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17 私の気持ち

「待つって言ったけど。ごめん、パティーの気持ちだけは確かめておきたいんだ。パティーの好きな男って……」

「お待ちください、フェリクス様。私たちは席を外しますわ」


 アリーシャさんがモルドーに目配せする。彼女は私に気を遣ってくれたらしい。


「だったら、僕たちが奥の部屋に移るよ。パティー、おいで」

「あの……」


 フェリクス様は戸惑う私の手を取り歩き始めた。本当に嫌だったら私も抵抗する。でも、フェリクス様にこんなふうに乞われてしまったら拒絶することなんてできない……。


 フェリクス様に連れられて、外からは覗けない場所へと移った私は、その時になって急に焦りだす。

 フェリクス様と二人っきりになったのは、もしかしたらこれが初めてかもしれない。


「パティー」

「あ、はい」

「そんなに緊張しないでよ」


 がちがちな私の姿を見て、フェリクス様が困ったように笑う。それでも私の手を離さず、それどころかぎゅっと力が込められた。


「パティーの好きな男って誰?」

「あ、あのそれは……」


『好きな男は僕』って聞いてくれたら、頷けばいいだけなのに、誰って聞かれたら言葉にしなければいけないじゃない。


「その口から聞かせてほしいんだけど」


 フェリクス様が私の唇にそっと触れた。


「うわっ、何!?」

「パティーが焦らすからいけないんだよ。それとも僕が勝手に浮かれているだけなのかな。ねえ、抱きしめてもいい?」

「フェリクス様!?」


 驚いたその瞬間、フェリクス様が手を回し、私は腕の中に閉じ込められてしまった。


 なにこの展開!? 頭がついていかないんだけど。


「嫌だったら、そう言ってよ。そうしたら、僕は二度とパティーには触らないから」

「え?」


 それってずる過ぎる。

 私の気持ちをわかっているくせに。そんなことを言われたら拒むことができないのを知っていて意地悪言うなんて。


「パティーは驚いてばかりだね。今まで僕が伝えてきたこと、もしかして本気にしてなかった?」

「そういうわけでは……」


「僕はパティーだけは誰にも譲りたくないんだ。もちろんギャレットにもね。本当なら愛人なんて扱いはしたくないけど、僕の配偶者になれば、嫌でも社交界に出なければいけなくなる。パティーにつらい思いをさせたくないんだよ」


 フェリクス様の言う通り、名誉職の男爵家の娘なんて、上流貴族の格好の的だろう。夫人には夫人の集まりがあるから、その心配をしているんだと思う。


「でも、そうしたらアリーシャさんが矢面に立つことになりますよね」

「それは、本人が平気だと言っていたよ。彼女は養女とはいえ侯爵家の令嬢だし。小説の題材にもできるからかえって都合がいいってさ」


 アリーシャさん……本気で小説家になるつもりなんだ……。


「本当にごめん、僕がパティーと一生を共にするにはこれしか手がないんだよ。駆け落ちしたとしても、僕がパティーを養っていけるかわからないからね」

「なんで、私なんですか?」

「僕にはパティーしかいないよ? 好きな理由を言えって言われたら全部かな」


 そんなことを言われたら、嬉しくないわけがない。


「私、本当に歌姫になりたいんです」

「うん、わかってるよ。応援しているから」


「それまで、フェリクス様に待てと言ってるんですよ。なれるかどうかもわからないのに。ひどくないですか?」

「パティーの夢だからそれは尊重するよ。でも、たまにこうやって抱きしめさせてくれたら嬉しいかな」


 口先だけでいくら嫌だって言っても、きっとフェリクス様は信じないだろう。フェリクス様を振るには、私が本当にフェリクス様のことを、なんとも思わない日が来ない限り無理な気がする。

 そしてそんな日はきっと来ないと思う。


「フェリクス様」

「なに?」


 私はフェリクス様の腕の中から見上げ、フェリクス様と目を合わせた。


「私もフェリクス様が大好きです。だから、私が歌姫になるまで待っていてくれますか」


 それは私のわがままだ。

 だけど、フェリクス様の愛人になんてなったら、またひとつコネが増えてしまう。役選びに配慮されないとは言えない。


「待つよ、いくらでも」


 フェリクス様は優しく微笑んだあと、私を抱きしめているその腕に力を込める。


 私も歌姫になるまで、これが最初で最後だと決めて、フェリクス様を抱きしめ返した。


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