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56. ならば誓いを立てましょう


 マリュアンゼの訴えにフォリムはまだ何か言い足りなさそうにしたものの、彼もまた今の状況でアスを放っておけないと判断したようだった。

 見ればアスには救助が入り、応急処置が施されている。


(……本当に私は、こんな場所で何をしているのかしら)


 今更ながら居た堪れなくなる。


「大丈夫ですよ」


 ふいに掛けられた声に顔を上げれば、腹部に包帯を巻いたアスが笑いかけてきた。


「致命傷ではありませんでしたから、これから医師に見て貰ってきます。ですが……」


 そう言ってアスは心配顔で付き添うナタリエの手にそっと自らのものを重ねる。

 

「聖堂での誓いで婚姻が成るのでしたら、私たちはもう夫婦ですね。応急処置以降の治療はイルム国に戻って続けます」


 一息に告げ、僅かに目を見開くナタリエを安心させるように微笑んだ。


「───ええ、問題ありません」


 割って入る声はロアンだ。

 容疑者である実行犯を既に縛り上げており、その中にはその服装から、参列者に紛れていたと思われる貴族も混じっていた。


「思っていたよりしっかりと計画を立てていたんですね」


 ポツリと告げるマリュアンゼにロアンは苦笑する。


「私をどれほど無謀と思っていたんだ」


「……いえ、ただお友達が少ない方なんだと思っていました」


 こっそり仲間認定していたのに、裏切られた気分である。


「なっ、余計なお世話だ! これは政策であって友情は関係無いだろう!」


(───あ、良かった。合ってた)


 心外とばかりに声を張るロアンにひっそりと満足すれば、得心のいかないロアンは肩を怒らせる。が、それをフォリムが制した。


「行かないのですか? ロアン殿下」


「……ふん」


 進行を促すフォリムにロアンが鼻を鳴らす。

 恐らくセルル国はこれ以上介入する事はないだろう。アルダーノの考えを辿れば、「ノウル国の王政が優位に傾いたら証拠を後押しする」だけに留める筈だ。


「マリュアンゼ、あなたはここで待っていろ」


「えっ?」


 けれどそう言ってマリュアンゼの頭に手を置くフォリムに驚きの声が漏れる。


「手を貸しますロアン殿下。必ず成功して頂かなければ私が困りますので」


 フォリムの申し出にロアンが意外そうに目を見開いた。


「邪魔をしないならば……」


「それは間違いありません」


 固い意志を見せるフォリムにマリュアンゼも続いた。


「っなら私も行きます!」


 はいっ、と手を上げるマリュアンゼにフォリムとロアンの視線が冷たく刺さるが、マリュアンゼもめげない。


「聖堂内での私の活躍を考えれば当然かと! 私は騎士になりたいのです!」


 目を眇め、フォリムはマリュアンゼに向き直る。


「……何故騎士になりたいと思った?」


 引きたくない。と、マリュアンゼも真っ直ぐにその深緑の瞳を見つめ返した。


「あなたに認められたかったからです、オリガンヌ公爵。私はあなたが……っ」


 はっと口元を手で覆う。

 いけない、またやってしまうところだった……


 流石にこの場では言えない。

 だけど、政略婚を潰す為に世界遺産を破壊するような乱暴な輩たちの巣に、フォリム一人を向かわせたくない。ならば、


「……私は、あなたの騎士になりたいのですオリガンヌ公爵。ここがまだ神の御霊が宿る聖域であると言うのなら、どうぞここで、私の騎士の誓いを受けて下さい」


 マリュアンゼは腰に()いた剣を差し出し、フォリムに対して忠誠の構えを取った。


「マリュアンゼ、それは……」


 珍しく動揺を見せるフォリムをマリュアンゼは毅然と見つめ返す。


「私の偽りない気持ちです」


 あなたを守りたい───

 けれどその為に側にいたいと、根本にある浅ましい気持ちも、今だけ許して欲しいと力を込める。

 

「っ分かった……いいだろう」


 根負けしたように瞳を閉じ、息を吐くフォリムにマリュアンゼは、ぱっと笑みを浮かべた。


「マリュアンゼ、約束しろ。いついかなる時も私から離れないと……」


「はい! フォリム様、はいっ!」


 当然だ。目を離した一瞬でフォリムを絶対に危険に合わせたりしない。


(瞬く間に、いなくならないで……)


 その一心でマリュアンゼは首肯した。


 そんなマリュアンゼに頬を緩めるフォリムに、ロアンが胡散臭そうな眼差しで呟く。


「絶対知らないだろ、あいつ……」


 けれど慌ただしく人が行き交う喧騒の中で、そんな呆きれ声に気付いている者はいなかった。


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