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漂流少女  作者: 真心
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9章 雨上がり、出会い、そして

あたし達5人が、住処すみかにしていた小屋を出てから、すでに 『丸1日と3分の1』 はっているらしい。


『3分の1』 っていうのは、健さんの感覚かんかくから、およその時間を割り出しただけの、かなり大雑把おおざっぱな数字。


分かりやすく言うと、現在いまは  『出発から2日目のお昼過ぎ』


現在いまはもう、5人の中の誰もがまだ、1度もんだ事のない領域りょういきに、ようやく足を踏み入れたところ。


つまり、健さんのTシャツマップにもまだ、一切いっさい何も書き込まれていない場所。


思い起こせば、ここに辿たどり着くまでのそのつらく長い道のり―――――






最初に、昨日きのうの早朝に出発して、いきなりの健さんの心遣こころづかいで、約2〜3時間後には海岸に出た。 少しの休憩をはさんで、そこから海岸沿いに歩いた、とにかく歩いた、めっちゃ歩いた、ひたすら歩いた、それこそ足がぼうになるくらいに。


まず、それがほんとに長くて、海が大好きなあたしと順ちゃんも、さすがに海を見飽みあきてしまったくらい・・・・・・・・・・


海岸沿いをどこまで歩いても同じ景色、そんなのが約4〜5時間も続いて、やっとそこで休憩をはさんで、またさらに進んで、ようやく海岸が途切とぎれたら、次は島の外周沿がいしゅうぞいの森の中を突き進む。


そう長くもない森が終わって、次の海岸が見えてくると、また海岸沿いをひたすら進んで・・・・・・・・・・


そんな、女の子には超ハードな道のりをて、やっとの想いで健さんの言う 『反対側の海岸』 に着いたのが、なんと今日の朝!! って言っても、島の外周がいしゅう半周はんしゅうするのに丸1日もかかったわけじゃなく・・・・・・・・・・


正確せいかくに言うと、昨日のが暮れてから今朝けさの陽がのぼるまでは、危険が多いって事で浜辺で野宿のじゅくすることになり、まったく行動はしてない。 もちろん、食事と睡眠すいみんはちゃんと取った。


そして今朝けさは 「とにかく早く出るぞ」 って健さんの指示しじで、まだ薄明うすあかるい内に出発。 それで、午前中のまだ早い時間に、目的の 『反対側の海岸』 に到着とうちゃくした。


その今朝に関してだけど、早朝から空全体が完全に雲におおわれるくらいの曇天どんてんだった。 風も強くて、海岸沿いを進む時に、波打なみうぎわを歩くのが怖くなるくらい、かなり波がはげしくれていた。


あたしにとっては、この島に来て初めての 『おだやかじゃない日』 


みんなに聞くと、この島では 『くもり』 はわりと珍しい事らしい。 『雨』 に関してはかなり珍しい事らしい。


何はともあれ、強風きょうふうの中、 『反対側の海岸』 の地点から、ようやく内陸部ないりくぶに入って、健さんの指示しじしたがって森を進んでいたあたし達に、まさかの悲劇ひげきが起こってしまった。


あの空模様そらもようじゃ仕方なかったのかもしれないけど、大粒の雨が降り出してきてしまった。 ここにきて初めての雨に、あたしはちょっと新鮮しんせんな気持ちになったけど、森を歩いてた5人にとってはやっぱり悲劇。


急いで全員で雨をふせげる場所を探したけど、周りは延々(えんえん)と続く森。 結局けっきょく、選んだのは比較的ひかくてき大きな木の木陰こかげ


5人でそのみきの周りに位置取り、とりあえずその雨がむまで待つことにした。


一見すると、通り雨のような降り方の雨だったけど、なかなか止まないその雨は結局、数時間も降り続いた。 みんないい休憩になったと思えたけど、健さんだけは違ったみたいだった。 予想外な長時間の足止めに、少し苛立いらだっていたのを他のみんなも気付いてた。


そもそも、健さんは他の誰よりも 『焦ってる』 ように、あたしは感じてた。


それは当然と言えば当然かもしれない。


健さんは5人の中で、1番ここで長く暮らしてる人。 もう3ヶ月ぐらいだって聞いた。


しかも、ここに来る前の記憶がちゃんとある人。 1人暮らしって言ってたけど、仕事もあるって言うんだから、早く帰りたいって誰よりも強く思ってるのは当然だと思う。 同じように記憶のある、順ちゃんやあたしにいたっては、まだ数日すうじつしかここで暮らしてないんだから、その気持ちの強さはきっと比べ物にならないくらい強いのかもしれない。


マコトさんですら、怖くて聞いたことないって言ってたけど、もしかしたら健さんには恋人だっているのかもしれない。 だとしたら、本当に早く帰りたいって気持ちは強いと思う。


そんな風に考えてみると、他の4人がいたから本格的な探索たんさくに来れたっていう反面はんめん、体力的に足手纏あしでまといなあたし達のせいで、必要のない休憩をこれまで何度もしてきたのは、健さんにとって全て苛立いらだちのもとだったんじゃないだろうか。


順ちゃんと競争きょうそうした、あの海岸で見た健さんの一瞬の表情、あれも気のせいじゃなくて、もしかしたらあれが最初の・・・・・・・・・・・


あまり考えたくなかった、そんなこと。


全員で木陰こかげに入ってやり過ごしていたその雨は、数時間も降り続いたのちに、衝撃的しょうげきてきな終わりをげてくれた。


なななんと・・・・・・・・・・おどろくことに突然、雨がピタリとんだ。


あれには本当にビックリした。 順ちゃんもヨシアキも目を丸くしてた。


でも、健さんとマコトさんがその瞬間に同じ反応をしたのをよく覚えてる。 


「またか」  「まただわ」


また? 前にもあったの?


聞いてみると、2人がヨシアキに会うさらに以前、今からおよそ1ヶ月程前にも同じような空模様から降って来た雨が、突然ピタリと止んだ事があったらしい。


信じられない光景をの当たりにしながらも、先を急ぎたい健さんの気持ちをんで、あたし達はすぐに出発することにした。


歩き出してから気付いた事は、風もいつの間にか静かになっていたこと。 そして、空を一面いちめんおおっていた雲がどんどんまばらになっていたこと。 その切れ間から射すの光が、雨上がりの森を次々(つぎつぎ)と照らし出す光景が本当に神秘的しんぴてきだったこと。 


そんな奇妙きみょう貴重きちょうな体験をしながらも、あゆみをめるわけにはいかないあたし達は、未開みかいの地をひたすら進む。


健さん達からすれば、やっと探索たんさくのスタート地点をえた所なんだろうけど、やっぱ慣れないせいか、体力不足なのか、2日目のお昼過ぎで、もう肉体的にも精神的にもすでに疲れ切っていたのが、新米しんまいの女子2名。


ここまでのつらく長い道のりを思い出すだけで、あたしも順ちゃんも 「げんなり」 してしまう。


そして現在いま―――――






「しっかし、あの雨にはビビったな〜いきなり止むんだもん。」


出発してから今までずっと、下がる事なく一定いってい以上のテンションをたもっているのはこのヨシアキだけかもしれない。 疲れを知らないっていうか、外見からは想像そうぞうもできないようなその体力に、まず感心させられた。


「かなりれちゃったわねぇ」


ヨシアキの言葉に反応してか、しないでか、れた服のすそを手でパタパタあおいでかわかしてるマコトさん。


「仕方ないって、あのデカい木以外で雨宿あまやどりできる場所なんか無かったし。」


少なくともヨシアキは、マコトさんと会話してるつもりらしいけど、それに対し、マコトさんはどう見ても会話してるつもりはないようで・・・・・・・・・・・しばらく待っても何も言わない(汗)


「で、でもさ、雨のおかげで水筒すいとうまた一杯いっぱいにできたね。」


なんであたしが、こんなよく分かんないフォローしないといけないんだよ・・・・・・・・・


雨水あまみずって、きたないよね? 飲んでも平気なのかな。」


っと、そこに順ちゃんが何も考えずにか、普通に話に乗ってきた。


なんていうか、ここまで5人でずっと一緒に旅してきて、表面上ひょうめんじょうは普通にうまくやってるように見えるんだけど、空気に敏感びんかんなあたしからすれば、なんとなく 「不自然」   言い方を変えると 「ぎこちない」   もっと言えば 「前より楽しくなくなった」


こんな何気なにげない会話でも、み合ってないというか・・・・・・・・・・気まずい場面が多くなるのは何故なぜ


健さんは―――――


相変わらず雑談ざつだんにはくわわってこないけど、指示とかは毎回きちんと出してくれてる。 でも、やっぱりどうも何かにイラついてる事は何度かあったように思う。 しかも、そうゆう不満ふまんとかを全然言わない人だからまた余計に怖い。


マコトさんは―――――


あたしや順ちゃんには普通なんだけど、健さんやヨシアキに対しては態度たいどが不自然な気がする。


健さんに対しては、やっぱ前に思った通り、自分の恥ずかしい所を見られてばっかで気まずくなったのと、健さんの苛立いらだちには毎回すぐに気付きそうな人だから、それをおさえてあげられない 「もどかしさ」 みたいなのがあるのかもしれない。 


ヨシアキに対してのマコトさんの態度は1番分かりやすい。 順ちゃんとのラブラブ騒動そうどうを見て以来なのか、ヨシアキの言動げんどうに対しての反応が、それまでよりも無くなった。 会話の量もかなり減ったと思う。 やっぱ単純たんじゅんにムカついてんのかな。


ヨシアキは―――――


この雰囲気に気付いてるのか、気付いてないのか分かんないけど、基本的に全員に対しての態度たいどは変わらない。 唯一ゆいいつ、違う所があるとしたら、順ちゃんとはもっとしたしくなってるみたい。 昨夜さくや、浜辺で一泊いっぱくした時も、おそくに2人で波打ちぎわを歩いて何やらいいムードだった。


順ちゃんは―――――


ヨシアキとの事を深く聞いたりしてないけど、親密しんみつになってるのは間違いない。 それ以外では、これまでと特に何も変わらない。 あたしとはいつでも普通に話してくれるし。


こうゆう状況になってからやっと分かった。 元々(もともと)、家族でも友達でも知り合いでもない、世代せだいも違う5人の男女が、見知らぬ場所でずっと仲良くやっていくのはそんなに簡単じゃない事なんだなって。


この探索で、何か帰るための手掛かりとか見つけられれば、変わるかもしれない。 だって、みんな同じ境遇きょうぐうの仲間でしょ・・・・・・・・・? 


「おい」


1番前を歩いてた健さんが、突然みんなの方をり返って立ち止まった。


「え?」


そのすぐ後ろを歩いてたのがマコトさん。 振り向いた顔を前方に戻す健さんの目線の先を見て、何があったのかすぐに気付いた。

マコトさんが 「それ」 に気付いてから数秒後、ようやく後ろにいたあたし達3人も何があったのか理解した。


!!!


「・・・・・・・・・人・・・・・・・がいる・・・・・・・・・・・!!」


真っ先に言葉をはっしたマコトさんが、決して間違まちがった事を言ってないのは誰もが分かってる。


「こっちに来るぞ、他にも人がいたようだな。」


驚きのあまり絶句ぜっくしてしまってるヨシアキや順ちゃんやあたしに対して、健さんがいつも通り冷静にそう言えるのが信じられなかった。 


間違いない、前から人が歩いて来る。


1人かと思ったけど、よく見たら後ろにかさなってもう1人いる。


健さんはゆっくりとこっちに近付いて来る2人の人間に対して、迷わず1人で近付いて行った。


残されたあたし達は、お互いに顔を見合わせると、視線だけで会話し、最後にマコトさんが1度だけ、深く首をたてったことで、あたし達4人もその後に続いた。


目の前にまでせまった所で立ち止まった両者りょうしゃは、警戒けいかいためなのか、しばらくどっちも無言だった。 その短い無言の間で、お互いに相手の風貌ふうぼうを興味深く見てた。


当然あたしも、目の前に立ってるその2人の事を、興味深く見てた1人。


まず1人は男・・・・・・・・・って言ってもまだ若い。 その手にはあたし達が作ったのと同じような手作りの槍を持ってる。 ヨシアキよりまだ若く見えるその顔は、どう見てもヨシアキよりイケメンだけど、かなり日焼けしてて黒い。 着てる服は上下ともに何箇所なんかしょやぶれてて、健さんの服並みに汚れてる。


その男の子の後ろに、隠れるようにしながらこっちを見てるのは女の子。 小柄こがらで、顔だけ見てる感じだと、あたしより年下に見えて、しかもめっちゃ可愛い。 男の子程じゃないけど、この子もかなり顔が日焼けしてる。 服は結構けっこう汚れてるけど、破れたりはしてない。


だけど、そんなことより何より、あたしが1番ビックリしたこと。


顔が似てる。


他のみんなも絶対に気付いてると思う。 だって、まるで双子ふたごみたいにそっくりなんだもん。 いや、どう見ても双子。 ただ、としは少し離れてるように見えるから・・・・・・・・・・・だとすれば、普通に兄妹きょうだいにしか見えない。


パッと見た感じだと、この人達もあたし達と同じなのかな。


新しい仲間が増えるかも知れない、この時はまだ単純たんじゅんにそう考えてた。





タクヤもレイカも、目の前の光景がいまだに信じられない。


他にも人がいたという事。 そして、自分たちがずっと生活していたこの近くを、普通に人が歩いていたという事。


聞こえた声から女もいると分かっていたものの、最初に間近まぢかで見た男の風貌ふうぼうから、警戒心けいかいしん最大限さいだいげんにまでたっしていたタクヤは、自分の好奇心こうきしんだけでみずから姿をあらわした事を少しだけ後悔こうかいし始めていた。 もしも相手が何かしてきたら、後ろに隠れているレイカにも少なからず危険がおよんでしまうからだ。


タクヤは目の前にいる5人の男女を、素早く順々(じゅんじゅん)に見ていった。


まず正面に立っている男。 大柄おおがらけわしい顔つきに加えて無精髭ぶしょうひげ。 どう見ても関わりたくはない。 もし、見つけたのがこの男1人だったら絶対に話しかける気にはならなかっただろう。


その少しななめ後ろに立つ、背の高く髪の長い女性。 一目ひとめ見て容姿端麗ようしたんれいとはこういう人の事を言うのかもしれないと納得なっとくしてしまう。


女性の横に並んでこちらをジッと見ている少女。 レイカよりは少し大人っぽいが、どこか少し、レイカと雰囲気ふんいきが似ている様な印象いんしょうを受けていた。


正面の男と並ぶように立っているもう1人の男。 ひげの男に比べたら、若い普通の男だが、男というだけでどうも怪しく見えてしまう。


その若い男の後ろから少しだけ顔をのぞかせているもう1人の少女。 さっきの少女よりは大人っぽく見えるが、女性というよりは、やはりまだ少女。

レイカが自分にしがみついて隠れているのと同じように、若い男の後ろに隠れている。


5人に共通しているのは、自分が作ったような木製もくせいの槍を全員が手に持っていること。 そして、同じような荷物を持っている。 


また正面のひげの男に目を戻すと、こちらをジッとうかがっている。


とにかく姿を見せてしまったからには、何か危険を感じた時に、すぐレイカをって逃げる準備がタクヤにはもう出来ていた。





きみらは、ここに住んでるのか?」


短くも長い沈黙をやぶって、最初に発言した健一の言葉遣ことばづかいは、若干じゃっかんいつもと違って丁寧ていねいだった。


「・・・・・・・・・・さぁね、それよりあんたらは誰だ。」


そう簡単に自分たちの事を教えるわけにはいかない。 警戒けいかいしているタクヤはまず、相手の情報を引き出そうとしていた。


あからさま過ぎるその警戒心は健一にもすぐに読み取れたが、仲間に誘うにしろ、そうでないにしろ、出来るだけ話を聞かなければならない。 それにはまず、自分達の事を話すしかないと即座そくざ判断はんだんした。


「オレ達はこの島に住んでるが・・・・・・・・・・・ある日突然ここにいた、言ってみれば漂流者ひょうりゅうしゃだ。」


「・・・・・・・・・・は? 島? 漂流者?」


健一自身、初めてはっした 『漂流者』 という言葉は、一言ひとことで自分達を説明するにはうってつけだと判断してのものだったが、それは逆に相手を混乱こんらんさせしまったのかもしれない。


「何言ってんだあんた、島ってどうゆうことだ。」


「・・・・・・・・・ここが島だとまだ知らないか。 よければ、オレ達が知ってる事を全部教えるが、代わりに君らの事も教えてもらいたい。」


どう見ても信用しづらい男にそう言われたタクヤが、その要求を簡単にむことが出来るはずがなかった。


「それは無理だ、こっちの事は教えられない。 そっちが知ってる事だけなら聞かせてもらう。」


健一にとって、それが理不尽りふじん過ぎる要求なのは言うまでない。 それに、彼らがもし自分達5人と同じ境遇きょうぐうなら、お互いの事を話すのは当然だと認識にんしきしていたために、タクヤの態度たいどはこののちに、健一の良からぬうたがいをまねくことになる。


何故なぜ無理なんだ? 見た感じだと、おそらく君らもいつの間にか、ここにいたんじゃないのか?」


「・・・・・・・・・・それを言う必要はない。 あんたらが何者で、ここで何をしてるのかをまず聞きたい。」


健一の追及ついきゅうに対して、タクヤの毅然きぜんとした態度たいどなおも変わらない。


「ここに来る前の記憶はあるのか? 言えないというのは、何か知っているんじゃないのか?」


健一の少し強引ごういん過ぎるような質問攻めを聞いていたはるかは、自分の考えがやはり合っていたという事をあらためて確認かくにんしていた。 健一はやはり早く帰りたいのだ、誰よりも。 しかし、それゆえに少しあせっている。


また健一が少しづつ苛立いらだってきている様子を間近まぢかで感じていたマコトには、大きな不安がつのっていた。 相手の青年の態度たいどは、確かに言葉遣ことばづかいも誠意せいいも何もあったものじゃない。 もし自分が話していたとしても、おそらく苛立いらだつだろう。 だが、ここはもっと落ち着いて話さなければいけない。


このままでは、健一がいつかめ込んだ苛立ちを爆発ばくはつさせたりしないだろうか。 遥とマコトの2人は、この場で全く同じ不安をいだいていた。


「だから、何も言えないって言ってるだろ。」


タクヤがこうまで頑固がんこに、自分達の事を語らないのにはもちろん理由がある。 


今までレイカと2人きりでずっと暮らしてきたこの場所に、突然5人もの人間があらわれて、相手の言う事をまず信用できるはずがない。


だが、信用できるはずがないと思いながらも、自ら接触せっしょくしたのは、以前に考えていた 「救助隊きゅうじょたい」 ではないかと考えたからだ。


しかし、遭難者そうなんしゃを探しに来た救助隊なら、相手の言う事がまず最初からおかしかった。 かりに、相手が最初に 『救助隊らしい発言』 をしていれば、少しは信用していたかもしれない。


つまり、最初の 「ここに住んでいるのか?」 という言葉を聞いた時点で、タクヤのするべき事の1つはまず決まった。


『一方的な情報収集じょうほうしゅうしゅう


あやしいとしか思えない相手に対して、自分達の事を教えるなんて事がどんなに危険な事か、考えれば想像できる。 そして、危険だと考えた最大の決め手は、この5人が自分達の行動範囲内こうどうはんいないにいたということ。 それからみちびき出された、タクヤのするべき、あと2つの事。


『この場からの立ち退警告けいこく』   『2度とこの場所にらせない』


最悪、情報収集にかんしてはどちらでもいい。 だが、あとの2つは必ずしなければいけない事。


「そうまで何も言えない理由が分からない。 同じ漂流者だとしたら、君らもここから帰りたいんじゃないのか?」


健一は考えていた。 彼はもしかしたら何か知っているのではないか。 何か隠しているのではないか。 そうでなければ、この状況でお互いの事を教え合う事も、助け合う事も考えないのはどう考えても不自然だ。


「もういい、話が進まない。 あんたらが誰であろうと、ここで何をしてるのかも知ったこっちゃないが、最後に言わせてもらう。」


ここでこのひげの男しかしゃべらない事で、この男が5人の中でのリーダー的な存在だとさとったタクヤは、次に他の4人と話しても意味が無いと判断はんだんし、警告けいこくを出してすぐに追い払おうと考えていた。


「待ってくれ。 それなら1つだけ答えてくれ。 君はオレ達が信用できないだけなのか? それだけでも教えてくれないか。」


なんとか1つだけでも質問に答えてもらおうと、健一は必死だった。 その気持ちは後ろで聞いていた遥たちにも痛いほど伝わってきた。


「しつこいぞ、言っただろ。 何も言えないって。」


タクヤがそう言い終わった瞬間、何かを我慢できなかったように1人がいきおいよく前に出た。


「おい! お前さ、さっきから聞いてればなんだよその態度たいど! 健さんがこんなに丁寧ていねいに聞いてるんだぞ!? ふざけんなよ!!」


そろそろしびれをきらした遥が怒鳴どなりたかったようなセリフを代弁だいべんしてくれたのは、なんとヨシアキだった。 これにはマコトと順子がさすがにおどろきを隠せなかった。 これまでに怒られたヨシアキを見た事はあっても、怒ったヨシアキを見た事が無かったからだ。


ヨシアキの意外いがい怒号どごうを聞き、なんともスッキリした気分の遥に対して、逆に怒りをあわらにしたのが健一だった。


「ヨシ! お前はだまってろ!」


もう少しで相手につかみかかりそうないきおいのヨシアキを、はげしく怒鳴どなりつけた健一は、ヨシアキの顔をにらみつけた。


「ご、ごめん・・・・・・・・・」


そのあまりの剣幕けんまくに、一瞬でちぢこまってしまったヨシアキは大人しく引き下がる他なかった。


れが失礼した、オレからあやまろう。 君の意志いしはよく分かったが、じゃあそっちの君はどうだろう?」


わりに頭を下げた健一が、次にその視線を向けた先は、後ろに隠れていた少女の方。


「・・・・・・・・・・!」


自分に声をかけられているという予想外な展開に、レイカがおびえて、何も言えなかったのは仕方のない事だろう。


「・・・・・・・・・何も答えなくていいからな・・・・・・・・もっと隠れてろ・・・・・・・・・」


レイカにしか聞こえないような小声でボソっと言うと、タクヤはりんとして、健一をにらみつけた。


「おいお前、許可きょかなく勝手に話しかけるな。 お前と話してるのはオレだ。」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・それはすまなかった」


少し間を置いて、素直に謝罪しゃざいした健一だったが、明らかに年下の青年に 『お前』 と呼ばれたことで、その目つきに一瞬の変化があった事は、うしろにいる仲間達にはもちろん、目の前のタクヤにも見えていない。


「・・・・・・・・・・では、もう質問はしない。 ただ、君とオレとで自己紹介じこしょうかいだけさせてほしい。 オレは栗原くりはら 健一けんいちという。」

 

あくまで紳士的しんしてきな態度をとる健一からは、貪欲どんよくなまでの執念しゅうねんが感じられた。 そんな健一の事を恐ろしく感じていたのは、この場で、遥とマコトだけではなかったのかもしれない。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・タクヤだ」


見た目とは裏腹うらはらに、常に丁重ていちょうな態度で接してくる相手が名乗ってきたことで、タクヤもつい名乗ってしまった。


「そうか、時間をとらせてすまなかったタクヤ君。 最後に何か言いたい、と言ってた事を聞こう。」


「すぐに全員ここから立ち去れ。 そして、2度とこの周辺には近付くな。」


即答そくとうで警告を発したタクヤには、その警告の裏にある意味が、ちゃんと理解できている。 すなわちそれは 『この周辺が自分達の行動範囲だ』 と教えてしまっているのと同じ事。 だが、それを教えてしまう事になるとしても、何も警告しないわけにはいかない。


この5人がこの場所に訪れた事実が目の前にある以上、今後もこの近辺きんぺんをウロウロされるなど、だまって見過ごせるわけがない。 すぐ近くには自分達の住む洞穴ほらあなもあるのだ。 いくら、自分がいつも一緒にいるといっても、レイカを少しでも怖がらせるような存在は、遠ざけなければならない。


「分かった。 範囲はよく分からないが、この周辺には2度と近付かない。」


一方的に理不尽りふじんな要求。


初対面の年上に対する無礼ぶれいな態度と言葉遣ことばづかい。


下手したてに出ている相手にも、おかまいなく辛辣しんらつな言葉をぶつけるその非礼ひれいっぷり。


不満や怒りが絶頂ぜっちょうに達してもおかしくないようなこの状況でも、健一はおどろく程あっさりと、素直すなおに同意した。 それを見ていたヨシアキにとっては、信じられない程の屈辱くつじょくだったが、健一の意思いしみ、グッとこらえた。


「行くぞ」


振り向いた健一は4人をうながし、迷い無くその場から歩き出した。


このタクヤと名乗る青年と、まだ名前も分からない少女の2人に対し、各々(おのおの)、質問や主張しゅちょう提案ていあんは色々(いろいろ)とあっただろうが、それもこの瞬間にかなわぬものとなった。 せっかくまた出会えた仲間に、誰もまともに挨拶あいさつすら出来なかったのだ。


一応いちおうはリーダーである健一にだまってしたがい、2人に背を向け歩き出す4人には、様々(さまざま)な想いがめぐっていた。


ヨシアキはまだ苛立いらだっていた。 『 いくら新しい仲間を見つけたからって、あんな生意気なまいき子供ガキを相手に健さんも下手したて出過ですぎなんだ!  あいつから帰る方法とか、手掛かりなんてどうせ分かるはずない。 オレ達が5人いても何も手掛かりなんて無いんだ。 協力する気も、仲間になる気もない奴なんかほうっておけばいいんだ! 』


マコトは恐れていた。 『 あのタクヤって子に対する健さんの態度を見てると、いつもイライラを我慢してる健さんを見てるみたいで・・・・・・・・・・つらかった。 このままじゃ健さんにいつ限界がきて爆発しちゃうか・・・・・・・・・・・・・』  


遥は気になっていた。 『 ヨシアキがおこるのもよく分かるよ、もうちょっとであたしが怒鳴どなってたくらい。 きっと同じ境遇きょうぐうの人なのに、あんなにツンツンして何も教えてくれないのは、よっぽどあたし達を信用できないんだろうな。 あれじゃ、もし次にまた会えても、一緒に行動するとか絶対に無理そうだ。 でも、それより健さんの最後のあきらめの良さがどうも気になるんだけど・・・・・・・・・・・・・』


順子は理解していた。 『 健さん、必死に我慢してた。 本当に早く帰りたくて、必死なんだ。 ヨシ君があんなに怒った気持ちもよく分かるけど、タクヤって人はきっと悪い人じゃない。 隠れてた女の子を見れば分かる。 あの子を守るために私達を遠ざけようとしてたんだ。 ただ、それだけ。』


その場に残り、5人の姿が見えなくなるまで見送ったタクヤとレイカ。


自分の判断にしたがい、その流れのままに会話をし、その結果 「追い払う」 という形になったが、それがたして正しい判断だったのかタクヤには分からなくなっていた。


自分達以外の人間と初めて出会い、想像以上に怖がっていたレイカを見て、その場をどうすべきか相談そうだんするというのはこくなんじゃないか、そう考えたタクヤは全て自分で判断することにした。


そして出た結論。 レイカの安全のためにもれ合うのは危険。

その結果。 彼らを追い払った。


「ごめんな、レイカ」


まず言いたかったのがその一言。 怖がりつつも、あの場でレイカが、心の底でどう思っていたのか分からない。 もしかしたら、ちゃんとあの5人と話して一緒に行動したいと思っていたかもしれない。 だが、自分の判断だけでこうなってしまったこと、それをあやまりたかった。


「謝ることないよ、私には決められないもん。」


タクヤの心の中を読んでいたレイカには、何を謝られたのかすぐに理解できた。 そして、意外にも落ち着いた様子のレイカは続けて言った。


「私はいつでもタクヤが決めた事に賛成さんせいだよ。」


胸元むなもとにピッタリとくっついていたレイカの顔を見下みおろしたタクヤは、そのひたいに優しくキスをした。


「ありがとう」


去って行った5人の姿はもうとっくに見えない。 それでも2人はその場から動かなかった。


さっきまでに起こった事を今頃になって実感じっかんしていたからだ。


他にも人間がいた。 しかも複数。 じゃあもっといるのか? あいつらも記憶が無かったのか? ひげの奴はフルネームで名乗ってた。 ここが島って言ってたのは本当なのか? 漂流者ってどうゆうことだ? 


タクヤには疑問がいくつもあったが、今となってはどうしようもない事。


少し気にはなるが、もう忘れた方がいい。 そう自分に言い聞かせていた。


雨上がりの昼下がり。 空の雲はいつの間にか全て消え、少し前からもうすっかり晴れている。


だが、2人にとっての少し前は、あらしのような時間だった。


あとはもう、その嵐が2度と来ない事をただ祈るばかり。



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