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28. 譲歩


 どかりとソファに座るロアンの周りを、メイドや侍従が世話を焼き始める。テーブルには温かそうに湯気を立てる紅茶が用意され、多彩な菓子で華やいだ。


 結局マリュアンゼはロアンの客室にまで来てしまった。けれど、どうしていいのか分からないので、まだ残ってくれているジョレットの隣で息を潜めて立ちん坊をしている。


 そんな居心地の悪い空間で、刺すように睨みつけられれば、このまま息を止めてしまいたくなる。


「もういい下がれ」


 低く打つ声にホッと胸を撫で下ろす。

 はっ! と短く了承の意を伝えるジョレットの後に着いて部屋を出ようとすれば、けれどそんな考えは甘かったようだった。


「待て、何故お前まで出て行く?」


 ぴたりと止まるジョレットとマリュアンゼを、背後から胡乱な視線が注がれているのは振り向かなくても良く分かる。


「えーと……」


 そろりと適当な笑みを貼り付け振り返れば、ソファに肘を突き、相変わらず不機嫌そうにこちらを眺めるロアンが目に入った。


「お言葉ですが……」


 生真面目な顔でジョレットが口にする。

 マリュアンゼを後ろに庇い、ロアンに向かう姿は格好いいが、不敬で処罰されないかと内心はらはらしてしまう。


「マリュアンゼ嬢はフォリム殿下の婚約者です。先程は勘違いもあったかもしれませんが、ここにマリュアンゼ嬢を置いていけば、あらぬ憶測を招きかねません為、容認出来ません」


「お前には関係の無い事だ」


 しかしあっさりとロアンは告げる。


「しかし!」


「くどいな。下がれと言っている」


 不機嫌が二割増しになった。

 けれど、先程の会話の一端でマリュアンゼとの婚約云々に触れたが、その辺を詳しく掘り下げる気はないらしい。


 ジョレットがどこまで知っているかは分からないが、マリュアンゼがここに残る事を良く思っていないところを見ると、話は近衛騎士団には降りていないのかもしれない。

 ロアンの態度は、そんなジョレットに対し余計な情報を与えないようにも、混乱を引き起こさないよう配慮しているようにも見える。


(……うーん)


 マリュアンゼはジョレットに、にこりと笑ってみせた。


「ガイラル様。実は私は今日、ロアン殿下の話し相手に城に呼ばれたのです。……一応フォリム殿下の婚約者ですから」


 今日では無いが、話し相手自体は嘘では無い。それでもジョレットはまだ躊躇いを見せる。


「しかしそれでも」


「フォリム殿下には先程お会いしましたし、私とロアン殿下とのお茶の約束は存じている筈ですから、何も心配いりませんわ」


 笑いかけるマリュアンゼにジョレットは僅かに眉間に皺を溜める。先程そんな様子を微塵も感じなかっただろう。けれど忠義の厚い騎士は一つ息を吐き、分かりましたと頷く。


「外で待機しておりますから、何かありましたらすぐお呼び下さい」


 ジョレットの配慮ある譲歩に、マリュアンゼは、はいと微笑んだ。


 ドアの向こうに消えるジョレットを見送り、マリュアンゼはロアンに淑女の礼を取る。


「初めましてロアン殿下。アッセム伯爵家長女、マリュアンゼと申します」


「ああ」


 そう言ってロアンは探るようにマリュアンゼを見てから、手を向かいのソファに向ける。


「まあ掛けろ」


 ひっそりと喉を鳴らし、マリュアンゼは失礼しますと応じソファに向かった。


短編沢山読んで頂いたようでありがとうございますの夜投稿(^ ^)

今日が作者はGW最後。・゜・(ノД`)・゜・。

皆様良い夜を〜

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