21. 玉座 ※ フォリム視点
応接室を後にするれば、身知った顔が待ち構えていてフォリムは気持ちを引き締め直した。
「お待ちしておりましたフォリム殿下。国王陛下がお待ちです」
兄の侍従。
忠義の厚そうな気難しい顔立ちは、さぞ兄の儚気な雰囲気を引き立てている事だろう。
フォリムは頷き、兄の執務室へと向かった。
◇
近衛に取次を頼み、執務室へと足を踏み入れれば、中には数人の側近と共に仕事をする兄の姿があった。
兄は仕事を一人で抱え込まない。
仕事を割り振り、側近の出来を自ら測る。
それも兄が無能故、と捉える者もいる。
そうやって兄を侮り、謀を目論んだ者たちは、もうこの城にはいない。
そしてこの執務室に入れる者は、兄の目に適った者だけだ。
アルダーノはフォリムに目を留め、にこりと微笑んだ。
「やあフォリム。久しぶりかな? 駄目だよ、ヴィオリーシャは王妃教育で忙しいんだから、邪魔をしちゃ」
優しげに話す兄の顔に一見邪気は無い。
けれど、この部屋にいる者は、フォリムと同じく知っているのだろう。
彼が座ればそこが玉座なのだと。
そして今、自分は王の間に呼びつけられ尋問を受けている、疑惑を投げられている者。
フォリムは慎重に口を開いた。
「申し訳ありません、マリュアンゼについて妃殿下にご相談に伺っておりました」
その言葉にアルダーノは目を細める。
「へえ、どんな?」
「先日王太后からマリュアンゼに会いたいと打診がありました。作法や王太后への礼儀など、同じ王族女性である妃殿下にご教授頂きたく、お声掛けさせて頂いたのです。マリュアンゼは以前妃殿下から手紙を頂いておりましたから、良好な関係かと存じましたので」
「ふうん」
……嘘は言っていない。
王妃教育が忙しいのか、ヴィオリーシャからのマリュアンゼ宛の手紙には一言「頑張れ!」だけだったけれど。
ヴィオリーシャから手紙が届いたと聞いて、困惑するマリュアンゼに無理矢理中身を確認させて貰ったのだが、脱力しただけだった。
無いのは時間か語彙力か。
「ヴィオリーシャと仲良くなったのか。嬉しいよ。彼女は社交性も高いのかな?」
「賢い女性です」
「成る程、王族の一助となるに相応しいというところか」
満足そうに目を細めながら、アルダーノは立ち上がり口を開く。
「応接室を使おうか、先に進めてて構わない。直ぐ戻るから」
前半はフォリムに、後半は部下達に告げ、アルダーノは執務室奥の扉に向かった。
取り敢えずフォリムとの会話は、続ける価値があると判断されたようだ。気持ちを引き締め直し、フォリムもまた兄に続いた。




