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08 恋より夢を頑張ろう

「舞台のオーデション? 受けてもいいの?」

「ああ、そろそろどうかと思ってる。今回は端役だが、歌姫を目指しているのであれば、そろそろ舞台で経験を積んでいった方がいいからな」

「やる。そのオーデション受けるわ」

「エントリーはしておくが、私の知り合いが主演だとは言っても、選ばれるかはおまえの実力次第だからな」

「うん、わかってる。さっそく練習しなくちゃ」


 声楽家である父は、歌には妥協を許さない人だ。だからコネで私に役を与えたりは絶対にしない。

 一人でも、素人が入っていたら、完璧な公演はできない。そんなことをしたら、お金を払っている観客に失礼だし、同じ舞台に上がっている人たちの足を引っ張ることになって、顔向けができなくなるからだ。


 私がどこまでやれるかわからないけど、頑張ってみようと思う。



 そのオーデションは、ある伯爵家のダンスホールで行われた。とある歌姫の後援者になっている伯爵が快く貸してくれたらしい。


 前に、マドリーヌさんの取り巻きの令嬢から『パティーさんって人に媚びるのがお上手な血筋だもの』と言われたことがあるけど、たぶんパトロンのことを言ったんだと思う。


 芸術関係は、後援者がいるのといないのでは名前が売れるまでの時間に雲泥の差が出る。

 上流階級の人たちに気に入られて知り合いが増えれば増えるほど、観客動員数も比例して増加する。

 そうなれば、規模の大きな公演を行うことができるのだ。


 今回、オーデションを受ける人は私のほかに二人いるらしい。

 一人は年齢が私より少し上、二十歳手前くらい。もう一人は二十台後半といったところだろうか。


 課題曲は本番で歌う曲そのものだった。高音と低音の差があって、少しテクニックがいる曲だから、二人がどんな風に歌うのかとても興味がある。


 年齢順で歌うことになって、私が一番始めに名前を呼ばれた。


 父に習った通り、基本を重視して無理なアピールはしない。主役級なら個性も必要だとは思うけど今回は派手さは求められていないと思ったからだ。


 私が歌い終わったあとの審査員の反応は、可もなく不可もなくと言った感じで、まったく手ごたえがない。このオーデションに通るのは難しそうだ。


 次に呼ばれた彼女は高音はとても透き通った歌声でみんな聞きほれていたんだけど、声量が無いため、低音に重みがなくこの屋敷のホールでさえ響かなかった。発声の仕方が喉だけを使っている感じがするから、彼女は独学かな。

 練習次第ではすごく伸びる逸材じゃないかと思う。


 三番目の女性はすでに舞台で歌っている人なんだろう。自分の見せ方がわかっていて、感情の込め方や強弱のつけ方が三人の中では群を抜いていた。

 きっと今回はこの人に決まるだろう。私はそう思っていた。


 ところが……。


「合格!? なんで私が?」


 私に決まったと父から言われて、私は驚いた。


「この役は初々しさが必要なんだよ。一番上手だった歌い手は安定感がありすぎてどっしり感が役と違いすぎていたそうだ。そして一番初々しかった子は舞台では後ろまで声が届かないから使えない。よってパティーが選ばれた。そういうことだよ」

「絶対無理だと思っていたのに」

「消去法でも選ばれたからには頑張れよ。本当に使えないと思われていたら、三人とも断られているはずだからな」

「うん。足を引っ張らないように練習するわ」


 私のパートは短い曲が一曲だけの端役だけど、本格的な舞台に上がるのはこれが初めて。緊張と嬉しさで興奮が抑えられない。


 歌姫になるという夢が一歩前進した。


 今回、誰かの目に留まることがあれば、次には指名で声がかかる可能性がある。



 翌日、アリーシャさんにはオーデションに合格して初舞台が決まったことを伝えた。


「絶対に行くわ。今からすごく楽しみだわ」

「ありがとう。自信もって歌えるように頑張る」


 舞台で素人丸出しで浮いてしまわないように、これから毎日父と特訓をすることになっている。

 だからと言って勉強の方をおろそかにもできないから、授業は今まで以上に真剣に受けようと思っている。


 問題は……フェリクス様だ。


 教えなかったら拗ねそうだし、だからと言って、舞台を観に来られるのも困る。

 ギャレット様にも言われているしな。


 二人にはいつになるかわかないけど、主演級での公演だったら聞きに来てほしい。だから今回はちょい役だし隠しておくことにしよう。


 さあ、今日から猛特訓を始めるぞ。


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