表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

52/71

50. プロポーズ


「初めまして、アス・レイーズといいます」


 聖堂の控えの間で美しく着飾った新郎新婦。

 式の当日───その直前に会う二人は、間違いなく政略結婚なのだろう。

 けれどアスは全てを受け入れているようで、ナタリエに向ける眼差しもどこか前向きだ。

 対してナタリエは緊張が勝っているようで表情が固く、ぎこちない微笑でカーテシーをとった。


「初めましてナタリエ・アデルです。……よろしくお願い致します」


 その様子にアスは申し訳なさそうに眉を下げた。


「王族の婚約者だった方に俺なんかは相応しくないかもしれませんが、大切にします。国が違えば苦労もあるでしょうが、受け入れて貰える努力も。だから出来れば共に歩んで行く勇気を、あなたも持って貰えますか?」


 そう言って差し出された手に視線を落とした後、ナタリエは再びアスに視線を戻した。


「レイーズ侯爵、本当はもっと早くにお話するべきでした。でも、私が自分の気持ちを整理するのに時間が掛かってしまい、こんなにギリギリになってしまいました事、先に謝罪致します。どうぞお許し下さい」


 深く頭を下げた後、再び上げたナタリエの相貌には強い意思が宿っていた。


「レイーズ侯爵、お聞きになっているかは分かりませんが、私は───ロアン殿下に婚約破棄をされたんです。至らなかったから……」


 その言葉にアスは少しだけ目を見開く。

 イルム国には伝わっていない情報だったのだろうか。マリュアンゼもつい身動ぎ、二人の様子に胸が騒いでしまう。

 アスの差し出した手が行き場を失い、諦めたように戻される様を見咎め、マリュアンゼは口を開いた。


「あなたは至らなくなど無かった、ナタリエ」


 けれどそれは入り口近くから飛んできた低いもので。

 顔を向ければそこには眉間に皺を溜めたロアンが立っていた。


「ロアン様……」


 ナタリエの瞳が驚きに見開かれる。

 皆が息を詰める中、ロアンはアスに難しい顔で向き合った。


「失礼レイーズ侯爵、こんな場で申し訳ありませんが私からも祝辞を」


「え、ええ。どうぞ」


 勢いに飲まれたようなアスから目を逸らし、ロアンに視線を留めたナタリエはその心情を表すように身体を強張らせている。それでも足はその場に縫い留められたように動かないようで。

 間近まで歩み寄るロアンを半ば呆然と煽ぎ見て固まっている。


「ナタリエ、あなたは婚約破棄をされたのでは、無い」


 断ずるように告げるロアンにナタリエは息を飲む。


「私の都合に巻き込まれて王貴会から遠ざけられただけだ。あなたに過失などなかった……あの時、私が掛ける言葉に信憑性など無いと思っていたから、何も伝える事が出来なかった」


 すまなかったと続けるロアンにナタリエがぐっと口元を引き結ぶ。


「でも言わない事があなたを追い詰めていたのだと、今更ながら知ったのだ。ナタリエ……すまなかった───」


 そう言って頭を下げるロアンにナタリエは急いで駆け寄り声を掛けた。


「止めて下さい、ロアン様! 私……私こそ、あなたを信じられなかった。あなたがそんな事をする方では無いと知っていたのに、自分に自信がない事を言い訳に会いに行きませんでした。……意地も張りました。マリュアンゼ嬢に言われるまで自分の行動を正当化させるので精一杯で! 私っ……」


 そう言ってナタリエがマリュアンゼを見ると、同じようにその視線がロアンからも向けられる。


「自分の気持ちを大事にするように言われたんです」


 ……冷静になって見れば、たかが伯爵令嬢が公爵令嬢相手に偉そうな事を言い切ったものだ。白目を剥きそうになるマリュアンゼを軽く流し、ナタリエは続ける。


「それからこの数日、出来る限り考えました。私、過去に囚われてばかりだったんですね。呆れるくらい、あなたへの想いに……良いものも悪いものも」


 しみじみと告げるナタリエは、けれど瞬きの間に決然とした瞳を閃かせ、ロアンを見据えた。


「だから今日、ここで、全部捨てて行ってもいいですか? 私、イルム国では───レイーズ侯爵とはもう間違えたくないんです」


 きらりと光るナタリエの瞳にロアンははっと息を詰め、そしてくしゃりと顔を歪めて首肯した。


「勿論だ、ナタリエ。幸せになってくれ」


 その言葉にナタリエも泣き顔で笑う。


「はいっ、ありがとうございます。元婚約者として、また母国ノウルを想う者として、私もまた、あなたの未来に幸多い事を願います」


 そう言ってロアンに最敬礼を取ったナタリエはアスに振り向き、歩み寄る。


「お待たせしました、レイーズ侯爵様。あの、私は、もしかしたらまた間違えてしまうかもしれません。けれど───」


「構いませんよ」


 遮るように言ってアスは笑った。


「俺と一緒に歩もうと思ってくれて、ありがとうございますナタリエ嬢。改めて言わせて下さい───ナタリエ、俺と結婚して下さい」


 膝を折って手を差し出すアスにナタリエは口元を綻ばせたけれど、顔は涙に濡れて。


「はい、どうぞよろしくお願いします」


 その手を両手で取ってプロポーズの言葉を受け取った。


ちょうど50話が、何か縁起の良いタイトルになった……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ