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33. 婚約者という建前を持った騎士という名の暗殺者


「あのー、なんで?」

 

 つい半眼で問うマリュアンゼの横にはシモンズが座していた。

 何でシモンズ?

 大して揺れない王族仕様の馬車の中には、マリュアンゼとシモンズが並び、そしてロアンが相対するように座っていた。彼は肘を窓枠に掛け、悪戯っぽく目を細めている。


「フォリム殿下との話し合いの結果だ」


 楽しげに話すロアンにマリュアンゼはムッと顔を顰める。

 王族に対する態度では無い。

 だがセルル国の、一応貴族のマリュアンゼを説明もなく隣国に連れ去ろうとしているのだ。確かにロアン殿下との婚約話もあったけれど、聞いていた手順とは全然違う。


 望みもしないのに、にこにこ出来る筈もない。

 だってこれではフォリムとの話し合いが出来ないではないか。それともフォリムはロアンとの話し合いの末、マリュアンゼを遠くに押しやる事に決めたのだろうか。

 

「誤解を招く物言いは、お止め下さい」


 思わず顔を俯けるマリュアンゼにシモンズがぴしゃりと言い放つ。

 表情はいつもと変わらない平常運転の無表情だが。


「マリュアンゼ嬢、フォリム様はあなたを心配して俺を付けたんです。ちゃんと回収するつもりでいますから、ご心配無く」


「そ、そう」


 え、回収?

 とは何となく聞けなかった。

 どうやらこのまま隣国に行って婚姻を結ぶ……という訳では無さそうだ。しかしでは何故こんな展開に?

 説明を求めるようにシモンズを見れば、冷たい視線が返ってきた。え、なんで?

 何となく居住まいを正してみる。

 

「お前は騎士になりたいのだろう?」


「へっ?」


 急にロアンから掛けられた言葉にマリュアンゼは目を丸くした。


「ノウル国では女性騎士は重宝される存在だ」


「……あ、そうなんですか」


 ついでに先程からロアンが楽しそうなのは何故だろうか。

 

「それであなたが隣国で騎士と認められる事が、セルル国での騎士としての第一歩であると」


 引き継ぐようにシモンズが続ける。


「そう話し合いで纏まってしまったのですよ」


 最後は投げやりに。

 ……な、成る程。マリュアンゼは得心する。


「つまり私にノウル国で役目があるという事でしょうか?」


 それは恐らく楚々とした令嬢では務まらない類のものなのだろう。

 マリュアンゼの問いにロアンが満足気に頷く。


「話が早くて助かる」


 それは具体的には? という疑問を込めてロアンを見れば、口の端を引き上げ口を開いた。


「暗殺だ」


 ぶっ、と何かが口から出そうになるのを、マリュアンゼに根付いた令嬢らしさが押し留める。焦って自分の口を思い切り塞ぐという、令嬢らしからぬ仕草には、この際目を瞑って欲しい。


 暗殺?!


「失脚です。言い過ぎですよロアン殿下」


「失脚?!」


 割って入るシモンズを遮らん勢いで、思わず声を張り上げる。

 いずれにしても穏やかな話ではなかろうに。

 シモンズの言葉を受け、ロアンは窓の外に視線を投げながら何とも無しに口を開く。

 

「相手は私の兄、ノウル国王セイザーだ」


 ふんと鼻を鳴らすロアンに、マリュアンゼは口から何か大事なものが抜け出しそうな感覚を覚え、放心した。


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