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10. 王族


 皆急いで頭を下げ、この国で最も高貴な方々を迎えるべく頭を下げる。そうして皆が息をつめる中、通りゆく人たちの気配は確かにある。


「フォリム」


 そこにフォリムとは違う、どこか甘さを帯びた静かな声が掛けられた。


「王族である君がどうしてそこで頭を下げているのかな」


 皆と同じ姿勢で王族を迎えていたフォリムは顔を上げ、少しだけ罰が悪そうに声の主へと返事をする。


「申し訳ありません陛下。私の都合で先に入場してしまいました」


「……そう、マリュアンゼ嬢」


 何かを察したようなその声音にマリュアンゼの動悸が早まる。

 国王に名前を呼ばれては挨拶をしなければならない。

 ゆっくりと顔を上げ、マリュアンゼは出来るだけ淑やかに微笑んでみせた。


「はい、国王陛下におかれましてはご機嫌麗しく。この度は陛下主催の王太后陛下の誕生祝賀会にお呼び頂きまして、誠にありがとうございます」


 マリュアンゼの中の淑女を全開に出し、必死の挨拶を繰り出してみせる。

 国王アルダーノは淡い金髪の持ち主の、瞳は薄い水色の美男子だ。兄弟とは言え印象はフォリムと大分違う。

 アルダーノは儚く、どこか神仙めいた雰囲気を持つ。対してフォリムは背が高く逞しい身体付きで、威圧感が凄い。


 以前国王と面会した時、儚く揺らぐイメージが強かったのだが……こうして対面すると些か違うものを感じてしまう。


 揺らめく蜃気楼のようでいて、触れればそこには熱がある……それを本人はよく分かっているような。演者、というべきか。その皮の下にあるのは平坦でも平和でも無い気がするが……

 何よりマリュアンゼの本能はあまり近づきたくない、と言っている。なので隙は見せたく無い。


「久しぶりだねマリュアンゼ嬢、楽しんで貰えると嬉しいよ。フォリムを一時借りてもいいかい?」


 その科白に訝しむような顔をするフォリムを尻目に、マリュアンゼは再び頭を下げた。


「はい」


「ありがとう、では失礼。来なさいフォリム」


 フォリムが国王アルダーノの後に続いて気配が遠ざかるのを感じ、マリュアンゼは再びそっと視線を上げた。


 妻であるヴィオリーシャ妃をエスコートし、アルダーノは王族の席に座る。今は前国王夫妻が花道を歩き、その後をフォリムが続いている。

 チラリと目を向ければフォリムは不機嫌そうな瞳でマリュアンゼを射抜いてきた。


(不可抗力なのだけど)


 こっそりと苦笑するも、反省もある。

 フォリムが勝手をしたのはマリュアンゼ側に不備があったからなのは確かで……シモンズがいなくてもマリュアンゼが一人で対応できると判断すれば、フォリムも国王の不興を買う事が無かったのだから。


(後で謝ろう)


 静かに響く国王の挨拶を聞きながら、マリュアンゼは再びフォリムを目で追っていた。


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