょ・・・・・・・・・・・・・・!!!』


「おい、そこのお前ら。 そろそろ静かにせんと本当に殴るぞ。」


まだののしり合ってた2人は健さんのおどしで大人しくなった。 コントみたいだったけど、初めて健さんと2人だけでまともに会話したよ、あたし。


脅されてシュンとなってる2人を見て、クスクス笑ってる順ちゃん。 この島に来てまだ数日だけど、このメンバーのこんなやり取りをもう何回も見てる。 でも、こうゆう雰囲気もめっちゃ久しぶりな気がする。 2人には悪いけど、見てる方は楽しいからずっとこんなだったらいいのに。


でも、こんな光景を見るのもこれが最後になるなんて、この時のあたしはまだ知らない。


「ともかく、あの2人にもう1度会って、色々と確かめる必要がありそうだ。」


ちょっと聞き捨てならないセリフが健さんから出てきた。


「え、でもあの子に警告されちゃったし、今回はあきらめた方がいいんじゃ・・・・・・・・・・」


立ち直ったマコトさんもこれは聞き捨てならないと、即座そくざ反論はんろんしてくれた。 


「警告? そんなもん関係あるか。」


全くおかまいなしって感じの健さん、これって、なんとなくイヤな予感がするのはあたしだけでしょうか・・・・・・・・・・・・


「やっとまた見つけた、貴重な 『人』 だぞ? オレ達に合流する気がないとしても、協力してもらうのは当然だろう。」


こんな場所だから、健さんの言う事もよく分かるけど、さすがにこの意見には賛成さんせいできない。 きっと他のみんなもそうだと思う。


「でもさ、あの感じじゃ協力してもらうとか無理だし、もう何も教えてくれないって絶対。 好きにさせとけばいいじゃん。」


まだ怒ってるヨシアキ。 やっぱ、まだあの人が気に入らないって感じなんだね。 でも、彼にもちゃんと理由があってあんな態度を

とったんだって事、説明しないとマズいかも・・・・・・・・・・・・


「貴重な手掛かりかもしれんのに、素通すどおりする気か? それじゃあ探索に来た意味がないだろうが。 この先に進む前に、戻ってあの2人に話を聞きに行くのは必須ひっす。 全員で戻るぞ。」


これは本当にマズい・・・・・・・・・・・・健さんがもう完全に次の行動を決定してる。 何とか説得しないと。


「あの、健さん、とヨシアキも聞いてほしいんだけど・・・・・・・・・・・」


あたしは思う事を全部話した。 突然、大人数おおにんずうで現れた人間をいきなり信用するのは無理だって事。 タクヤって人が、あの女の子を守る為に、不審者ふしんしゃを遠ざけようとしただけなんじゃないかって事。 あの態度の悪さは、弱みを見せて自分達、もしくは女の子に危険がおよぶのを恐れたんじゃないかって事。 そっとしておいてあげた方がいいんじゃないかって事。 とにかく思う限り話した。 熱意ねついも込めて。


マコトさんは言い終わったあたしに向かってニコっと微笑ほほえんでくれた。 「ナイス、ハルちゃん。」 とでも伝えたかったのかな。 


ヨシアキは納得してくれた。 すごく気持ちは分かるって。 自分がその立場なら同じようにするかもしれないって、言ってくれた。 たぶん、あの女の子と順ちゃんとを重ねて想像したのかもしれない。


でも、健さんは違った。


「それなら、不審者とかいう誤解ごかいけばいいだろう。 それに、同じ境遇きょうぐうの人間なら、ここから帰りたいと思わないはずがない。

すぐに協力する気になるさ。」


健さんの言う事はいつも正論せいろんなだけに、困る。 でも、今回ばっかりは優しさが無い。 それに、そう簡単に誤解が解けるとは思えない。


って言うか・・・・・・・・・・・・みんな挨拶あいさつも出来ないまま、1番怪しい風貌ふうぼうのあなたが1人で色々と聞くからでしょうに!!


って言いたかった・・・・・・・・・・・・・・・・・・・けど、無理。 さすがのあたしも、健さんには怒鳴れない。 だって怖いもん。


「とにかく戻るぞ。 あいつら島に来てから長そうだ。 あの周辺の何処どこかに住んでるのは間違いない。」


あうううううううううううううううううう・・・・・・・・・・・・・・・・どうしよう・・・・・・・・・・・・・・・・・・止められない(超涙)


「健さん、私も反対よ。 ハルちゃんと同じ理由。」


うああああああ! マコトさん! 感謝かんしゃします! どうか止めてください健さんを!!


「オレも反対。 健さん、そりゃちょっと無神経むしんけいだよ。」


ヨシアキいいいいいいいいいいいいいいいい!!  ありがとう!  ありがとう!!  Thank Youありがとう!!  Nice Guyあんたいいヤツだ!!


「・・・・・・・・・・・・私も、そっとしておいてあげる方がいいと思います。」


順ちゃあああああああああああああああああああん!!!  ありがと!  ありがとね!  My Sweetココロの Angelトモよ!!


本当に良かった。 3人とも味方だ。 これで健さんも考え直してくれるはず。 なんたって4人が反対してるんだもん。


「お前ら本気か? ここから帰りたくないのか?」


健さんのその質問には誰も答えない。


帰りたくない訳ないじゃん。 みんな帰りたいし、2人の記憶も戻ればいいと思ってる。 だからみんな健さんについて来た。 でも、みんなの言ってるのはそうゆう事じゃない。 健さんには伝わらないのかな・・・・・・・・・・・・・・


「・・・・・・・・・・・そうか、分かった。」


そう言ってしばらく黙り込んだ健さん。 分かってくれたのかもしれない! みんなもそう期待してたと思う。 でも、そうじゃなかったらしい。


「オレは戻ってあいつらに会いに行く。 早く帰りたいんでな。 来たくないやつは好きにしろ、1人でもオレは行く。」


!!!


先頭せんとうにいた健さんは、呆然ぼうぜんと立ちくすあたし達の前を素通すどおりして、来た道を引き返すため歩き出した。


信じられない。 健さんからとんでもない言葉が出てしまった。 1人で行くとか。 どうすればいいのか分からない。 

本当に1人でも行く気みたいだ。 なんでそこまで・・・・・・・・・・・・・・・・・いや、健さんの気持ちも分かってる。

でも・・・・・・・・・・・・・・でも・・・・・・・・・・・・・・・・


「健さん! いい加減にしなよ!」


はげしい怒号どごうを上げたヨシアキが、まだすぐそこを歩いてる健さんの所までけ出すと、そのうでつかみ、全力で引き止めようとした。


「離せ、ヨシ」


「離さない」


「聞こえないか? 離せと言ってる。」 


「考え直してくれるなら離すよ。」


「しつこいぞ、お前。」


「そっちが頑固がんこなだけじゃない?」


「・・・・・・・・・・・・・・力ずくでも振り払うぞ。」


「健さん!! いつもみたいに冷静れいせいになってよ! 優しくなってよ! 今日の健さん変だよ! そんなにあせらなくても・・・・・・・・・・・・!」


「お前に何が分かる!!!」


ヨシアキのさけびをはるかに上回る健さんの叫び。 その余りの気迫きはくに、離れた場所にいるあたし達3人も全身がふるえ上がった。 それを目の前で聞いたヨシアキなんか、どれだけ怖かっただろう。


「オレがここに来て3ヶ月! どれだけ帰りたかったか分かるか! うるさいお前らでも役に立つから我慢してれば、肝心かんじんな時にこれか! お前らガキのママゴトに付き合わされて、いい加減うんざりだ!」


信じられない。 信じたくない。 誰もが間違いなくそう思ってる。


これが、あの健さんの言葉? これが健さんの本音ほんね??


あたしのイヤな予感、当たっちゃったんだ・・・・・・・・・・・・・・・


「どけ!!」


「わっ・・・・・・・・・・・!」


ドサ


つかんでた腕を全力ではらわれたヨシアキは、そのあまりの勢いに突き飛ばされ、雨でまだ濡れてる地面に思いっきり尻餅しりもちをついてしまった。


「っ・・・・・・・・・」


「ヨシ君!!」   「ヨシ!」   「ヨシアキ!」


座り込むヨシアキのもとに、真っ先に駆け寄ったのは順ちゃん。 あたしとマコトさんも迷わず駆け寄る。


「誰かついて来るなら今のうちだ、来る気が無いなら消えろ。」


そこに、いつもの健さんはもういない。


ヨシアキをかこんでしゃがみ込む3人を見下みおろす健さんの表情は、もはやあたし達をさげすむような冷たいものでしかなかった。 


恐怖感はみんなあったと思う。 でもそれ以上に、健さんに対して芽生めばえた強い敵意てきいから、するどい視線を送り返したのはあたしと順ちゃん。

マコトさんはうつむいたままだ。


「ふん・・・・・・・・・・・・・そうか。 勝手にしろ、だがオレの邪魔だけはするな。 地図もオレの物だ、渡さん。」


最後まで冷たい言葉をき捨てた健さんは、あたし達に背を向けると、別れの言葉もげずに立ち去って行った。

誰もが、その姿をだまって見送るしかなかった。


健さんが行ってしまった。 


もう戻って来ないかもしれない。 このままじゃ2度と会えないかもしれない。 でも、ここで追いかけて健さんを止めるのは

もう無理だって、誰もが痛感つうかんしてた。  


5人の中では、間違いなく1番年上で、頼りになる人。 リーダー的な存在。 外見も喋り方も怖いけど、どこかいつも優しくて、少なくともあたしにとっては、ここでのお父さんみたいな存在だった。 最初は好きになれなかったけど、みんなに信頼されてる健さんを見てる内に、少しづつ好きになってた。


そんな健さんにあたし達は見捨てられてしまった。


あたし達が悪かったの? 間違ってたの? 


「ヨシ君、大丈夫?」


順ちゃんがヨシアキの背中を支えて引き寄せると、小さく 「うん、ありがと」 と言ったヨシアキ。 しばらくくうを見つめたまま、黙り込んでしまった。


しばらく誰もその場から動けなかった。 いや、動く気力がかなかった、って言った方が正しいのかもしれない。


ヨシアキに寄り添ったまま、その横顔を見つめて何も言わない順ちゃん。


その隣に、ちからなげに座り込んで、うつむいたままのマコトさん。


そんな3人を見ながら、もう溜息ためいきしか出てこないあたし。


「・・・・・・・・・みんな・・・・・・・・・・・・・・・めん」


沈黙が続く中に、おどろくほど 「かぼそい」 その声は、音としてひびいたんじゃない。 きっと、心に大きく響いてきたんだ。 


「・・・・・・・・・・・・マコトさん?」


その言葉の意味を知りたくて、真っ先に聞き直したのは他の誰でもない、あたしだった。


「・・・・・・・・・ごめん・・・・・・・・・・・・・ご・・・・・・・・・・・めんね」


泣いてる。 マコトさんが泣いてる。


「ヒッ、ク・・・・・・・・・・・・・ごめん・・・・・・・・・・ごめん、ごめん、ごめんね、ごめんなさい!!」


そのただならぬ雰囲気に、もう誰も言葉を返せなくなっていた。 涙をんだマコトさんは、もっと何か言いたそうだった。


「私のせいなの。 1番長く一緒にいたのに、1番理解してたつもりなのに、止められなかった。 私がもっとちゃんと、不満ふまんとか不安とか全部聞いてあげるべきだった。 普段からもっと、ちゃんと・・・・・・・・・・・・・・・・・・・私が健さんをあんな風にした。 私が全部悪いの!!」


両手でかかえ込んだ頭を地面にへばり付けたマコトさんは、その場で丸くなったまま、小声で何度も何度もつぶやいてる。

「ごめん」 「ごめん」 「ごめん」 「ごめん」 って何度も何度も何度も。


痛いほど伝わってきた。 自分をめたくなるマコトさんの気持ち。


「泣かないで、マコトさん・・・・・・・・・・・・・・・マコトさんのせいじゃないよ」


もっと他に言葉が見つからない自分に、無性むしょうに腹が立った。 地面に頭をこすりつけて 「ごめん」 って言い続けてるマコトさんに、ったあたしは、その肩に手をかけ、顔を上げてもらおうと優しく力を入れた。


「マコトさんは何も悪くない。 自分を責めちゃダメです。」


順ちゃんも横に来て、あたしを手伝ってくれてる。 呆然ぼうぜんとその様子を見てるヨシアキは何も言わない。 座り込んだまま、身動き一つしない。


そんなヨシアキに少し腹が立ったあたしは 「何か言ってあげてよ」 ってメッセージを込めた目でサインを送った。 それを見てたはずのヨシアキは、何故なぜか溜め息を1つらした。


「バカだなマコトさんは。」


!?


信じらんない。


今 「バカ」 って言った?  こいつバカって言った?  マコトさんに向かって、バカって言った!?


「ちょっとヨシアキ!!! ふざけんじゃないわよ!!」


もう感情のままにヨシアキを怒鳴りつけた。 こいつ最っ低だ。


順ちゃんはヨシアキのこと黙ってジッと見てる。 順ちゃんからも何か言ってやってよ!! って感じ。


「本当にバカだよ。」


んっもおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!! なんなのこいつ!!! マジで最悪!! 許せない!!

殺してやりたいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!


「あのさ、マコトさんが聞いたからって、あの健さんが不満とか言う? 愚痴ぐちとか言う? ましてや、不安とか言う?

言わないよ絶対。 あの頑固がんこで強がりな健さんが言うわけない。」


いつもの調子。 いつもと全く変わらない口調でヨシアキは更に続けた。


「もし、誰かに責任せきにんがあるとしたら、ここにいる全員だ。 仲間でしょみんな。 過ごした時間の長さなんて関係ない。」


ヨシアキの真意しんいが分かった、かもしれない。 順ちゃんは、もっと早く分かってたのかもしれない。 あたしは、黙って聞くことにした。


「今、ここで泣いたりしても健さんは戻って来ない。 それなら、自分を責める前に、全員で連れ戻しに行こうよ。

その指示しじを出せるのは、やっぱ副隊長ふくたいちょうのマコトさん。 だけでしょ〜!」


ほんとにいつもの調子。 こんな状況なのに、いつもと変わらないテンションのヨシアキ。


ああああああぁぁぁぁ・・・・・・・・・・・・・・・怒鳴った自分が恥ずかしい・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


あたしですら、胸を打たれたヨシアキの言葉。 当然、マコトさんの心にも確実に届いてた。


「・・・・・・・・・・・・・ヨ・・・・・・・・・シ」


体を丸めたまま、首だけヨシアキの方に向けたマコトさんの顔は、見たこともない表情だった。


「ん? なに〜? 立ち直った?」


「ヨシ・・・・・・・・・・・・・・・」


「らしくないなぁ。 オレより気が強いくせにさ。」


「・・・・・・・・・・・ヨシ」


マコトさんはまたうつむいてしまった。 


あたしは自分が、ここで何か口をはさむような無神経なヤツじゃなくて、ほんとに良かったと心から思う。


「なんだよ〜また地面とお見合い? そんなダンゴムシみたいな格好かっこういつまでしてんだよ〜」


ここにきてようやく立ち上がったヨシアキが、マコトさんの正面に回り込むと、うつむくその顔をのぞき込んだ。


「あ・・・・・・・・・・・・・」


何かに気付いたヨシアキは、急によそよそしくなった。 どうしたんだろう。


「・・・・・・・・・あ・・・・・・いがど・・・・・・・・・・・・」


「!!」


何かを言いながら顔を上げるマコトさん。 それを見たヨシアキは驚いて飛びねた。


あたしにも順ちゃんにも見えた。


涙。


マコトさんの顔は涙でボロボロになっていた。


その泣いてる理由が、あたしと順ちゃんにはちゃーんと分かってた。 でも、鈍感どんかんなこの男はすっかり勘違かんちがいしちゃってるようで・・・・・・・・・・ 


「ど、どうしよう・・・・・・・・・・・・・・オレ言い方マズかったかな・・・・・・・・・・・・・・?」


とんでもなく動揺どうようしてるヨシアキは、あたしと順ちゃんの方を見て助けを求めてきた。


それを見て、あたし達2人が出したアドバイス。


「ちゃんと聞きなさい」


マコトさんが何を言いたかったのかなんて、あたし達にはとっくに分かってる。


「な、何!? どうゆうこと?」


それ以上、何も教えてもらえないヨシアキは、またマコトさんの方を見た。


「ヨシ・・・・・・・・・・・・・」


「あ、はい!」


さっきよりは聞き取れるマコトさんの声に、ヨシアキは必死に耳をかたむけた。


「・・・・・・・・・・・・・・ありがとう」


はっきりと聞いた。 ヨシアキはやっと理解した。 その涙のわけを。


でも、また動揺し始めてしまった。 どうしたらいいのか分かんないみたい。


またこっちを見てきた。 


やれやれ、しょうがない人だな。


「ヨシアキ、そうゆう時は優しく抱きしめて 『よしよし』 ってしてあげるもんだよ。 ね、順ちゃん。」


「うん、ほら早く、ヨシ君。 私、女の人を泣かせたままほうっておく様な人を、好きになった覚えないよ。」


あれま。 ちょっと順ちゃん。 どさくさにまぎれて好きとか言っちゃったよ。


あたし達の助言じょげんを聞いたヨシアキは、だまって決心した様子。 ゆっくり腰を下ろすと、またうつむいてしまってるマコトさんの体に、そっと手を回した。


その瞬間、マコトさんは自然にその手に身をゆだねた。 


ヨシアキの胸に顔をうずめたマコトさんは、安心したのか、少し泣きんだ。


胸元むなもとにある頭に、右手を運んだヨシアキは、そのキレイな髪を優しくでながら、


「よしよし・・・・・・・・・・」


と、ささやいた。


マコトさんはその胸の中で、声を上げて泣き始めた。


背中に回した左手にちからが入る。 右手はひたすらで続ける。 ヨシアキに恥じらいは無かった。


あたしも、順ちゃんも、いつの間にか背を向けてた。 うしろにある微笑ほほえましい光景を背中で感じながら、2人で顔を見合わせニッコリ笑い合った。


内心ないしん、健さんの単独たんどく行動のことは気掛きがかりだったけど、今はこのあったかい雰囲気ふんいきに、ただひたっていたかった。


これから先、きっとまたつらいことが起こる。


でも、みんながいる。


みんながいるから乗りえられる。


不安と希望がひとしく、胸の中を支配しはいしてくる。


でもそれ以外に、自分でも分からない感情が胸の中の何処どこかに芽生めばえ始めてるのを、あたしは感じずにはいられなかった。



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