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9. 話が通じないので


「ずるいですわ! マリュアンゼ様!」


 突然掛かった叫び声に驚き、マリュアンゼは思わずそちらを振り向く。

 そこには涙目に両手で拳を作り、どうやら不平等を訴えているリランダがいた。

 隣にいるジェラシルは口を開け、リランダを見て固まっている。


「私が先に話していたのですよ!」


 その言葉にマリュアンゼも固まる。

 すすすっと扇で顔を半分ほど覆い、令嬢らしからぬ表情は上手く隠してみせた。多分。そのまま目を細め、おっとりと告げる。


「何もおかしな事はありませんよリランダ嬢、私はフォリム様の婚約者なのですから」


「そもそもそれがおかしいのです! あなたがフォリム様の婚約者だなんて!」


 ……それは認めるが、リランダにだけは言われたく無い。


「リム! もう止めるんだ! 向こうに行こう! 飲み物を取ってくるから!」


「痛いわジェシーっ! どうして私が向こうに行かないといけないのよ! フォリム様ー!」


 一応近衛騎士団に所属しているジェラシルに必死の抵抗を見せ、リランダはその場で踏ん張っている。地味に凄い。

 それにお互い余裕が無いようで呼びやすい名で呼んでいるようだが、それが衆目に晒されている。


「ジェラシル……」


 フォリムの低い声に名を呼ばれ、ジェラシルの肩がびくりと跳ねた。


「付き合う友人は選べ」


「は、団長……」


 見上げればフォリムは社交用の笑を顔に貼り付けているが、やはり目は笑っていない。


「まさか見ず知らずの令嬢に名を呼ばれるとは思わなかった。しかもその相手が部下の……近衞騎士の連れ合いだと言う」


「も、申し訳ございません」


 流石のジェラシルも恐縮しっぱなしだ。けれどそれも仕方あるまい。

 王貴会の人間は親しく名前を呼ぶのには本人の許可を必要とする。これは礼儀の一環で、その人物との距離感を第三者から見ても分かる事を目的の一つとしている。

 あとは勝手にルールを破る無礼者などがいた際は、その家の品位を知る事も出来る。今みたいに。


 貴族の挨拶は、位の上の者から声が掛からない限り、下の者から話し掛けてはいけない。マリュアンゼがフォリムを名前で呼び、親しげに話しかけているのは、婚約者という役を与えられているからだ。そうでなければ、顔を伏せ道を空けていた。

 というか、他の貴族たちに遠巻きにされているのには、そんな理由もあるのだが。悪目立ちしている事に、いい加減気付けばいいのに……


 謝るジェラシルにリランダは訳が分からないという顔で二人を交互に見た後マリュアンゼを睨みつけた。


「退場を命じる」


 フォリムから冷たく吐き捨てられた言葉にマリュアンゼは息を飲む。無表情から更に何かが抜け落ちたこれは、なんと表現すればいいのだろう。

 思わず顔を歪めるジェラシルに、フォリムは虫でも見るような眼差しで続けた。


「私への不敬は目を瞑ろう。入場が唐突だったからな。だが私の大切な婚約者にその態度……目に余る」


「お言葉ですが!」


「お前がマリュアンゼを侮辱していた言葉は、私にも聞こえていた」


 フォリムの鋭い視線にジェラシルはたじろいだ。


「でもジェシーは何もおかしな事は言っていませんのに! 目を覚まして下さいませフォリム様!」


「またか、いい加減にしろ! 連れて行け!」


 フォリムの怒声に周囲が萎縮すると同時に、騎士が駆けてくる。そしてあっという間に二人は囲まれ会場の外へと押し出されて行った。

 その間リランダは喚き、ジェラシルはそんなリランダを怒鳴り……


 やがて会場中にさざめきが走る中、音楽が切り替わり、王族の入場が告げられた。


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― 新着の感想 ―
[一言] おお、このお話で定番の腐れ尻軽女が出てくるとは
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