いつかの未来
「アケチ〜食べたら死ぬぞぉ〜」
俺はウモラの忠告なんか信用せず、皮を剥く。
やっと見つけた食料だ…
食べたら死ぬだと?
じゃあ、食べなきゃどうなる?
餓死してそれこそ死ぬ…
「オイラは今までウソついたことがないんだぞぉ」
「なら、これがウモラの初の嘘になるわけだ」
「ウソなもんか〜」
ウモラなんかに目もくれず、皮を剥き終わり頬張ろうとする。
「死ぬぞぉ〜!」
噛み付くと表面がプチンと破れ、赤い汁が飛び散った。
「ほーら、死んだぁぁぁ…!!」
汁気ばかりで栄養がなさそうだ。おまけに味は不味く鉄臭い。ドロドロでうまく口に運べず掴んでいる指の間から地べたに落ちてゆく。
赤い水溜りができ、その中に白いツブツブが浮かんでいたが、空気に晒されてなのか、気泡のように次々と崩壊してゆく。
「卵も死んだぁぁ…もう繁殖できないぃぃ…地球最後の生命が消えたぁぁ…」
は?
ウモラが言ってる「死ぬ」ってのは俺のことじゃなくこの食いもんのことか…
「卵を体内で羽化させて繁殖させれば食い繋げられたってことか…」
「地球最後の生命オワタァァ…アケチ、トドメ刺したぁぁ…」
手に付いた赤い肉片を舐めるように食べながら、ウモラを見やる。
ウモラは俺の視線に気付くと後退りし始めた。
「アケチ…オイラ…まずいし…栄養ない…これ、ウソじゃない…オイラ、嘘ついたことない…」
ウモラの声は震えていた。
「ウモラを食ったりしねーよ…」
俺は赤く染まった指を舐めながらゆっくりとウモラに近づいていった。
「ウモラ…お前、繁殖できそうなカラダしてんな…」
「ひぃぃ〜!」
怯えたような叫びを上げるとウモラは逃げ去ろうとし、それをすかさず追いかける。
「待てウモラ!食い繋いで生きてくためにも繁殖してくれ!」
「アケチ、そもそも生きていない…!だから、生命食べる、意味ないぃぃ!」
ウモラは小柄で華奢な体にも関わらず走りが速かった。
「何言ってやがる!まだ死んじゃいねーよ!」
「生きる、死ぬ、それが生命ぃぃ…アケチ、どちらでもないぃぃ」
追いかけながらも、ウモラの躍動する柔らかそうなたわわに実った尻に目が離せなくなる。走りながらも下半身が疼き始める。
もはや命を繋げ止めるための繁殖が目的ではなくなっていた。目的は別になっていたにも関わらず、繁殖させたいという奇妙な状況に陥っていた。
「ア、アケチ…生命じゃないぃ…アケチは機械ぃぃ
…生き物のカタチに象られた、機械ぃぃ」
「ふざけた事を…!ならこの性欲はなんだってんだ!」
「その反応、ただのプログラムゥゥ…これ、ホント!オイラ、ウソつけるような、複雑な、アルゴリズム、持ってないぃぃ…!」
俺の鼓動は高鳴っていた。それは突っ走っているからであろうが、ただそれだけだとは思えなかった。
ウモラの魅力的な揺れる肢体も、このドキドキに加担しているに違いない。これは性欲なんて下世話なもんじゃない。
俺はウモラに恋い焦がれているんだ…
ウモラが死ぬほど好きなんだ…