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「そうか分かった。なら、あなたとの婚約は破棄しよう」


 唸るように告げたフォリムに、マリュアンゼもまた負けじと眼差しに力を込め、頷いた。


「……ええ、当然ですわ」


 その言葉にフォリムは少しだけ瞳を揺らしたような気がしたけれど。


 (これでいいのよ)


 会場から挙がる黄色い声に後押しされる形で、マリュアンゼは拳を作る。

 マリュアンゼの婚約者であるフォリムは、王弟であり、公爵の爵位を持つ、この国で最も高貴な貴族だ。


 現に二人を囲む好奇の眼差しは、この決別を歓迎するものが殆どで、妙齢の多くの令嬢が彼との婚姻に憧れている。

 その彼の隣が間も無く空くのだから。


「お元気で公爵様、もっと相応しい方と、あなたが巡り会いますように」


 フォリムは視線を逸らす事なく真っ直ぐにマリュアンゼを見たまま、口元を引き結んでいる。

 その眉間にも深い皺が溜まり、彼の堅牢な雰囲気が一層増しているように見えた。

 けれどその口は決して否とは言わず。

 マリュアンゼは、ふっと息を吐き踵を返した。


 舞台から降りる。

 煌びやかで華やかな、マリュアンゼには似合わないその場所から。


 その先で黒髪に珍しい金の瞳をした青年が手を差し伸べるのが見えた。少しだけ躊躇ってから、マリュアンゼは差し伸べられたその手を取る。

 

 そうしてここに、マリュアンゼ・アッセム伯爵令嬢の二度目の婚約破棄が確立した。





 暗闇にハッと目を覚ましマリュアンゼは飛び起きた。


「夢……なの?」


 ほっと息を吐く。けれど周りを見渡せば、そこは見知らぬ寝室で────


「本当に、現実味があるのか無いのか、よく分からない夢ね」


 寝台に掛かる天幕を開けば、目の前にある窓の外は、まだ暗い。しんと静まる夜の時間に月明かりの淡い光が溢れ、空に滲んでいる。


 遠くに見える街並みは、色も音もなくし夜に溶けるように馴染んで見える。

 昼には、ここから見える光景は絶景だろうと仰ぎ見ていた巨大な離宮。その前は初めて訪れる外国に胸を躍らせていた。ふっと苦笑が漏れる。

 ここは自国、セルルでは無い。


 マリュアンゼは寝台から足を下ろし、良く磨かれた窓に顔を寄せた。人不足だと聞いているのに、エンラは頑張ってくれたようだ。

 窓にコツリと頭を付ければ浮かない顔の令嬢が見つめ返している。その表情が全てを物語っているような気がするけれど。

 マリュアンゼは俯けた顔を逸らすように、嫌な考えから逃げるように頭を振った。


 夜に考え事をするのは賢明ではないのだそうだ。良くない判断をしがちになるらしい。

 だから何も考えてはいけない。マリュアンゼが考えるのは使命を全うする事だけ。キッと眼差しを強め改めてガラスに映る自分を睨みつけた。

 強い眼差し、フォリムが好きだと言ってくれた。


 ここは隣国ノウル。

 三日前、マリュアンゼには隣国ノウル国の王弟へと嫁すよう、セルル国王より王命が下された。


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