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04 人にはいろいろな事情があるようです

「ちょっと、何言ってるのよ」


 取り巻きの令嬢のひとりがアリーシャさんに突っかかろうとした。だけど、マドリーヌさんがなぜかその人の肩を掴んで動きを制する。


「マドリーヌさん。パティーさんは私のお友達なの。その意味が貴女にわかるといいのだけれど」


 アリーシャさんの言い方が高圧的で、これぞ貴族のお嬢様って感じだ。その態度は普段物静かにしている彼女からは想像がつかないほどで、こんな気配を醸し出せるなんて、やっぱり生粋の貴族令嬢はすごい。私はその姿を見て感心していた。


「アリーシャさんは何か勘違いされているのではないかしら。わたしはパティーさんが他の方に目をつけられたら可哀そうだから、ご忠告申し上げていただけですのよ。余計なお世話だったようだから、あとはアリーシャさんにお任せするわ。さ、皆さん、わたしたちは帰りましょう」


 そう言ってから、マドリーヌさんは急いで教室から出ていこうとする。


 アリーシャさんに文句を言おうとした令嬢と、近くにいた数人が、その行動にとても驚いていたけど、すぐに彼女の後を追っていった。


 マドリーヌさんの態度が一変したのはどうしてだろう。普段だったら、クラスを牛耳っているマドリーヌさんに対して蔑むような言動をすれば、それが誰であろうと絶対に容赦しないのに。


 私が不思議に思って彼女たちの背中を見つめていると、アリーシャさんが私の前に回り込んで声をかけてきた。


「大丈夫? 彼女たちに何かされなかった?」

「アリーシャさんが助けてくれたから、悪口を言われただけですんだわ。ありがとう」

「だったら、よかったわ」


「でも、あんなことを言ってしまって、アリーシャさんの方こそ大丈夫なの?」

「マドリーヌさんのこと? たぶん平気じゃないかしら。彼女が何も言わずに退散したのは、私の事情を知っているからだと思うもの」

「アリーシャさんの事情?」


「うちは子爵家だけど、父は侯爵家の出身なの。私は祖父や伯父に可愛がられているから、私と言うよりも侯爵家を恐れているんじゃないかしら。あと、あの慌てようからして、まだ公にはなっていない、ある情報が彼女の耳に入っているのかもしれないわ」

「そうだったの」


 アリーシャさんはただの子爵家令嬢ではなかったようだ。貴族について難しいことはよくわからないけど、わたしのせいで、アリーシャさんが困ったことにならないのならよかった。


「これで彼女たちがパティーさんにも絡まなくなるといいんだけど」

「ありがとう。私も今後はできるだけ目立たないように気をつけるわ」


 とは言っても問題はフェリクス様だ。


 私がフェリクス様から特別視されていることを誰も知らなくても、きっとマドリーヌさんのように言葉を交わしているだけで気に入らないという令嬢は多いと思う。


 この下級クラスにいる間は、陰のトップっぽいアリーシャさんのおかげで、手は出されないみたいだけど、中流、上流の令嬢たちに睨まれたら何をされるかわからない。


 学院に入ってからというもの、自分がターゲットにされたわけではないけど、貴族の中には陰険で恐ろしい人たちがいることを嫌でも感じている。もちろんアリーシャさんのようにとってもいい人たちもいるんだけど。


 フェリクス様に今度会ったら、声をかけるのをやめてもらうようにお願いしてみようと思う。私のためにって強調すればわかってくれないかな。


「ああ、そうか!」

「どうしたの?」


 私がひとりにならなければ、フェリクス様が近づいて来ることもないはずだ。今まで以上にアリーシャさんと行動を共にしていれば、フェリクス様との接触は抑えられるんじゃないだろうか。


「アリーシャさん、ご迷惑でなければ、今後は登下校を私と一緒にしてもらえないかな。もちろん、うちの馬車でアリーシャさんの送り迎えをさせてもらうつもりよ」

「登下校? 今日だけではなくて、私の知らないところで誰かに何かをされているの?」

「うーん。そうだと言えばそうなんだけど、虐められているとかではないから心配しないで」

「それでもパティーさんは困っているのよね。だったら、登下校くらい大丈夫よ」

「わあ、ありがとう。本当に助かるわ」


 フェリクス様との間に物質的な距離ができれば、私にかまうのを諦めてくれるかもしれない。いや、諦めてもらいたい。


 私は本気でそう思っていたのに……。




 アリーシャさんという盾を手にしてからというもの、フェリクス様とすれ違う機会がある度に、彼の表情がだんだんと変わってきていた。それまでの甘いものではなく、最近は眉間にシワがよるほど厳しくなっている。


 フェリクス様の気持ちを無視してこんな態度に出た私のことを怒っているんだと思うから、それも仕方ないことだけど。


 それでも、そのまま嫌われちゃえば、私のつらい恋もやっと終止符を打つことができるだろう。

 だから、ここは頑張って耐えるしかない。



 そんな日々が数日続いたある日のこと。


「アリーシャ嬢、君に話がある」

「フェリクス殿下?」

「え?」

 フェリクス様が玄関で待ち伏せをしていたので、とうとう我慢できなくなったのかと思ったら、声をかけたのは私ではなくアリーシャさんにだった。


 なんで? どういうこと?


「勘違いされると困るから先に言っておくけど、僕は君と婚約するつもりはないからね」


「はあ!?」


 まずい……私は思わず変な声を発してしまった。当事者であるアリーシャさんは平然としているのに。


 でも、アリーシャさんとフェリクス様が婚約? そんなこと聞いてない。のは当たり前か。

 私もアリーシャさんにフェリクス様とのことは言ってないのだから。


 でも、本当にどういうこと? 


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