25. 待機 ※ フォリム視点
あれこれと話しかけてくる令嬢の話を聞くともなしにフォリムは庭園を適当に歩いた。
隣の女から只管投げかけられる同情には、先程から不快感しかない。
ヴィオリーシャが婚約者だった頃は、「断れない相手だから可哀想」と熱心に自分を売り込んできていた令嬢たち。
それがマリュアンゼとの婚約に対しては、元婚約者に振られ、自棄を起こしたばかりの「可哀想」であり、彼女たちからは自分の優位性を確信した期待の眼差しを向けられていた。
どちらも気分の良い物では無い。
ヴィオリーシャへは兄妹以上の感情は無かったけれど、嫌いという訳では無かった。マリュアンゼに対しても一定の好意がある。……毎日会いたいと思うほどには。
そもそも今日の登城はたまたまでは無く、マリュアンゼに会うためだ。シモンズにマリュアンゼの動向を調べさせ、今日彼女が城に来るのだと確認したから……
───マリュアンゼと話をしたい。
けれどアッセム家に行くのは兄の手前、あちらが困るだろうと言い出せなかった。
だがいざ登城すれば、宰相に姪の謝罪に付き合って欲しいと割り込まれたものだから、苛立っている。
確かに兄が許したものをフォリムがいつまでも引き摺るなどと体裁が良くない。何より王族のフォリムと国を牛耳る宰相に不仲の噂が立つ事を、アルダーノは好まない。
そうなるとフォリムに否は無い。……まあただ体面の問題で済ませればいい話なのだから。
それに宰相はマリュアンゼを応接室に呼んでいるらしい。ならば話し合いが終わった後に捕まえ易いとも思った。
……マリュアンゼが来ている。後で会える。
舞踏会の翌日から会えていないから、既に一週間が過ぎている。それだけで日々に違和感と物足りなさを覚え、気もそぞろに過ごしている。
シモンズには遠慮なく呆れられた。
日課が取り上げられれば、誰でもそうなるものだと思う。
それよりマリュアンゼは宰相と何を話しているのだろうか。
ふと頭に浮かぶ疑問に宰相室を仰ぎ見た。
(嫌だと言ってくれれば……)
フォリムとの婚約破棄を。
隣国の王弟との婚約を。
(マリュアンゼがそう言うのなら……)
微かな期待がフォリムを衝動に突き動かしていた。
宰相の部屋で顔を背けたマリュアンゼが見えた。その動作から、彼女が今までこちらを見ていただろう事が窺える。
(宰相との話合いは終わったのか?)
思わず舌打ちをすれば、まだフォリムを「可哀想」と言い続けてた令嬢がびくりと身動ぎした。
思い出したようにフォリムはそちらに視線を落とす。
「その、私、フォリム殿下には無理しないで欲しいのです」
「……」
無理なら今している。
自分の価値観を押し付けるだけの話はつまらないし下らない。……だがもう頃合いだろう。侯爵の話が終わったのならフォリムも役目を果たした。
「頑張ればいつかきっと報われますし、見ている人は見ていますから」
もじもじと指先を弄る令嬢が何を言っているのか分からず、苛立ちを覚える。
(……この女は何を勘違いして、的外れな慰めを向けているんだろうか?)
そもそも見て欲しい人は今目を背けているというのに。
「悪いが私はこれでは失礼する」
「えっ? 何で? お待ち下さいフォリム様っ」
駆け出す勢いのフォリムの後を、リランダが慌てて付いてきた。




