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07 社交界はいろいろ大変なんですね

 私は教室でアリーシャさんの帰りを待った。ドアが開くたびに誰が入って来たのかを確認していて、彼女の姿が見えるとすぐに、近くに寄って行き声を掛けた。


「アリーシャさん、さっきはごめんなさい。あのあと大丈夫でしたか?」

「私は平気よ。フェリクス殿下もすぐにいなくなったもの」


 そうだったんだ。

 たしかに、下級クラスの生徒たちが使う中庭に、王子であるフェリクス様がいたら騒ぎになりそうだし、相手をしていたアリーシャさんも困るだろう。


「だけど、殿下はパティーさんのことをとても気にされていたようなの」

「そんなことあるわけないじゃないですか。フェリクス様はアリーシャさんに会いにきたんですよ。興味があるって言ってましたよね」

「でも、殿下って皆さんに声を掛けていらっしゃるでしょう。私は一度はっきりと婚約者にする気はないと言われているし、きっと誰にでもあんな感じなんだと思うわ」


「それは……っ」


 私は反論しようとしたけど、それがまずいことだと気がついて、言葉を飲み込んだ。


 あやうく「それは違う、フェリクス様は女の子に話し掛けることはあっても、期待を持たせるようなことは絶対に言わないと言っていた」そう口走ってしまうところだった。


 そんなことを言ったら、なぜ私がそんなことを知っているんだと不審に思われることだろう。


 だから、それを教えることはできないけど、フェリクス様がアリーシャさんのことを特別視していることは間違いないと思う。


 頭がよくて、実はとても可愛いし、そんなアリーシャさんが侯爵家の養女になれば、フェリクス様の相手として望まれてもおかしくはない。誰からも反対されることはないだろうし。


 すでに候補として名前が上がっているんだから、アリーシャさんさえ承諾すればとんとん拍子で話が進みそうだ。


 いけない。二人が並んでいる姿を想像しただけで、また、胸の奥がうずいている。


「パティーさん?」


 私が言葉を途中で止めたせいで、アリーシャさんが不思議そうにしている。

 何か言って誤魔化さなくちゃ。


 私が焦っていると、とても珍しいことに、アリーシャさんのところへ、このクラス内でマドリーヌさんと覇権争いしているタチアナさんがやって来た。


 タチアナさんは私にも気軽に挨拶してくれるから、マドリーヌさんほど苦手意識はない。


「ごきげんよう。アリーシャにお聞きしたいことがあるのだけれど、いいかしら?」

「ええ、お答えできることでしたら」

「侯爵家の養女になるって本当ですの?」

「いいえ、まだ決まってないわ」

「だけど、フェリクス様とご婚約するのなら、いずれはそうなりますわよね」

「タチアナさんは、なぜそんなことを知っているの」

「噂になっているわよ。さっきもフェリクス様が会いに来たんですってね」


 フェリクス様がわざと大声で話していたから、すでに話が広まっているようだ。


「不躾でごめんなさいね。わたしはただ正確な情報を知りたかっただけなの。下流のわたしが社交界を上手に泳ぐためには、知っておく必要があるのよ。そのことを、わかっていただけるとありがたいのだけど」


「そうですか、でも、本当にまだ何も決まっていませんし、お話しできることはありませんわ」

「今現在は、それが真実ってことですわよね。助かりましたわ」


 タチアナさんはそれだけ聞いてお礼を言うと、すぐに自分の席へ戻っていった。


 それにしても、なぜタチアナさんが噂の真相を聞きたがったのだろう。

 彼女がただの噂好きってこともなさそうだけど。


「タチアナさんはたぶん、他の候補者の方の傘下なのよ。だからだと思うわ」

「アリーシャさんとフェリクス様が、本当のところどうなっているのか報告するためだったんですか」

「ええ。彼女は私と同じクラスだもの。絶対に聞かれるでしょうから」

「誰の派閥にも入っていない私には関係ないことだけど、そういうの色々と面倒そうですよね」

「そうね」


 アリーシャさんも人との付き合いは挨拶をする程度で今は最低限しかしていない。だけど、貴族家や令嬢同士のしがらみはわかっているようだ。


 つらくてもフェリクス様の相手がアリーシャさんなら私は納得できると思っていた。


 でも、子爵令嬢からいきなり侯爵令嬢になったら、それはそれで、大変なことも多そうだ。その理由がフェリクス様に嫁ぐためのものとなれば尚更。


『責任を負わなければいけない年齢になるまで、できれば好きなことだけをしていたいのに』それがアリーシャさんの本音だろう。


 もしフェリクス様が本当にアリーシャさんのことを好きになったとしても、その恋は上手くいきそうにない。

 この時私はそう思っていた。


 まさか、アリーシャさんとフェリクス様が、本当に婚約することになるとも知らずに。


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